第43話 『パンゲア』から来た男 その2
「だから瑞希ちゃん! ほらチラッとパンツを見せたらいいんだって、チラッと!」
「嫌です! 那智先輩が代わりに見せて下さい!」
「三枝! これは命令だ、業務命令!」
「わたし業務なんてしてません! ただの高校生ですっ!」
部屋中をドタバタと追いかけっこをする三人の女性。松浦さんは笑いながら見ているけれど、僕は顔から火が出るほど恥ずかしい。わざとらしく首を振って三人を止めにはいる。
「那智、それから神楽坂先生も瑞希にパンツ見せろって、痴女じゃないんですから」
「なによ甚! アンタだって瑞希ちゃんのパンツ何回も見たじゃないの!」
「そうだぞ岸本! お前はアタシのパンツだって見ただろうが!」
「岸本先輩のは全部不可抗力です! わたしは自分から見せたことなんてありませんっ!」
瑞希は叫びながら二人から逃れて僕の背中に周り込み、後ろからギュッと抱きついてきた……。
ギュッと抱きついてきた
ギ ュ ッ と 抱 き つ い て ……
――コレ、なんか背中に当たってるよね。柔らかいけど弾力があって、二つのムニュムニュってしたものが当たってるよね。父さん……、至福ってこういうことでしょうか?
「ああああっっっ!! なにそのデレッとした顔! 甚のバカッ! エロ男! 最っっ低!」
「おまえら、よくも神聖な学校内でムニュだのムギュだのしやがって!」
「ちょっと待った、先生たちが瑞希を追い回すからこうなった訳で……」
僕が二歩三歩と後ずさりを始めた時、後ろの瑞希と足が絡まった。
――ウワッ
――キャッ
このままだと僕の背中で瑞希を下敷きにして押しつぶしてしまう! 僕はとっさに自分が先に落ちるように体を入れ替えようとした。
ドン!! ムニュ
鈍い衝撃が背中に走り、続いて瑞希の身体が覆いかぶさってくる。目を開けると至近距離には真っ赤になった可愛い後輩の顔、そして何とも言えないいい香り。父さん……、更なる至福ってあるんですね。
「き、きしもとせんぱ……い、キャーーーーーーーー!!!」
――なあ瑞希、パンツを見せずに超能力が出せて良かったじゃないか。僕もいい思いができたし瑞希はパンツを見せずに済んだ、これっていわゆるWin-Winの関係ってやつだろ。
♡ ♡ ♡
「本当にあったんだねえ、こんな超能力……。それから岸本くんをそろそろ許してやってもいいんじゃないか?」
爆発&巻き戻しを終えた部屋で、静かに松浦さんが呟く。
僕は那智と神楽坂先生にモップやホウキでガシガシと折檻され、フローリングの上で正座をさせられている。
「いいのよ松浦くん。それより本物だったでしょ?」
神楽坂先生は軽く僕のことを無視して松浦さんに言った。
「ああ、そうだな。神楽坂が言っていたことが本当だとは思わなかったよ」
「そうでしょ。で、何かいいアイデアある?」
「そんなにすぐには見つからないよ、だってこんなの見たこと無いもんな。それで三枝さん、もう少し君のことを聞いてもいいかな?」
松浦さんはニッコリと微笑みながら瑞希に質問を始めた。瑞希は戸惑いながらもコクリと頷いてみせる。
「三枝さんの能力のことは、お父さんとかお母さんは知ってるのかい?」
「いえ、あの……、両親はいません。いま叔母さんの家に養女として引き取られて住んでいます」
「ああ、ごめんね。言いにくいことを聞いてしまったね。それじゃあ叔母さんたちは知ってるの?」
優しい小児科のお医者さんが聞くように、松浦さんは瑞希に質問を続ける。瑞希は叔母さんたちはこの能力のことを知らないことに加え、少し前までお祖母ちゃんと暮らしていたこと、そのお祖母ちゃんは超能力の秘密を知っているらしいけれど、いま入院していて尋ねようがないことなどを話した。
「なるほど、そりゃあ大変だったんだねえ。養女になったって言うことは、住むところも名字も変わったんだよね?」
「はい、元々は珍しい名字で五十鈴川瑞希という名前でした」
『五十鈴川』という名字を聞いた途端、松浦さんの目がスッと細くなる。何か記憶を辿るように頭を押さえ数秒が過ぎた後、もう一度瑞希を見て言った。
「もしかして三枝さんのご両親って、10年前に失踪した科学者の五十鈴川隆人教授だったりする?」
瑞希の両親が10年前に失踪!? もし本当だとしたら、なんでこの人がそんなことを知っているのだろう。
僕は松浦さんの横顔をマジマジと見つめた。