第28話 八景島で奴隷生活 その3
「岸本……、私は悲しいぞ。お前の自信になると思ってチンアナゴを見せてやろうと思ったのに」
「先生、そろそろチンアナゴから頭を切り替えましょう」
お前はつまらない奴だなあ、と先生に言われながら僕たちはイルカショーを目指す。
「岸本先輩、荷物重たくないですか? 一つ持ちましょうか?」
後ろを振り返った瑞希が僕を気遣ってくれた。なんて可愛い後輩だろう、胸も大きくて優しくて、時々パンツも見せてくれる、そんな後輩はなかなかいない。
「ダメだって瑞希ちゃん! 今のうちに甚にはう~んと疲れさせて、お腹を空かせておかないとお弁当が余っちゃうよ。夏美先生まで作ってくると思わなかったんだから!」
そうか、やっぱり那智のお弁当も完食しないといけない訳だな……、しょうがない今日は根性を据えてかかろうと、僕は残念な決意を強要される。
「きしもとくん♡、アタシのお弁当は『海』をイメージしてるから楽しみにね♡」
神楽坂先生は神楽坂先生で、意味ありげにメガネがキラリと光らせる。
そんな僕は一抹の不安を覚えながらイルカショーの座席に座った。
♡
イルカがジャンプする度に派手に水しぶきが上がる。隣の瑞希はキャーキャー言って喜んでいるけれど、もし水しぶきが掛かって瑞希の超能力が爆発したらどうしようと僕は別の意味でヒヤヒヤしっぱなしだ。
「岸本先輩! イルカショーって初めてですけど、イルカって頭いいんですね!」
紅潮した顔の瑞希が話しかけてくる。
「超音波とか出して会話してるんだもんな、凄いよなイルカって!」
「甚はいつもエロ念波出してるけどね! 瑞希ちゃんも気をつけてよ、甚のエロ念波」
エロ念波ってどんな波動だよ、願っただけでエロい現象に出会えるなら24時間エロいことを考えてやるよ。などと思っていると、那智の隣からフンボルトペンギンが口を挟んできた。
「宮前も三枝もお子ちゃまだな、本当のエロ念波を知らないだろ……、本当のエロ念波というのはだな――」
神楽坂先生がエロ念波とやらの解説を始めた時だった。大きくイルカが跳ねたのだろう、バシャーンと音がしてピンポイントに先生に水が掛かった。
――先生、イルカが真剣に芸を披露している時にヘンな話なんかするからですよ。でもフンボルトペンギンですからね、水が少々掛かって大丈夫ですね。
♡ ♡ ♡
僕たち三人には何事もなく楽しいイルカショーも終わり、水族館の建物を後にした。少し湿ったフンボルトペンギンが隣にいるような気もするけれど、多分それは気のせい。那智も瑞希も楽しそうにイルカショーの感想を喋っているし、みんな楽しそうで良かった。
水族館を出たところで時間はまだ十時半。お昼を食べるには早いし、島内のアトラクションを少し回ろうという話になる。
「お昼まで時間もあるし、せっかくワンデーパスを買ったんだからアトラクションを回らないと損だよな!」
「甚! 甚! ワンデーパスが無くても瑞希ちゃんのパンツを見せてくれるアトラクションは一年中やってるって!」
「そんなアトラクションはありませんっ!!」
那智のバカ話に反応して向こう側の瑞希が真っ赤な顔で叫ぶ。それに反応してか、チョットばかり空気の振動が伝わってくる。
「そうそうアトラクションと言えば三枝ちゃん、絶叫系のアトラクションなんかに乗れるの?」
今日初めて神楽坂先生がマトモなことを言った気がする。そう言えばここにはフリーフォールとかアクアライドとか、それから海上を走るジェットコースターとか絶叫系のアトラクションもある。恐怖のあまり破壊してしまわないだろうか?
「む、無理だと……思います……」
瑞希はしょぼくれて下を向いた。
「瑞希ちゃん、まあ一回乗ってみたら? ドカーンと一発爆発しちゃったら巻き戻せばいいじゃない!」
「那智、お前無茶苦茶言うなよ……、ジェットコースターなんて途中で爆発したらみんな空中を吹っ飛んでいくぞ、巻き戻しの言葉なんて言う時間ある訳ないじゃん」
そんなことになったら、どう考えても夕方のトップニュースで『八景島のジェットコースターが謎の爆発、原因不明』でテレビに出るに違いない。
「急流下りのアクアライドくらいなら乗れるんじゃない? もう私は水が掛かったし、アンタたちも水をかぶりなさいよ!」
「急流……、下りですか……」
心配そうに瑞希が呟く。
確かにジェットコースターやフリーフォールに比べると、この4人だけで一艘に乗り込めるアクアライドなら万一爆発しても被害が少なそうだ。イザとなれば神楽坂先生が身体で弁償するくらいで済むだろう。
「瑞希ちゃん、怖いことが起きると覚悟してたらどうなるか、っていう実験だと思って乗ってみようよ」
「もしもの時は神楽坂先生が身体で弁償するって言ってるし、みんなで乗ってみるか」
「はあ、そういうことでしたらチャレンジしてみます……」
「ふっ……、私の身体で弁償だと? いい度胸だな岸本! まずはお前から一生分搾り取ってやる!」
――先生、僕に弁償しても何の解決にもなりませんし、逆に何か知りませんが搾り取られるってどんな罰ゲームでしょうか。
念のため瑞希には急流下りで怖い思いをする、という先入観を頭の中でイメージしてもらって僕たちはアクアライドの列に並んだ。