第49話 お祖母ちゃんのお見舞いで…… その2
308号病室、瑞希のお祖母ちゃんがいるのはこの部屋だった。
瑞希の持つピンク色のバラに負けず劣らず、那智にしばかれてピンク色になっている僕の横顔。隣でニコニコと引きつり笑いをしている那智の顔もまだ少し赤い。
「お祖母ちゃん、来たよ! 調子はどう?」
瑞希がそう声を掛けてカーテンの向こう側を覗き込む。よく来たね、と小さい声で返事が聞こえた後、瑞希は僕たちを手招きした。
初めて見る瑞希のお祖母ちゃんは、言われなくてもわかるほど瑞希にとても良く似ていた。ベッドのリクライニングを利用して上半身を起こし、優しげに微笑みながら僕たちを迎え入れてくれる。
「お祖母ちゃん、このお二人が前から言ってる高校の先輩で岸本甚さんと宮前那智さん。すっごく仲良くしてくれていて楽しい先輩なんだよ!」
瑞希にそう紹介された僕たちは、それぞれの名前を言って頭を下げた。
「あらそう、岸本さんと宮前さん、瑞希がいつもお世話になっています。この子がいつも楽しそうにお二人の話をするんですよ。全然知らない高校に行かせてしまって心配していたんですけど、何とかお友達もできたようで……」
優しい表情を崩さず、瑞希のお祖母ちゃんはベッドの上で頭を下げた。
「いえ、あの瑞希さんがクラブに入部してくれたお陰で何とか部員が3人になりましたし、いつも瑞希さんにはお世話になっています」
まさか、たまに瑞希さんのパンツを拝見させて頂いておりますとも言えず、適当なところでぼやかして挨拶をする。
「私も一つ下の瑞希ちゃんが可愛くて、よく一緒にお茶をしたりお喋りしたり、本当の妹みたいに仲良くさせて貰っています!」
姉より妹のほうが胸が大きいっていうことは現実でもあるだろうしな、と僕は心のなかで付け加えた。
「岸本さんは瑞希から聞いていたとおりの優しそうな方ね、それから宮前さんは聞いていたよりもお淑やかで可愛らしいお嬢さんに見えるわ」
「えっと、それは瑞希さんの言っていることが正しくて、今日のこの衣装の雰囲気でグフッッ!!」
そこまで言いかけた僕の足に鈍痛が走る。
隣をみるといかにも優しそうな笑顔のまま、那智が僕の足をグリグリ踏みつけていた。
「ほら、お祖母ちゃん! 岸本先輩と那智先輩って凄く仲良いでしょ、わたし今の高校に行って先輩たちに出会えて本当に良かったって思ってるんだよ」
「良かったねえ瑞希……、お祖母ちゃんと二人暮らしだったから何にも良い思い出づくりもできなかったけど、新しい場所でいいお友達ができて良かったね」
♡ ♡ ♡
それからしばらくの間、お祖母ちゃんを囲み4人で話をした。4月から合宿に行ったことやゴールデンウイークの八景島、それから顧問の先生がちょっと変わってること。学校の周辺でどこのケーキが美味しいとか、僕がいつも那智とその顧問の先生に虐げられていることまで、話のネタは尽きなかった。
「でもですねお祖母ちゃん、この那智は瑞希さんに胸の大きさが負けてるのが悔しいって、最初大変だったんですよ」
「アンタ、甚! なに言ってるのよ! そんなこと言うんだったらいつもいつもエロい目で瑞希ちゃん見てるのは誰なの!?」
「ちょっと、ちょっと、先輩たちそんな話はもういいです!」
「フフフ……、本当に楽しくて良いお仲間に会えてよかったわね瑞希……」
そんな感じであっという間に一時間以上の時が過ぎて笑い話が収まった頃、お祖母ちゃんが瑞希に声を掛けた。
「瑞希、それから那智さん。悪いけど二人で看護師さんに聞いて、これを図書ルームの所定のところへ返してくれないかしら?」
そう言ってお祖母ちゃんは枕元の何冊かの本を手渡す。
「うん、じゃあ那智さんも行きましょうか?」
瑞希と那智は数冊ずつの本を抱え、ナースルームの方へ消えていく。その姿が消えた頃、お祖母ちゃんはゆっくりと僕に言った。
「岸本さん? 本当に不躾なことを聞くんですけど、瑞希のことをどこまでご存知なんでしょうか? 私には判るんです、お二人はあの子の本当の事を知っていて、それでも仲良くして下さっている。そして瑞希は本当のことをお二人にお話して、岸本さんと那智さんを心から信頼している。10年も一緒に暮らしてきたからよく判るんですよ……」
その言葉を聞いた僕は――しばらく何も言えなかった。