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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
303/310

族滅者たち

 エドワードがくつくつとアシュラの悪辣さに微笑を浮かべていた頃、アドラメレクもまた同じ結論に至っていた。


 「——えっと、つまり。界国軍は侵攻ルートにいる町や村を根こそぎ潰してきたってことすか?民衆も全部?」

 「そう考える方が自然だろうな。加えて夜の侵攻に限定すればバレる確立はぐっと下がる」


 捕虜が鉄砲玉のごとく攻撃してくる状況に対し、アドラメレクは防御姿勢を取るように指示を出す。軍団技巧(レギオンアーツ)を用いた硬質な防御だ。決して同種の軍団技巧なしでは打ち破れず、カキンカキンとなまくらの鉈や槍を振り下ろしたり、突き出したりする捕虜達へ、後方から矢羽が飛んだ。


 無慈悲に、冷酷に、かつての仲間を殺すようにアドラメレクは指示を出す。苦しませるよりもその方が彼らのためだ、と嘯いてためらう兵士をアドラメレクは焚き付け、彼らは弓のつるを引いた。


 もとより統率が取れていない兵士達、狂乱状態にある雑兵だ。矢から身を守ろうなんてこともなくバタバタと倒れていく。それを興味なさそうに一瞥し、アドラメレクは控えていた魔将の一人、廉風(レンプウ)に自身の結論を話した。


 「どうやって攻めたかは想像の域を出ないが、多分、炎の巨人と、邪霊を前に囮にして、町や村から逃げ出した民衆を待ち構えていた本隊で挟み撃ちって感じだろうな。こうすれば効率よく、一人も逃すことなく綺麗に」


 パンとアドラメレクは両手を打ち合わせる。廉風はなるほど、とそれを聞いて得心が言ったような表情を浮かべた。


 廉風はアドラメレクが東部戦線が連れてきた上級魔将だ。彼の副官であるウィーク=ソングに並ぶ指揮官だ。ウィークが壁上の戦いを指揮しているため、彼の代行する形でこの場にいる。無論、プレイヤーである。


 得心顔の廉風とは裏腹に、アドラメレクの回答を聞いた他の幕僚は硬質な表情をいっそう、固くした。プレイヤーではなく煬人も混じっているためか、いっそう死生観に敏感だ。


 「今戦っている捕虜はその町やら村やらから連れ出したんだろうな。ただ、それにしては数は少ないから、連れてきたのは半分だろうな」


 「半分?なんでっすか?」


 「そりゃ、半分に分けてもう半分に殺させるためだろ。そんでもって罪悪感を与え、心を弱くする。呪詛を狂乱状態にしやすくするためだな」


 「あー。でも呪詛って確か、複数まとめてって結構難しいんじゃ?」


 そうだな、とアドラメレクは首肯する。呪詛の中には種族指定、属性指定で効果を発揮するものがあり、それは対象となる種族だったり、属性だったりを持っていればかなり広い範囲に使うことができる。しかし捕虜となった種族はバラバラだし、彼らが持つ属性や性質もやはりバラバラだ。つまり、普通のやり方では呪詛を捕虜全員に満遍なく掛けることはできない。


 「だが、ある方法を使えば呪詛を満遍なくかけることができる」

 「ある方法すか」


 「ああ。連鎖だ、連鎖」


 「ああ、連鎖回復と同じ手法ってことすか?」


 そういうことだ、とアドラメレクは頷いた。


 連鎖回復は「SoleiU Project」において回復効果を広げる手段として用いられるコンボの一つだ。本来は一人にしか掛けられない回復魔法に詠唱を追加することで、効果を下げるのと引き換えに複数人に伝播させることができる。効果が強ければ強いほど、より大人数に効果を行き渡らせることができる。


 それと同じようにバフやデバフを複数人に行き渡らせることもできる。連鎖魔法と呼ばれるそれは雑魚狩りなどで使われ、総じて広範囲攻撃魔法よりも燃費がいいことで知られる。


 「呪詛も同じことができるんすか?」

 「知らん。だが、そう考えるしかない。さすがに玄雲の魔力(MP)量でも数万人に狂乱の呪詛をかけることはできないだろ」


 これがラーク=ラーク、かつての「赫掌」最高の魔法職であれば可能かもしれないが、それを論じても意味はない。要は玄雲には本来できない芸当ができていることを説明するにはこれしかないということだ。


 「——あの、アドさん。今、攻撃してるのって捕虜なんですよね?」

 「そうだな」


 「あー。じゃー。界国軍の本隊とか、南部戦線のアシュラ配下の兵士ってどこに」


 廉風が疑問を言い終え掛けたまさにその時だ。大地が鳴動した。なんだ、と辺りを見回すと、盛大な地響きと共に市内の一角で爆煙が吹き上がった。


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