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第12話 超能力って合宿でなんとかなるんですか? その3

 休憩から更に一時間半、どこをどう走ったのかさっぱり分からなかったけれど、神楽坂かぐらざか先生はものの見事に道に迷った。


「おかしいわね、この海岸の道沿いにあったはずなんだけど……」


 『目的地周辺に着きました、ルート案内を終了します』というナビの声が聞こえて更に10分以上、先生はグルグルと周辺を探し回っている。


 ――先生、アンタの目の前にあるナビの画面はいったい何のためについているんだ?


「ねえ夏美先生……、あそこ、お寺みたいな感じですよ……」


 那智が指差す方を見ると、確かに小高い丘に仏塔のようなものが見える。その方向は先ほどナビが音声案内を終了したあたりだった。


「ああなんだ! あんなところだったのかあ、宮前ちゃん早く言ってよね!」


 僕は今更ながら、この先生についていくのがだんだんと怖くなってきた。


 ♡


 ルート案内を終了したあたりから小道に入り、少し登ったところにお寺はあった。本堂も寺務所も広く、敷地内には庫裏も塔もあるそれはそれは立派なお寺だった。


 寺務所脇に真っ赤な車を停めて先生が降りていく。スポーツカーのマフラー音がブオンブオンと響いたのか、建物から作務衣を着た和尚さんが出てきた。


「叔父さん! お世話になります」


「久しぶりだな夏美ちゃん、相変わらず美人だな。どうだい先生の仕事は?」


 お、叔父さん!? 叔父さんのお寺に行くのに迷ったの? どういう方向音痴なの神楽坂先生。などと僕が衝撃を受けていると、運転席のシートを倒した先生が外に出ろと言う。


「みんな降りてきて、ちゃんと挨拶するのよ」


 僕たち三人は車を降りて頭を下げ、和尚さんに丁寧に挨拶をした。


「君たちが夏美ちゃんの教え子か、よろしくね。あの本堂の横にある新しい離れの講堂を使ってもらっていいからね。何の合宿だか知らないけれど頑張っておくれよ」


 和尚さんの指差す方には新しい講堂が建っていた。檀家さんの集会や部活の合宿か何かで使うのだろう、本当に真新しい建物だった。今日から二日間、あの真新しい建物は何回か破壊と修復を繰り返させられるのだろうか――、と僕の気持ちは少々重くなる。


 車から荷物を下ろし、言われたとおりに離れの建物にそれぞれ持ち込んでいく。当然のように先生の持ち物は僕の担当、何回も車と講堂を往復させられ早くもバテそうになる。


 荷物を持ち込んだ講堂の中は50畳以上もある広い畳の部屋で、簡単な台所とトイレまでついていた。3時間も窮屈な奴隷船に閉じ込められたので広々とした空間が気持ちいい。僕が畳の上で横になり、手足を伸ばしてリラックスしていると瑞希が覗き込んできた。


「岸本先輩、先生が今からスケジュールを説明をするって言ってますよ」


「ええ……、着いた早々やる気満々だな、神楽坂先生も……」


 僕は渋々と起き上がり、那智と先生のいる所に行く。先生はそこで何かメモを見ながら待っていた。


「じゃあ今からスケジュールを説明する! いい? 今9時半だから、このあと10時からバーベキューの準備ね」


「はああ! ちょっと先生、合宿に着いていきなりバーベキューって何ですかそれ!?」


 呆気にとられる僕を尻目に、なぜか女性陣は勝手な盛り上がりを見せる。


「いいねえ夏美先生! バーベキュー最高!」


「先生! バーベキュー、バーバキュー、わたし友達とバーベキューとか憧れてたんです!」


 那智も瑞希も「BBQ! BBQ!」と合唱し始めた。お寺の講堂で肉食を叫ぶ乙女たち。


「先生、バーベキューって言ったって、いくら何でもお寺の中ではしないでしょ?」


「当たり前じゃない! 丘を下りた海岸沿いにビーチがあったでしょ、あそこはバーベキューできるビーチなの♡」


 あのでっかいビーチパラソルとレジャー用品のセット、あれをわざわざ合宿に持ち込んできた意味がいま判明した。


「岸本先輩! バーベキュー楽しみですね!」


「甚! バーベキュー奉行就任おめでとう!」


 瑞希の初々しさに比べて那智はなんだ? バーベキュー奉行の就任って、それは準備は任せたってことか?


「いやん岸本君、男らしい! やっぱりバーベキューの準備が出来る男の子って魅力的よねぇ♡」


 神楽坂先生……、先生の授業、もう受けたくないです。


 ♡


 手荷物が少なくなり、車内が広くなった車で海岸べりまで下りる。


 そこから少し離れた砂浜へと荷物を黙々と運び、僕は重たいバーベキューセットの準備を始めた。全く手伝う気のない那智に連れられて、瑞希も裸足になって水際まで走り去っていく。


 そして合宿を監督する立場である神楽坂先生はというと、砂浜の一等地にビーチパラソルを立て、なおかつプシュっとアルコールを開ける音を鳴り響かせ、優雅にレジャーチェアに座っていたのだった。

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