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第5話 ハンバーガー奢って胸が揉めるなら3日に一度は奢ってやるぞ その1

 ◇  ◇  ◇


「で、先輩たちは地理歴史研究部で何を研究してるんですか?」


 僕たちは超能力少女を誘って駅前のファストフード店に来ていた。


 美味そうにハンバーガーとポテトをパクつきながら、その超能力少女である瑞希みずきが聞いてくる。


 こんなファストフードのセットを奢って胸が揉めるなら安いものだ。確か那智なちが揉んだ回数が7回だから、450円を7で割ったら税込みでひと揉みが……。などと、僕が考えていると。


「岸本先輩、何をボーっとしてるんです!? それに、さっきからわたしの胸を見てません?」


「ああ、ごめん。そのセットメニューが450円で、それで那智が7回揉んだだろ、だからひと揉み当たりの単価を計算してたんだよ。ざっと消費税込みで64円ってとこかな」


「プププ、アンタしょうもないことだけは思いつくのね。じんのそういうところだけは小さい時から尊敬するわ」


 それは僕と那智にとっては何気ない話だった。


 ところが超能力少女の瑞希にとっては違ったらしい。手に持っていたポテトをポトリと落とし、ドンドンと顔色が赤くなっていく。やがてハンバーガーを包んでいた紙がカサカサと揺れ、僕もちょっと慣れ始めた空気の振動が伝わってきた。


「ストップ! ストップ瑞希ちゃん、ここはお店の中! 落ち着いて、はい落ち着いて……、ハイ、ヒーヒーフー」


「那智、それって出産の呼吸法じゃね?」


「もう! 先輩たちが恥ずかしいことを言うから動揺しちゃったんです! それで地理歴史研究部って何してるんですか?」

 

 拗ねながらも平静を取り戻す瑞希。しかし僕が思うに地理歴史研究部が何をしているかより、アンタの体質がどうなっているかの方が重大事ではないだろうか。


「んとね瑞希ちゃん、地理歴史研究部って言ってもね、今年から私と甚の二人しかいないんだよ。瑞希ちゃんも入りなよ、部の中身は超常現象研究会だから瑞希ちゃんにピッタリだよ」

 

 ボーイッシュなショートカットを手櫛で整えながら、超常研に入れと那智が誘う。


「超常現象……研究会? でも地理歴史研究部なのにいいんですか? そんなことして」


 自分自身が超常現象の割に、地味に普通のことを気にかける瑞希。


「ああ、それはいいんだよ。顧問の先生がそういう人だから」


「そうそう。あのね顧問の神楽坂かぐらざか先生っていうのがそっちの系の人だからね! 全然心配しないで瑞希ちゃん」

 

 顧問の先生がそっち系という情報に、瑞希が少し怯えだす。


「あの……、そっち系っていうことはマッドサイエンティストとかで、超常現象を解明するためには人体実験とかしちゃう系ですか? わたし……それはちょっと……」


「さすがに……、そこまでは……、ねえ甚?」


「神楽坂先生はそんな人じゃないよ、君の体質にはビックリするだろうけどさ」


 そうですか、それなら何とか……と残りのポテトを食べながら瑞希が考えている。


「それより瑞希、君のその不思議な体質は周囲のみんなは知ってるの? って言うか何歳くらいからそうなったの?」

 

 僕の質問に、はぁ、と答えづらそうにしながらも、瑞希は自分のことをポツポツと話し始めてくれた。


「実は……、子供の頃からこんな体質だったらしいんですけど、強力になり始めたのがここ最近一年くらいで……」

 

 ここで少しため息をつき、瑞希は話を続ける。


「わたし、お父さんとお母さんがいないんです。それで、お祖母ちゃんと暮らしてたんですけど、少し前にお祖母ちゃんが入院しちゃって……。だからもう一緒に暮らせそうにないからって、叔母さん夫婦の家に引き取られることになりました。それで急遽この高校を受験することになったんです。こっちには知ってる友達なんて全然いなくて……、だから、入学式から2日経ってもクラスで沈んでます」

 

 超能力少女のあまりにブラックすぎる過去に、僕は那智と顔を見合わせた。


「ま、まあ、辛いこともあったんだろうけど、出会ったのもパンツ見たのも何かの縁だからさ、友達いないんだったら超常研に入りなよ」


「そうそう、瑞希ちゃん私よりおっぱい大きいのは悔しいけど、一緒に楽しもうよ」


 僕たちの言葉に瑞希は、はい……ありがとうございます、と言いストローで紅茶を飲む。


「それから、さっき不思議に思ったんだけど、なんで今朝階段から落ちたのが俺だってわかったんだ? 岸本って名前どこで知ったの?」


「それは、すいません……。スポーツバッグのネームタグがKishimotoだったし、二年のバッジだったんで、それで職員室で聞いて謝りに行こうって……」


「へえ~、瑞希ちゃん瞬間的によく頭が回ったね。頭いいんだ、おっぱいも大きいし」


「胸は関係無いです! 胸は!」


 普通なら怪我をした痕跡も無くなって、記憶すら定かでない相手に謝りに来るだろうか? この子はヘビーな過去を背負っても、自分に正直にまっすぐ生きているんだな、などと僕は思い、改めて明日も部室に誘ってみることにした。

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