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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
十軍の戦い
31/310

界別の才氏

 「お帰りになられました」

 「ありがとさん。ジエン、これからしばらくこの屋敷の周りに人払いを頼む」

 「かしこまりました」


 シオンの帰宅を確認したシドはジエンコータスを下がらせ、一人執務室でパランティーアと向き合った。パランティーア、正確にはその一つである「アノール石」に手をかざし、シドは呪文を詠唱した。


 「『ゲーア(呼べ)……以下省略』」

 『いや、お前雑。なーにが以下省略だよふざけんな。ちゃんと全部詠唱しろよ』


 魔法の発動を皮切りに水晶球が光りだし、直接シドの脳に声が聞こえてきた。若々しいように聞こえる一方、老人の小言のようにも聞こえれば、オペラ女優の美声とも老婆のしわがれた声のようにも聞こえる。七色どころか十人十色のさまざまな声が聞こえる中、シドは静かに嘆息した。


 「とりあえず通信がつながったからいいじゃないですか。結構苦労してるんですよ?あなたの部下のせいで」

 『あいつはもう部下じゃねぇ。いや、俺様にとっての部下はもういねぇ。全部作り直しだ』


 声の主は不満そうに喉を鳴らした。フラストレーションが溜まっているのか、過去の自分に憤りを覚えているのか、パランティーア越しではシドには判別できなかった。


 『俺様が星に戻った暁にはすべて塗り替えてやる。腐れ神畜生共が創った世界なんぜつまらねぇからなぁ。管理者を気取っているのか知らねーがテメェらだって被造物だろうが。どれだけ粋がっても籠の中の鳥、井の中の蛙大海を知らずって奴だ』


 「よくそんな故事成語知ってますね。星々の彼方で勉強でもしたんですか?」


 『俺様にそんな口を聞いた奴は後にも先にもエアレンディルの耳長畜生とテメェだけだぜ。まぁとにかくちゃんと準備しとけ。ついでに指輪王とか名乗ってるあの小心者の面も思いっきりぶん殴ってやれ』


 「それができるなら160年以上前にやっていますよ」


 惜しむらくは160年前、まだヤシュニナという枷が生まれる前に界国を潰せなかったことだろう。あの時はまだ大勢の仲間がいた。今では想像できないレベルの強者達が一同に会し、界国を舞台に暴れ回った。たった一つの目的のために。だが結果は散々だった。


 「今俺の手元の勢力すべてを費やして侵攻を止め、なおかつ指輪王を打倒することは難しいんですよね」

 『俺様はできる奴にしか命令しねぇ。やれ』


 「出来うる限りを。どのみち界国が脅威であることは大陸各国の共通認識ですからね」


 一部例外はいるけど、とシドは160年以上前に共闘したとあるプレイヤーを脳裏に描いた。あれも国を作ったらしいが、情報はあまり入ってこない。だが性格的にむしろ来やがれといったバトルジャンキーな印象しか受けないため協力してくれと打診してもうるせー死ねと返ってきそうだ。なんなら使者を死者にするくらいはしてこないとも限らない。


 「まーあなたが帰ってこなければこんなことにもならなかったんですけどねー」

 『馬鹿を言え。遅かれ早かれこうなっていただろうよ。テメェが俺様をどういう眼で見てるかは知らねーが俺様に文句を言うのは筋違いってことだけは言っといてやるぜ』


 声の主はギャハハと愉快そうに笑う。対してこちらは不愉快極まりない。本を正せばこちらにも責任はあるが、大元の責任者がこうも開き直っては苛立ちしか覚えない。だからか、シドはパランティーアの通信を切る際、腹いせに相手の揚げ足取りとも言える言葉を口にした。


 「知っていますか。井の中の蛙大海を知らずってのは続きでされど天の高きを知るって言うらしいですよ。だから自分達が創った世界だからこそ神様方はよぅく知ってるんじゃないですかね?」


 『お前、出会った時に顔の一つくらい殴らせろよ?俺様のグロンドでぶん殴ってやるからな?』


 捨て台詞だけを残しパランティーアから光が消えた。ふぅーとかくはずがない汗をかいているのような吐息を漏らし、シドは力なく椅子にもたれかかった。


 「ほんと、勘弁してくれよ。まぁできなくはないけどさ」


 そのためにヤシュニナは邪魔だ。ここまで育て、成長させ、世界でも有数の実力を持つ国家となったが、それを捨てなくては勝てない相手だ。わずかに残っていた善意は今悪意に塗りつぶされた。


 これから来る帝国は早急に潰そう。壁役くらいには役立って欲しいと思いつつ、シドは西方へ視線を向けた。帝国を通り過ぎ、大陸の中央に位置する国家アインスフォール界国へ。指輪王アウレンディルが亡き主のために作り上げた悪の権化、あるいは秩序の破壊者。遠からぬ未来に対峙する。


 ——それはとても楽しそうだ。


✳︎

次話投稿は29日を予定しています

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