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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
四小邦国動乱
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ヤシュニナ首都ロデッカ——出番が少ない刃令の集い

 ヤシュニナの首都ロデッカは石レンガの建物がひしめく港湾区、コンクリート製の頑強な建物が並ぶ外周区、昔ながらの木造建築がひしめく内縁区、そして国柱(イルフェン)の寝所や氏令会議を問い行う議事堂や各行政機関の建物が林立する中央区の四つに区分けされている。


 これは長年の増築による都市の拡大に伴い新たに道や建造物を設ける際に、新たな技術や建築方法、材質などを取り込んで都市建設を行なっていった影響だ。都市の外周区へ行けば行くほど頑強な建造物が多くなり、また都市の作りは複雑化の一途をたどっていく。


 内縁区、中央区でも未だに増築と改築は行われており、古くなった木造建築などは最新のコンクリート技術を用いたよくわからない灰色の建物へと変貌する。中にはよくわからないパイプが取り付けられ、冬になると蒸気を発する正体不明の建物まである有り様だ。


 つまりカオスだ。際限なく膨張し、現実世界で言うところの東京都の倍に匹敵する大きさへ拡大してもなおロデッカはことあるごとに広がっていった。それは都市を守護する側からすれば溜まったものではない。ただでさえ少ない人員をやりくりし、どうにかこうにか回しているのが現状だ。


 担当地域を広げたり、シフトの時間を伸ばしたり、場合によっては警察機構、司法機関のトップである刃令(キェーガ)が現場に出なくてはならないほどロデッカに駐在している諸機関の人間は忙しい。


 「ったっはー!やっぱ酒はうめぇ!もっとジャンジャン持ってこーい!」


 だからこそ彼らの飲み会、羽休めの時間というのは基本的に賑やかだ。賑やかすぎると言っても過言ではない。なにせたまの休日に同じく休暇中の刃令や才氏(アイゼット)議氏(エルゼット)軍令(ジェルガ)を集めて昼間っから飲み会を始めるくらいには賑やかだ。


 本来ならば国のトップ達にはあるまじき下品で下劣な催しだ。それもどこぞの高級店でやるのではなく、その辺のパブで大宴会を始めてしまうのだ。周囲の目は当然あるが、そんなことをお構いなしに鉄のジョッキを彼らは仰ぐ。


 「いやぁ、まさか思ってたよりも集まったなぁ、おい。まさかカルフマンの旦那まで来るとは思ってなかったぜ?」


 ギザギザの歯を剥き出しにして凶気の刃令(イヌカ・キェーガ)ジルファは笑いかける。それに反応して法典の才氏(べドラ・アイゼット)カルフマンは頬を真っ赤にして微笑んだ。両者の手にはジョッキが握られ、すでにかなり酒が回っていた。


 「つい昨日ようやく仕事がひと段落着きまして、一日休暇を取ったんですよ。いやまさか昼間から酒を飲めるとは夢にも思いませんでしたが」


 「いやいや、酒くらい飲まなきゃやってられませんよ。ほら、私のとこなんて軍令フーマン以外みーんな首都を離れちゃってるから仕事の量がえげつないの、なんのってもぉ!」


 カルフマンの話に乗っかったのは鏡の軍令(アーハン・ジェルガ)マルウェーだ。厚い体毛から鉱石類が突き出した亜人種、鉱石鼠(ストーンラット)の変異種、鏡鼠(シルフ)である彼はがぶがぶと一気に六つはあったジョッキを飲み干した。


 酒癖の悪さで言えば今日集まった六人の氏令の中では随一だ。それを知ってるジルファはもっと飲め、飲めと彼に酒を与える。鬼種であるジルファからすれば大したことのない量だが、一般人からすれば「バッカじゃねーの」とツッコミを入れるくらいには馬鹿げた酒量だ。


 「さいっこー。さいっこー!もっと飲めー!もっと飲めー!」


 さらにジルファの凶行を後押しする者がいるからタチが悪い。天秤の刃令(ヴァルナ・キェーガ)ノタはきゃははと笑い、自らも肉をたらふく含んだ口腔に酒を流し込む。彼女の愛らしさすら払拭する豪快な飲みっぷり、などでは決してなく単純に下品だった。


 しかし周囲はそれをいつものことのように捉え、彼らを軽蔑の眼差しで見ることはない。むしろ積極的に会話に混ざろうとする酔っ払いまでいたり、囃し立てる人間さえいた。


 それほどに氏令達の飲み会はロデッカでは許容されていた。平時はちゃんと政務に従事し、その成果をアピールして周知させている成果と言える。まぁ、限度はあるが。


 「つーかさー。なーんでファムは来ないのさー。俺一応あいつも呼んだよなー」


 朦朧とする意識の中、ジルファは机につっぷしてぶー垂れる。ほおと角を赤く染め、ぶーぶーと豚のように文句を言う彼を隣で話を聞いていた聖空の(ヒエロ・エヌア・)議氏(エルゼット)シュタイナーが諫めた。シュタイナーは有翼種、鳥の頭と翼、体は人間ながら足は鳥というあまりヤシュニナでは見ない亜人種だ。その中でもシュタイナーはさらに希少なフクロウ系の有翼種ということもあり、ぐるぐると頭部を回転させる。


 それはシュタイナーにとって酒の席での十八番芸のようなもので、「あー酔った酔った」の掛け声と共に目ではなく頭を回すのだ。その様を見て他の氏令が「あー俺もだ俺もだ」と彼の真似をする。他の氏令はそれを見ながらぎゃはははと笑う。何が面白いのか、氏令以外には誰もわからない不思議な芸だ。


 今回も「あー俺もだ俺もだ」と言って首を回す人間が現れた。法廷の刃令(イプロス・キェーガ)ダ・コイルが首を回すと他の氏令がぎゃははははと笑い転げた。実にこの場に集まった氏令の半分近くが刃令であり、法理を担当する者のはずなのだが、あいにくと今の彼らでは簡単なアルファベットさえ読めるかどうか怪しかった。


 「そういえばさ!シオンくんが動くとか動かないとか言ってたよぉ〜」


 ゲーっとげっぷをしながらノタが不意に漏らした。それを聞いて何を思ったのか、ジルファが憤慨する。わけのわからない言語化されない暴言をしきりに喚き散らした。それを他所に少しだけ酔いが収まったのか、シュタイナーが口を開いた。


 「いやはや。私共が予想していたよりも早いようで。あ、ちょっと刃令ダ・コイル!それは私の魚ですよ!何とってんだてめぇ!」


 「早いもん勝ちだよ、ゔぁーかぁ!」


 「ちくしょー、このやろう!予算差し止めんぞ!」

 「やれるもんならやってみやがれ!職権濫用でブタ箱、いや鳥箱にぶち込んでやる!」


 そして最後には全員で路地裏で吐いてその日の氏令達の宴は終わった。後に残ったのは汚いテーブルと吐瀉物だけだった。


✳︎

次話投稿は9月17日21時を予定します。


※今回登場した氏令達は基本的に登場しない面々がほとんどです。特に刃令とかヤシュニナが攻められでもしない限り出番がないので、ワンチャンもう二度と登場しない可能性が高いです。基本的に作中で主軸となるのは才氏、軍令なので、首都防衛をやってる刃令は登場機会に恵まれないんですよねー。

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