第3話 水玉パンツの超能力少女 その3
「はぁ? 超……能力……?」
「ねえ、超能力……って言った? いま? 超能力って」
僕も那智も超能力を語る少女を目の前にして固まる。しばし三人の間に流れる非常に微妙な空気。
「フッ、フッ、ハハハハ、超能力だって! ちょっと甚、聞いた? 超能力って、自分が超能力者だって言う人、初めて見た!」
「わ、笑うなよ那智、失礼じゃないか! 笑うなんて……、プププ、ガハハハハ……、お腹いたいよ、那智、笑うなよ!」
腹を抱えて転がる僕、机をガンガン叩いて笑う那智、部屋に二人の笑い声が響く。
「もう二人ともなんですか! 思い切って打ち明けたのに酷いです! ちょっと笑わないで下さい! もうっ、笑わないでーーー!」
超能力少女の声で大笑いは止めたけれど、僕は笑いを引きずりながら言った。
「じゃあ三枝さん、その超能力を見せてよ。どんな超能力か俺も興味があるからさ!」
隣で那智も、うんうんと頷いている。
「ちょ、超能力の発動には条件があるんですっ!」
「発動の?」
「条件って?」
僕も那智も同じように首を傾げた。
「そ……、それは……、わたしが……しく思うことです……」
また三枝さんの声が小さくなってよく聞こえない。どうやら彼女が何かを思えば超能力が発動するらしい。
「なに!? 声が小さくてよく聞こえないよ~、ハイッ! 大きな声でどうぞ!」
那智は半笑いで司会者のように手を振って、「どうぞ!」と三枝さんに合図を送る。すると、意を決したのか三枝さんは目をつぶって大声を出した。
「超能力は! わたしが恥ずかしい、と思ったら発動するんですっ!」
赤い顔をして彼女がそう言い放った瞬間、僕の周りの空気が少し震えた気がした。
「ブッ、ブッハハ! 甚! 恥ずかしいと思ったら発動する超能力って! ブハハハ」
「フッ、フフフ、おい笑うなよ那智、笑うなって、また三枝さんに失礼……、ブッ、ブハハハハ、オカシイ! オカシイよ、腹筋が痛い、ブハハハ……」
再び二人して笑い転げる目の端で、また何故か衝撃波のようなものが来てペットボトルがコロンと倒れていった。
「ほ、本当なんですよ! 何ですか! 私の超能力で迷惑をかけたからここまでカミングアウトしたのにっ! ホントに勇気を出して来たのにっ」
地団駄を踏む勢いで三枝さんは僕たちを非難している。
「は、恥ずかしいから超能力って。それって甚にパンツを見られたことが原因なの?」
あまりに笑いすぎたのか、目に貯めた涙を手で拭きながら那智が聞く。
「そうですっ!!」
「じゃあさ、こうしたらもう一回見られるんだ、その超能力ってやつ!」
那智はそう言って席を立った。訝しげな目をした三枝さんの前に近づくと、ほらっ!と声を出して那智がそのスカートを盛大にめくる。
僕の目の前に見えたのは今朝と同じ水玉のパンツ。
今日は2回も見られるなんて本当にツイている、またまたしっかりとメモリーに保存。両手を合わせて「ごちそうさまでした」――と言いかけた時だった。
頬を撫でる空気の振動、その後なにか圧縮されていたものがはじけ飛ぶ気配。
――その一瞬の後、廊下側も校庭側も、部屋の窓ガラスという窓ガラスが粉々に割れ宙を舞った。
シャラシャラという砕けたガラスが床に落ちる音ととも僕が我に帰ると、三枝さんを中心とした床には同心円状のヒビまで入っていて、机と椅子も部屋の端まで飛ばされていた。
三枝さんのスカートを持ち上げていた那智は、目を見開いたまま僕の方を凝視して口は開きっぱなし。その三枝さんも真っ赤な顔で僕を見つめたまま固まっていた。
「那智……、これ……、今朝の俺が感じたヤツと一緒だ……」
ようやく僕がそれだけ言うと、那智が持ち上げていたスカートを手放す。
「え? ちょ、ちょ、ちょっとなにこれ! 三枝さん! これってアナタがやったの!?」
那智もあまりの出来事に、口をついて出てくるのは陳腐な言葉。
「ち、ち、違うんです! わたしがやったんですけど、やろうと思ってやったんじゃないんです! 突然に先輩がスカートをめくるから抑えが効かなかったんです!」
三枝さんはスカートの裾を直しながら、違う違うと目の前で手を振っている。何が違うのかわからないけれど、この少女の仕業には違いない。
「いやいやいや三枝さん、どうすんのこの状況! ガラスも粉々だし床板もヒビが入ってるんだけどっ!」
「そうよ! どうすんのこれ! こんなに派手に教室壊したら怒られるだけじゃ済まないって!」
「ちょっと待って下さい! 時間が無いんですから、二人ともゴチャゴチャ言わないで下さい!」
この惨状を目の前にして、時間が無いからゴチャゴチャ言うな、とはなんぞや?
「ゴチャゴチャ言うなってどういうこと!?」
「だいたい三枝さんは俺に謝りに来たんだろ! それなのに何で教室壊して――」
「ストーーーップ! 本当に時間がないから邪魔しないで下さい!」
とにかく邪魔をするなという水玉パンツの超能力少女、その気迫だけは本物だった。