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SoleiU Project  作者: 賀田 希道
第二次ヤシュニナ侵攻
161/310

大戦激化

 夜明け、東の門が開かれ、黒衣の一軍が城門をくぐった。その出立には重装にして高潔、畏敬の対象にして憧憬の的である帝国騎士とは異なり、簡素な黒布に身をまとい、鎖帷子のみという軽装備のさながら野盗や奴婢のような印象を受ける。


 彼らは騎馬を駆る者と歩卒に別れ、騎兵は先に述べた出立に加え、連射性に優れた短弓、赤布の長槍を装備している。一方で歩卒は槍の穂先が杭のようになっており、それが刺さった時を思うと背筋に悪寒が走った。


 何より見る者を驚かせたのは彼らが駆る騎馬だ。黒衣の騎兵が騎乗する騎馬は清廉なる白馬でも、気鋭たる黒馬でも、從容たる茶馬でもない、銀色の異形の馬だ。馬と呼ぶにはあまりにもその姿は異風を感じさせ、しかし紛れもなくそのシルエットは馬そのものである。銀色の鎧を纏っているかのように見えるが、それは鱗であることが近くに寄るとわかる。頭部などはあからさまで、いずれも鼻頭か耳横から山羊ともトカゲとも形容される角が生え、覗かせた口腔には無数の細かな鋭い牙が生えていた。


 ことごとく、すべてが埒の外。王道とはかけ離れた常識外の異形の軍隊は外にほとんどを残し、騎兵300、歩兵200の計500のヤシュニナ軍の入城に東門に集まったローダン王国の諸兵は元より、市民達も緊張から、変な筋肉に力が入っていた。その中にあって、唯一アルジェンティスだけは威風堂々と王として毅然とした立ち振る舞いで下馬したヤシュニナ軍の司令官、埋伏の軍令(マイラ・ジェルガ)シオンを出迎えた。


 「ヤシュニナの将よ。貴様らの言うとおり、我々は自らの手でこの国を取り戻したぞ。駐屯していた帝国兵も貴様の軍が見えるや否や血相を変えて投降した。さて、これからどうする、ヤシュニナの将よ」


 冷厳な眼差しでアルジェンティスはシオンを睨む。その手に杖代わりに持っている剣を地面に突き刺し、静かに次の言葉をつむいだ。


 「貴様らが望むのがこの街からの仁義なき収奪であるならば、我らも頑として抵抗するつもりだ。新たな強者、アスカラ地方の支配者たるを望むのならば、なおさらだろう?」


 煽るアルジェンティスに、市民達の緊張は最高にまで高まった。なんで、そんなことを言うんだ、とアルジェンティスを嗜めようと彼の側近らが前に出ようとした矢先、シオンがアルジェンティスの前に片膝を折り、その黒頭を彼に向かって下げた。


 「——ローダン王国現国王、アルジェンティス・エーレ・ローダン陛下。この度は我らの無礼千万な申し出に応えてくださり、まことにありがとうございます。ヤシュニナ氏令国を代表して、御身に御御礼申し上げます。つきましてはもう一つ、不躾で破廉恥な願いをする無礼をお許しください。どうか、どうか非力なる我らと共に()()()()()と戦っていただきたい。我らの盟友となっていただきたいのです」


 その言葉、その台詞はまさしく今の状況にあって、最も効力のある保証だった。ヤシュニナが非力などおべんちゃらに過ぎない。大陸東岸部において唯一、帝国と真っ向から戦えるほどの武を示したヤシュニナを盟友にする、ということは強力な後ろ盾を得るということに他ならない。


 そのヤシュニナが、オルト帝国と共に戦ってほしい、と言った。アスカラ=オルト帝国ではなくオルト帝国と。市民達、ローダン王国兵達は互いに顔を見合わせ、アルジェンティスはゆっくりと瞑目した。


 「貴国の要請を受諾しよう。これより、我らは反帝の盟友であり、アスカラ地方を巨悪から解放する同士である、と史に記そう!」


 アルジェンティスの言葉に周囲の聴衆全員が、わっと湧いた。その高揚は竜馬が驚き、蹄鉄の音を鳴らし、掲揚された王国旗、氏令国旗が激しくはためくほどの烈風が突如として巻き起こった。


 その日、ヤシュニナ歴154年、帝国歴532年5月22日、ローダン王国が歴史の表舞台に再び姿を現した。そしてその日を境に、アスカラ地方の各都市で、帝国からの独立を訴える運動が活発化し始めた。


次回は外伝です。

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