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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
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バシュラの懸念

 夕暮れ時、日々の業務から解放されたバシュラは「ふぅ」とため息をこぼす。隣には彼の副官である昌益しかおらず、目の前にはチェックし終わった目録が束になって置かれていた。すべて樹林に持ち込んだ装備や補修部品、衣類や医療品といった物資について記録書だ。


 湿気が強いこと、樹林特有の気候も相まって装備や衣類の破損がひどい。剣や鎧は錆びたり、水を吸っていたりする。補修部品はどんどん減っていき、満足に戦闘できるかな、とバシュラは頭をかいた。


 衣類に関しては湿気が影響して大して乾かず、ひどい汚物臭を発するという。オーガやオーク、ゴブリンといった種は人間種以上に匂いに敏感であるため、特に異臭を気にする。抗議の声は鳴り止まず、わざわざ衣類を干すための広場まで設ける始末だ。


 医療品の消費が激しいのは日夜樹林内の猛獣との戦闘が繰り広げられているからだ。特に夜がひどく、夜襲によって出た被害は無視できるものではない。幸い、死人はいないが、怪我人は増える一方だ。


 補給が安定していないからこういった事態が起こる。補給を担当する最上級魔将、セカンド・R・ベイカーの体たらくっぷりに憤りを覚えながらバシュラはどっこらせと席から立ち上がった。あのバカドワーフが、と悪垂れる昌益のおかげでギリギリバシュラも冷静さを保っている状態だ。


 それにしても、と天幕の入り口から見える樹林をバシュラは睨む。広大な森、無数の水源、高温多湿な気候、皮膚がある生物にとっては地獄みたいな環境。この森に入るのはバシュラも初めてではない。過去、何度かラァに同行する形で遠征に行ったことがある。


 その時は樹林の外周を回った程度だったが、獣達の気配は感じつつも、滅多に襲ってくることはなかった。警戒心が強くかったからだ。


 ——しかし今の有様はなんだ?獣にしては蛮勇がすぎる。賢くない獣などそこらのカワズにすら劣る。


 襲ってきた獣の中にはバステットやヒスもいた。レベル80越えのモンスターは流石に一般兵では対処できないため、バシュラや昌益といった魔将クラスが出張ってようやくだ。しかし、バステットやヒスは元々かなり賢いモンスターだ。というか、そこら辺の優等生よりも多分頭はいい。


 自分の常識に、知識に、経験則に合わないことが起こっている。厄介だな、とバシュラはひとりごちる。


 「ふーむ。おい昌益。ちと付き合ってくれんか?」

 「ああ、構わん。今日の分の仕事も終わったからな」


 先行して昌益は天幕の入り口を開く。垂れ幕を潜ると同時にバシュラは小型化のスキルを解き、いつもの背丈に戻った。そして出るとその足はまっすぐ、怪我人を収容している病院テントへと向かった。


 「——バシュラ最上級魔将!このような場所にわざわざ」

 「ああ、そういうのいいから。それよりもちと小生に中を見せてくれんかのぉ?」


 驚いたような顔で出迎えたのは病院テントの総責任者であるソン・ゲンである。大柄な単眼鬼(サイクロプス)なのにすこぶる小心者で、バシュラの登場に完全に萎縮している様だった。実際、最初にバシュラと昌益を出迎えたのは病院テントの玄関口にいた衛生兵だったが、電光石火の速さで現れたソン・ゲンがその兵士を押しのけ、彼らの前に立ち塞がった。


 バシュラに命令され、いひひとソン・ゲンはいやらしい笑みを浮かべながら先行して彼らを案内する。煩わしいな、と思いながらも無碍にはできないため渋々彼の後を追う。


 「それで、どちらの病棟に御用があるのですか?」

 「うむ。先日の獣の襲撃を受けた時に負傷した連中がおるじゃろ?そいつらんとこへ案内しとくれ」


 「ははぁ。かしこまりました。しかし」


 しかしから続くのはソン・ゲンの壮大な一人語りだ。合間合間でバシュラと昌益は相槌を入れるが、基本はソン・ゲンが一人で喋りたいことを喋っているに過ぎない。あー早く目的地着かねーかなー、と二人がその話に疲れ始めた頃、ようやく目的の病院テントの前についた。


 病院テントはいずれも通気性を意識した壁幕のない、いわゆるタープテントで日陰ができるように日除けがある。傷口に蠅や蛆が群がらないように金網が日除けの端から垂れ下がっていて、テントに入る時はそれを持ち上げなければいけない。


 「——こちらになります」


 ソンはそれだけを言うと、近くにいた衛生兵を捕まえて、怪我人の状態について確認をとり始めた。


 見渡す限り、寝かされている怪我人は300人ばかり。種族の違いは大いにあるが、概ね人型の種族がそこには寝かされていた。一応、よく見れば大柄なサイの獣人やリザードマンといった人には程遠いシルエットの兵士も混ざっているが、概ねオークやエレ・アルカン、獣人といった人型の種族ばかりが包帯を巻いて倒れていた。


 傷が深いのはその人型の種族がほとんどで、中にはひどい噛み傷がいくつもある兵士もいた。そこれそ、親の仇かのような深い深い傷だ。


 「——ふーむ。人型の種族がほとんどのようじゃのぉ」

 「え、あ、はい!おっしゃる通りであります。入院患者の実に78パーセント以上が人型種であります。中にはトロルなどもいるため、ベッドが」


 「ああ、もう少し病院用テントを増やすように輜重隊には言っておくわい」


 ありがとうございます、と頭を下げるソンを他所にバシュラは思案にふける。原生生物の活動に変化が生まれたことはラァから報告されていたが、しかし獣の凶暴化はなかった。つまり、樹林の生態系に起こっている変化の結果、その一端として獣が凶暴化しているということになる。


 となると原因は指輪王軍か、と並んでいる兵士達の種族を見ながらバシュラは推測する。指輪王軍を構成するのはオークやゴブリン、トロル、オーガだ。似通った種族が軍を編成している掌国軍が襲われるのは道理かもしれない。


 バステット、ヒスといったモンスターは脅威であると同時に資源でもある。バステットで言えば毛皮は衣類の原料に、牙や爪は武器の素材に、内蔵は医薬品の素になる。ヒスも似たり寄ったりだ。特にヒスの血は酒の原料となる。何より、バステットやヒスに限らず、原生生物は肉としての価値がある。


 補給線を軽んじ、現地調達に舵を切った指輪王軍が食料欲しさに原生生物を乱獲するのは道理だ。話に聞く巨人(タイタン)を使えば不可能ではない。


 「——だが、それならどうして敵軍の目撃の報告がない?ラァが見逃すわけが」


 刹那、悲鳴がこだました。樹林の北側からだ。

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