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第8話 きれいな顔してるだろ、この顧問変わり者なんだぜ その2

「へえ、この子ね、新入部員の……子って……」


 瑞希の身体を頭のてっぺんから順に確認するように眺めていた先生の声が、なぜか途中からどんどん小さくなる。


「なあ宮前……」


「はい!」


「お前も悔しいだろう……」


「先生! 悔しいです! 私……先生のお気持ちも……」


 二人はなぜか泣きそうになりながら、お互いを慰め合っている。その側でその理由もわからず不思議そうに立ち尽くす瑞希。


「おい新入生! 1年のくせにこのけしからん持ち物は何だ!?」


 神楽坂先生はそう叫ぶやいなや瑞希の胸を揉んだ。那智と同じように神楽坂先生も実にけしからんほどの持ち物は持っておらず、悔し涙を流していたのだ。


 しかし、これはマズいな。と僕が思った瞬間。


 ヒッ、という詰まった息ともいえる声を瑞希が出した。当然のように小さいながらも衝撃波が襲う。相手が女性とは言え、こうも突然に襲われたら瑞希にしたって恥ずかしくも恐ろしいだろう。


 能力の発動とともに部屋の椅子や机がカタカタと動き、窓ガラスにピシッとヒビが数本入った。


「ん、なに? なんだこの感覚?」 


 異変を感じたのか神楽坂先生はクワトロバジーナ大尉(シャアアズナブル大佐)のように目を細め、瑞希の胸を揉むのを止めた。そして訝しげな顔で周囲を見回し、なにがあったかを確認している。


「おい瑞希! 戻せ、戻せ!」


「は、はい……、少し待って下さい」


 アイコンタクトと短い会話の後、瑞希は巻き戻しを始めた。


 昨日と同様、目を閉じて瑞希が何か呟くと、すぐにあの奇妙な浮遊感が襲ってくる。僕たちの周囲の景色が霞み、一瞬の後に椅子や机、窓ガラスも元に戻っていく。


――その中で神楽坂先生はしばし呆然としていた。


「岸本君、今の……なに?」


 疑うような目つきで先生は僕を見た。


「え、え、何ですか? 何かありました?」


「ふ~ん、なるほど。すっとぼける気ね、分かったわ岸本君。この前学校で没収した18禁のエロゲー、この際やっぱりきちんとご両親にお話し……」


「うわーーー、先生! 超能力! 僕の超能力です! 凄いでしょ!」


「あなたの……超能力……? へえ、じゃあもう一回見せてくれるかな」


 つかつかと僕に歩み寄り、またあのニヒルな笑みを見せる神楽坂夏美という人。やがて始まるグリグリのお仕置。


「い、痛いです、先生。こんなに痛いと超能力も出せません……」


「じゃあ、いっそのこと早く楽になってみる?」


 サディスティックな雰囲気を醸し出しながら、さらに加速するお仕置き。女性としては長身の先生は膝をグイッと曲げ、いつでも僕の急所を下から膝蹴りできる体勢をとっている。


「先生、それだけは……ちょっと。みず……き……ちゃん、もう無理、たすけて……」


 僕は瑞希に助けを求めた。どうせこの先生にはいずれバレる、それならば早く僕を助けてほしい……。


「プププ、もうしょうがないですね先輩。先生! いまの仕業はわたしなんです」


「ホント、中途半端なエロ王子様だこと。夏美先生、甚を離してやってください」


 瑞希と那智の言葉で僕は何とか窮地を脱した。


「宮前、どういうことだ?」


「この一年生は三枝瑞希さんと言って、まあ色々特殊な能力というか、体質を持った子なんですよ」


 那智の簡単な説明ではかえってわからないだろう、神楽坂先生はまだ目を細めて僕たちの方を見比べている。


「あー、つまりですね先生。瑞希は恥ずかしいと感じたら周りを破壊するような衝撃波というか、念動力っていうか、そういう能力を出しちゃうんですよ。で、30秒以内に何か唱えると元のように巻き戻せるらしいです! 凄いでしょ! 絶対に秘密ですよ、ひ・み・つ」


 僕の説明を聞いた神楽坂先生の顔が緩んだ。そしてそのまま瑞希の方を向いてニコッと女神のような微笑みを見せた、が。


「そうなんだ~、な~んだ、あの子がそんな超能力を持ってるんだ~、驚いちゃった! うふ♡……、んな訳ねえだろうが、オラッ岸本!! おちょくっとるんか? あ゛あ゛? 先生が超常現象に興味があるからっておちょくっとるんか岸本!? 本気でキ○タマ潰したろうか!?」


 関西出身の神楽坂先生は、本場もんのヤクザのごとくに僕の首を両手で締め上げて、いつでも僕の大事なキ○タマを潰せるように膝をあげた。


「ギブ……、センセー、ギブ、ギブアップ……」


「はよ吐けや岸本! 超常研の顧問なめんなや!」


「いやマジ、センセ、今の話ぜんぶマジ……」


 僕の気が遠くなりかけたその時だった。


「先生! 先生! ほらほらこっち見て!」


 と那智が言った。


 僕と神楽坂先生が揃って二人のいる方を向くと同時に、那智が威勢よく瑞希のスカートをめくる。視界に飛び込んで来たのはイチゴちゃんのパンツ。


 ああ……、今日も出会えたね瑞希のパンツ、高校生にもなってイチゴちゃんもどうかな? まあ別に何でもいいんだけどね。『イチゴちゃん』と名前を付けて心のメモリーに保存、もちろん非圧縮。合掌、僕は心のなかで手を合わせる。


 やがて襲ってくる衝撃波、割れまくるガラス、そして巻き戻し。――もはやテンプレとも言える一連の動きが終わった。

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