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第4話 水玉パンツの超能力少女 その4

 邪魔しないで! と叫ぶ三枝さえぐささんの気迫に僕たちは鎮圧される。


 「ちょっとだけ待って下さい」と言うと、彼女は目を閉じて何か口の中でボソッと呟いた。


 ――その瞬間、めまいに似た不思議な浮遊感が僕を包み、周囲の風景が霞んだ。


 そして、そんな奇妙な浮遊感が無くなったその後には、ガラスも割れていない、床も椅子も机も全部元通りに戻っている部屋に、僕たちは立っていた。


「なに、なに、なにこれ?」


「元に……、戻ってる……」


 全く元通りに戻った部屋に呆然と立ち尽くす僕と那智なち


「いま時間を元に戻しました。30秒の間に巻き戻さないといけないから早く戻したかったのに! 先輩たちがゴチャゴチャ言うんですから……」


 口をとがらせた三枝さんは不満そうに続ける。


「もし30秒を過ぎちゃったら大変なことになってたんですよ! 全部()()()()()()()()()になってたんですからね!」


 拗ねたような、けれどどこかホッとしたような表情で三枝さんは訳のわからないことを言った。


「あの……、時間を戻したって……、これって現実なのか?」


「って言うか、じん……、私たち夢でも見てるんじゃないの?」


 僕と那智はお互いに歩み寄り、僕は那智の頬をつねり那智は僕の頭を殴る。


「ああ……、痛いわ……」


「那智……痛いのは俺の方だ。お前おもいっきり殴っただろ」


 確かにこれは夢じゃない、現実だ。ただ現実と言うにはあまりにも理不尽。最初の衝撃波からして理解不能なうえに、その時間を巻き戻しただって? そんな大それたことを、この可愛い女の子がしたとか……。


 そんなことを呆然と考えていると、三枝さんは説明を続けた。


「ね、先輩方もわかりましたか? 今朝のこともわたしがコケて……パン……ツ、を見られたから発動しちゃったんです。それで本当は岸本先輩に大怪我をさせてしまったんですけど、怪我をする前に時間を巻き戻したんです」


 三枝さんは少し笑いながら、そしてちょっと悲しそうにしながら僕たちに近づいてくる。


「ホント……なんだ」


 今朝の経験と、今しがたの出来事。この二つを合わせると僕には本当のこととしか思えないようになっていた。隣を見ると放心状態から抜け出した那智が、見慣れた表情に変わっている。


 何か悪ふざけを考えついたような――いつもの那智の表情に。


「じゃあさ、三枝ちゃん! こんなことしたらもっと派手に爆発しちゃうのかな!?」


 那智のいたずら好きを何も知らない三枝さんは、キョトンとした表情で首を傾げている。彼女の後ろにスッと回り込むと、那智は何のためらいもなく背後からその胸をもみ始めた。


「う~んコイツめ、一年のくせにしてこのボリューム、卑怯だわ……」


「ああ、那智……、いいなあ」


 僕は目の前の光景を心のメモリーに録画し始める。少し逆光で露出補正が必要だ、心のAdobe Premiere Proを起動してすぐに補正。よし完璧、いま何揉み目だ3、4、5揉み、羨ましいなあ、かわってくれと言っても無理だろうなあ。そんなことを考える僕の目の前で那智の悪ふざけは続く。


「な、な、なにやってるんですか! ちょっと止めて下さい!」


 7揉み目から8揉み目に移ろうとしていた時、ようやく三枝さんは現実へと帰って来た。彼女の周りの空気がブルブルと振動するけれど、さっきのような爆発は起きない。変化と言えばペットボトルがコロコロと転がり、窓ガラスがビリビリと鳴るくらいのものだった。


「なんだ……、爆発しないよ、面白くない……」


 三枝さんに体を突き飛ばされ、くうをもみ続ける那智がつまらなさそうに呟く。


「だって、は、恥ずかしいですけど、女の先輩だからそこまで恥ずかしくないんですっ!」


 あっかんべーをしそうな勢いで三枝さんは那智に反論する。


「あ、言っとくけど三枝ちゃん。ボクはこんな格好をしてるけど、実は女装男子だからね。こう見えても実は男なんだ!」


「おい那智、それはちょっと」


 ちょっと、からかうのもいい加減にしろ、と僕が言おうとした時だった。


「えっ……男。いっ、いっ、いやーーーー!!!」


 三枝瑞希さえぐさみずき、つまり自称超能力少女の叫び声と共に、――それはまたド派手に起こった。


 先ほどの衝撃波の何倍あるだろうか。とにかくとんでもない空気の振動と破裂。ガラスどころか部屋中が破壊される音が聞こえる。今度は三枝さんを中心に椅子や机さえ粉々に吹っ飛んでいく、しかし不思議なことに僕も那智も吹き飛ばされてはいない。


 数秒の後、三枝さんが我に返り周囲を見回す。


「あ、あ、あぁ……」


 口を開けたまま、どうしようという眼差しで僕たちを見る三枝さん。とにかく早く時間でも何でも巻き戻してこの惨状を元に戻して欲しい。


「三枝さん、これはひどいよ。巻き戻さなきゃ」


「ねえ三枝ちゃん、とにかく巻き戻そうか」


「は、は、はぃ……、わかりました……」


 またも彼女が何かを呟くと、さっきの浮遊感とともに景色が霞み一瞬にして部屋は元に戻った。


「あのさあ、那智が男な訳ないだろうよ……、見てみろよ、それでも申し訳ない程度に胸もあるだろ」


「甚! 悔しいけどさ、年下なのにこの子わたしより随分大きいよ。こういうのってメッチャ悔しくない?」


「え、え、やっぱり女の先輩だったですか……、よかった……、本当によかっ……た。ヒック、ヒック、……」


 やっぱり那智が女だと分かって安心したのか、三枝さんはその場にペタリと膝をつき胸を押さえてワンワンと泣き始めてしまう。


「……おい那智、お前が何とかしろよ。悪ふざけが過ぎたんだからな」


「わかったわよ! ごめんね三枝ちゃん、わたし女だから恥ずかしくなかったでしょ? お詫びに今からファストフードで何かおごるから泣き止んでよ」


 泣き続ける三枝さんに近寄り、食い物で釣ろうとする那智。そんなもので胸が揉めたら……


「ホントですか! 一緒に行ってくれるんですか!? やったー、ポテトも食べていいですか?」


 簡単に食い物で釣られる超能力少女。そんなもので胸が揉めるのなら3日に一度くらいおごってやるぞ、と僕は心のなかで決意する。


「じゃあ那智、それから三枝さんも帰るか」


 二度も破壊されたとも思えない引き戸を開けて僕は部屋を出る。時間はそろそろ夕陽が赤い時刻になっていた。


「え~と、岸本先輩と、それから……那智……さん? でしたっけ」


「私は宮前那智みやまえなち、コイツと同じクラスだよ!」


「はい! 那智先輩。二人ともわたしのことは三枝さんとかじゃなくて、瑞希みずきって呼んでくださいね」


 かくして正式名称:地理歴史研究部、裏名称:超常現象研究会に本物の超能力少女が加わろうとしていた。

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