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赤毛のガキが躊躇しているのが分かる。
慌ててわざとらしく、こちらへの視線を外してくる。
なんだ?何を考えている?
赤毛のガキはさっきまでの威勢はなくなり、懇願するような声音で良く響く声で言う。
「俺はガキだか本気なんだ。絶対に話を聞いてほしい」
あっやっぱり分かってやがる。頼むから、聞いてほしいに変わりやがった。
糞ガキだな、なんちゅうガキだ。
俺は一歩下がり、この地味な冒険者から人の視線から外し、ゆっくりと誤認の魔法具を外す。
「やあ、どうしたらS級って話が出てくる?」
アイテムボックスから俺を認識させる剣をゆっくりと装備して、声をかける。
こんな動作もしているのに誰も俺を注目しないのに、あのガキはなんで分かったんだろな?気になるぜ。
「ヒッ!」
後ろを振り向いたその他大勢の冒険者達は息を飲む。
こんな辺境でも俺の噂が届いているんだと溜め息が出そうになる、面倒だ。
憧憬やら、恐怖やらの視線はもう飽き飽きしてる。
魔道具を外し、剣を背負うと、俺はS級冒険者のゼノスだ。
まあここら辺じゃあ珍しい紺色の髪に紺色の瞳に紺色のマント、真っ赤な魔剣を背負っているってのは俺くらいだしな。
たまに偽者出るけど…
「常闇の焔!」
「おいおい、二つ名は止めてくれよ」
俺はゆっくりと窓口に近づきガキの横に立つ。
「おい、俺はS級だか、金貨20枚なんて端金では動かねえぜ、金貨100枚からだ」
ガキがニヤリと笑う
「ああ、知っている。だけど、終わったらギルド長が残りを払ってくれるよ」
「なんだそりゃ、どうしてそう思う?」
「そりゃ、金貨20枚だけしかないって聞いてても、ここに顔をさらけ出したS級のあんたなら分かっているんじゃね?」
ああ、糞ガキだ。隣で立つと余計にビリビリ来やがる。冒険者の勘が危険を告げる。
逃げられるなら逃げろと人間の本能は言う。
しかし、S級の矜持と冒険者の本能は立ち向かえと尻を叩く。
「ああ、やべぇななんだこりゃ?」
ガキは目を見開き、力が抜けたようにその場に崩れた。
「どうした?」
「どうした?って?S級の冒険者を目の前にしてガキが平気でいられるかよ…」
ガキがカウンターにうつ伏せに顔をつける。
そのだらしない姿にその場の空気が弛緩すると、汚ないオヤジが唾を飛ばす。きたねぇな~
「おいこら何、話に入ってきてやがる。関係ない奴は邪魔するな!」
空気が凍ってたのを、このオヤジは感じないんだろうか?俺が偽者だと思ってる?
「…オヤジは黙っておけ!」
赤毛のガキかオヤジを止めた、凄いな、さっきまでのガキの迫力は子供のそれだった。
今は、手負いのB級並の殺気?を放ってやがる、回りの冒険者達より強い殺気じゃね?
こりゃ、修羅場をくぐり抜けた事があるな?
下手な腰抜け大人より、重宝出来るくらいだな。
しかし、下手な度胸と経験がある?こんなガキが?思わず笑いそうになる口を引き締め、軽く威圧をかける。
「おいおい、俺に喧嘩うって、放っておく事は、他のS級の奴等に舐められるんだよ?
糞ガキさん?」
俺の顔を見るガキは、さっきあった殺気を俺には放たない。
とても静かな恐れがない瞳だ。ガキの変わり身の早さに思わず背筋が冷える。
「申し訳ありません、私は常闇の焔様の事を良く存じ上げなくて、失礼な態度を取ってしまいました。
そして、私の父が大変失礼な態度をいたしました。
無知が失礼にあたるとは存じております。
事が終わり次第、責任は取らさせて頂きますので、今は無知と無礼への処罰を保留させて頂きませんか?」
二重人格か?へたり込んでたガキは立ち上がり、貴族への礼儀を執る。
なんだ?このガキは?S級となれば、王様並の発言力がある。
下手すりゃ、街が抱懐する物理的力と権力があるのがS級だ。
だが、そんな事を知っている平民のガキがいるか?
貴族なら無視してたい事実を貴族のガキでも知っているか疑問だ。
それに、冒険者ギルドでこんな風に礼儀正しい態度を取られた事もない。
面倒な礼儀とか責務とか俺は無視したいが、そんな力が無ければ、出来ない仕事がS級の冒険者には降りかかってくる。
今こいつは、S級の冒険者の存在に礼儀をはらったんだ。俺が分が悪い。
頭を下げ、貴族の礼儀を執り続ける糞ガキが糞ガキではない態度を取らせたのは俺だ、
大人げない態度を取った自分が、胸糞悪い!
「…俺はただの冒険で。舐められるのが嫌なだけだ。他の奴等の面子なんか知らねえ!
糞ガキが変な気を使うな!」
ひょいとガキの首根っこを掴むと、
「おい、部屋借りるぞ!ほら、冒険者カードだ。」
カウンターの受付孃に冒険者カードを提示する。
「は、はい、案内させて頂きます。ゼノス様」
受付孃が俺達二人を案内してくれる。
あー風呂に入りたかったぜ。