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第15話 那智! お前というヤツは!! その2

「もう岸本先輩、ホントに最後まで認めませんでしたね!」


 瑞希はむくれている。


「男らしくないヤツはモテないぞ、岸本!」


 腕組みをした神楽坂先生が睨む。


「ウヒャヒャ、ウヒャ、ウヒャヒャヒャ」


 畳を叩きながらまだ笑っている那智。


 2人――主として神楽坂先生――にボコボコにされ、ボロ雑巾のようになった僕は、スマホに保存してあるエロ画像を、お気に入りの二次元も含めて全部消された。


 いったい僕が何をしたというのか……、傷心の僕には那智を恨む気概すら無くなっていた。


 ♡


「さあ、みんな! 晩御飯の準備するわよ!」


「うわ~、楽しみ! みんなで作る晩御飯って楽しみですね、先生!」


 君たち2人はバーベキューの後片付けもせず、食って寝てまた食って、お気楽な合宿だな……。などと思ってはいても、僕にはパンチラ写真の濡れ衣があって言い出せない。


「神楽坂先生……、晩御飯って何にするんですか?」


 既に虚心坦懐となった僕がストレートに聞いた。そんな僕を見る瑞希の目はまだ少し冷たい。


「よく聞いてくれたなエロ男、合宿といったらカレーに決まっているだろ」


「うわ~、カレーですか! 楽しみ~」


「でも神楽坂先生? 車に鍋とか積んでませんでしたよ?」


 僕は車のトランクでバーベキューセットの他に、鍋なんて見た記憶は無かった。


「おい! エロ男、寺務所でカレー用の鍋を借りてこい!」


 先生に鍋を借りてこいと言われれば借りてきますが、正直エロ男はやめて欲しいと思う。


「それからお米はありましたけど、炊飯器も何も無かったですよ」


「おい! エロ男、寺務所で炊飯器を借りてこい! 炊飯器が無かったらコメを炊く鍋も借りてこい」


 ――先生、それは何も考えずにバーベキューセットだけ合宿に持って来た、ということでしょうか? あとホントにエロ男は勘弁して下さい。


「あと、カレー用のお皿とかスプーンとか、その辺も一切合切無かったですね」


「おい! エロ男、とりあえず全部借りてこい!」


 抜け殻状態の僕は、言われるがままに寺務所に行く支度を始める。


「先輩、わたしも一緒に行きますよ。一人だと持てないでしょ」


 いくぶん普通に戻った視線の瑞希が僕についてきてくれた。2人で寺務所に行く道すがら、瑞希がさっきの件を聞いてくる。


「岸本先輩! 本当はどうなんですか? 撮ってないんですか、写真?」


「瑞希……、あれだけ那智が笑ってるのを見たら分かるだろ、那智が俺のスマホで撮ったんだよ」


「ホントにホントなんですね!」


「俺は心のメモリーには保存するけど、盗撮の趣味は無いです!」


 立ち止まってそう言うと、瑞希は笑って許してくれたようだった。



 結局、寺務所で炊飯器、カレー鍋、食器とスプーンなどを借り、あと和尚さんから果物の差し入れまで貰う。


「何の合宿か聞いてなかったけれど、地理歴史研究部だって言ってたから、夜も何かの勉強をするんだろうね、大変だね」


 和尚さんにそう言われると、いえカレーを作ったあとのことは何も決めていません、とも言えず、僕たちは丁寧にお礼を言って離れの講堂に帰る。


 ♡ ♡ ♡


 僕たちが講堂に戻ると早速カレー作りが始まった。僕がカレーの具材を切り、那智が米を研ぐ、瑞希は差し入れの果物を剥き、神楽坂先生はスマホを見ながら優雅にビールを飲んでいた。


 さっき神楽坂先生は余った具材を酒のつまみにとか何とか言っていたけれど、面倒くさいから僕は全部カレーにぶち込んでやった。


「甚、米を研ぎ終わったんだけどさ、炊飯器の使い方がわかんないんだよ……」


 機械音痴の那智が音を上げる。


「岸本先輩、リンゴのウサギちゃんってこんな切り方でいいですか?」


 瑞希、リンゴは普通に切ってくれたらいいから。


「岸本君! 次のビール持ってきなさいよ! ビール!」


 昼間とやってることが変わってないのはアンタだけだよ、神楽坂先生!


 と、何だかんだで飯も炊きあがり、講堂にはカレーのいい匂いも漂ってきた。ちゃぶ台を組み立て炊飯器とカレー鍋を持って行き夕食が始まる。


 いただきま~す、とみんなでカレーを食す。市販のルーを使っているので味は普通だけど、みんなで食べるとこれが美味しい。


「夏美先生、このあとはいよいよアレですよね? 瑞希ちゃんの超常現象の解明ですね!」


 カレーを食べ終えた那智が言った。


 そうだ、ようやくそれだ。朝からのスケジュールを振り返れば浜辺で遊んでバーベキューをして、夕食でカレー作っただけ。これじゃあ普通の『たのしい夏のキャンプ』だ。


 いよいよ超能力の解明、とばかりに僕も瑞希も期待を込めて先生の方を見た。


「なに言ってるの宮前さん? 夕ご飯食べたら肝だめしに決まってるじゃない、ここはお寺よ!」


「き、きもだめしぃーー!?」


 那智と瑞希が同時に悲鳴のような声をあげる。


「神楽坂先生、それじゃあ、まるっきり楽しい夏のキャンプなんですけど……」


「いいじゃない! 私は好きよ、楽しい夏のキャンプ!」


 確かこの合宿は瑞希の超能力とか、特殊な体質を解明するためのものだったはず……。決して神楽坂夏美27歳を楽しませるための集まりではない、しかも季節は春だ。


 僕たち生徒三人が呆然としているのを知ってか知らずか、神楽坂先生は肝だめしの計画を話し始めた。


「お寺の墓地の一番奥にお堂があるんだけど、そこに証拠を置いてきたら成功ね♡ ここから往復で大体500mくらいかな?」


「せ、せんせい……、一人で行くなんて絶対無理ですぅ……」


 瑞希が泣きそうな声で訴えかける。


「そうね、事故があったらマズイからペアを決めましょうか?」


 神楽坂先生が言った側から、まず瑞希が這い寄って来た。


「き、き、岸本先輩、一緒に行きましょう! お願いします、一緒に行きましょう!」


 可愛い後輩にそう言われて僕は悪い気はしない。


「甚! 甚! 私だって怖いんだからついて来てよ!」


 次に那智が声を上げる。


「きしもとく~ん、こわ~い♡ いっしょに行こうよ~」 


 そして最後のアンタは一体だれだ……、早くも化けて出たのかよ?


「えーと、じゃあもう4人で行きましょう。那智も瑞希もそれでいいだろ」


 肝だめしなんてサッサと終えて、瑞希の超能力の解明を進めないと……


「いや~ん、きしもとくんと2人がいいのぉ~♡」


「那智、瑞希、酔っぱらいの変な人を放っておいて行くぞ」


「は~い」


「ほい、ほ~い」


「オラ、待たんかい岸本!!」


 辺りがすっかり暗くなった中、3人+変人の組み合わせで墓地へと向かう。懐中電灯を持っているのは僕一人。


 夜のお勤めなのか、本堂の方から木魚の音が響いていた。

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