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序章:6COMBAT

今回はいろいろと実験的な事を取り入れて書いてみましたが、いちいち視点が変わるのは誤解を生みそうということでこれからは主に雨宮 京を主格に据えます。

7月17日午前0時、雨宮 京―――


電波の届く筈の無いキャンプ地で鳴り響く電話の無機質な着信音。

京が仕事柄何時でも連絡が取れるようにと所持していた多機能型衛星携帯電話だった。

ピッ


「はい?」

『おおー、京か?』


京の番号を知っている、もとい、有事の際の仕事しか受けないSSS級の日本最高のランクに位置する京に電話が繋がって嬉しそうな声を出す人間など一人しかいない。――山久 上一郎

日本最高峰の科学者にして世界に誇る悪魔研究の権威。

その山久が直接京に衛星経由で電話をしてきたのだからただ事ではない。


「俺だが・・・何用だ?」

『お前、女出来たか?』


一瞬本気で電話を切ろうか迷った。

そして考えた。

こいつは馬鹿なのか、と。

衛星経由の電話での会話内容か、と。


「出来てない。それだけか?」


そう思いつつも返事をしてしまう自分が悲しい。



『そうかそうか、そりゃよかった。お前の苦手なタイプのいい子を見付けての、今から会わせてやるから楽しみにしとけ。』


・・・何がよかったのか?

電話越しでも山久のにやける顔が手に取るように分かる。

それより何故会う前提で話が進められているのか・・・

そして、この会話は回りにも聞こえている。

もとい聞かれている。

この電話の欠点はスピーカーよろしく大音量で周囲にも会話が聞こえる事だ。。パソコン並のハイスペックのくせにメインの通話機能の音量調整が出来ないのが玉に傷だった。

周りを見ると女性陣の視線が冷たいのは気のせいか?


「・・・用件がないなら切るぞ?こっちは今悪魔に襲われたばかりで忙しいんだ」

『相変わらず色気の無い奴じゃ。』

「あんたが好色なんだよ・・・」

『男は―――』

「切るぞ?」

『つまらんやつじゃ・・・依頼欲しくないか?赤嶺支部長直々からのな。あ、紹介料は差っ引いといた』


・・・紹介料?


「幾らだ?」

『前金1億。後は出来高じゃな』


出来高・・・その響きに嫌な感じを感じ、少し吹っ掛けてやることにする。


「SSS級がそれで動くとでも?少なくとも倍は必要だね」

『先日支部が襲撃を受け、半壊状態でな、現状それが限界じゃ。』


半壊状態で依頼される任務・・・どうせろくな事ではないだろう。

仕方ない・・・


「良いだろう。しかし一つ条件がある。」

『なんじゃ?』

「こちらの生存者を保護して欲しい。それだけでいい」『いいじゃろう。しかし余り大人数ではヘリに乗り切れんかもしれん』

「6人―――偶然にもみな魔力がそれなりにある」

『珍しいのう・・・仕事でもないのにお前が人を助けたのか?』


気まぐれで助けたと考えているらしい・・・否定はしないが。


『では今日の午前8時にそこから20キロ南の地点に迎えに行く』


「分かった」


ピッ

電話を切ると皆何か聞きたげな顔をしてこちらを見ていた。


「聞いてただろ?」

「行くって・・・移動手段無いぜ?それに、俺はともかく、山道を20キロもなんて辛過ぎる。」

「宿舎の裏に車を停めてある」


問題はなかった・・・


「マジ!?ってか雨宮免許持ってんの?」


俺を誰だと思っている。

余談だが、京の趣味は車で国際A級のライセンスを持っている。個人としてはスーパーライセンスにランクアップしたいのだが、一条にいきなり同意しかねるので取得出来ずにいる。

「当たり前だ。無くても怪物に襲われた直後にそんなこと気にしている場合か?それより、出発前にまだ時間がある。あの怪物を倒して貰おうか―――」



京がいつの間にかその場にあったアタッシュケースを開き、何やら重量な鉄塊を

6人に放った。


「わわっ」

「危ねっ」

「ちょっと・・!!」



―――ベレッタM92FS Elite IA

映画等でよく主人公が使用するベレッタM92の改良版であり、耐久性と使い易さが向上し、さらに軽量化が図られている。

使用する弾丸は主に9mmパラベラム弾で、反動も比較的小さい。



「ちょ、雨宮、これ拳銃じゃねぇか!」


渡された物の正体に気付いていち早く驚きの声を上げる島。その声ではっとなり、事の重大さを理解する周囲。

無理も無い。法治国家の日本では通常お目にかかることの無い物、不用意に所持していれば捕まる物が突然手渡されたのだ。


「これは遊びじゃないんだ。もちろんそれは本物の銃だし、実弾を装填してある」


そう言って自分も一丁手に取ると素早く安全装置を解除し、近くの木に向けて一発発砲した。

パァン!

銃弾は木の幹に命中したが、大きい音の割には木の一部に小さな穴が開いただけで木の大きさから考えるとたいしたことない傷と言える。6人ともいきなり京が発砲したことに面食らっていた。


「何もせずに普通に撃ってもたいした威力はない」

肩を竦めながらそう言い切る京。

と言っても人を殺傷するには充分過ぎる威力があるのだが。


そして、次に、と言いながら再び銃を構える。


「木を吹き飛ばすことをイメージしながら銃弾に魔力を込め撃つと・・・」


木を吹き飛ばすのに必要な最小魔力を込め撃つ―――



草野 英司―――


パァン!

発砲音が聞こえたと同時に物凄い風が通り過ぎたような感じがして咄嗟に手で顔を庇ったけど、僕以外はみんな平然としていて誰もそんなことはしていない。

キョロキョロ辺りを見回しているうちに雨宮君と目が合って、不敵に笑っていた。もしかして一人変な行動を取ってしまった僕を馬鹿にしているのかな?

変なところを見られてちょっとテンションダウン。

あう〜


そんなことより、音量はさっきと同じなのに木が着弾した地点を中心に幹が吹き飛ばされ、大木が真っ二つになっていた。

凄い!!

余りの迫力に動けない。


「こんな感じになる」


銃身をチェックしながら言ってるけど、そんな場合じゃないよ・・・


「ちょ、雨宮!こんな感じってお前、木が弾けたぞ!」


うーん、タカちゃんは相変わらず声が大きい。

耳元で怒鳴るし・・・


「ふん、この程度は出来ないと死ぬぞ?町には今、さっきみたいな化け物が溢れ返っているからな」

みんなの反応に普段無表情の雨宮君も心なしか、少し得意げになっているように見えた。

「さあ、そろそろ実践してもらうぞ」


「ちょっと待って!」


確かに実演はしてもらったよ。

でも、やり方を聞いてないし、魔力を流し込むなんて言われても、いまいちイメージが沸かない。


「魔力を流し込むってどうすればいいの?いまいち感じがわからないよ・・・」


怒ったときの舞ちゃんとは違うイメージで現在恐怖の対象の雨宮君に口答えしてしまった自分に驚く。

あわわわ、なんでこんなこといったんだよ・・・

言ってしまってから激しく後悔。


「そうだな、確かに説明があいまい過ぎた・・・銃弾に力を圧縮して入れ、当たった時にそれを解放して弾けるイメージを持てばいい」

『クックック』


案外普通に返事が返ってきたことに安猪していると、再び頭の中に響くように聞こえる声にびくっとしてしまう・・・


「なんだ、アジーン?」

『フッ、良い先生になってるじゃないか京。中々様になってる』

「?」

『お前の親父にそっくりだ』

「あんな甘い奴と一緒にするな」

『いやいや、お前の親父も昔は今のお前のように無愛想な奴だった。ただ、お前の母親と出合ってから今のように穏和な奴になったのだ』

「俺があんな馬鹿なお人よしになるとでも?」

『そうだ』

「何を馬鹿な事を」


どうやらアジーンは雨宮君の両親を知っているようだった。


「ちっ、とりあえず結界を解除するから戦ってみろ」



石崎 聖―――


先程怪物を封じ込めた白い障壁へ雨宮君が手を翳すと障壁が崩れ、またあの4本腕のおぞましい怪物が現れ、私達を憎々しげに睨みながら飛び掛かろうとした途端、雨宮君が手を向け、


「グラビディ」


とだけ呟くと怪物の身体が地面に押し付けられ、そのまま無言で何やら手から放つと怪物がの2本の腕が切り落とされ、続けて怪物の足が凍り付き吹き飛ばされた。

グァァァ!

腕を切り落とされた怪物が恐ろしい形相でこちらを見ていた。

うっ・・・

怪物に怯んでしまい、半歩下がる。

それがいけなかった・・・

誰も動かない中一人動いたことで怪物の注意を引いてしまい、完全に血走った目でこちらを睨みながら飛び掛かって来る―――



雨宮 京―――


弱らせた怪物がいきなり石崎に飛び掛かって行くのを見て危なければ殺すつもりで踏み込む姿勢を取ったが、それも杞憂に終わった。

パァン!

ギャアアア!!

怪物から見て右側にいた誰かが発砲し、弾は命中した途端弾け、怪物は大きくえぐられた脇腹を抑えながら退き、苦悶の叫びを上げる。


「いった〜」


声を出したのは伊沢、おそらく彼女が撃ったのだろう。

初めてにしては上出来の威力だ。

頭部に命中していれば仕留めていただろう。

パァン!パァン!

ギャアアア!!

続けざまに銃声が上がる。

先程より大きな叫びを上げる怪物。

初弾は腹部に命中、今度は腹に穴が空き、クレーターのような傷口からダバタバ血を滴らせている。

それを見て確信した。

奴らは魔法を使えない、と。

やはり魔族の器になってこそいるが、肝心の魂が入っていない。

次弾はそれを庇った右腕に命中し、手首を吹き飛ばした。


「ぅおら!命中!」


相変わらず五月蝿い男だ・・・

しかも調子に乗ったのか、一人怪物に接近しながら撃っている。

他の面々は怖いのか離れて顔を引き攣らせながらただ撃っている。

離れて撃っている上、魔力を込めることを恐怖で忘れているため、怪物にたいしたダメージを与えられていない。

辺りを見渡していると頭を抑え、うずくまっている石崎が目に入った。

どうやら戦闘そっちのけでパニックに陥っているらしい。

放っておこうと考えたが、慌てて駆け寄り宥めている山下を見ている内に気が変わった。

どうしたのだろう?


「怪我でもしたのか?」


先程飛び掛かりそうになった時に何かあったのかと考え声をかける。

もっとも、あの時魔力の波は感じなかったし、目に見えた物理的攻撃も確認できなかったが。


「うぅぅ・・・」


石崎からは呻き声しか返って来ない。

目はどこか遠くを見ているようだ。


「聖ちゃん!しっかりして!」


山下はそういいながら石崎を胸に抱き抱えている。

普段見られる光景とは逆の光景に異様な感じがする。


「石崎はどうしたんだ?」


一応山下にも聞いてみる。


「わからない・・・レイちゃんなら何か分かるかもしれないけど・・・」


そう言って遠くで銃を撃っている鈴村を見る。

駄目だ、興奮していて話しを出来るような状態ではなさそうだ。


「あぁぁぁ!」


石崎は一層大きな叫びを上げるとそのまま気絶した。

とりあえずこのままではマズいと思い、数十発撃たれて尚生きている怪物をグラビディで圧死させ、

「多分この場から離れた方がいい。一度車まで運ぶぞ」


そのまま石崎を受け取り、抱き抱え、車まで走る。

身長の割に思ったより軽かったので驚いた。


「待ってよ〜」


山下が必死に着いてこようとするが、人一人抱えている俺との差はあっという間に開き、しばらくするとズデッと転倒する音が聞こえ、思わず口角を吊り上げる。

宿舎に着いた時にふと建物を見ると1階のいくつかのガラスが割れて吹き飛んでいた。

割れた窓を覗き込むと、どうやら超高速で移動した際に吹き飛んだ石が原因だったらしい。

まあ怪物によって混沌に突き落とされた世でいまさらガラスが数枚割れたぐらいで誰も気にも留めないだろう。

そんな事を考えている内に宿舎の裏側に停めておいた車に着いた。


リンカーン・ナビゲーターH20型

フォードの高級ブランドリンカーンの誇る高級SUV。

走破性はそれなりだが、圧倒的サイズの恩恵によって8人乗りなのに空間が広く、高い居住性を確立している。

当然だが、京によってエンジンから外装までかなり手を加えられており、ほぼ社外性品によって構成されている。

5.4Lのエンジンは6Lまでボアアップ。

過吸機はツインチャージャーを装備。

タービンはこだわりのウエストゲート。

ポート研磨、バランス調整から耐久性を上げるためエンジンブロックやシリンダーまで特注で組んである。

吸排気系統も余裕を持ったものに変え、ROMチューン、ボディは重量増加したエンジンに考慮してオールカーボン。

さらに重量増加に考慮して、ドライサンプ、強化エンジンマウントを採用し、大幅な低重心化により抜群の安定性を更に良くした。

勿論エンジンパワーを余す事なく伝えるため、クラッチはトリプルプレート、シャフトはカーボン等。

ホイールは気に入るデザインが無く純正のままだが、タイヤは履き変えてある。

他にもブレンボ製のブレーキに、車高調も入れてあるが走破性を損なわない為に高さは変えてない。

遊び心のNOSやネオン管等まである。

いろいろと改造してあるが結局はレスポンスと居住性を追求し、ベースを上手く生かしたチューンになっている。


この場所は宿舎内からは死角になっていて、普通は気付かない場所になる。

見付けるにはわざわざ入口からぐるっと回り込まなければならない。

そしてそのまま後部座席に横たえ、山下が来るのを待つ。

横たえる時に右腕に肉をえぐり取られたような傷痕があるのが目に付いた。

職業柄、傷が絶えないので普段なら気にも留めない事だが、白く完璧な肌に残る醜い傷痕は嫌に印象に残った。

それにしても何故気絶したのだろうか・・・


『聖の目は恐怖に捕われていた。おそらく、精神的に耐え兼ねる物があったのだろう』


アジーンの推測は正しいのか・・・?

そのまま少し待つと目に涙を浮かべ、擦りむいた肘を押さえながら山下が走って来た。

傍目から見ると擦りむいて泣いた様に見えるが、友人を心配して泣いているのだろう。

いや、精神的に幼い山下なら前者も否定出来ない。


「こっちに来い」

「えっ?」

「こっちに来い」


そう言って呼び寄せると怖ず怖ずと近寄ってくる。


「・・・ヒール」


手を翳し集中して呟くと2、3秒で傷痕も残さずに、回復する。

簡単な魔法や慣れている魔法は言葉を口に出して行使する必要はないが、いかんせん今まで一匹狼だった上、向かうところ敵無しの無敵状態に近かったので回復魔法など必要なかったのだ。


「・・・」


驚いて声も出ないようだ。

今度は呆気に取られた表情でこちらを見ている。

表情がころころ変わる奴だ。

見ていて飽きない。

何故周りが面倒を見て甘やかすのか分かった気がして、そんなことを考える自分に苦笑する。


「う〜ん・・・」


気絶していた石崎の声で我に返る。

どうやら意識が戻ったようだ。

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