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第23話 ラスト一枚でUNOって言わないとダメだけど、言った言わないで争うほど愚劣なものはないですよね……【第一部 最終話】

 ◇  ◇  ◇


 午前十時、僕の針のむしろはようやく終わった。


 お寺に帰ってから朝食の後片付け、講堂の掃除、借り物の返品、イノシシに荒らされた畑の整地、それら全部を僕がやらされた。


 特にイノシシにやられた畑の整地は和尚さんに喜ばれ、さすが夏美ちゃんの教え子だね、などとと褒められた。なんだか夏美ちゃん先生の評判を上げるために、僕が供物として捧げられたような気がする。


 その間、その夏美ちゃん先生を筆頭に女性チームがやっていたことは……


「ちょっと! ハートの9を止めてるの誰よ!」


「へっへ~、誰でしょうね~」


「那智先輩! スペードの5も9も止めてるでしょう!」


 彼女たちはトランプに興じていた……。せめて僕としては先ほど海辺でやった超能力実験の分析でも考えていて欲しかった。


「やっと全部終わったよ、もう帰るんですか? 先生」


「終わった? よし岸本! この7並べが終わったら、次はUNOするからそこで正座して待っとけ」


 散々トランプした後でUNOって、なんでそんな遊びに僕が付き合わなきゃならない! そんなもの勝手に……


 ♡ ♡ ♡


「やったー! 上がり上がり! 昼飯は何をおごってもらおうかな!?」


 昼飯を賭けたUNOで僕はトップを取ったのだった! 


 神様は見てくれている。この合宿、辛いこともあったけれど最後の昼飯くらいはいいものを食べたい!


「あ゛あ゛? 岸本……、上る前、ラスト一枚でちゃんとウノって言ったか? お前?」


「言ってませんね、甚は言ってませんよ夏美先生! はいペナルティ二枚取ってね♡」


「はあ? 思いっきり言ってますけど! さっきウノって言いました! なあ瑞希、俺はちゃんと言ったよな!」


 あの二人はもうダメだ、絶対に僕の邪魔をするつもりだ。でもまだ純粋な瑞希なら僕の味方になってくれるはず。


「えっと……、岸本先輩は確かにさっきウノって言ってたような……」


 チラチラと先生と那智を見ながら瑞希が小さな声で言いかける。


「三枝瑞希、合宿での飲酒、器物損壊、深夜における不純異性交遊……と、まあこれだけ揃えば学校に帰って処分は決定的だな!」


「瑞希ちゃん、考え直すなら今だよ!」


 ――えっと先生、他のことはさておき、ボクは瑞希と深夜の不純異性交遊なんてさせてもらってませんけど。


「言ってません! 岸本先輩はウノって言いませんでした! ぜ~んぜん聞こえませんでした。夢でも見てたんじゃないですか先輩。ツーペナですよ、二枚取って下さい」


 ――おい……、純粋な瑞希はどこへ行った。それより神楽坂先生、生徒を脅すなんて、そこまでして僕に勝たせたくないのか。


 ♡ ♡ ♡


「やったあ、イチバーン。お昼は誰に奢ってもらえるのかな♡」


 不正介入のうえ最初に上がったのが那智。


「すいません、上がりました……」


 次にひっそりと上がったのが瑞希。


「悪いわね岸本君、ドローフォーで次ウノだから」


 無慈悲なカードを切って上がっていったのが神楽坂先生。


 僕は……、僕はあれから那智と神楽坂先生の集中攻撃を浴びて沈んだ。


「えへへへ、甚。お昼おごらせちゃって悪いなあ、まあ真剣勝負の結果だからね、しょうがないよね!」


 僕の肩をポンポンと叩きながら那智がニヤリと笑う。こんなことなら昨晩の酷い寝相をスマホに撮っておけばよかった。


「じゃあお昼前になったし帰りましょうか。岸本君、荷物を車に積んでくれる?」


 そう言って颯爽と講堂を出ていくのは神楽坂先生。


「瑞希ちゃん、休憩までは瑞希ちゃんが助手席で、休憩の後は私が助手席でいい?」


「いいですよ那智先輩。でも……岸本先輩は……」


「いいの、いいの。もし甚が可哀想って思ってるんだったら、いつも通りパンツを見せてあげたら喜ぶと思うけど!」


「もう! 今日はパンツなんて見せません!」


 ――瑞希……、今日は見せないということは、そのうちまた見せてくれるのかな……。並んで講堂を出て行く制服姿の女子高生二人を見ながら、重い荷物を僕は手にした。


 こうして無茶苦茶な超能力合宿は終わっていったのである。



 ――ここにいる彼女は、あの時の彼女だったのかもしれない―― 


 <第一部 終わり>


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