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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
ありし日の日常
222/310

誘拐犯達についての考察

 十分後、パンパンに頬が膨らんで団子のようになったシドは自前の回復薬を頭から被りながら、ふーと一息をついた。そんな彼に対してダメ押しとばかりにエスティーは回し蹴りを食らわし、今度こそシドは完全にノックアウトしてしまった。


 「うわー、かわいそ」

 「次はNoteちゃんの番だってわかってる?」


 えあたし、とNoteは驚き、すぐに踵を返して逃げ出そうと茶室に設けられた障子の小窓へとダイブしようとするが、すぐにエスティーの、レベル150の手が伸びてきて彼女の腰を掴むと暴れる子犬を御す飼い主のように押さえつけられてしまった。


 ギャーギャーと騒ぐ彼女のブーツをポイっと出口の外へ投げ捨て、スカートをめくりパンツを脱がせたかと思えば渾身の平手打ちを可愛く丸みを帯びた桃尻に向かって振り下ろした。そこには慈悲も慈愛もない。鬼の如き形相でエスティーはNoteの尻を叩いた。つまり端的に換言すれば「おしりぺんぺん」である。


 それはさながら折檻であった。ギャンギャンと泣き叫ぶ、この場合痛みと羞恥で泣き叫ぶNoteの尊厳を踏み躙ってエスティーは彼女の初物の尻を叩いた。それは淫行の時にパートナーの女性の尻を叩くような生やさしいものではなく、体の芯をとらえた無慈悲な打撃だった。


 痛みが快楽に置換されることなどあるわけがない。むしろ、痛みは増していき、尻の感触が次第になくなってきた。ヒリヒリと赤く腫れ上がれば、ふぅと風邪がそよいだだけで眉間に青筋ができるような激痛が走る。わずかな衣擦れすらも今のNoteには理不尽な痛みを与える要因になりかねないのだ。


 唯一のこの場での救いは観衆がいないことだろう。エスティーの茶室には彼女とNote、そして現在進行形で目を回しているシド以外の何者も存在しない。それでも涙を流して悔しそうに表情を歪ませるNoteはキッと口元を結び、羞恥の根源であるエスティーを睨む。するとエスティーはより一層力を増して彼女の尻を叩いた。


 「はぁ、まぁこれくらいにしておこうかしら。これ以上やるとNoteちゃんが死んじゃうから」


 だいたい五分くらい、エスティーによって尻を叩かれて、桃色の双丘は真っ赤な火山地帯のような様相を見せ、ぺしゃんこになったNoteはうぐーと呻くことしかできなかった。もはやパンツを履く気力すら湧いてこない。いや、むしろパンツを履けばより一層尻が痛む気がした。なにせ畳の上に転がされると同時にはらりと落ちてきたスカートが腫れている双丘に触れているだけでジンジンと痛むのだ。これでパンツなんていう吸着力ばつぐんの履き物を履いた日には痛みで死亡すること請け合いだ。


 今日この日、Noteは初めて「ノーパン主義」について理解した。そう、ノーパン主義とはある種の解放感の発露なのだ。今、こうしてスカートの布地一枚はさんで、性器と畳が触れていると感覚がほぼダイレクトに伝わって非常にここちよい。


 「つまりノーパン主義は床オナニーをするためにあった?」

 「するんだったら、するでいいけど、その前に何か敷きなさいよ?畳についたシミって落としにくいんだから」


 しないって、と断ってNoteは尻を押さえながら立ち上がる。動かすだけでズキズキと腰が痛む。なんて今日は最悪な日なんだろうとNoteはため息をついた。渾身のリフレッシュ案を否定され、街に出れ気分が立ち直ったと思った矢先に誘拐され、挙句殴られて気絶し、せっかく治ったかと思えばこんどは腰痛、腎痛と来た。最悪だ。


 「で?何があったの?」

 「何があったってー?』


 「シド君が転移スキルで帰ってきたってことは何かトラブルに巻き込まれたんでしょ?」


 まーねー、と前置きをしてNoteは自分が体験したことをエスティーに話した。彼女は茶器を磨きながら、時折相槌を打ったりして話を聞いていた。


 すべてを聴き終え、なるほどね、とエスティーはこぼし、鼻先に左人差し指を当てて空の茶器を覗き込んだ。彼女が考え込む時の癖だ。


 「じゃぁ、シド君は一応マーキングは残したわけね?」

 「そーだと思うよ?シド君、出て行く前になんか置いていってたし」


 「だとすれば、潰しようはいくらでもあるかな。Noteちゃんはそのスキンヘッドの大男以外を見てないのね?」

 「あと両手にこー、がっちゃんがっちゃんって付けたのを見たかな」


 ふーん、と相槌を打ち、エスティーはまた鼻先をに指を置いた。今、彼女の脳内で様々な考えが巡っているはずだ。レベル150、この世界の最上位に位置しているだけあり、エスティーの知識量は並のプレイヤーを超える。特に戦士系、有体に言えば剣士や闘士、暗殺者といったフィジカル重視のキャラクタービルドについてはシド以上に熟知している。


 レベル150、それは世界最強クラスという称号であり、プレイヤーの中でもこのレベルに至っている人間は千人といない。プレイヤーという不死の存在ですら中々辿り着けない頂に立つ彼女の視座がどれほどのものか。決してただ土足で茶室に入られたからキレちらかすヒステリックサイコ剣士ガールではないのだ。


 しばらくしてエスティーは思考から覚め、お湯を沸かし始めた。その頃になると気絶していたシドも起き上がり、ご馳走になろうとのそのそと正座してエスティーがお茶を点てる様子を見守っていた。


 「——まず、結論から言うとそいつらはプレイヤーでしょうね」

 「それは俺も考えた。けど、プレイヤーならなおさらリングベルトで悪事を働こうとする意味がわかんないだろ。だって俺らのお膝元だぜ?」


 エスティーが点てたお茶を啜りながらシドは閉口する。お茶請けの菓子をもちゃもちゃと食むNoteを横目で見ながらあらためて彼は首を縦に振った。


 シドの率いるレギオン「七咎雑技団」は大手に区分されるレギオンだ。名簿に登録されているプレイヤーの数だけで五千人近く、レギオン単体で「ワールドレギオンレイド」ができる数少ないレギオンの一つである。そんな天下の大手レギオンが本部を構えている近くで悪事を働こうとするなど怖いもの知らずにもほどがある。例えるならヤクザの組長の屋敷の前で爆竹で火遊びするようなものだ。


 「プレイヤーに対する疑心を植え付けたいって言うならわざわざ俺らでなくてもいいだろ。それこそメリュのとことかならもっと」

 「例えば、そいつらの目的がうちのレギオンに復讐すること、とかだったら?昔、私達にレギオンを潰された悪性レギオン(ノーマ)の残党とか」


 悪性レギオン、俗にノーマと呼ばれる集団がかつて「SoleiU Project」世界には存在していた。おおよそ15年前、「七咎雑技団」をはじめとした大手レギオンによってその最大勢力が討伐されて以降、規模は縮小し、散発的に事件を起こすに止まっていた彼らの名前を聞けばシドはもちろん、Noteも内心では穏やかではない。


 15年前、Noteもまたシドに連れ添う形で悪性レギオン殲滅作戦に参加した。プレイヤーという都合上、殺すことができない彼らを討伐するため、まさに壮絶な戦いが繰り広げられた。誰が最初にそう呼んだか、まさしく腫瘍(ノーマ)のごとく次々と現れる彼らによってかつて一国が滅ぼされ、プレイヤー達と煬人の間にかつてない亀裂が走ったことを鑑みれば、残党といえど見過ごしておくことはできない。


 「なんで悪性レギオンの残党だって思うんだ?」

 「Noteちゃんが言っていた誘拐犯の中にいたっていう影使い、そいつに心当たりがあったから、かな?」


 「へー?エスティーに記憶されてるってことは相当な使い手ってことじゃん」


 そうね、と茶をすすりながらエスティーは軽い調子で答える。しかし目は開いたまで、すべてを飲み干した彼女は残った茶菓子を食みながら話を続けた。


 「『白夜炎上』。それがそいつのプレイヤーネーム。その両手に付けた特殊なガントレットは、まぁうん。すごく厄介なんだって」


 「レベルは?」

 「私が彼のことを知った時は135だったはず。2年前のことだから、今はもう少し上がっているかもしれないけど、140は行っていないでしょうね。向上心とは無縁な人物でしょうし」


 なるほどね、とシドは答える。だがその脳裏に思い描いたのは今聞いた白夜炎上のことではなく、ずっと彼の胸の中にくすぶっていたとある疑問、そう五人の監禁部屋の住人のことだ。


 「エスティーはそのことについて、何か意見はある?」

 「なんとも言えないわ。だって、見てないんだもの、実物を」


 「だよなぁ。でも、多分」

 「ええ、そうね」


 「「ぜってー碌でもないものでしょ」」


 悪性レギオンの元メンバーが一緒にいる、誘拐犯と呼ぶにはお粗末すぎる警備、そして謎の地下空間。三つも要因が揃えばまず何かあると踏むのがプレイヤーだ。むしろ、何かあってくれ、と懇願すらするだろう。


 「とりま、潰すか」

 「ええ、そうしましょう」

 「おーつぶそー!」


 「——失礼します、サブマス!」


 三人が意気投合し、潰そう潰そうと盛り上がっていたその矢先、不意に引き戸を開けてレギオンメイトの一人が入ってきた。


 「どーした、サマー」

 「あ、シドさん!ちょうどよかった!外が、いえ、街の方で!」


 「ぁあ?」


悪性レギオン(ノーマ)について。


 悪性レギオンはいわゆる反社です。主な定義としては「プレイヤー以外を積極的に狙う、麻薬や武器の密輸、人身売買、希少モンスターの密売を行う、NPC間の戦争へ参加する」などがあります。他にも悪性レギオン認定される要因はいくつかありますが、前述の条件が基本的に判断要因になります。PvPは褒められたことではないですが、ある種のスパイスと考えられているため、「赫掌」や「界龍」は悪性レギオンではありません。


 だから広義の意味では本編時間のシド達は悪性レギオンに近いと言えます。もっとも、すでにレギオンは解散状態なので、悪性レギオンではなく、悪性プレイヤーですが。


 作中時間、つまり本編から約160年前の時点では悪性レギオンの活動は縮小しており、新規のプレイヤーにはほとんど認知されていない状態にあります。本編からおおよそ175年前、最大の悪性レギオン勢力である「41」の壊滅が主な原因です。また、作中時間の約130年前、ヤシュニナ国内を震撼させたカシウス事変というものもあり、これにも悪性レギオンが関わっています。


 「41」討伐作戦、カシウス事変はいつか書きたいな、と思っています。本編時間軸よりもプレイヤーメイン、メタ要素メインの展開になる予定です。あと単純にシドとかリドルの本気戦闘が書けるので、個人的にすごく書きたいです。

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