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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
第二次ヤシュニナ侵攻
171/310

大戦佳境・濁音

 城門をくぐったシオンははるか遠くに見えるポリス・カリアスの中心たる庁舎をその双眸に収めた。壁と同じく白く塗られた白亜の城砦は昼の日差しによって、より神々しい輝きを見せ、それはどっしりと構えて王威をあまねく市内のすべてに振り撒いていた。


 影が落ちた市街からは人の気配を感じない。戦いが始まった時点で第二防壁の外に住んでいた住人はその奥に避難させられたのだろう。まるで家畜を囲うように言われるがまま、財産を放り出して必要最低限の荷物だけ持って城門の向こう側に引っ込んだのだ。


 避難、命を守るため、と言ってしまえばそれまでだ。彼らが従順な家畜でなければこうはならなかった。頑固一徹とまではいかないまでも少数の市民でも残っていてくれれば、多少は()()()()に使えただろうに、残念なことだ、とシオンはため息をついた。


 第二防壁の向こう側からは万を越える人間の気配を感じる。それは市民も含まれるだろうが、より近くに感じるのは殺気立っている帝国兵達の気配だ。容易く第一防壁を、この大都市の看板を落とされて気が気ではない彼らの鬼気迫る殺気だ。


 鬱陶しそうにシオンが城砦を睨む傍ら、その周囲では投降した帝国兵達を拘束するヤシュニナ兵らが忙しそうに動き回っていた。投降した兵士達は手首を縛られ、そのままガラ空きになった市内の一際大きな建物へと連行された。収容しようにも投降した帝国兵の数は裕に二千を超え、ヤシュニナ軍が使っているテント村には収まらないからだ。


 ヤシュニナ軍三万五千に予備も含めた竜馬二万を加えれば実に五万を越える大軍だ。当然だが、それほどの大軍の糧食は数トン程度では済まない。全員人間なら一日三百トン程度で問題ないかもしれないが、ヤシュニナ軍には獣人はもとより、オークやゴブリン、オーガといった食肉種、生鮮品以外の食事を好むロックビーストなどもいる。彼らの糧食を賄うための補給路がすでに確保されているとはいえ、大規模な軍隊であることは疑いようがない。糧食の保管場所だけでもテント村がいくつもできるのだ。とても敵国の捕虜を収容しておく余裕などないのだ。


 そういったスペースの事情もあるが、他にも捕虜をわざわざ彼らが勝手知ったる市街に収容する理由はある。一番の理由はヤシュニナ軍そのものが城外のテント村を引き払って、市街に居を構えるからだ。二ヶ月近い遠征で、シオンのような指揮官やその側近の軍令(ジェルガ)将軍(シャーオ)はともかくとして、一般兵にはテントの天幕以外の屋根がある寝ぐらは望めない。彼らにとってガラ空きの、生活感が残る市内の家々はこの上なく宿営するのに適している場所なのだ。


 テキパキと野営の準備を整えていく兵士達を尻目に、シオンはシオンで彼もまた動いていた。第一防壁を短時間で突破することは彼の計画に入っていた。それが容易であることも、帝国軍という人間主体の対人前提の軍隊が相手であれば可能であることも織り込み済みだ。


 カタパルト、もとい飛び跳ね台を用いれば城壁に食らいつき、一気に駆け上ることは竜馬の健脚を考えれば可能である。防壁の材質は3枚とも同じであることの調べはついているから同じように竜馬を射出して第二防壁を占拠することは可能だろうが、流石に敵もそれの対策はしているだろう。


 市内の一際高い塔に上り、望遠鏡で壁上の様子を伺っていると、その城壁に動きがあった。城壁の奥から大型の装置が引き出されてきていた。形状からして投石機の類だろうとシオンは推測する。まだ東岸部が戦国の世だったころの遺物だ。


 投石機とは弾力を用いた投石兵器の一種で、古くは5,000年以上も昔、指輪王アウレンディルが考案した鋼の兵器を模して作られたものだ。もっとも、向こうは熱した岩石を投げるのに対して木製の人間側のものはほどよい大きさの岩の塊を投げるのが関の山だが。


 投石機が最後に活躍したのは半世紀以上も昔の話だ。実質的なローダン王国と帝国最後の戦い、バルハレト城攻略戦でのことだ。百を越える投石機による集中攻撃を浴びて、城壁は粉々に砕かれ、大量の帝国兵が雪崩れ込み、城内決戦の末、一人の捕虜も出さずにその戦いは幕を引いた。帝国が降伏を認めなかったわけではない。城内の兵士から女中、使用人にいたるまで誰も降伏せず、徹底抗戦したのだ。帝国軍も手ひどい痛手を負い、まさに熾烈を極めた戦いだった、とシオンは人伝に聞いている。


 彼の眼前にある投石機はまさにそんな旧時代の戦いの遺産だ。攻城戦が久しくなった今日この頃、まさか防衛のために投石機を持ち出してくるなど寝耳に水もいいところだ。


 「いや、違う。なんだ、あれは」


 近づくにつれ、その全貌が見えてきた。骨格は確かに投石機に似ているが、投石機についているはずの籠がない。石や岩を乗せる部位が存在しないのだ。代わりに鍬のような鉄製の部位が付いていた。それ以外の構造は従来の投石機と変わらない。


 「——なるほど?全くわからんな。誰かいるか?」


 塔から降りたシオンに呼ばれてイルカイ、アルガ、コンプリート、トーカストといった主だった面々が彼の元に集っていく。明日の作戦のための会議が市内の一角で始まった。


 「派手にいこう。我々の力を忘れらないほど鮮烈にやろう」


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