間断なく不幸は押し寄せる
埋伏の軍令シオンの率いる一万の軍勢が荒野を駆ける。先行する騎兵、それを追随する歩兵が巻き起こす土煙は数十キロ先からも視認でき、彼らが目指す国境要塞ミーガルからも視認することができた。だが突如のヤシュニナの侵攻に迎撃準備が間に合っていないのか、一万のヤシュニナ軍は瞬く間にミーガルを包囲し、内部に雪崩を打って攻め込んだ。
間断なく攻め込むヤシュニナ兵を止めることなどムンゾ兵にはできなかった。練度と数で勝る敵を相手にミーガルの城壁はあまりに低く、一日と経たずにミーガルは陥落した。
「もっと速く、もっと鋭く、より多くを蹂躙せよ。逃げる敵兵のその先へ、我らの軍靴の跡を刻め!」
首都レクシスを目指して数万のヤシュニナ軍が着実にムンゾの大地を踏み躙っていく。その様相はヤシュニナ軍に追われた人々の口から次の村へ街へ城壁へそして遠く離れた首都レクシスに伝わるまで二日とかからなかった。
ミーグル陥落の訃報に始まり、次々と流れ込んでくる街や村、都市を逃げ出した人々がレクシスに押し寄せ、口々にこう叫ぶ。なんでヤシュニナが私達に牙を剥くんだ、と。それを口にするのは普段はヤシュニナくたばれとか、ヤシュニナ人の優遇反対とか、商売の権利の平等を、とか街頭で叫んでいる勇ましい市民達だ。
「気分がいい。ああ、気分がいいよなぁ」
ヤシュニナ軍が街をひとつ飲み込むと二つの街が逃散・離散を起こす。二つ飲み込めば四つ、三つ飲み込めば八つ。鼠算式に次々と彼方の防塁、彼処の水堀、此方の城壁、其方の要塞のすべてが粛々と掃除を進めるが如く、濡れ紙を剝がすように淡々と地図の上から姿を消した。
早馬がレクシスにある街の訃報を届ける頃にはすでに二歩速くその後ろの街についての訃報が報告される。そんな悪夢が幾度となく繰り返され、その度に市民は恐怖し、大臣は絶望し、王は怒りを覚えた。
「レクシスは落ちる。だがそれは私達が落とすのではない。言っただろう?楽をしようと」
「ええ。レクシスは早晩、落ちるでしょうね」
「「民衆の手によって」」
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