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第14話 那智! お前というヤツは!! その1

 ◇  ◇  ◇


じん……、さすがに疲れた~」


 二人でバーベキューの洗い物をしていると、珍しく那智なちが弱音を吐く。


「それにしても合宿っていったって、神楽坂かぐらざか先生が一番楽しんでるよな!」


「でも瑞希みずきちゃんもメッチャ楽しんでたよ」


 いくら楽しくてもアルコールや無免許運転はダメだよな、俺達が常識人になるなんてどんな合宿なんだよ、と二人で話しながら講堂に戻る。


 講堂に戻った僕と那智が部屋に入ると、そこにはこっちが恥ずかしくなるような光景が広がっていた。


「那智、悪いけどあれだけ大っぴらに見せられると知り合いとして悲しくなるから、俺が消えてるうちに戻してあげて……。ラッキースケベっていうのは恥じらいがあるからいいんだよ……。アレは違う、断じてラッキースケベじゃない」


「そうね甚。一応同じ女としてお礼を言っとく。甚がただのエロ男じゃなくて安心した」


 僕たちが冷静な目で講堂で見たもの。それは膝を曲げスカートがまくれ上がり、黒のパンツ丸見えで寝ている女教師と、同じく桃色パンツ丸見えで寝ている教え子の姿だった。


 それにしても今日は朝から色んなことがありすぎた。まだお昼を回ったばかりだというのに僕も那智もいろいろなことに疲れ切り、結局講堂でしばらく昼寝をすることにしたのだった。


 ♡ ♡ ♡


「先輩……、岸本先輩、起きて下さい」


 真上から聞こえるのは瑞希の声。とはいえ僕はまだ少し眠いので無視を決め込む。


「岸本先輩、起きて下さいって!」


 今度は身体も揺すられる。仕方がないので目を開けると、予想外の近さに瑞希の顔があった。可愛いと言っていい女の子の顔を目前にして、僕はいっぺんに目が覚める。


「あ、おはよう、瑞希」


 果たして、おはよう、でいいんだろうかと思いながらノソノソと頭を上げると、辺りは既に夕焼けになろうとしていた。周囲の畳をみてみると他の2人はまだ寝ている。特に神楽坂先生は完全に熟睡中の様子。


「もう夕方ですから皆さんを起こそうと思ったんですけど、岸本先輩から起こした方がいいかなと思って……」


「ああ……、瑞希。いま何時?」


 僕は頭を掻きながら上半身を起こす。


「えっと、4時半過ぎです」


「ええ? そりゃ……、もう起こさないとな……」


 まだ少し冴えない頭を振って、僕は那智と先生を起こしに行く。那智は比較的簡単に起きてくれたけれど、問題は神楽坂先生だった。


「先生……、神楽坂先生、もう夕方ですよ、起きて下さい!」


 呼びかけてもまるで屍のように返事が無い。先生はメガネを外し幸せそうな笑顔で、あまつさえ口から涎が垂れそうにして寝ている。これは余程いい夢を見ているに違いない。


「甚! ちょっと! これこれ!」


 振り返ると寝起きなのにいきなり全開の笑顔になった那智が、僕のスマホを持ってカメラアプリを立ち上げていた。


「いや、那智。やばいって……、いくら神楽坂先生だってプライドってものが……」


「ネタよ、ネタ! あんな可愛い顔して寝てるじゃない、撮って下さいっていう感じだって!」


「じゃあお前が撮ればいいだろ、っていうか何で俺のスマホで撮るんだよ」


「甚だったら冗談で済むでしょ、早く早く!」


 強引に那智からスマホを手渡された僕は、先生の寝顔をフレーミングする。ここまで来ると僕のイタズラ心にも火が付きはじめていた。こぼれそうな涎の付近からフレームに収め、顔の全体像を入れ「よし」と、シャッターボタンを押した。


 ――カシャッ!!!


 なぜかスマホのボリュームが最大にされていたため、かなりの音量でシャッター音が部屋に響く。シャッター音を聞いた神楽坂先生は一瞬にして目を覚まし、その邪悪な目でスマホを持った僕をにらんだ。


「え、なんでこんなでっかいシャッター音が?」


 うろたえた僕が後ろを見ると、離れた場所で那智が僕を指差し笑い始めた。


「那智! お前ワザとボリュームMAXにしただろ!」


「ウハハハハッ! 甚! 最高! ウヒャヒャ……」


 畳を叩きながら笑う那智、そして背後から感じる邪悪な視線。 


「きーしーもーとー……、お前、わかってるだろうな……」


 スマホをバキバキにされることだけは避けたい僕は、土下座で謝りながら先生の目の前で写真を消去しようとした。


 ――が


「きーしーもーとー……、なんだこの写真は? ああん? なんだこの写真は?」


「な、な、那智っ! お前というヤツは! いつの間に俺のスマホで……」


 もう一度振り返ると、那智が腹を抱えて畳の上を笑い転げている。


 岸本先輩、なにか面白い写真ですかあ、と来なくてもいいのに近寄ってくる瑞希。


 僕のスマホに写っていたのは、お昼に見た神楽坂先生のパンチラ写真。まさかと思い他の写真をスライドさせて見ると、やっぱり写っていた瑞希のパンチラ写真。


「なあ岸本……、いいか。本来ならこれは処分案件だ、しかし私も合宿の監督責任を問われる。素直に罪を認め、ここで写真を消去して私たちに謝るなら不問にしようじゃないか……」


 監督責任ってアンタ飲酒はするわ、無免許で運転させるわ、どの口が言う台詞か! と、そんなことを思ってはみたものの、パンチラ写真からは逃れられない。


「岸本先輩……、こんなの……ひどいです」


 瑞希の方は顔を赤くして泣きそうな顔、それにともなって空気の振動も伝わり始める。


「いや! これは那智が俺のスマホで……」


「男らしくないぞ岸本! パンツが見たかったという気持ちは分かる。さあ全部白状しろ!」


「岸本先輩、そこまでエロ男だとは思いませんでした……」


 やめろ、やめてくれ! 神楽坂先生はどうでもいい。瑞希の視線が僕には耐えられない。


 そして講堂の端っこでまだ畳を叩いて笑っている那智。


「違う、ちがうんだー! 写真は消すから、俺を信用してくれー!」


 僕の絶叫が大きな講堂に、虚しく響いた。

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