第33話 この素晴らしい弁当に祝福を! その2<◯◯◯のサンドイッチ……え?>
那智がパカっとバスケットを開けながら説明を始めた。
「えっとね、これがちりめんじゃこのサンドイッチで、こっちがしめサバね。で、あとこれがシシャモの焼いたヤツを挟んでみたの。こっちのシーチキンのサンドイッチは普通すぎてどうかなって思うんだけど……、一応作ってきた!」
――固まる空気、やがて動き出す時間――
「わあ、那智先輩美味しそう! わたしこのシーチキンのツナサンド食べます!!」
「宮前、なかなか美味そうだな! 私もシーチキン貰うぞ!」
あっという間にシーチキンサンドをガバッと持ち去る二人。これで那智のバスケットから安全パイは消えた。残りから考えるとちりめんじゃこはまだイケる!これが次善の策。
僕が次に比較的安全パイと見込んだちりめんじゃこサンドに手を伸ばそうとした、その時――
「甚、しめサバ好きだったでしょ! だからしめサバ作ってきたんだよ。しめサバサンドが意外と美味しいってネットで見たから食べてみて!」
「あ、ああ、しめサバね……うんまあ、しめサバ……好きだよ……」
これは那智のイタズラか? いや今のコイツの目は本気だ、本気な目でしめサバサンドを勧めているっ! そうか、このお弁当にしめサバサンドを入れていたから、熱のこもるコインロッカーはダメだと言ったのか。
僕は震える指を隠しながらしめサバサンドを手に取り、口元へと運んだ。神楽坂先生も瑞希も、流し目で僕の口元を注視しているのがわかる。
得体のしれぬしめサバサンド……、僕は思い切って口に放り込む。生臭さをともなって広がるしめ鯖の匂い、噛むほどに出てくるしめサバの汁とお酢の酸味。まずもって中身のしめサバ自体が決して美味いしめ鯖ではない。
そしてベッタリと口の中で絡み合うしめサバと食パン。
すごく……口の中に張り付きます……。
「どう!? 美味しい?」
「うん……、まあ、美味しいかな……」
――神様、僕は嘘をつきました。でも許してください、以前リバースした時に比べたら美味しいという意味で、平均以上に美味しいという意味では無いんです。分かって下さい神様……。
「岸本先輩はしめサバが好きだったんですか!? じゃあしめサバサンドはぜ~んぶ岸本先輩が食べていいですよ! ねえ先生!」
「そうだな、岸本はしめサバサンド係に決定な!」
――アンタらなあ、ちりめんじゃこだって、ししゃもだってこれよりマシだろうけど、そんなに美味いもんじゃねえと思うぞ!
「私のばっかりじゃなくて、瑞希ちゃんのも見せてよ!」
みんなの思いを知ってか知らずか、那智が瑞希のお弁当も見たいと言い出した。瑞希はいそいそと自分の作ってきた弁当箱を取り出す。
「はい! わたしのお弁当は普通のおにぎりとか卵焼きとか、ホントに普通ですよ!」
瑞希のお弁当は極普通におにぎりや卵焼き、ウインナーにカラアゲなどが整然と詰められていた。相変わらずリンゴのウサギちゃんだけは微妙な姿だったけれど、それ以外は形も大きさも揃って美味しそうに見える。
「おお! 美味しそうじゃん、おにぎり食べていいか?」
僕はしめ鯖サンドの口直しとばかりにおにぎりを口に入れた。口に広がる良い塩加減、中の具材の梅干しがこれまたいい酸味、おかずの卵焼きも一緒に食べるとなかなかの美味さ。
那智も神楽坂先生もそれぞれ瑞希のお弁当を、美味しい! 美味しい! と言って食べている。
「瑞希ちゃんのお弁当、見た目は普通だけど美味しいね! 私、自信無くしちゃうなあ……」
――那智、お前自信あったんだな。まあ上達してるのは認めるけど、マイナスがゼロになったくらいだからな。
「でもねえ三枝ちゃん、料理には華やかさというか、彩りっていうか、見た目も重要じゃない? そういうところでも男の胃袋をギュッと掴まないとね!」
――神楽坂先生、僕の胃袋は掴まなくてもいいですし、不安になるフラグを立てないで下さい。
いよいよ神楽坂先生のお弁当の披露。確か海をイメージしたと言っていたお弁当。さすがに那智のように魚づくしのサンドイッチは無いだろうし、何と言っても先生は27歳の大人の女性だ、嫌なフラグは忘れて期待してみることにする。
「じゃじゃーん! 夏美ちゃんの『海』のお弁当を見て驚くなよ~!!」
先生が弁当箱のフタを開ける
青い色が少し見える
青い部分がドンドン見える
青い部分が弁当箱に広がっていく
ほとんど青しかない
最後、端の方に白い色が覗いて弁当の披露は終わった……
……なんだこのお弁当?