第6話 ハンバーガー奢って胸が揉めるなら3日に一度は奢ってやるぞ その2
「とりあえず明日から仮の新入部員として部室に来なよ。知り合いもいなくて、誰か友達でもできないと高校も面白くないだろ」
「そうだよ瑞希ちゃん、毎日どんなパンツかチェックしてあげるからね!」
「もう! パンツはいいです! それより……、本当に友達になって貰えるんですか?」
彼女は少し浮かない表情になり、最後は小さな声で僕たちに尋ねてくる。
「なんで? 瑞希はイヤなのか? っていうかもうさっきから瑞希なんて呼び捨てにしてるくらいなんだけど」
「甚、違うって。やっぱねぇ、階段でパンツ覗くような男と友達になりたくないわよね~、わかるわ~」
いかにもイヤらしい男を蔑むように、流し目で茶々を入れる那智。
「いや、あれは覗いたんじゃなくて、階段で瑞希がコケて水玉パンツが……」
「もう! だから水玉パンツはもういいですっ! ただ……、こんな気色悪い体質とか訳の分からない能力を知って、それでも友達になって貰えるのかなと思って……」
先ほど部室で超能力の説明をした時、瑞希が見せた寂しそうな笑顔を僕は思い出した。「思い切ってカミングアウトしたのに!」と言った彼女の言葉は、おそらく半分以上本当なのだろう。
「なあ瑞希、もしかしたら中学時代とか、その体質で結構ヘンな目で見られたのか?」
「え、そうなの? 瑞希ちゃん……」
こちらの質問に、すこし時間を置いて瑞希は答える。
「わたし……、ずっと隠してました。わたしの周りでちょっと物が壊れたり、衝撃で吹っ飛んだりしても、何も知らないふりをしてました。もしかしたら薄々は気味悪がられてたかもしれません。でも、自分の能力で人を怪我させてしまったのは岸本先輩が初めてで、それも結構な大けがをさせちゃって、だから謝らなきゃって……」
またまた落ち込む瑞希に、那智が持ち前の明るさを発揮した。まあ、コイツはそれくらいしか取り柄がないのだが。
「瑞希ちゃん! いいじゃない、私たちの秘密にしたら。その超能力っていうか体質のことだって、自分で制御出来るように超常研で考えてみようよ」
「そうだな、今日のことだって不思議に思ったことが結構あったんだよ。部室ではあれだけの衝撃波をくらったのに、俺も那智も全然吹き飛ばされなかったんだ。でも今朝は目の前にあったカバンが俺の顔に当たったから飛ばされた。この二つを比べても、瑞希の超能力――いや念動力っていうのかな、これって人には直接作用しないんじゃないかと思うんだ。さっきも机とか当たってたら飛ばされてたんじゃないかな」
今朝のことと部室での出来事を比較すると、色々と疑問点が出てくる。とにかく不思議な事ばかりで早々に解決するとは、僕にはとても思えない。
「はい、実は先輩たちには言っていない秘密がまだあるんですけど、いま岸本先輩が言ったのもその一つです。自分で分かって無いこともまだあったりして、今度少しづつお話しようと思います。それで……、本当に明日からも部室に行ってお話したり、こうやってお茶したりしてもらっていいですか?」
瑞希の不安な表情の中にも真剣な瞳が光っている。僕たちにはもちろんこの超能力少女を拒絶する理由なんて無く、逆にこちらが友達になって欲しいくらいだった。
「全然大丈夫、なあ那智?」
「もちろん! 私は瑞希ちゃんから胸の大きさを吸い取るから毎日来てくれたらいいよ」
「もう胸もやめてください! それじゃあ明日からよろしくお願いします」
彼女はそう言うとピョコンと頭を下げ、それから嬉しそうに笑った。笑った顔は本当に普通の女の子で、その裏にいろいろなものを背負っている風には見えない。
「で、さっき先輩たちが言ってた顧問の神楽坂先生ってどんな人なんです?」
「あ、先生ね。んとね……、スラッとした美人で背が高くてかっこよくて……、外から見たら完璧な女性、かな」
那智の言うことは大体合っている。僕たちの顧問である神楽坂先生は外から見たらほぼ完璧に見えるのだ。
「外からっていうことは、内側はやっぱりマッドサイエンティストなんですか……?」
「そういうのとはちょっと違うかな、まあ明日になったら分かるから瑞希ちゃんも楽しみにしてて!」
ニヤニヤと笑う那智を見て、瑞希は少し不安げな表情に変わる。
「まあ大丈夫だって、面白い人には違いないし。明日神楽坂先生に瑞希のこと言っておくから」
僕はそう告げて残ったコーラを飲み干した。
これが超能力少女、三枝瑞希と僕たちの出会い、そしてこれから始まる出来事の、ほんの序章だった。