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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
第二次ヤシュニナ侵攻
182/310

大戦佳境・海雄踏破

 梯子がかかるるとヤシュニナ兵は間を置かず、我先に梯子に手をかけた。もとよりたかだか10メートル程度の壁だ。そう高いわけでもない壁を越えさせまいと梯子を倒そうと身を乗り出すもの、させじと壁下から矢を射るもの、多数が入り乱れ、市壁の周辺は血みどろの争いと化した。


 「射て、射て、射てぇええええええ!!!!」

 「めが、あぐ」「ぁはあああああああああああ!!!!」「殺せぇ!」「死ねぇ!」「クソ共がぁ!!!」


 文明的な言葉はそこにはなかった。互いに対する呪詛と怨嗟、憎悪と執念が渦巻いて、異常なまでの熱気を放っていた。洗練された動きはなく、優美さのかけらもありはしない。突く、穿つ、切る、千切るといった技のようなものはなく、叩く、蹴る、なぶるといった暴力的で殺伐とした戦いだった。


 気を休める暇などない。目の前の敵を倒したと思ったら、次の瞬間には自分の首が飛んでいるのだ。左右前後上下を気にしていなくては生き残ることなどできはしない。血飛沫が開いた口に入ろうが、うっかり泥土が衣服の中に入ろうが、あらゆる不快感を我慢して、ひたすらに腕を振るって、敵を屠るのだ。その姿はまさしく野獣のそれだった。人間性を捨て去った野獣同士の戦いを前にして、ただ人は自らも闘争心を掻き立てられて渦中に身を投じることしかできなかった。


 戦いは昼頃から始まり、夕刻まで続いた。その日の戦いは最終的に連合艦隊の惜敗に終わった。否、惜敗など言い訳に過ぎない。彼らは惨敗したのだ。奇襲という圧倒的に優位な立場で戦端を開いたというのに。


 「ま、仕方ねぇじゃないですか。一万対数万じゃぁねぇ」


 撤収する軍の殿として大いに活躍したせいで、全身血まみれになったケンスレイはキャベツを喰みながら悪態をつくた。周りの将校達も全くだ、と彼に同意した。自分よりは身綺麗な彼らに同意されてもとケンスレイは内心では舌を出したが、話が進まなくなるのでひとまずは彼らに乗ることにした。


 ヤシュニナ軍の主力艦である重級(ゴールレーテ)、その改造艦である「勇魚号(スカルハート)」に設けられた高級食堂に設置された長机には白いテーブルクロスが敷かれ、その上にはずらりと肉類や根菜類、緑黄色野菜が乗せられていた。食卓のほとんどを占めていたのは保存の効く馬鈴薯で、次いで多かったのはキャベツだった。肉などは手づかみサイズくらいしかなかった。質素極まりない食事だが、ないよりか、食べないよりかはマシだったので彼らは食べ飽きた馬鈴薯やサラダを水と一緒に喉奥に流し込んだ。


 「さて、諸君。今日ひとあたりしてみてどーだった?」


 キャベツを喰むフーマンに意見を求められ、将校の一人が挙手して発言を求めた。ケンスレイの近くに座っている将校達と比べて切り傷や包帯が目立つメガネをかけたオークの男だ。


 「犠牲者にまずは哀悼の意を表します。——では始めます。少なくとも勝てない、ということはないと思います。此度の戦いにおける我らの犠牲者と敵方の犠牲者はほぼ同数。数の不利を覆す種族の質が如実に現れた結果と推測します。それを踏まえると、後続に控えるガラムタ・ムンゾの連合軍を加えれば勝機は十分にあるかと」


 「なるほどね。確かにその言は正しいね、中府(ネトラーン)ケティム。歴戦の勇士である君がそう断言すると説得力が増すよ。ただね、壁の下から見ていた限りだけど、それは敵方も同じなんじゃないかな、と思うんだ」


 ケティムと呼ばれた将校はフーマンの言っている意味がわからず、首をひねる。他の将校も似たり寄ったりだ。ケンスレイも首をかしげる。唯一、キキだけはしたり顔でサラダと根菜を喰んでいた。


 「つまりね。連中も僕らと同じように全力なんて投入しちゃいないのさ。僕らにとっての全力っていうのは中府ケティムが言ったように、後陣の二国をこの場に召喚することだ。では帝国は?僕はまだあの砦の中に主力を控えさせているんじゃないか、と思うんだ。そうでもなければ、明らかに敵が弱すぎる」


 「弱すぎる。我々が対峙した帝国軍は雑兵の類だと?」


 「断言はしないが、その可能性はあるだろうね。でなければ集団戦術を得意とする帝国が個々の武力に頼る僕らと互角なんてありえない。いつだって個人を上回るのは連携だからね」


 「今日は様子見、明日はより熾烈な戦いになるでしょうね。なにせ、港湾区でまともな拠点はあの市壁だけなのですから」


 キキの言葉に将校らから笑みがこぼれる。嘲笑の類ではなく、獲物を定めた獣の笑みだ。残虐で無慈悲な凶悪な獣となったヤシュニナ軍の将校らは不吉な笑みをたたえ、舌なめずりをするものさえ、口内でよだれを遊ばせるものさえいた。


 「明日は僕自ら指揮を取る。ガラムタ、ムンゾの両国にも参戦してもらおう。破城槌の準備もさせよう。全力で叩き潰そうじゃないか」


 フーマンも彼らと同じ笑みを浮かべた。おおよそ狸らしからぬ、獰猛な笑みだ。


 ——そしてその言葉の通り、翌日の戦いは苛烈なものとなっていく。


小ネタ


 体が大きいケンスレイが船内に収まっているのは彼が「矮小化の指輪」を装備しているからです。体が小さくなるのと引き換えに、ステータスが大幅に弱体化するだけのゴミアイテムです。

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