第39話 UFOキャッチャー その2 <逆襲のフンボルト夏美>
「甚、ぬいぐるみ取ったら瑞希ちゃんが胸でムニュムニュってしてくれるって!」
「なっっ!!!」
ムニュムニュを想像して思わず僕は前後のボタンを離してしまった。
「言ってないです! そんなの絶対言ってないですっっ!」
瑞希が顔を赤くしながら必死に抵抗する。
ドカンと爆発しなかっただけまだマシだったかもしれない……。しかし完全に目標と違ったところでUFOキャッチャーは降下を始め、ハンドは虚しく空を掴んだ。
「ゴメンゴメン、私の聞き違いだったアハハ♡」
「那智……、何がアハハだよ、貴重な100円を無駄にさせやがって」
二回目、慎重に狙いを付けてボタンを操作するもののアームはタグには引っかからずに終了。
三回目、タグには引っかかったのに上手く持ち上がらなくて終了、そして最後の四回目。
「そのまま! 落ちるなよ!」
「お願い! 落ちないで下さい!」
「ふ~ん、上手いじゃん」
僕と瑞希の願いが届いたのかアームの先がタグに引っかかり、奇跡的にカクレクマノミのぬいぐるみをゲットできた。
「ありがとうございます岸本先輩! 大切にしますね!」
ムニュっとはしてもらえなかったものの、瑞希は僕の手をギュっと握って喜んでくれた。
さて、次はヘアピンの入ったカプセルだけど、こちらは三本のフィンガーアームで丸いカプセルを上からつかむタイプ。これも100円で取れる自信はないので300円を入れる。
「甚、イルカのデザインのだからね、カプセルの中にイルカが入ってるやつを取ってよ!」
「ここから中に入ってるデザインまで分かるわけないじゃん」
カプセルが取れるかどうかも分からないうちから、中のデザインまで指定してくる那智。とりあえず掴みやすそうなカプセルを狙ってボタンを操作する。
「先輩! カプセルが取れたら那智さんがチューしていいって言ってますよ! ほらほら、ってアレ? 岸本先輩なんで全然動揺しないんですか? もう……」
「那智がそんなことを言うわけがない」
「よくわかってるね、甚……」
瑞希のいたずらでかえって集中力が増したのだろうか、僕は一回でカプセルを取った! 落ちてきたカプセルだけはすかさず取り出す那智。
「えっ、ウソっ、甚! マジっ!」
那智がカプセルを開けると本当に綺麗なイルカのヘアピンが入っていた。イルカの部分はステンドグラスのように装飾され、店内の照明が反射してキラキラと光っている。
「結構綺麗! やるじゃん甚! ご褒美に瑞希ちゃんの胸を触っていいよ!」
「もう那智先輩っ!」
「ハハ……、あと3回出来るからまだ取れるかもな」
最初に成功して気が抜けたのか、次に連続して2回は失敗。
やっぱりそうそう上手く行くもんでもないと諦めかけた最後、またもカプセルをキャッチした。今度もすかさず取り出す那智。
「あ、同じイルカだ! 甚、これ瑞希ちゃんにあげてもいいでしょ?」
「ああ、那智も瑞希もお揃いのヘアピンでいいんじゃないの」
「貰えるんですか! ありがとうございます!」
早速二人が髪に付けると、髪の長さが違うのに、似ているような似ていないような微妙な姉妹に見える。何が可笑しいのか、那智と瑞希はお互いの頭を指して笑いあっていた。
♡ ♡ ♡
「よかった! 那智先輩とお揃いのものができました!」
「私たち同じ部活だもんね!」
「部活って言うほど何もしてないけどな~」
三人で話しながらモールの出口へと歩く。今日一日楽しかったし、明後日からまた学校に行こう、と話しながらモールを出た時だった。
「……あ」
「誰か……」
「……忘れてますよね」
三人同時に気づく存在。
「おーまーえーらー、よくも放ったらかしにしてくれたな~」
恐る恐る振り返ると何故かアロハ風のワンピースに着替えている神楽坂夏美先生27歳が、フンボルトペンギンの衣装を手に持ってプンスカ&ドスドスと歩いてきている。
「やだな~先生~、忘れてませんよ」
「夏美先生、さ、探してたんですよ、どこにいたんですか?」
「えっと、えっと……、すいません……」
「お前らもフンボルトにしてやろうかーーーー!!」
――先生、それだけは勘弁してください。それからそのネタってきっと昭和のネタですよね、神楽坂先生も10万27歳なんですよねっ!