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「本当に俺がここにいるって把握してなかったのか?」
ダートは頷く。
「S級の冒険者の行動なんか誰が把握できる?他のS級ぐらいだろ?それか、特別連絡用の魔術で作る連絡獸くらいか?」
確かに…俺の誤認の魔法具は、発動の度に印象が替わるタイプだし、余計に探しにくい。
S級に連絡を取りたかったら、首都のギルド本部から連絡獸を放すか、各ギルドに暗号文による依頼書を貼るだけだ。
暗号文の依頼書は辺境のギルド長なんかは知らねえだろうな…
闇雲にS級は頼んではいけないと決められている。
まあ、俺なんかは、知り合いから特別料金で依頼を受ける時があるが。
金貨20枚で10日間なら俺ならあり得る。
「こいつは残り80枚の金貨はギルドマスターが払ってくれるって言っているが?」
下手に安く俺を雇えると噂は立って欲しくはない。
「多分、払わなくちゃならねえんだろなぁ」
嫌そうに、ダートが呟く。
なんだよ、ダートも分かってないのか?
「このアルタは錬金術師の卵だ、錬金術師の卵は精々薬草を取りに行ってポーション作る手伝いするくらいだ。」
ダートが眉をひそめ、忌々しいような表情で話す。
「しかし、ある日こいつは近くの薬草取りに1週間野営出来る装備を用意して出ていきやがった。そんな用意する金がこいつになかった筈だが用意しやがった、そして、その時は冒険者成り立てのF級10才だ。もう帰って来ないとみんな思った。」
ダートはため息を吐く。
「しかし、こいつは1ヶ月後に帰ってきやがった。月の雫と共に…」
「月の雫だと?」
月の雫は滅多にお目にかからない珍しい鉱石だ。魔石とも違う宝石とも違う、探しても見つかる事がないと言われている。
偽物も出回っているが直ぐにバレる。本物の月の雫は魔力の塊だからだ。
魔石なんて目じゃないくらいに魔力が詰まっている。
魔法使いでも魔力感知が出来る奴は稀だ、例え魔力感知があっても月の雫を見るだけでは分からない、鑑定をわざわざしなくちゃ分からない、見た目がただの石だ、普通は見つけられない物だ。
それを見つけてきた?
「なんだそりゃ?」
俺は思わず唸った…そんな噂は聞いてない。月の雫はこの百年見つかってない筈だ。
それくらい貴重だ。
「ほう、お前さんでも知らなかったのか…まあ、こいつが直に殿下に渡したからな…未発表だし、知らないのが普通か…」
「殿下に?」
殿下と呼べる存在は王族しかいない…俺でもなかなか会えない…まあ、会えるが避けているっての確かだが…
「訳わからないだろ?王族が関わるって事で詳細を聞くのも厄介だ!
辺境卿はちゃんと把握されているらしいし、今回、もし、S級の冒険者に依頼を頼むって事になっはたら、話して大丈夫って言われてよ~
もっと詳しく聞きたいなら、辺境卿に面会してくれ!俺は聞きたくない!!厄介事の臭いがプンプンする!俺もこいつが何を感じているのか全然分からん!しかし、無視をするには出来ない状況にどんどんなっている…」
ダートは苦々しくアルトを見つめる。
「おい、本当に何が起こるか分かってないんだろな?」
一見あどけないアルトが複雑そうな顔でダートを見つめる。
「具体的に分かるなら話せるけど…本当に俺にも説明出来ない。
日毎に無性にダンジョンに行かなくちゃならないって、焦ってくるし、本当はもっと前に行きたかったけど…ランク的に無理で…何回も諦めたんだ!俺がおかしくて、自分でも無茶苦茶だと分かっていて…
お金がないのにくじを買ってしまって、1週間ひもじい思いしたのに、当たったのもびっくりだし、久し振りにお腹一杯食べれる筈なのに、お金を見たらカウンターに持って行って依頼を頼んでいるし、あのくらいの金ではS級なんて雇える筈ないって分かっているのにさ。
月の雫だって、まぐれで手に入れたし…S級の冒険者の依頼も何回も断られている…
なのに、ギルドのカウンターで親父にお金を見られてくじが当たったのがばれて、無理だと分かっているのに、啖呵をきってしまって………
だから、S級の冒険者が突然目の前にいて、自分でもびっくりした…」
「ダンジョンマスターを見に行くってのは前から決めてたのか?」
俺の質問にアルトは急にモジモジする。
「えっと…前から決めてたんだけど…S級の冒険者を頼むのも個人じゃ無理だからって何回も説得されて…月の雫のお礼のお金で、A級の紅朱の翼のパーティとセイレーンの泉のパーティも個人指名で来てもらう予定で…」
「はあ?なんだそりゃ?いつ?」
「いつ来れるか分からないって言われて…前の依頼が終わり次第来てもらうとしか…」
「戦争でもし始めるつもりか?」
アルトは首をふる。依頼を頼んでまで、こいつ自身が何故ダンジョンを目指す?
錬金術師の素材を求めるにしても、こいつの目的が変だ…
過剰な戦力だ…
「それと、お礼のお金だと不十分だって言われて、この辺境にノームの盾を借りる事になっているから、明日くらいに来る予定?」
クラリと目眩がした。こんなガキがノームの盾を知っているのかもおかしいし、国宝で戦いにおいて強固な結界を作れる存在を借りる?
意味が分からない…こいつは何をするつもりだ?アルトが意を決したように顔を向けた。
「だけど、こんなに、空気が動いて、熱いなんて、絶体おかしいんだよ!皆は分からないみたいだけど…だけど、僕だけじゃ無理だって!分かるんだ!」
アルトが突然力強く言う。
「無理だって分かるから、足掻いてたらこうなった…」
叫んだ事が恥ずかしいのかのか途中、言葉に力を失う。
こいつは俺が感じない物を感じているのか?