6
「いつ出発だ?」
「明日はどうですか?」
ダンジョンに行くのが嬉しいのか、ピクニックに行く軽いノリに見える…のは気のせいか…
「用意は出来ているのか?」
「二人分なら10日の非常食はあります。」
「Aランクのグループを2つ頼んでいるのは大丈夫なのか?」
アルタは右上に視線をやると、
「まだ、来ると連絡がないんです…
こちらに出発したかも分からなくて…
今、ここは進む必要と言うか…
行った方が良い?待っても変わらない?
いや、待ったら10日が過ぎますよね?待ってたら、無理?」
大丈夫か?
先程の軽さとは違う真剣な瞳で、ブツブツと虚空を見つめながら呟くアルタは、何だ?何かしら見えるのか?
思わずアルタの視線の先を確認するが、ただの天井だ…
隣に座るギルドマスターに思わず聞いた。
「こいつは大丈夫か?」
「ああ、こうなったら少し待つしかない…なかなか戻ってこないから、説明が下手だから今何を考えてたかとか、何かしら見えるのかとか聞いても無駄かもしれないから忠告しとく。」
「預言者とかではないよな?」
預言者とかには見えないが、俺は考え込むアルタの様子に気味悪さを感じて、思わず聞いた。
「はっそんな優しい存在なら有り難いが、災禍に巻き込まれに行く存在が預言者か?」
俺は決して裕福そうには見えないアルタを見る。
清潔ではあるが、栄養が足りていないように見える小柄な体、貧相に見えるのも、少し大きめな、だぼついた装備せいだろうか…
「こいつは変な奴だと思われて、世話をやいてくれる大人に恵まれなくて…
一人で突っ走る…
母親も早くに死んで、親父は飲んだくれるようになって、こいつはいつの間にか門を通らず、抜け道を作って5才から森に入り食材をとり、薬草を取ってきたりして、小銭を稼いでは親父に殴られて取られてたからな…
ようやく小銭を集めて冒険者として登録したが、門を出て森に入ると、ゴブリン達に追いかけられているのを何回も目撃されてる、
ゴブリンも倒せない低いレベルなのに生き残って、ゴブリンキングがいるゴブリン村を見つけたが、弱い奴がゴブリンキングを見たなんて誰にも信じて貰えず、信じて貰えるまでゴブリンに追いかけられ続けるし…
外壁を出たとたんグリフィンに捕まってもうダメだと思ったら、グリフィンの羽やら爪やら良い素材を抱えて平然と帰ってきて、山の中の温泉見つけてくるし…
グリフィンの素材を切っ掛けにして、折角錬金術師に弟子入りしたのに、興味からヤバイ薬草やキノコを食べて死にかけて…
巻き込まれそうでヤバすぎるって錬金術師から首になっているし、薬草取りに行ったら月の雫を見つけてくるわ、宝くじ当たったのに餓死しそうになるし…
俺はアルタに聞いたが、俺にはよく分からなかった…
S級なら理解出来るか?」
「よく分からん…外壁に抜け穴なぞ子供が作れるわけないだろう」
辺境の外壁は分厚く出来ている筈だ…魔法を出来たとしても簡単に人間にどうにか出来る物ではない…
ましてや辺境の森に面している外壁など定期的に点検もしているし、もし穴が空いていたら、魔物が人間の生活する匂いにつられて入って来てもおかしくない土地柄だ。
「アルタは抜け穴を見付けたと言っていたが…蔦に覆われたネズミさえ臭くて入らない真っ暗な穴に誰が行く?
回りに魔物避けの草を生えて、苔やら落ち葉で抜け道に近づくと匂いが立つ場所が自然に出来るか?」
「意味が分からない…」
魔物避けの薬草が生えていても、生えているがだけで効果はない。
混ぜ合わせ燻してからしか効果はない。苔やら落ち葉が燻す代わりになったのか?
「ゴブリン村に人間の忌避感を与える工夫があった。薬にもならんくそ不味い魔ゾラン茸の群生を育ててたのか、ゴブリン村を囲むように生えてた…魔ゾラン茸が生えると空気が薄くなるのか…息苦しく動物も近寄らん、厄介な効果なので全て破棄させたが…普通の冒険者では気付かなかっただろう…
アルタには耐性があったのか…もし、アルタがゴブリン村を見つけてなかったら被害は甚大だったかもしれない…」
魔ゾラン茸の飼育方法がもし、魔物達の村に広まれば…魔物の村が大きくなるのを気付きにくくなり、脅威な存在になりえる…
アルタは何を考えているのか…
思考の中に沈んでいるアルタは未だに虚空を見つめている…
ゼノスは溜め息をこぼす。
ガキのくせに痩せすぎだ…
一緒に行動するなら、取り合えず飯を食わせよう。