表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここにいる彼女は、あの時の彼女だったのかもしれない ~超能力少女と過ごした半年間の物語~  作者: 櫛名田慎吾
<最終部>ここにいる彼女は、あの時の彼女だったのかもしれない
72/74

第72話 戻ってきた過去には……

◇  ◇  ◇


「那智……、那智!」


 僕が声を掛けると、那智の目が開いた。


 肩口を見ても傷はなく、出血もしていない。もちろん僕のサマーセーターに血もついていなかった。


「甚、ここ……どこ? 私、撃たれてないの?」


「ここは高校への近道の、あの階段の下だよ。大丈夫、怪我もしてないし血も出てない」


「私……、助かったんだ……」


 そう言うと那智は寒そうに肩を抱える。桜が半分以上散っているということは季節は4月の初め、夏服の那智には寒いだろう。


 僕は自分のサマーセーターを脱いで那智に着せた、今度は僕が寒くなったけれど、それは仕方がない。


「ねえ甚、瑞希ちゃんはどうなったの? 一緒じゃない……よね」


「うん、あの二人と一緒に消えちゃった……、たぶん違う場所とか、もしかしたら違う過去とかに……って、アレ?」


 おかしい、絶対におかしい、那智も僕も()()()()()()()()()()()


「ごめんね……、甚。私バカだから銃で撃たれて心配かけちゃって、瑞希ちゃんもいなくなっちゃって、……ごめんね」


「那智、もうあんな無茶するなよ、怪我も出血も無くなってて本当に安心したんだ。それに……もし那智に万が一のことがあったら俺……って、違う違う! いま重要なのはそこじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()っておかしいだろ! あの人たちはお互いの記憶もあの人達の記憶も無くなるって言ってたんだぞ」


 那智は首を傾げながら何かを思い出している様子。しばらく待っていると、アッと言ってそれに気がついたようだ。


「甚! 絶対におかしいよ!!」


「だから言ってるだろ」


「っていうか、いま何年の何月何日!? 何時なの!? しっかりしてよ甚!」


 さっきまで可憐で弱々しい女の子だった那智が、当然のようにいつもの調子に戻ってしまった。ポケットからスマホを出して見ると半年前の4月7日の午後3時過ぎ。


「ねえ、この日って確か私たちと瑞希ちゃんが初めて出会った日?」


「うん、多分そう。っていうことで俺たちは半年前に飛ばされたんだよ、きっと」


 階段を見上げながら僕は返事をする。この階段で今日の朝、瑞希と出会ってパンツを見たことになっていた。


「そうだ甚! 瑞希ちゃんの携帯にかけて見てよ、私のスマホはどっか行っちゃって無いんだもん!」


「わかった、ちょっと待って……」


 僕はスマホで瑞希に電話しようとしたけれど……、三枝瑞希のアドレスが入って無い!


「そうか……、まだ瑞希とアドレス交換してないから無いのかも……。携帯番号なんて覚えてないし」


「じゃあ、とにかく高校に行ってみようよ!」


 僕と那智は目の前の階段を駆け上がり、高校へと向かった。



 ♡ ♡ ♡



 高校に着いた僕たちは、とにかく職員室へと急行する。一年A組の三枝瑞希を確認するためだ。僕たちの方には記憶があっても瑞希に記憶があるかどうか分からない、それに本当にこの高校に来ているかどうかが大前提だった。


 職員室に入ると去年の担任だった先生がいたので、新入生の名簿を見てもらう。


「A組の新入生に三枝瑞希っていう生徒はいないけどなあ」


「ホントですか? よく調べてくださいよ! A組じゃなくて他のクラスかもしれないんです」


「俺は一年の学年主任だぞ、他のクラスにも三枝瑞希という生徒はいない! それよりお前ら4月から夏服なんか着てバカか?」


 気心の知れた先生だったので、引っ張るようにして名簿を横から見て探しても、三枝瑞希という生徒は入学していなかった。


「すいません、ありがとうございました……」


 僕と那智は職員室に駆け込んだ時と一変して、肩を落として部屋を出る。その時、背後からさっきの先生に「そう言えば神楽坂先生が捜していたぞ!」と声を掛けられた。


「神楽坂先生!! そうだ、神楽坂先生に聞いてみるか!? 何か覚えてるかも」


「うん、部室に行って見よう! 甚!」


 今度は特別棟の二階にある部室まで急ぐ、階段を上がる時には那智の手を引っ張って上がって行った。


「待ってよ甚、男の足に敵うわけないじゃない!」


「いいから早く、とにかく早く……、あっ、神楽坂先生!!」


 階段を登りきった場所に立っていたのは、スラッとした長身でメガネを掛けた美人教師、神楽坂夏美先生27歳だった。


「アンタたち、相変わらず仲いいわねえ。なに? 手まで繋いで」


「先生、そんなことどうでもいいんです! 三枝瑞希を覚えていますか! 先生、三枝瑞希です! 覚えていませんか!?」


 僕も那智も一気に走ったせいでハアハアと肩で息をしている。そんな僕たちを呆れたように見ながら、神楽坂先生は面倒くさそうに言った。


「さえぐさみずき? 誰? そんな名前知らないわよ……」


 僕は目の前が暗くなった。先生も覚えていないし、この学校にもいない。つまり僕たちの記憶の中だけにあるのか、違う過去に飛ばされてこの世界にはいないのか……。


「それよりアンタ達、4月なのに夏服って。しかも宮前が着てるサマーセーターは岸本の男物だろ、まったくウチの部員は新学期からアタマのおかしいヤツばっかりだな。さっきも五十鈴川いすずがわが夏服で訳の分からないことばっかり聞いてきたし。とにかく部員はアンタ達2年生の3人しかいないんだからな! ちゃんと新入部員集めしろよ。それから宮前ちゃん……、岸本と2人っきりでいると、五十鈴川がヤキモチを焼くぞぉ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ