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第18話 イスズガワミズキ その2

「あのさあ、今までスルーしてきたんだけど瑞希の能力って、解らないことだらけなんだよな。俺が思っただけでもこれだけあるんだよ」


 僕はノートを破り、今日までに感じた疑問点を箇条書きにした。


 ・爆発で物は吹き飛んでも人には影響が無い

 ・感情の振れの大きさで爆発力が違う

 ・30秒という巻き戻し時間制限の謎

 ・巻き戻しの呪文?

 ・爆発力の根源、精神? 体力?


「取り敢えず、ざっと思いつくだけでも結構あるんだよね……」


 書き出した部分を鉛筆でコンコンと叩き、僕はため息をついた。


「そうそう! 私ね、巻き戻す時に瑞希ちゃんが何かボソッと言ってるでしょ? あれ結構気になってたんだよね~。アレなんて言ってるの」


 興味津々の那智に対して、瑞希はなんとも言えない苦い表情を見せる。


「あれですね、ちょっと恥ずかしいんですよ……、『…ルス』って言ってるんです……」


 小さな声だったのでハッキリと聞こえなかったけれど、間違いなく地上波で放送される度にSNS界隈を賑わせるあの言葉だった。


「それアカンやつやん! 何か知らんけど滅びてしまうやん!」


「瑞希ちゃんが言うたびに、毎回毎回世界のどこかで天空の城が落ちてるんじゃないの!?」


「瑞希……、それマジなのか?」


 三者三様のリアクションに瑞希は顔を赤くする。


「違います! あっちはバルス! 私がいつも言ってるのはパルスなんです!」


「パ、パルス!? バルスじゃなくてパルス? 紛らわしいわね! ペルソナにしなさいよ!」


 神楽坂先生が何故か怒りながら、ゲームの方なのか心理学の方なのか解りかねる用語を叫ぶ。


「でも瑞希、なんでパルスなんだ? まさかダジャレ?」


 時間を巻き戻すトリガーがパルスなんて、某アニメ会社から著作権侵害で訴えられそうだ。


「わたしにも……、よくわからないんです。お祖母ちゃんから教えて貰ったから……」


 さらにシンクロ率が上がるようなことを瑞希が言い出すので、那智などは笑い出しそうになっている。


「っていうか瑞希さん、なんで爆発する方はトリガーが感情で、時間の方のトリガーが呪文なの?」


「えっと……、それも全然わからないんです。先生が言われる通り、謎なんですけど」


「瑞希ちゃん! その呪文ってお祖母ちゃんに教えて貰ったんでしょ? どんな風に教えてもらったの?」


「ああ、それなら、『瑞希、そのうちお前の周りで物が壊れたり、飛んでいったりすることがあるかも知れないから、その時はパルスって呟いて念じるんだよ』って教えてもらいました。30秒以内っていうのは大体の経験なんです、実際の所はわたしにもよくわからないんですよ」


 色々と疑問点の外堀が埋まっていく感じはするけれど、やはり核心については本人自身も分かっていない様子。


「なるほどなあ、それで瑞希はお祖母ちゃんにはそれぐらいしか聞いてないの?」


 何気ない僕の質問に、瑞希は目を伏せた。


「実は……、お祖母ちゃん……、わたしのこの能力が強くなったのを、まだ知らないんです。わたしが……まだ言ってないんです」


 意外な瑞希の言葉に僕は首を傾げた。残りの2人を見ても同じように不思議そうな顔をしている。


「その……、どうもお祖母ちゃんは、わたしの能力が強くなることに怯えてたと言うか、強くならないで欲しいって願ってたって感じで。でも多分強くなる日が来るんじゃないかと諦めてた部分もあるような……感じで」


 瑞希の話を要約すると、お祖母ちゃんは瑞希の能力の秘密を何か知っているようだった。そのため、瑞希に何か起こった時には「パルス」と言えと、あらかじめ教えていた節が考えられる。ただ能力自体が強力に覚醒することを望んでいなかった、もしくは恐れていたということだ。


「それなら瑞希ちゃん! ダメ元でもお祖母ちゃんに超能力のこと聞いてみたらいいんじゃない? お祖母ちゃんに嫌がられても瑞希ちゃんの将来もあるんだしさ!」


 那智の意見ももっともだが、もしもそれが出来ていれば瑞希もしていただろう。瑞希にしてみれば、したくても出来なかったんだと、僕は思う。


「それは……、今は出来ません。お祖母ちゃんはもう入院していて、肉体的にも弱っているから聞けません。それに、わたしの能力が強くなっているのを知ったら……、多分」


「ああ、ゴメンね瑞希ちゃん、私が悪かったわ……、謝る……」


 場の雰囲気が暗くなった。手がかりになったような、ならなかったような、そんな議論に終止符を打ったのが神楽坂先生だった。


「まあ、みんな今日はこのくらいにしておきましょう。お風呂に入って寝る準備しないとね! 続きはまた明日!」


 こんなところはやっぱり先生だと思う。適当なところで場をまとめる術を知っていて、僕は少しだけ先生を見直した。


 だから明日、先生の車の運転シートにカメムシを置いておくイタズラを、僕は思いとどめたのだった。

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