第46話 先輩たちに出会えて良かった、って本当に思ってるんです!
◇ ◇ ◇
「瑞希ちゃん、少しお茶して帰ろうよ! さっきのラッキースケベのお礼に甚がおごってくれるってさ!」
あんなに重たい話をしたばかりの学校からの帰り道、瑞希を元気づけるように那智が妙におどける。
「瑞希、時間大丈夫か? 大丈夫だったらファストフードの飲み物くらいおごるぞ。ハンバーガーとかポテトまで食べたら家に帰って夕食が入らないだろうけどな!」
さっきの話を聞いたから優しくされた。そう瑞希に思われると少し微妙な気持ちになるけれど、僕自身このまま瑞希を家に帰す気分になれないのも事実。
「ええ~、甚、ホントにおごってくれるの!? じゃあ私も当然よね! 高いの頼んじゃおっと」
「あのさあ那智。瑞希はわかるとして、なんで那智の分まで俺がおごらないとダメなんだよ……」
僕と那智がいつものように話をしている間も、瑞希は返事をせずに黙ったままだった。やっぱりいろいろと両親の話をしたのが気になっているのか、無理に誘っても気まずいだけかも、――そう思った時だった。
「どうして……」
瑞希がボソッと呟く。
「どうして、って? 何が、なんのこと?」
「なに? 瑞希ちゃん?」
僕も那智も立ち止まって首をひねる。
同じようにその場で止まり、瑞希が僕たちを見て一気に喋った。
「どうして岸本先輩の《《ラッキーなんとか》》の相手って、いつもいつもわたしが多いんですか!? よく考えたら那智先輩は今まで一回もパンツ……、を……、見せてないじゃないですか! そんなのズルいです、今日の那智先輩は何色ですかっ!? 那智先輩のも見せないとズルいです!!」
「えっ?」
「はあ?」
――呆気にとられる僕たち二人
瑞希はニコッと僕には笑顔を見せ、サッと那智の制服のスカートに手を伸ばし始める。
――ちょっ、ちょっと瑞希ちゃん、やめてって、私はそういうキャラじゃないって!
――わたしだって、そういうキャラじゃなかったんですよ! 那智先輩!
僕の周りをグルグル回る二人を見ていると、さっきとのギャップに笑いを抑えられなくなった。僕が笑い始めるのにつられ、スカートのめくり合いをしていた二人も大声で笑い出す。
ひとしきり三人で笑ったあと、瑞希は本当にスッキリとした表情で僕たちに言った。
「岸本先輩も那智先輩も、わたしのことを心配してくれてありがとうございます。わたし何かスッキリしました! 両親のこと、隠してた訳じゃないけど先輩たちには全部知ってもらえてスッキリしました。今日話した昔の話とか、ヘンな超能力とか気にならない、と言えばウソですけど……。でも今は、この学校に来て良かったと思ってるんです、先輩たちに出会えて良かった、って本当に思ってるんです。ですから、これからもよろしくお願いします!」
そう言って瑞希はペコリと頭を下げる。僕と那智は一瞬顔を見合わせて、また笑い始めてしまった。
「もうっ! わたしが正直な気持ちをカミングアウトしたのにっ!」
僕たちが笑って、瑞希がむくれる。そういえば最初に出会った日もこんな感じだった。
「ごめん瑞希、違うよ、いま笑ったのは安心したからなんだよ。こっちこそ、これからもよろしくな!」
「そうゴメンね、瑞希ちゃん! 私も安心したんだよ、落ち込んでる瑞希ちゃんは《《らしくない》》からね、明日からも楽しくやろうね!」
「はい! じゃあ今日は岸本先輩におごって貰えるっていうことで、那智先輩もわたしもちょっと遅くなるって家に連絡して、夕食分も一緒に食べちゃいましょうか?」
――えっ?
「いいねえ瑞希ちゃん、ドンドン頼んじゃおう! じゃ行こっか!」
「はい!」
――おい、ちょっとまてよ……
二人に両手をつかまれ、捕らわれた宇宙人『グレイ』のように僕は連行されていく。
「あ、そうだ! 今度お祖母ちゃんのお見舞いに先輩たちも一緒に来てくれませんか?」
僕と那智を交互に見ながら、前を歩く瑞希が聞いてきた。
「お祖母ちゃんって、入院してる瑞希のお祖母ちゃん? いいのか、俺たちがついて行っても」
「そうだよ、私たちがお見舞いとか行ったらお祖母ちゃんが迷惑するんじゃないかな……」
いくらなんでも見ず知らずの孫の友人が見舞いに来るというのは、ちょっと迷惑じゃないだろうか。それに瑞希のお祖母ちゃんといえば、体力も落ちて身体も悪くなっていると聞いている。
「いいんです! お祖母ちゃんに紹介したいんです。全然知らない高校に行ったわたしを心配してるから、いい友達ができたよ、心配しなくていいよって……、お祖母ちゃんを安心させたいんです!」
10年前両親が失踪してから、ずっと一緒に暮らしてきたお祖母ちゃんを安心させたい。そんな瑞希の頼みを断れるはずもなかった。
「うん、わかった。じゃあ喜んで行かせてもらうよ、那智もいいよな?」
「もちろん! 一緒に瑞希ちゃんのお祖母ちゃんを安心させてあげようよ!」
「はい、じゃあ先輩たちお願いしますね!」
そう言うと瑞希は僕の手を離し、ペコリと本日二回目のおじぎをして満面の笑顔を見せたのだった。