序章:5REQUEST
―――雨宮 京
振り向くと6人とも呆気に取られて固まりながらこちらを見ていた。
(――さてどうするか・・・)
どう説明して良いか分からず、苦笑してしまう。
とりあえず外傷のある島に近付くと警戒しているのか飛びのかれた。
(――分かってはいたが・・・)
「落ち着け、俺は敵じゃない。」
(現段階では味方でもないがな)
そう思いまた苦笑してしまう。
「雨宮・・・お前本当に人間か?さっきの化け物よりヤバイぜ・・・」
思わず笑ってしまう。
「俺は間違い無く人間だ。治療してやるからこっちに来い。」
笑った事で多少訝しんではいるものの、警戒を解き寄ってくる。
「ヒール」
京が身体に手をかざし魔力を注ぎ込むと裂傷が瞬く間に回復した。
それを見てどよめく5人とは対照的に明るい顔で身体の具合を確かめる島。
「おぉっ!すげー!治った!!」
「この程度は魔力が使えれば誰でも治せる」
「さっきから魔力とか魔族とかわけわかんないこと言ってるけど説明して貰える?さっきの奴は一体何なの!?」
説明を乞う舞の声には未だ警戒しているのか刺々しい。
「まぁ待てよ舞、その前に言うことがあるだろ?俺達雨宮が助けてくれなきゃ全員やばかったぜ?ありがとな。」
島の言葉で言葉詰まる舞。
「例は要らん。助けたのは俺の意志ではない。」
「どういうことなの?」
英司の場違いなぼけっとした声が久々に発っせられる。『京に助けるよう指示したのは私だ。指示はしたが実行したのは京だ。』
「?」
突然頭の中に響いて来た声に6人が顔を見合わせる。
『私の名はアジーン。京と契約し、庇護しているた魔族だ。数少ない竜族にしてその中でも殆どいない最強の覇竜種の頂点に位置する者。』
「そうでしたか・・・ありがとうございました。」
聖の丁寧な礼に苦笑するアジーン。
『魔族に礼を言うとは面白い娘だ。私はさっき襲って来た奴らと大きく分類すれば同類だぞ。』
「でも助けてくださいましたし・・・」
『まあいい・・・京よ、とりあえず周囲に秘匿結界を形成せよ。まだ魔族が残っていないとも限らん。』
「ステルスシールド」
京の呟きと共に半径15メートル程が球状に囲まれ、外側が少し黒いフィルターのような物が掛かって見える。
「これで見つかる心配はない。アジーン、手短に頼むぞ。」
『分かっている。・・・さて何から話すか・・・・・・まず、お前達人は何で構成されてるか分かるか?』
「原子?」
とある意味正しい答えが紗耶香の口から発せられる。
『紗耶香よ、そう難しく考えるな。直感で答えるのだ。』
名前を呼ばれた事で目を見開き驚く紗耶香。
まさか頭の中が読めるのだろうか?
この声の主なら出来てもおかしくないなと変に勘繰ってしまう。
「どうして名前を?」『簡単な事だ、京が見聞きした情報は私にも伝わって来る。その情報を統合すれば自ずと分かる。ここにいる皆の名は全て分かる。それより考えるのだ。』
「心と体?」
『まあ合格といったところか。心は魂に、体は魂を受け入れる器に置き換えられる。お前達人はこの魂と器から構成されている。魂には生まれ持った大きさと質があり、器には許容量がある。たまにあるお前達の言う二重人格等は気付かぬ内に器が別の魂を受け入れている故起こる現象だ。そして・・・我等魔族は純粋に魂だけの存在。この人間界以外では魂だけでも具現化出来るのだが、この世界は特殊で具現化ができぬのだ。器には魂を安定させる効果がある。故に我等魔族はお前達人の器を欲する。』
「これとさっきの奴がどう関係あるのよ?」
「舞ちゃん、ヤバイよ・・・怒らせたら・・・」
『クックック・・・私がこの程度で怒ると・・・面白い小僧だ。クク、もう少し黙って聞け。さっき言った魂の質と大きさだが・・・魂の質は魔力の高さを、大きさとは魂の強さを表すと考えろ。そして魂は精神面での修行や、他の魂を取り込む事でより大きく良い質の魂となる。後者の方が手っ取り早く、また効果も大きい。魂は基本的に自らより大きい魂を取り込むことは出来ん。無理に取り込もうとすれば逆に相手の魂に喰われることになる。
そしてお前達人間はたいてい質が低いが大きい魂を持っておる。
ここからは私の推測に過ぎないが、先程襲って来たやつらは・・・器は魔族の物に近かった。恐らくは魔族の中の悪魔族が―――器に何らかの外的要因を与え―――私はウィルスと睨んでいるが―――、自分達が乗っ取り易いように細工したのだ。そのせいで魂は傷付き、取り込み乗っ取るのも容易になっている。』
ここで言葉を切り、場に流れる長い沈黙・・・
「つまり、彼等も元は人、と?」
『そうだ。京が言ってた通り、聡明な娘だな、聖よ。』
その声で顔を反らす京と顔を赤らめる聖。
「おぅおう!雨宮もやるなぁ!」
冷やかしながら肩に手を回す島と舌打ちしながら飛びのく京。
『クックック、面白い物が見れた。それで―――これも仮説だが、先程のウィルスは魔力の無い者に感染し―――』
「魔力の無い者に感染!?じゃあ私達も?」
『慌てるな舞よ、お前達は現在魂が覚醒しつつある。6日前、私はこのウィルスを感知してから京に周囲の人間に魔力を流し込ませた。』
「それってあの直前の説明会で続々と失神した人が出たことと関係あるの?」
無言で頷き肯定する京。
『素質のある人間はそのとき魔力に目覚め、微量ながらも魔力を保持している故、感染の心配はない。目覚める確率はだいたい10%。お前達全員が覚醒しつつあるのは―――天文学的確率、奇跡に近い。』
「ってことは!」
勢い良く言う島。
「俺達もさっきみたいな事が出来るのか!?」
「ああ、あれは威力を抑えたし、あの程度は不可能ではないだろう。しかし人には魔法の属性によって得手不得手がある。今からそれを確かめてやる。」
そう言って1番近くに居た島の手を掴もうとすると割り込んで来た舞に手を掴まれ、止められた。
「待ってよ、雨宮君、あなたその素質を調べて魂を取り込もうってわけ?」
根も葉も無い言い掛かりに目を丸くする。
「確かに出来なくはない。だがそんなことはしない。」
「何故そう言いきれるの?」
「俺の器は既に俺とアジーンの魂で限界に近い。こいつだけでも耳が痛いのにお前みたいな奴の魂を受け入れると思うと・・・」
言いながら身震いする。
「はっはっは、確かにそうだぜ!こいつの口は―――」
そこまで言った時、島の鳩尾目掛けて最短距離を走り飛んで来る拳―――
ドスッ
舞の見事なストレートが決まった。
「グッ、良い一撃をお持ちだ・・・」
「五月蝿いよタカ!」
残心しながら怒った表情をしている舞。
『ほう!今の一撃は京と比べても遜色無い。舞には体術の素質があるな。これで強化補助魔法が得意ならばかなりの使い手になりそうだ。』
「五月蝿い!」
「アジーンに突っ込む程の命知らずは初めて見た。こいつも・・・魔族の中では3本の指に数えられる強さなのだがな・・・」
感心した感じでさらりと言う。
『ククク、良いではないか。私を恐れずに突っ込んでくるとはますます面白い娘だ、気に入った。』
「魔族?に気に入られても嬉しくないんですけど・・・」げんなりした表情の舞だが先程までの刺々しさはない。
と油断したところをすっと京が手を握った。
「――伊沢には強化補助系の素質がある。後は炎属性が得意だね。」
「なっ―――」
顔を真っ赤にしながら掴まれた手を振りほどく舞。
「どうした?」
悪びれる様子もなく尋ねるが舞はぷいとそっぽを向いてしまった。
『クックック、京よ、異性の手に触れる時は先ず許しを乞え。』
「舞には必要ないぜ?あいつ女の体をした男だし。」
ドスッ
せっかく回復した島が再び地に膝をつきドッと倒れ込む。
「舞ちゃん、そういうところが・・・」
「レイまで・・・」
ヒーンと泣きまねをする舞を無視して次にぼーっと状況を見ていた英司の手を取る。
「草野は雷の属性が得意みたいだね。後はバランスが良い。」
「雷ってどんな事が出来るのかな?」
「どの属性も訓練次第で何でも出来る。」
「ふ〜ん。」次に地面で転げ回っていた島の元へ行く。
「ヒール」
たった一言でもんどりうっていた島の動きがおさまる。
「助かったぜ。」
余程苦しかったのか、まだ息が粗い。
それには答えず、無言で手を掴む。
「お前は―――何もないな・・・」
「え!?ちょ?何も無い?」
首をガックリ落とす。
「心配するな得意な物が無いだけでバランスがいい。俺と同じ万能型だな。」
それを聞いた瞬間嬉しそうに手を突き上げる。
『万能とは珍しい。鍛えれば強いが、特に目立って強いものが無い上、得意な奴と同じ属性で競り勝つ事は難しい・・・』
「げっ!なんだよそれ?」
「血の滲むような努力が必要と言うことだ。」
それを聞いて次はげんなりした顔になる。
「良いか?鈴村?」
無言でこくこく頷くのを見て手を取る。
「氷属性と―――!?珍しいな、探索補助系。」
「探索補助?」
「ああ。一重に探索補助と言ってもさらに色々に分けられるがそこまでは分からん。」
「ふ〜ん・・・」
大きく溜息をつきながら紗耶香の方へ向き直る。
「良いか?」「嫌です?」
「?」
「?」
「紗耶香・・・」
と聖が肩に手を置く。
「どうしたの?」
「意地悪してみたくなったの〜」
「まったくこの子は・・・」
と二人で息の合った親子のようなやり取りの流れをぶった切る。
「・・・・・良いか?」
「良いよ〜」
溜息をつきながら手を取る。
「へえ・・・風属性が得意で補助全般が得意、か。これは後衛向きだな。」
「風〜?補助〜?」
そう言って京を見上げる。
「さあ、最後だ・・・良いかな?」
目を見ながら聞くと頷きながら手を―――(握られた!?)
予想外の事態に慌てる。
(落ち着け。素数を数えて――)
「どうしました?」
「い、いや、何でもない・・・」
「声が上擦ってるよ〜」
この時程京が紗耶香に脅威を感じた事はない。
(クッ、俺は・・・)
『紗耶香、そこまでにしておいてやれ。京が取り乱して半径1キロを吹き飛ばさないとも限らん。』
「グッ・・・」
普段顔色に変化が無いので一部の男からは冷血動物と呼ばれていたが、この時の頬の紅潮を見ればその陰口も払拭出来るだろう。
もっとも、別の冷やかしが入りそうだが。
「石崎は・・・珍しい、光だな。」
「光・・・ですか?」
「光だ。魔族の闇とは絶対的に反対で、魔族の天敵に成りえる。故に狙われやすいので注意が必要だ。」
心配そうな京とは対照的に状況が分かってない呑気な紗耶香。
「聖ちゃんにはピッタリだよ。いつも人から注目されてるし、光り輝いてみえるよ。」
「そんなことないよ・・・」
そんなやり取りを見ていると不意に一本の電話が京にかかって来た。