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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
247/310

断絶戦闘

 銃撃音がこだます。ロデッカの市内、民家の間をすり抜けてこだました。


 音を聞いた人々はなんだなんだ、と目を見開いて周りを見るが、どこにもそこにもあそこにも何もない。何もいないし、誰もいない。気のせいかと思って彼らが止めていた足を再び動かし始めると、警句のように再び銃声が上がった。


 銃声が上がる都度、あるいは銃声と重なるように何かがぶつかる音がこだます都度、人々は立ち止まって周りを見回すが、やはり何もいないし、誰もいない。最初は気にしないようにしていた人々もだんだんと気味が悪くなってやがて通り沿いには誰もいなくなった。そしてその誰もいなくなった通りをランニングコートに換えて黒い大きな影を三人組の姿があった。


 「ちぃ!!」


 バチュンと先頭を走る黒い影の中からエンシェロッテは銃の引き金を引いた。彼女の持つ大口径ハンドカノン、それはおおよそ細身の彼女が持てるような代物ではない重量感の塊だった。一発一発を打つたびに大きな反動が体全体に伝わり、銃口が天を向くような巨大な鈍器である。


 それを彼女はまるでエアガンでも扱うかのような気軽さでブレも反動もなく連射した。連射と言っても一発一発の初速は現実のマシンガンやガトリングには及ばない。しかし大威力のハンドカノン型魔銃を秒間二発という速度で、しかも二丁同時に放ってくるというのは追撃をする側にとっては脅威だった。


 放たれた弾丸は三人いる追撃者の中で真ん中を走る赤髪の女、タチアナに向けられたものだった。それは音速を遥かに超える速度で飛翔し、彼女の肩を射抜く、はずだった。


 槍を前に突き出したタチアナは即座に穂先をひねると、慣れた動きで弾丸の軌道をそらした。慣れたなど戯言、この世界で銃使いなどマイナーもマイナー、ならば彼女が今やった芸当は初めてだったはずだ。初めてなのにやりこなす絶技、何より度胸にエンシェロッテは内心舌を巻いた。


 「せい!!」「らぁ!!」

 「つぇう!」


 一人に気を取られていると、左右から迫る斬撃があった。剣と斧、ジルドラとハーディガンの二人による挟撃だ。冷静さを即座に取り戻すに足る完成された一撃、宙空に向かってエンシェロッテは飛ぶと左右の銃を同時に撃ち放った。


 「つ!」「嘘だろ」


 技巧(アーツ)込みの断撃。銃撃と呼ぶにはあまりにも埒外の斬撃にも似た緑色の光波が銃口から迸り、振り下ろされた二人の武器を弾き飛ばした。


 落下するエンシェロッテは鴉の群れの中に再び隠れ、加速する。純戦士職であるジルドラ、ハーディガンに対してエンシェロッテは近接に特化した銃士に過ぎない。近接戦ともなればさすがに三人とは相性が悪い。


 これが一対一ならば状況も違ってくるのだが、三対一では銃を指向できる方向が二方向しかない以上、必ず一方が手薄になってしまう。今、エンシェロッテがやったような弾き返しでも対応しきれない。


 「つ。それがわかってる動き、全く面倒、だ!!」


 銃花が咲く。技巧を纏い放たれた銃弾は爆炎花を発生させ、その隙にエンシェロッテは空中へと飛んだ。鴉達を纏って空を飛ぶその姿はさながら黒翼の天使のようだった。


 「技巧(アーツ)天の雨(エア・チトリ)


 天に舞い上がったと同時にエンシェロッテは容赦無く銃弾の雨を降らせた。上位技巧:天の雨、創造神の名を冠したその技巧はただの銃弾の雨ではない。直撃すればそれが体内に残り続ける限り微量の継続ダメージを生む弾丸を射出する恐るべき技巧だ。


 エンシェロッテはそれを躊躇なく民家が立ち並ぶ通りで放った。驚くタチアナらを他所に彼女は引き金をしぼった。紫色の雨が降り注ぎ、家屋に、道路に、そして無論タチアナ達を穿った。


 「ゲボ」

 「つぅ。効くな!」


 「褒めてる場合か!すぐに追うぞ」


 放たれた弾丸は幸いにもタチアナ達以外の人間を穿つことはなかった。しかし家屋は崩れ、道路はえぐれ、街路樹は倒れた。復興間もなく、通りひとつを彼女の技巧は破壊したのだ。


 街の復興に尽力したタチアナ達ノックストーン商会の面々からすれば自分達の積み上げたものを土足で踏み潰された気分だ。もとより裏切り者、容赦無く叩き潰すつもりだったが、ここまで小馬鹿にされて黙っていられるほど三人はお人好しではなかった。


 「ぶっ殺す!」


 槍を叩きつけながらタチアナはそう宣言した。鴉の中から現れ、正面からその槍を受けたエンシェロッテは無表情を貫き、鴉達を用いてタチアナの太ももや二の腕に攻撃を仕掛けた。


 「落とせ」


 タチアナの飛翔は技巧によるものだ。空中を漂うマナを一時的に固めて足場を作ることができる。しかしそれは集中を両足のどちらかを離せばすぐに解除されてしまう。スキルでの飛翔と技巧での飛翔はその持続条件にあり、技巧による飛翔は例外もあるが、基本的に条件が難しく、容易に崩されやすい。


 タチアナ目掛けて弾丸のように飛翔する鴉達はその嘴で彼女の体を抉り、体勢を崩させた。落ちていく彼女にダメ押しとばかりにエンシェロッテは銃撃を放つ。


 しかしタチアナもただでは落ちない。あらかじめ忍ばせていた鞭をしならせ、彼女はエンシェロッテの銃口にそれをまきつけた。


 「んぁ!?」

 「お前も堕ちなよ!」


 「悪あがき」

 「どぉおお!!!!!!」


 魔銃を鞭に向け切り裂こうとした矢先、はるか頭上から斧を振りかぶりハーディガンが降ってきた。とっさにエンシェロッテは空いている方の魔銃を天に向け、緑色の断撃を放った。


 エンシェロッテはレベル142の銃士、片やハーディガンはレベル131の斧使いだ。両者の攻撃を計算する時、エンシェロッテは銃そのもの攻撃値に彼女自身の技術値を加えた値にいくつかの要素かけた積が攻撃力となるのに対して、ハーディガンは斧の攻撃値に自身の筋力値を加えた値を攻撃力にする。技巧も込みとなればさらに数値は左右するが、結論だけを言うなら彼女の魔銃から放たれた技巧はハーディガンを吹き飛ばすのには十分だった。


 ——それはエンシェロッテが危惧していた銃の二方向への指向を招いた。


 「穿て!」


 反射的にエンシェロッテはそう命令した。鴉達は群れを成し、予期していた通り正面から切りかかってきたジルドラへ向かって飛んでいく。


 「舐めるな!」


 笑止とばかりに鴉の群れを抜いて攻め込んでくるジルドラへの対応が遅れた。技巧による飛翔ではなく疾走、空を走る彼は止められなかった。振りかぶり放たれた一撃が脳天めがけて吸い込まれる。


 「な、なーんちゃって!」

 「な?」


 どろりと世界が揺れた。ジルドラの視界が揺れ、彼の首が落下する。まるで切られたように。ぼとりと落ちる。背後から放たれた不可視の一撃が彼の首を寸断した。


 ジルドラの背後にエンシェロッテは立ち、彼女の銃は水平線上にジルドラの首を狩った。何が起こっているかわからない、とタチアナは瞠目しながら落下する。一部始終を見ていたハーディガンはただただ舌打ちをこぼした。


 「瞬間転移、まぁ。目線の先数十メートル以内が範囲のチャチな能力だけどね」

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