伝説のドラキュラの末路
それは、月明かりに照らされた真夜中のことである。
黒いタキシードに黒いマントを身につけたその男は、美しい容姿とは裏腹に鋭い牙を持っている。
「フフフフフ、今日はあの子をターゲットにするかな」
その男はドラキュラ、この世の男女を問わず恐れられている伝説の吸血鬼である。大きな家屋の窓から部屋の中へそっと入ると、ベッドの中で1人の娘がうなされるように眠っている。
「これほどうなされているならば、たっぷりと血を吸うことができるぞ」
ドラキュラは、その娘の首筋に鋭い牙で嚙みつくとその体勢を崩すことなくじっくりと血を吸い続けている。その血は、ドラキュラにとって最高の晩餐といえるものである。
「フフフフフ、ごちそうさん」
ベッドの中で息絶えた娘の死に顔を見ながら、ドラキュラはその家屋から立ち去っていった。それがドラキュラの最後の仕事になるとは……。
あの日からわずか数日後、ドラキュラは自分の屋敷の一室のベッドの中でうなされている。ドラキュラは、ひどい高熱と体のあちこちにできた黒いアザで起きられないほどの苦しみを味わっている。
「な、なぜだ……。このわしが、あの病に……」
ドラキュラはそう言い残すと、間もなく息絶えてこの世を去ることになった。彼の命を奪ったもの、それはこの地方を襲ったペストである。
あの娘がうなされていたのは、ペストに冒されていたからである。ドラキュラはそれを知らずに、ペスト患者の体液がにじみ出した首筋に噛みついて吸血したのが致命傷になったようである。