剣聖 VS C.E.L.F.A Asteria
やってくれるじゃねぇか、とその男は、リドルは彼女に向かってつぶやいた。
手には神話級武装「誠洞皇帝」を握り、右手周りにはガントレットのような武装が目立つ。それ以外には目立った武装を付けているようには見えない。鎧の類は元よりチェーンメイルすら着ているようには見えない。かろうじて彼女にわかるのはリドルが纏っている衣装が尋常ではないほど神々しいものであること。彼が纏う衣装はコートからズボン、靴、上着いたるまですべてがすべて神話級武装のそれだった。
これがワンセットタイプの武装ならばまだ納得ができる。あるいはシリーズ物だ。衣服一式全て合わせて一つの神話級武装というのならばまだ驚くには値しない。しかしリドルが身につけている衣装はすべてがすべて個別の神話級武装だ。途方もない労苦、時間をかけて作られたこの世に二つとない特異な武装。物質的な鎧など必要なく、彼が纏っているものすべてが彼を守る鎧と言っても過言ではない。
「最強」。そんな陳腐な言葉が似合うほど、リドルという男は彼女のはるか上位に位置していた。
「セルファ、いやセレフか?——そんなわけないか。あいつ以外のセレフがいるわけないし。仮にいたとしても、お前みたいな気色の悪い奴なわけもないからな」
明確な拒絶の弁を言い放つとリドルは眼前のセルファめがけて突貫する。小細工など一切弄していない純粋な突撃だ。防御体勢をとってその一撃を耐えようとセルファは触手を重ねる。
ズドン、という音と共に風穴が開いた。文字通りの風穴。リドルが放った刺突を受けようとした触手に風穴が空く。否、それだけではない。刺突の勢いは収まらず、そのままセルファの胸部を刺し貫いた。
「ぐぁ」
「声、出せるじゃねぇか。次はなんだ、命乞いか?」
返す刃でリドルはセルファの首を狙う。一切の躊躇がない神速の一閃、セルファはかろうじて避けるが、続く健脚の一撃が腹部を爆ぜさせた。蒸れた蒼い煙が血液のように彼女の傷口から迸る。単純な攻撃ではそこまでのダメージを生むことはない。容赦のない絶死の一撃はかつてない恐怖をセルファに感じさせた。
「ほら、次はなんだ?ごめんなさい、か。殺してやるか?命乞いでも泣き言でも恨み節でもなんだっていいさ。ああ、なんだってな。お前らの言葉に怒りなんざわかない。ただな、その顔で、その触手を振り回して、俺の前に立つんじゃねぇ!」
理不尽とも言える怒りの発露だ。まるで思い当たる節がないのに、目の前の赤髪の男は怒りのままに剣を振るってくる。訳がわからず、反射的にセルファは触手をしならせる。音速を超えた一撃を連撃に変え、先にレオンを刺し貫いた攻撃を放つが、リドルには意味をなさない。
放たれてくる触手の殴打をリドルは瞬間移動でもしているかのように回避する。残像が見えるほどの超高速移動、音速など彼にとっては当たり前の領域なのだろう。すべての触手を掻い潜り、セルファの真正面まで迫ったリドルはその手に持つ黄金の剣を彼女に突き立てた。
「あ、うがぁ」
「おいおい、やっぱり悲鳴だけか?あいつの顔してんなら笑えよ!死ぬ時も、笑えよ!」
「だりゃ、だりゅあごぼおあああああごぼぼぼぼぼお」
顎を引き抜いた。喋れないなら必要ない。舌がなくてもおーおーとか呻けるだろう?
耳を裂いた。話さないなら聞く必要もない。耳の根本まで切らないと聴こえてしまうじゃないか。
腕を爆ぜさせた。筆談なんてさせない。訴えるな。
目を潰した。訴えるな。
鼻をもいだ。世界にお前の存在を刻むんじゃねぇ。
断頭する。早く死ね、死んじまえ。笑わないアイツ。冗談を言わないアイツ。人を怒らせてすぐにシュンとなるアイツ。ゲームをすることが生き甲斐って面をしていないアイツはもういらねぇ。
それは剣聖の戦いとは迂遠なとても肉肉しい戦いだった。ただ一つ言えることは、剣聖の手によって上位個体と思しき謎のセルファが肉塊に変えられた、ということだ。
大城壁からセルファが退いていく。恐れをなしたようにセルファが退いていく。大城壁を抜かれてもなお、アスハンドラ剣定国はセルファの侵攻を跳ね除けたのだ。
そしてその日から約一週間後、セルファに奪われた領土を取り戻すための大遠征が決行されることが王宮会議にて決定された。
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キャラクター解説
サーペント。種族、C.E.L.F.A asteria。レベル150。ランク、ワールドレギオンレイド。深海を拠点とする
C.E.L.F.Aの上位個体。リドルやシドのかつての友人と同じ容姿、同じ声をしているが、関連性はわからない。大城壁侵攻時は本来のレイドボスとしての実力を発揮できず、レベル150相当の実力しか発揮できなかった。仮に彼女が本来の実力を発揮していた場合、現在のリドルでは対処できず敗北していただろう。




