第2話 水玉パンツの超能力少女 その2
「えっと、どういうこと? それよりアナタは誰?」
僕より先に那智が謎の女の子に声を掛ける。
「わたしは1年の三枝瑞希といいます。今朝、そこの岸本先輩っていう方を階段から突き落としてしまいました。スイマセン」
そう言って、三枝瑞希と名乗った1年生の女の子は再びペコリと頭を下げた。
「ええ~? 甚! ホントに階段から落ちたんだ? マジで?」
「だから言っただろ! カバンがバーンって当たってそのまま落ちたんだって」
「でも甚、あの子、甚を突き落としたって言ってるよ」
那智は不思議そうにそう言い、女の子の方をチラリと確認する。言われてみれば、女の子は確かに僕を突き落としたと言っていた気がする。
「えっと、三枝さん、だっけ? 俺にカバンを投げつけたんだよね? ん……、でもカバンが落ちていたのってキミの手が届く範囲じゃなかったような……」
落ちていたカバンは僕の方に近かった、だからカバンを取ってあげようと紳士的に振る舞ったのだ。ということはそのカバンを彼女が投げつけるなんて無理なはず。
「えーと、それは……、つまり……」
三枝さんは俯いて話を切り出すのを迷っている様子。
「わかった! アナタあれでしょ、ほらゴムゴムの実とか食べたんでしょ? で、手がビョーンって伸びるんだ! ビョーンって!」
そんな那智のアホらしいボケに、僕はすかさずボケ突っ込みを入れる。
「那智……、あれって自分の繰り出すパンチでもそんなに伸びたっけ? どっちかというとレトロゲーのストリートファイター2のダルシムなんじゃないかな、この三枝さんって。だから腕が伸びるんだよ」
「なにそれ、ウケる! ダルシム三枝とか凄くいい響きよね!」
「だろ! ねえダルシム三枝さん? ヨガファイヤやってよ! ヨガファイヤっ!」
勝手にダルシム三枝と好きなように言い、僕たちが話のネタに盛り上がっていると、三枝さんはついに怒り始めた。
「なんですか二人とも、誰がダルシムですか! っていうか私がダルシムを知っていただけでも幸運だと思って下さい! 違いますっ! ダルシムじゃありません!」
「じゃあやっぱりゴムゴムの実を……」
「ゴムゴムの実も食べてません! バカにしないで下さい!」
ハアハアと肩で息をしながら三枝さんは僕たちを睨みつける。
「うーんと、三枝さんは俺に謝りに来たんだよね? なんか俺たち怒られてるんだけど」
「甚、アンタがダルシム三枝って言うからよ、ほらエドモンド本田あたりで止めとけば良かったんだよ」
「そんなこと言ったってエドモンド本田って相撲取りだぞ、そっちの方が女の子にはショックだろ」
ひそひそ話をする僕たちの隣で、三枝さんがまた怒り出す。
「もうっ、ダルシム三枝でもエドモンド三枝でもありません! 三枝瑞希です、二人ともちゃんとわたしの話を聞いて下さい!」
「私たちはエドモンド三枝なんて言ってないよ」
「そうそう、それに三枝さんが何か言おうとして迷ってるから、俺達がサポートしてやってるんじゃないか」
「もう何でもいいですから、わたしの話を聞いてっ!!」
その剣幕にビビった僕たちは、ハ……、ハイと言って頭を垂らして椅子に座り直した。
「それではどうぞ、三枝さん、思いのままに告白して下さい」
「甚……、え? アンタ告白だと思ってんの? 頭がおめでたいわね~」
「だってホラ、こういうのって告白のテンプレっぽくないか? 朝、偶然会った先輩に新入生が恋に落ちるって、そのまんまテンプレだろ!」
「そうか~、そうなんだね……、ダルシムちゃん可哀想。こんな男に一目惚れなんてさあ」
「まだダルシムって言うんですか! それに告白なんかしません! 本当に、謝りに……来たんですよ」
最後の方はしおらしく謝りに来たという彼女。僕と那智はまた顔を見合わせ、次の言葉を待った。
「その……、本当のところ岸本さんは階段から落ちて結構な大怪我をしてたんです。多分すごく痛かったと思うし、頭から血も出てたし、気を失ってたし。だから勇気を出して来たのに……」
その言葉を聞いて那智が僕の頭を見る。そんな那智につられて僕も頭を触ったけれど、当然血が出た跡もないし怪我もしていない。
「三枝さん、君が何を言ってるのかわからないけど、俺、確かに階段から落ちた記憶だけはあるんだよなあ。でもそのあと気がついたら怪我も何もなくて寝てたんだ、それってやっぱり君に関係があるの?」
僕の質問に彼女はボソボソと呟くけれど、その呟きはあまりに小さくて聞こえない。
「三枝ちゃん、よく聞こえないんだけど? この甚に何か魔法でもかけて怪我を治しちゃいました! とか、そんなこと言わないよね。実はわたし魔法少女です☆キラッ、とかも言わないよね?」
からかうような那智の言葉、それを聞いてもう一度彼女は呟く。さっきよりも少しだけ大きな声で。
「全部……、私の体質っていうか、よくわからない超……能力のせいなんです……」