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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
283/310

陣地襲撃

 なんだ、とバシュラは顔を上げ、彼よりも早く昌益が外に躍り出た。音のした方へ振り向くと地平線の向こう側から煙が上がっているのが見えた。病院テントが小高い丘の上にあることを考えれば、火元は丘のふもとということになる。


 角度的に見えないとテントから出るバシュラ。そのバシュラは先に外に出た昌益が立ちすくんでいる姿にやや違和感を覚えながらも、ちょうどふもとが見える位置まで走り、その光景を目の当たりにした。


 火元はふもとで行われている煮炊きのための火だった。それがなぜか巨石によって潰されていた。その際に飛び散った火の粉が燃え移り小さな小火騒ぎを起こしていた。元々高温多湿のこの環境、火自体はすぐに収まる。だから兵士達がふもとで騒いでいるのは火への恐怖からではない。焦りでもない。


 ただ、彼らが騒いでいるのは突然降ってきたであろう巨石についてだ。なぜいきなり巨石が降ってきたのか。自然現象ではありえないことだ。


 ——そしてその疑問が解かれるよりも先に次々に新たな巨石が陣地内に降り注いだ。


 土煙と血飛沫が各所で舞う。


 理解よりも先に光景が両目を通してバシュラの思考力を奪う。潰される兵士、飛び散る土砂、破壊される見張り塔、ひしゃげるテント村。ここ数日の間で積み上げ築いたものが壊されていく。


 ちぃ、と舌打ちをこぼし無理やり思考を元に戻すバシュラはどことも知れない大空へ向かって命令を飛ばした。


 「ラビ・ラビ!覆え!!」


 「——イエッサー!!」


 直後、陣地の外の地面が隆起する。もこもこと波打つ地面は瞬く間に競り上がり、巨大な土塊の巨人へと変わっていく。身の丈100メートルを裕に超える巨人達、それが8体も陣地を取り囲むように生み出され、陣地を守るように片膝をついて両手を繋いだ。


 それは投石から陣地を守る天板となった。降り注ぐ巨石はすべて巨人のふとましい両腕によって弾かれ、ボロボロと砕けた巨石の破片が陣地の外へとこぼれ落ちた。


 「——ふぅ。なんだ一体?」


 暗がりから顔を出し、バシュラは目を細める。無論、彼には目に相当する視覚器官はないが。


 刹那、樹林の向こう側から何か黒い塊が飛び出した。暗がりに同化して影や闇に紛れるが、しかしバシュラや昌益のような視覚に頼らない人間の目は誤魔化せない。


 それは人型で黒い毛むくじゃらの生物だった。丸い目、丸い口が特徴的なチンパンジーに似た生物。しかしなぜだろうか。生理的な嫌悪感をその生物を視認した瞬間、バシュラと昌益は激しく感じた。


 現れた黒い猿は一体だけではない。二体、三体と次々と現れくるくると周囲へ目を向ける。その素振りは何かを探しているようにも見えた。挙動不審、よくわからない行動、対処に悩むバシュラだったが、その逡巡の最中、黒い猿は近くにいた兵士の胴体をつかみ、抵抗する余地を与えず上下にその体を引っ張った。


 ぶちゅり。


 上下に引き裂かれた兵士の臓腑が溢れ出し、周囲に滴り落ちる。溢れ出たそれをチュウチュウと吸いながら黒い猿はクスクスと不愉快な声で笑った。


 刹那、兵士達が悲鳴を上げるよりも早く、バシュラは跳んだ。彼の跳躍と共に土埃が起こり、黒い猿がそれに反応した時、その胴体には空洞ができていた。


 なにが起きたんだ、と不思議そうな顔で黒い猿は自分の腹を覗く。そしてぐるりと180度首を回転させ、バシュラを見た。返り血を浴びて真っ赤になったバシュラ、その手には彼が愛用する斬馬刀「鉈振(なたふり)」が握られていた。


 静寂が訪れ、黒い猿達はバシュラを見る。丸い目できょとんとした様子で彼を見る。クスクスと笑いながら彼を見る。


 彼らの背後では掌国軍の兵士が悲鳴を上げつつも武器を手に取り、構えていた。しかし猿達はバシュラに興味が惹かれたのか動かない。


 やがて、しびれを切らしたのか兵士の一人が剣を構えて猿の一体に斬りかかった。馬鹿野郎、とバシュラは激昂するが、もう遅い。振り下ろされた刃は猿の体毛に振り下ろされるも、それは弾かれ、斬りかかった兵士はうわっと声を上げて尻餅をついた。


 その直後、切り付けられた猿は視線をバシュラから斬りかかった兵士に向けた。クスクスという笑い声を上げながら猿は一瞬で振り返り、兵士の胴体を掴んだ。暴れる兵士を他所に猿はその胴体を持ち上げるとパン生地を両手の間で交互に投げ合うように兵士の体を投げ始めた。


 最初の衝撃で兵士の眼球が瞳孔からボロンと飛び出た。続く二撃目で兵士のみぞおちが破裂した。続く三度目で背骨が折れ、カクンと兵士は前のめりに倒れ、続く四度目で上半身が潰れた。


 その光景に周囲は唖然とする。ただ唯一、同類だけがクスクスと気味の悪い耳障りな声で笑った。


 兵士達はあまりの光景にカタカタと恐怖で震えた。なんだそれは、と見たものを信じられない様子の彼らの剣先はゆらゆらと小刻みに、両足はガクガクと激しく揺れた。


 「てめぇら……」


 兵士達が恐怖に支配される一方、斬馬刀を握るバシュラの手に力が入る。ないはずの腑が煮え繰り返り、普段は鳴りを潜めていた感情が揺れ動く。


 相手の正体とかもうどうでもよくなり、脳みそはすっかり指揮官モードから一番槍モードへと変わっていた。クスクスという笑い声が響く中、バシュラは息を吸い、それを吐き出した。


 それはため息のようにも音のない咆哮のようにも聞こえた。ただ言えるのは彼が息を吐き出すと同時に周囲を威圧するようなオーラとも圧とも形容できる半透明の膜が発生し、それは周囲一帯に伝播した。


 クスクスという笑い声も、震える兵士達の鎧が擦れ合う音もそれはすべて消し去り、静寂が訪れた。


 「全軍に告げる。ぶち殺せ」


 よく響く声でバシュラはそう命令した。直後、堰を切ったかのような怒号が陣地全体から鳴り響き、駆け出した兵士達は大地を揺らした。

キャラクター紹介


 ラビ・ラビ)アングマール掌国軍最上級魔将。レベル150。種族、ハイ・ブレイン・ワーム。趣味、寝ること、ゴーレム作り。好きなもの、質のいい土、ゴーレム。嫌いなもの、農薬、殺虫剤、退屈。


 とんがり帽子を被り、ポンチョコートを着たいもむし。指示待ち人間で能動的に動くことはほとんどない。ゴーレム作りのエキスパートで、最大200体以上のゴーレムを作れる。最近はゴーレム作りにも飽き始め、全自動ゴーレム作成機でも作ろうかな、とか考えている。

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