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ここにいる彼女は、あの時の彼女だったのかもしれない ~超能力少女と過ごした半年間の物語~  作者: 櫛名田慎吾
<最終部>ここにいる彼女は、あの時の彼女だったのかもしれない
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第68話 雨の始業式の日に……

◇  ◇  ◇


 世間一般の高校より少し早い二学期の初日。未明から降り出した雨で気温は上がらず、僕は薄手のサマーセーターを羽織って学校へ向かった。


 二学期の初日だけあって始業式とホームルーム、その後の午前中の授業だけで下校時間となる。


 今日は午前中で学校も終わりなので部室も開放されない。そのため、瑞希のことを相談だけでもしようと三人で神楽坂先生を探したけれど、午後からの学園理事会の準備に追われているらしく先生を見つけることが出来なかった。


「どうする? 明日にするか?」


 少々諦め気味に僕が二人に聞く。今日は那智も瑞希もあの同じイルカのヘアピンをしていて、その二人が同じように「先生がいないんじゃ……」と苦笑しながら頷いた。


 三人で校門を出てしばらく歩くと1台の車が停まり、意外な人物が僕たちに声を掛けてきた。


「やあ、今日はもう帰るのかい?」


「松浦さん! どうしたんですか? 今日は部活も無いんですけど……」


「通りかかったら君たちがいたもんだから……、ちょうどいい時間だし昼飯を奢るからみんなで来なよ。美味しい店だから遠慮しないで、どうせ神楽坂はまだ仕事なんだろ?」


 そう言って松浦さんは僕たちを昼食に誘う。僕の中では先日の疑問があったのだけれど、那智も瑞希も行く気になっているし、その疑問を聞いてみてもいい機会だと思い直してついて行くことにした。


 ♡ ♡ ♡


「松浦さん、車持ってたんですか?」


 ワゴンタイプの後部座席には女子二人が乗り込んでいて、僕は助手席に座っている。


「いや……、これは営業車なんだよ、今日は空いてたから使わせてもらった。この近くまで来たもんでね、制服を着た生徒さんたちがポツポツ歩いてたんで、ああ今日から学校なのかと思ってさ」


 そう言って運転する松浦さんの車は、時々ワイパーを動かしながら片道二車線の幹線道路を走る。


 車内では松浦さんが瑞希のお祖母ちゃんのお悔やみを言い、みんなでその後のお葬式の話をしているうちに、話の方向はお祖母ちゃんの遺言の一件になった。


 瑞希が一通りの説明をする間、僕は慎重に松浦さんの表情を確認する。


 もしも松浦さんが何かを知っているのなら、心の動揺がみられるはずだと思った。瑞希の話しの一つ一つに頷き、お父さんが生きている証拠の手紙に触れた時には心底驚いた様子だった。しかしその動作に不審なところも大げさなところも無く、全体を通じて僕の疑問は杞憂なのかと感じた。


 ――ただ一つ、「おまじない」の効果のところだけ少し口元が引き締まったように見えたのが、不自然と見れば不自然だった。


「それで、松浦さんに少し聞きたいんですけど、いいですか?」


「なんだい岸本くん」


 そう言って僕をチラッと見る松浦さんの目はいつもと同じ。


「実はこの前の海で瑞希の超能力が暴走状態になった時、松浦さんがとっさに瑞希を止めたのは、何か知っていたんじゃないかと……、僕は思ったりするんですけど……、違いますか?」


 後ろの方から「えっ?」という那智と瑞希の声が聞こえる。二人にとっては僕がこんなことを考えていたなんて、思ってもいなかったのだろう。


 ポツリポツリと雨の音が聞こえる車内に、一瞬の沈黙が流れた。松浦さんの目は前を向いて動かない。


「そうだなあ……、まったく知らなかったと言えばウソになる」


 表情も変えずにアッサリと言い放つ松浦さんに、僕たちの方が驚いてしまった。後ろの座席からは息を呑む音が聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと松浦さん! いったい何を知って……」


「まあ待ちなさい岸本くん。僕が知っているというよりも、僕の知り合いでもあり先輩でもある人が知っていた、いや気づいていたと言った方がいい。その人も教授の事件を追っている人で僕も世話になっているんだ」


 松浦さんの他にそんな人がいることは初耳だった。その人がどんな人物なのかを尋ねる間も無く松浦さんは言葉を続ける。


「大石っていう人でね、超常現象を研究している僕の先輩なんだけれど、その人の意見を以前に聞いたことがあって……、五十鈴川教授は時空を移動している可能性があると言っていた。この前の三枝さんの爆発のあと少しもやがかかったような、霧がかかったような感じになっただろう、あの時に()()()とは思ったんだ」


「じゃあ、あの時どうして言ってくれなかったんですか!?」


 そう言った僕の声は少し非難がましかったかもしれない。そんなことにはお構いなく、松浦さんは柔和な表情を崩さない。


「そんなこと言ったって、あの時は三枝さんのお祖母さんが亡くなったっていう非常時だろ、ややこしい話を持ち出しても混乱するだけじゃないか。それに今日聞いた話を聞くまでは僕もほとんど信じていなかった。なんなら昼飯の後に大石さんのところに行くけれど、一緒に来たらいいんじゃないかな。きっといろんなことが解決すると思うよ」


 笑顔で提案する松浦さんだったけれど、言葉を言い終えたあとに首をぐるりと回し、いかにも肩のコリをほぐすような運動をした。

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