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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
306/310

破滅者たち

 エドワードが張祐と戦う中、南門ではアドラメレクが戦斧を振るっていた。相手は彼に勝るとも劣らぬ偉丈夫、ヴァンジルだ。


 ヴァンジルは肌艶のよい色黒の男性で、自身の体躯に倍する棍棒を振るう。体の全身に刺青があり、彼が両腕を振るうたびにそれが発光し、躍動し、力へと転換される。刺青を付与することで得られる肉体強化のスキルだ。


 「しゃらくさい!!!」

 「ぉおおお!!!!!」


 ヴァンジルが振り下ろした棍棒をアドラメレクは戦斧で撃ち返す。互いに致命傷は与えていない。武器越しに伝わる微弱なダメージが伝わるばかりで、ちくちくと互いの体力を削っていた。しかし、それはすぐに両者の自動回復能力によって回復し、打ち消された。


 厄介だな、とアドラメレクは奥歯を噛んだ。目の前のヴァンジル、そしてそのヴァンジルによって率いられた精鋭部隊の登場で指揮がおろそかになっていたからだ。


 ヴァンジルは突然、戦場に現れた。旧「刹人党」の幹部の一人、現在は掌国の上級魔将の地位にいたその男はアドラメレクが座す司令部めがけて突貫してきた。怒涛の勢いからの奇襲を食い止めることは難しく、容易に司令部まで届いたヴァンジルは並ぶ幕僚を吹き飛ばし、その棍棒をアドラメレクめがけて振り下ろした。


 アドラメレクもまた対応は素早かった。即座に指揮権を廉風(レンプウ)に移譲し、自身はヴァンジルとその部隊に注力した。それが最も合理的だと判断したからだ。そうしてわずかな部下だけを残し、廉風らはさらに後方へと下がっていった。


 「それが合理的か。よく言う。これって俺狙いだったんじゃねーか、はじめから」


 周りを見ればアドラメレクの部下はほとんどが殺されるか、相打ちになっていた。元より数の上で劣勢だったということもある。練度の差もある。だが、1番の原因は自身の油断があったからということをアドラメレクは理解していた。


 奇襲による斬首作戦は珍しくはない。指揮系統の混乱は例え通信技術が発達しようと有効であり、その効果は絶大だ。その点で言えばアドラメレクの判断は正しかった。実際、今も南門は持ち堪えているし、お仕返しつつあるのが現状だ。


 だから、アドラメレクが廉風らを逃した時点で斬首作戦は破綻していた。それにも関わらず、ヴァンジルをはじめとした旧「刹人党」の面々は撤退することはない。アドラメレクの救援に駆けつけた小規模の増援を今も蹴散らしている。


 「俺の首を狙う。これがお前らの目的か」

 「さすがだ、アドラメレク。よく頭が回る」


 ヴァンジルは賞賛しながら、棍棒を振り下ろす。それを戦斧で受け止め、ガラ空きになった胸を穿とうと、突き出した。突き出された戦斧をヴァンジルは手首の回転を利用して棍棒の向きを強引に変え、受け止めた。


 舌打ちをこぼすも束の間、ヴァンジルはアドラメレクめがけて手を伸ばした。アドラメレクの鼻を掴み、彼を引きずり倒そうとした。それを即座に理解し、アドラメレクは踏みとどまった。そして逆にヴァンジルの腹部めがけて正拳突きを叩き込んだ。


 「ぐぉ」

 「ようやくいい感じの攻撃が入ったかぁ?」


 「つぅ。なかなかだ。なかなかだが、甘いな」


 ニヤリと笑みを浮かべるアドラメレクの右頬にカウンターが入る。一撃だけではない。二撃、三撃と 発光する刺青を纏った拳がアドラメレクの頭蓋を貫いた。


 「がぁ、ぐぅ」

 「さぁ、第2ラウンドを始めようか」



 各地で戦闘が起こっていた。テオ=クイトラトルの南側で、中央で、戦火が広がった。その報告を受け、アシュラは普段は決して見せない笑みを浮かべていた。


 「笑顔、だね」

 「悪いか?気分がいいんだ、俺だって笑いもする」


 「右半身が消しとばされた時は肝を冷やしたぞ?」

 「悪かった。でしゃばらないと誓おう、これ以上は」


 そう言いながらアシュラは止血が済んだ自分の右半身にマントの内側から取り出した新しい二本の右腕をはめた。右腕は吸い付くように断面に接合し、切断傷などなくくっ付いた。


 「あの、白女。やってくれた」

 「ぉおお。ああいう手を打ってくるとは思わなかった。自爆、か」


 玄雲はそうだな、とアシュラのつぶやきに返した。アシュラはなんだよ、と玄雲の言葉の端に違和感を感じ、聞き返した。


 「転移かもしれない。自分を中心に周囲を巻き込むタイプの転移スキルや転移魔法もある」

 「なるほど。じゃ、まだあの白女は虎視眈々と俺を狙ってるかもしれないってことか。たまんねーな」


 怖い怖いと戯けつつも、アシュラは笑顔を崩さない。戦いを、非道を、悪辣を楽しむその悪童めいた在り方を崩すことはなかった。


 しかしアシュラでも一つ、不快なことがあった。未だに城壁を落としていないことだ。


 炎の巨人はそのすべてが倒され、邪霊もまた多くが倒された。捕虜にした掌国南方の兵士を前面に押し出し、拮抗させてはいるが、それも組織的なものではなく、邪霊やオークが傍を固めなければ数刻と保たずに殲滅されるだろう。


 斬首作戦を決行したのもそういった作戦の不具合を修正するためだ。指揮系統が混乱すれば本命の坑道部隊が機能し、南門にも影響が出ると考えた。


 しかしそうはならなかった。よく育った指揮官が指揮を代行し、戦線を維持していた。


 「クソ忌々しいなー。南ばかりを俺らに意識させて、自分達は戦力を整えてましたってか?」

 「わからない話じゃない。実際、私ぃらもそうしただろう?」


 「まぁな。けどさ、向こうの方が金いっぱいあるんだろ?ふこーへいじゃないか?」

 「かもしれない。コルトの野郎に隠れながら戦力を整えるのは苦労したからな」


 ひとしきり愚痴を言い合い、おもむろにアシュラは視線を陣地の奥へ向けた。


 アシュラが視線を向けた先には一風変わった外見の神輿が置かれていた。人が入るには小さく、赤ん坊が入りそうなサイズだ。時折ゴトゴトと揺れているのは決して気のせいなどではなく、神輿の中に何かが入っている証左だ。


 ソレはアシュラの視線に反応しているように見えた。視線を逸らすと、それまで鳴っていた揺れる音は止み、再び静かになった。


 薄気味悪いやつだ、とアシュラは神輿の中の存在に唾を吐く。自分達にとって有用な存在であることは理解している。それはそれとして、どうしようもなく好きにはなれなかった。


 「あーあ。つまらねーなー」


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