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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
生存戦争
236/310

序章・結論

 地獄のような光景であった。地獄の釜が開いた光景というのはこのような光景を言うのだろう。目を覆いたくなる、あるいは頬をつねって夢ではないか、と確認したくなるほど信じられない光景を前にしてフェイ・DorT・フォログラムはかつてない焦りを覚えていた。


 白い長髪、空色の瞳、薄紅色の唇、整いまた胸の高鳴りを感じさせてやまないほど美しい面立ちの彼女は白いローブを纏い、丈の短いスカートを履いている。黒いタイツを履いていて、さらに靴はシンデレラに出てきそうな銀色の靴をあしらったものだ。


 まるで体重など感じさせない細身の少女はその桃尻を自分の杖の上に乗せ、白亜の装いが赤で霞むほどの焦熱と紅蓮を象った大地を見下ろしていた。それは彼女の美貌すら霞ませる激しい葛藤と焦り、衝撃の表情を浮かべさせるにあまりある光景であった。


 まず目に入るのは肌を赤く燃やした巨大な怪物達だ。マグマが人の形を得て、大地を歩いていた。彼らが歩くと同時に大地が揺れ、草木が枯れる。一様に黒子に似た被り物を付け、手には光の槍とも形容すべき長い長い棒状の武器を握っていた。


 頭の先から踵まで、おそらく100メートルはあろう巨体だが、しかし彼らは全員腰のまがった老婆のようにかがみ込み、前のめりになっていた。歩く時の動作は緩慢で、走る姿は想像できない。付け加えるなら、首が長かった。まるで鹿の上半身を人間の下半身につなげたようだった。


 その周りを、つまり肩の近くを無数の吸血蝙蝠が飛ぶ。吸血蝙蝠らは一様に火焔を纏い、そのただでさえ赤い瞳をよりいっそう爛々と輝かせていた。


 本来、この世すべての吸血蝙蝠は堕落皇(ドリーマー)、あるいは惰眠女帝(ファート・エンプレス)と呼ばれるスリングウェシルの支配下にある。彼女を起源とする種族だからだ。


 しかし燃える吸血蝙蝠達はその支配下にいない。彼らがその黒い体を燃やすのはスリングウェシルのくびきから逃れるためだ。その身に巻かれた鎖を焼き断つためだ。


 「異常。異常だよ。それは。いや、異常っていうならあの巨人達だってそうだ」


 「SoleiU Project」もといその舞台である惑星「ヴァース」には厳密に巨人と呼ばれる種族はいない。巨人とは数々の山々が海原が大河が森や湖の意思が世界を放浪する時に用いる端末、有体に言えばドローンのようなものだ。霧の中、人目を憚って移動するその雄々しい影を指して「巨人(タイタン)」とこの世界の人間は呼称する。


 つまり巨人とは大自然の移動端末であり、特定の種族ではないということだ。にもかかわらず、フェイの眼下には無数の巨人が南へ向かって歩いていた。総数にして五十体はくだらない。荒野を埋め尽くさんばかりの勢いだ。


 もちろん、目の前の巨人達がギガントという端末ではない可能性はある。ただ巨大なだけの人型モンスターという可能性は大いにありえる。しかし彼女の種族、エーロスとしての本能的な部分が目の前の巨人達はギガントであると言っていた。


 しかもその巨人達と並走しているのは他ならぬトロル達、ゴブリン達、そしてオーク達だ。近づけば燃えるような高熱を発する巨人達の足元の隙間を武装した万を超える闇の種族が行軍していた。


 百鬼夜行、いやそんな華美な例えは似合わない。まさしく冥府から現れた大軍勢、十万や二十万では済まされない圧倒的な大軍勢が向かう先に目を向けた時、フェイは言葉を失った。


 溢れ出た紅蓮の大軍が目指す先には大陸中央部でも指折りの獣人達の国がある。気高く崇高な戦士の国、一騎当千の戦士達がいるヴォーガ=ラング首長国だ。


 一騎当千の戦士達という表現は決して誇張ではない。国軍に所属する戦士は最低でもレベル30、将官クラスとなればレベル80越えは当たり前、将軍級ともなればレベル110を超える猛者が揃い踏みだ。獣人の戦闘力は平均的なエレ・アルカンの5倍から10倍とまで言われている。トロルを捩じ伏せ、オークの戦士を喰らい、ゴブリンを踏み潰すことなどわけないだろう。


 「それもきっと一週間と保たない」


 悲壮めいた表情で彼女は眼下に視線を戻した。巨人、吸血蝙蝠、そして闇の種族の大軍は途切れることなく続き、彼らの歩いた後には草木一本も残っていなかった。


 一騎当千の平氏がどれだけいようとこれに勝てるとは思えなかった。飛びかかった戦士達を嘲笑いながらマグマが蒸発させ、吸血蝙蝠は死骸を貪り、闇の種族は非力な住民に暴力と陵辱の限りを尽くす。それほどに圧倒的な群れの暴威、それが指輪王アゥレンディルの軍勢だ。


 なんてものを見させてくれたんだ、とフェイはシドを呪った。何が偵察、何が様子見だ。こんなものは悪質なプロパガンダではないか。こんな暴威を、脅威を見せられたまともなわけがない。


 目を凝らせばつぶさに見える。指輪王に与したのは巨人や吸血蝙蝠だけではない。大地を喰らうジャイアントワーム、古の怪蟲(ウルローキ)、上古の時代より復活した邪霊(ヴァール)、紅月へ向かって吠える狼人(ウォーウルフ)、果ては上古の時代から生きる(いわむろ)のエルフに至るまで多種多様だ。


 いずれも一種で一つの時代、一つの歴史を作り出した古の化け物共、それが列を成して紅蓮の荒野を練り歩いている。火災流の中、地獄の獄卒共が突き進む。


 いかなる益荒男、いかなる戦士、いかなる豪傑、いかなる傑物、いかなる名君、いかなる英雄であろうとこの熱波は止められない。大焦熱地獄もかくやという地獄の軍勢がこの世界を蹂躙するための親征を開始した。


 「ヴォーガが落ちれば次はローハイム、その次はティマティカ州王国?この進行速度、一体どれだけの人間が救えるって言うんだ」


 杖に最高速度を出させてフェイは南へ南へと向かった。彼女の向かう先には数多の国がある。数多の種族、数多の文化が存在している。それを飲み込むのは大炎の大津波、全種族大虐殺親征などというふざけた看板を掲げた波濤だ。


 もっと南へ、もっと南へ。


 人知れず始まった世界滅亡のカウントダウンをただ一人、フェイだけは肌で感じていた。


死祖について


・死祖とは冥王バゥグリアが想像した闇の種族の中で、最初の17種族の長達を示す敬称であり、尊称である。全17種の死祖達は序列1位から17位までの順番付けが存在し、この順番は種としての強さ順ではなく、かつての「始まりの戦争」と「暗黒の戦い」での功績順である。つまり序列が高いからと言って必ずしも強いわけではない。


以下死祖の序列(1〜5)


 ドラゥグルイン)死祖序列1位。原初巨狼ガウアホース。レベル150。数多の巨人を喰らい、世界喰いと称された巨狼。六つの瞳を持つ。セナ・シエラを溺愛している。ロリコン。


 最大功績:神狼ファンの殺害(ただし、心までは殺せなかったため、本人的には不服)。


 スリングウェシル)死祖序列2位。原初吸血蝙蝠プリメーラ・ヴァンピーア。レベル150。数多の英傑、名君を堕落させ、背徳の坩堝へと沈めた堕落の化身。巨乳。セナ・シエラを溺愛している。レズビアン気質。ベロベロしたい。


 最大功績:原初の剣聖にして勇者ベレトから××を奪い取り、彼の血族を絶やした。以後、彼女は巨乳を持つようになり、より一層多淫になった。


 グラゥルング)死祖序列3位。原初長蟲ユバル・ウルローキ。レベル150。幾度となく打破されるも、常に生き残り、常に最大の被害を神側にもたらした害蟲。八目鰻みたいな口。臆病だが自意識過剰で感情の起伏の乱高下が激しい。現在は月におり、月経龍ティス・リリアのところに居候している。←半分、ニート。


 最大功績:月経龍ティス・リリアを神側から冥王側に寝返らせた。最大にして唯一の功績。


 アソグ)死祖序列4位。ウルグ・ハイ。レベル150。今代のアソグは3メートルもある巨体のオーク。代々受け継がれている黒腕を受け継ぐために歴代同様、左腕を蹴り落とした豪傑。味方のゴブリンやオークからはその豪傑振りから英雄視されているが、人間からは悪逆非道の象徴と思われている。武人ではなく、指揮官気質。現在の死祖の中では弱い方。


 最大功績(初代アソグのもの):最も多くの子女を犯し、連れ去った。


 ディセンバー)死祖序列5位。上古邪霊ヴァール。レベル150。元々、彼の席は邪霊の長であるゴースモースに与えられるものだったが、与えられる前にゴースモースが勇者ベレトに討ち取られたため、スライド方式でディセンバーに譲られた。ヴァールの中では珍しい魔法使い。冥王から魔法の指南を受ける対価として自身の炎の剣と炎の鞭を差し出した。


 最大功績:神の一柱であるヴェーストを殺害した。神殺しを成した稀有な例。彼の魔法は創造神であるエアですら殺害できる。


※ジャイアントと巨人の違いについて。


 ジャイアントは元々、野山に住んでいた亜人種で、創造神エアの顕現以前から存在していた古い亜人種。彼らをモデルにして冥王がトロルを作り出した。


 一方、巨人はタイタンと呼ばれ、野山の意思そのものが具現化した存在である。そのため、ジャイアントは大体大きさが10メートルから20メートル前後だが、タイタンは100メートルから1,000メートルとその大きさに幅がある。最大のタイタンは立ち上がれば成層圏をはるかに超え、月までその手が届くほどである。


以後、作中ではジャイアント、巨人の名前で区別する。巨人の名詞を使う場合は最初の部分にタイタンを付ける。

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