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悪夢  作者: 中井田知久
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毎夜みる夢

ぼくは5歳になって、眠るのが怖くなった。

いつも、夕方の6時にお母さんが幼稚園に迎えに来てくれて、夜の10時までぼーっとテレビ番組を見ていた。でも、ぼくは正直、10時になって、いつお母さんが「そろそろ寝る時間よ。」と言って、二階の子供部屋のベッドまで僕を連れて行くのかと思うと、心の中で不安を感じていた。眠って夢を見るのが怖かった。また夢を見るのかと思うとぞっとした。今日も、いつも通り、お母さんは、

「そろそろ寝る時間よ。」

と、言って、テレビの電源を切った。

「嫌だ。寝たくない。」

とぼくは言った。

「寝たくないって。寝なきゃ体によくないでしょ。睡眠は大事なんだから。」

とお母さんは言った。

「でも、寝るといつもあいつらが何か言ってくるんだ。」

「あいつらって。だれのこと」

「あいつらってあいつらだよ。僕にもよく分からないんだ。」

「夢でしょ。」

「でも怖いんだ。一緒に寝てよ。」

「もう五歳でしょ。来月にはお兄ちゃんになるんだから。」

とお母さんは言った。お母さんのお腹は大分大きくなっていた。来月、ぼくには弟が妹が出来る

「今日だけでも駄目?」

「じゃあ、寝るまで一緒にいてあげる。それでいいでしょ。」

「うん。わかった。寝るまで必ず一緒にいてよ。」

と、ぼくは言った。でも、本当は一緒に寝てほしかった。でも、一緒に寝て欲しいって言えなかった。

「おいで。」

と言って、お母さんはぼくの手を引いて、二階に上がり、ぼくの部屋まで来た。部屋の電灯をつけて、ぼくをやさしくベッドに連れて行った。ぼくはおとなしく、ふかふかしたベッドにもぐりこんだ。布団からはお日様のにおいがした。お母さんはぼくの横でゆっくりとお腹をいたわりながら、ベッドの端っこに座った。そして、ぼくの髪の毛をなでながら子守唄を歌い始めた。

「ねんねんころりよ。おころりよ。」

「歌よりなにかお話して。」

とぼくは言った。

「なんのお話がいい。」

とお母さんは言った。

「生まれてくる赤ちゃんの話をして。」

「そうね。あなたはお兄ちゃんになるのよ。とても素晴らしいことじゃない。」

お母さんは言った。お母さんの目は優しかった。

「うん。でも、ぼくはいいお兄ちゃんになれるかな。」

「なれるわよ。このままいい子にしてたらね。」

「ぼく、いい子かな。」

「いい子よ。幼稚園も休まず遅れず行って、お使いも行ってくれて、皿洗いのお手伝いもしてくれるんだもの。いい子よ。」

「でも、不安なんだ。」

「なにが」

お母さんが顔を曇らせながら言った。

「わからない。でも不安なんだ。」

「大丈夫よ。お父さんとお母さんがいるじゃない。」

「お父さんはいつも家にいないじゃない。休みの日もどこか出かけてる。」

「お父さんはいつもお仕事してるの。あなたが寝る後に会社から帰ってきて、あなたが起きる前に会社に行くの。休みの日はおつきあいで出かけてるのよ。あれもお仕事よ。」

と、お母さんは言った。でも、お母さんの目が少し寂しそうになったのをぼくは見逃さなかった、でもまたすぐにいつもの優しいお母さんの顔に戻った。

 「そう。お父さんに遊園地に連れて行ってほしいんだ。」

 「わかったわ。そう伝えておく。今度、三人で行きましょ。あ、四人か。」

 と、お母さんは微笑んで言った。

 「男の子かな。女の子かな。」

 「どっちがいい。弟と妹。」

 「やっぱり弟かな。一緒に野球が出来る。」

お母さんは笑いながら言った。

「そうね。一緒に野球がしたいのね。私は女の子がいいかな。」

「なんで。」

ぼくはがっかりして言った。

「だって、あなたが男の子でしょ。だから、つぎに生まれてくる子は女の子の方がいいかなって思ったの。」

言われてみれば、女の子でもいいかなと思った。

「うん。そうだね。妹もいいかも。」

お母さんは笑った。ぼくはすこし眠たくなってきた。眠い目をなんとか開けて、お母さんをじっと見ていた。

「どうしたの。私の顔に何か付いてる。」

て言って、お母さんは顔を右手の手のひらでごしごしとこすった。

「ううん。なにもついてないよ。」

「いやね。そんなじっと見て。」

「お母さん、ぼくのこと好き。」

「もちろんよ。なんでそんなこと聞くの。」

「わからない。ただ不安なんだ。」

「大丈夫よ。お母さんはあなたの事が世界中で一番好きよ。」

とお母さんは言った。お母さんの目がきらきらしていた。僕はお母さんの目が一番好きだった。

「お父さんもぼくのこと好きかな。」

「ええ、もちろんよ。お父さんはお母さんの次にあなたのことが好きよ。世界一がお母さんで、世界二がお父さんよ。私は誰よりあなたのことが好きなのよ。」

とお母さんは言った。お母さんの目が潤んでいるように見えた。ぼくのまぶたがゆっくりと閉じていった。

「おやすみ。」

と、お母さんの声が聞こえた。ぼくも、「おやすみ」と言おうとしたけど、言う前に、眠りがぼくを夢の世界へと連れて行った。



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