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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
四小邦国動乱
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ムンゾ王国の異変

 6月13日、いつになくムンゾ王国国王赤獅子の王(ヒルドラ・エヌム)シースラッケンは上機嫌だった。明日への輝かしい展望に胸を躍らせ、王宮の廊下を歩くは彼はいつになく表情が晴れ渡っており、そこに負の感情は一切ない。引き連れる家臣達もそんな王の高揚に当てられてか、自然と緊迫した表情が緩み笑顔が溢れるようになった。


 理由は知れている。このところ王のなすことすべてが順調に実行されているからだ。秤の(ポータスカ・)王弟(エヌムトイ)エッダと彼を支持していた大臣達が軒並み消えたことによりシースラッケンは国権を完全に掌握するに至った。そしてこれまではエッダや彼を支持する大臣達の進言により実行できなかった様々な改革が実行できるようになった。


 手始めにシースラッケンが行ったのはエッダを支持していた大臣らとその家族の粛清だ。元々は家柄だけの無能共だ。泣こうが喚こうが不快なだけで生産性はまるでない。エッダが逃げた二日後に国の裏切り者として大広場で彼らは処刑された。絞首刑である。老爺から赤子に至るまでを処刑し終わった時、国民からは万雷の拍手が鳴り響いた。


 大臣らの処刑が済み次第、シースラッケンは宮中の大掃除に取り掛かった。おそらくは未だに潜り込んでいるであろうエッダのシンパはもちろんのこと、ヤシュニナの間者も根こそぎ炙り出し始めた。今それを実行しているのはシースラッケンの部下ではないが、彼らの仕事ぶりには目を見張るものがあった。


 命じた当日の夜に二十人ほどエッダのシンパと思しき文官、武官、侍従や召使がシースラッケンの前に整列させられた時は驚きを隠せなかった。まさか一日と経たずに内部の反逆者を見つけてくるとは思ってもみなかった。その日から大体二日置きに続々と国内のシンパや間者が発覚していった。見つけたシンパや間者は情報を吐かせた後即刻処分していった。父親が亡くなった直後以来の粛清だな、とシースラッケンはその光景を見ながら自嘲した。


 「(エヌム)シースラッケン、実は至急お耳に入れたき議がございます」


 そんな矢先のことだ。どっしりと王座についたシースラッケンの前に長年彼に仕えている老大臣が進み出た。言ってみろ、という意味を込めてシースラッケンは首を少しだけ曲げた。


 「過日、私めが市井に忍んだ下りのことでございます。王のお気に触りますでしょう噂話を耳にしたのでございます」

 「私の気に触る?面白いではないか。申してみよ。今の私は気分がよい。多少の市井の悪評の類は笑って許そうではないか」


 そもそも粛清を実行しておいて国民が不審に思わないなどありえないとシースラッケンは思っていた。他者を殴り、恨まれないなど埒の外であるのと同じことだ。国民が今の自分を悪く言うのなら甘んじて受けるべきだ。そして自分のことを悪く語る国民には彼らの疑念を払拭するほどの栄華をくれてやればよい。一度疑念を抱かせ、それを払拭させた時こそ最も信頼を勝ち得る時だとシースラッケンは過去の経験から学んでいた。


 重苦しく口を開く老大臣の言葉をシースラッケンは待つ。一体どのような悪評だろうか、と心待ちにしていた。エッダが消え、ある程度の自制心を身につけたシースラッケンは今かつてない全能感を覚えていた。


 「僭越ながら申し上げます。市井にて流布されています噂話は『王は操り人形』と騙った童謡のようなものでございます」

 「なに?」


 ピクリとシースラッケンのまゆが動いた。老大臣は一瞬だけ口を閉ざすが、すぐに詳細を語り始めた。


 「市井にて語られている童謡は次の通りでございます。『病に伏せった王は傲岸不遜。名臣の言を聞かず、忠臣を黄泉路へ転封す。ああ、王に佞臣あり。佞臣、王に毒を盛りて手足とす。王は気づかじ。王は疑わじ。王は非じ。王は異国の佞臣の言のみ聞きじ。しからば新たな王を迎えじ、ああ新たな王よはよ来れ。我らが黄泉路をさぶらうその前に』という口の端にのせるもはばかられる文言でございます」


 「なんと無礼な。私が操られている?はは、一体誰だ?私の悪評を垂れ流したのは?」


 表面上シースラッケンは取り繕って愉快そうに笑って見せたが、内心では腑が煮えくり返っていた。まず自分が操れている、と全く隠さずに言っていることが気に入らない。佞臣とは帝国の商人達だろうが、彼らとは対等な関係だとシースラッケンは考えている。そのために密約にも調印したのだ。


 次に新たな王という文言だ。これは暗にエッダのことを示している。エッダが帰還しなければ国が滅ぶと騙る傲岸不遜な考えだ。自分が統治しては国が滅ぶ?馬鹿馬鹿しい。よくもまぁそんな出鱈目を口にできたものだと感心すらしてしまう。


 「ガム大臣、その童謡とやらはどれほど市井に流布されている?」


 笑って許すとは言った。しかし仮にも王が馬鹿にされたままというのも内外にしめしがつかない。流布された規模如何によっては対処を考えなくてはいけなかった。


 「それがどうやらかなり広範囲で流布されておるようなのです。童謡の出所も皆目見当がつきません。昨日港町でその童謡を広めた楽士がいた、と聞けば次の日には王都にて童謡が流布され、そうかと思えば翌日には東の街で童謡が流布されている、と言った話がそこかしこから上がっており、不思議話となっております。この変幻自在の楽士という不可思議な存在に尾ひれがつきまして、童謡は本当なのでは、と不審がる者が増えております」


 「厄介なことだ。しかし一体どうやって広範囲にわたって童謡が流布されたのだろうな。変幻自在の楽士など噂話に過ぎん。誰かが童謡の根底にはいるはずだ。ならば其奴を見つけねばなるまい。ガム大臣、彼の国の客人に今行わせている全ての業務を停止させ、楽士狩りに向かわせよ」


 「御意のままに。それと童謡はどうなさいますか?」


 「歌うな、と言えば我らへの不信感を高めかねん。いずれは不審を抱いている者共も我らの手足となってもらわねばならんのだ。放置せよ」


 かしこまりました、と頭を下げガム大臣は退席した。ようやく軌道に乗り始めた自分の治世に早速障害が現れたな、とシースラッケンは天を仰ぎ見た。この障害を踏破すれば自分が思い描く理想の国家が爆誕するのだろうか。心なしにそんな弱音が脳裏をよぎった。


 いやいや、とすぐに首を横に振る。すでに逃げ場はない。逃げ場は自分で潰してしまった。シースラッケンはこのまま一人で栄華を貪る楽土を建設するしかもう道はない。


✳︎

次話投稿は9月5日21時を予定しています。

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