序章:4ASSAULT
話の構想が出来ていてもなかなかそれが文になりません・・・
7月16日午後4時、山梨県青木ヶ原樹海―――
「だぁぁぁあー!何で俺がこんな面倒な事をしなけりゃなんねえんだ!!」
「それは隆ちゃんが寝坊して――」
「だぁーっ!煩い!英司、だ・ま・れ!」
ガンッ
「隆ちゃん痛いよ〜・・・何で殴るんだよ〜」
「勢いで」
「酷いよ・・・僕何もしてないのに・・・それより早く薪集めて帰らないとまた舞ちゃんに怒られるよ?」
「待て、その悪鬼の名を出すな、祟られるぞ!ただでさえ自殺の名所と言われる富士の樹海に二人で居るんだ、何があるか分からんぞ」
「悪鬼って・・・わけわかんないよ・・・」
ガンッ
「馬鹿!俺達をこき使ってこんな辺境に派遣したのはあいつだろうが!」
「痛いよ・・・それよりそろそろいいんじゃない?」
「そうだな、そろそろ戻るか・・・」
樹海とはいえキャンプ地から離れてなかったので遭難することはなかった。
「遅いよ、隆、英司!」「お前・・・俺達がどれだけ辛い思いをしたか・・・」
「そんなことなかったよ〜」
「英司、黙れ」
キャンプ地の一画で口論する3人の男女。
取り分け激しい口論というわけでもなく、ある種の定例の挨拶のような慣れてる感じがある。
「隆、それ以上口答えしたら晩御飯抜きだよ?」
「ごめんなさい」
以上で決着した。
「ほらほら、舞もそのぐらいで許してあげなよ」
「夕食も出来ましたよ」
いつの間にか舞の背後に立っていた二人のグループのメンバーが声をかける。
「そうね・・・じゃあご飯にしましょう。隆は部屋から雨宮君呼んできて、英司、行くわよ」
言うなりさっさと歩きだす。
「ちょ、待てよ、まだこき使うのかよ・・・」
「待ってよ〜」
「ったくしゃ〜ね〜な〜・・・」
コンコン
ドア越しにノックしながら声をかける。
「おい雨宮、飯だぞ」
「分かった」
良く通る低い声で返事してギギギと戸を軋ませながら開き、黒い中折れの帽子を押さえながら黒尽くめの長髪の男が出てきた。
「よっしゃ、行くか!」
「・・・」
午後8時―――
キャンプ地とはいえ、文明から離れた森の中は薄暗く静かで、時折パチパチ弾ける焚火の音以外に音は無く、動くものもなかった。
「・・・で、この沈黙は何なのよ?」
「舞・・・お前この雰囲気を壊すような発言するなよ!」
「明日には帰るんだなって思うとなんだか名残惜しくて・・・」
「うんうん」
「英司は・・・寝てるな・・・おい、起きろ」
ガンッ
「痛いよ〜・・・もう朝なの?」
ガンッ
思えば6日前から始まった、教務主任の提案で3年前から始まった
「自立する力を養う」と言うコンセプトのもと学園の3年生を6〜8人グループに分けて樹海近くのキャンプ地にて4〜5キロ事に拠点を置かせ、生活させるというこのふざけた合宿、男のみで構成されたグループの食事は悲惨だと聞く。
去年のあるグループは全員5キロ前後痩せたそうだ。
そんなこんなで最初は嫌々だった皆も帰る直前となると感慨深くもあり、少々名残惜しく感じていた。
午後9時、雨宮 京―――
食後自分の分を片付けるとさっさと7人で泊まっている小さいログハウスの自室に戻り一人真っ暗な中で何をするわけでもなく、珍しくぼんやりしていた。京自身は特にどのグループに所属しているわけでもなく、今回は一人で居たところを舞達が勝手に引き込んだことによって同じ班となっていた。
(最後くらいは話してみるか・・・)
そんな事を考えながら手に持っていた透明な液体の入ったボトルを再び煽ろうとした時、不意に肌がピリピリと静電気のような物で刺激されるような感覚に陥った。
(アジーン・・・?)
自分の中にある自分で無い者に語りかけると頭の中に声が語りかけてくる
。『魔族・・・がお前達に接近してきている・・・』
(狙われてるのか・・・?)
『恐らく。このままでは外の者共は確実に死ぬ。』
(この程度にやられるなら先が無いな。)『クックック、確かにそうだが、お前も初めて魔族と戦った時、直前で私が契約して助けてやらねば確実に死んでいた。』
(昔のことは忘れろ。で・・・どうすればいい?)
『頃合いを見て助けろ。もしかしたら魂と器が覚醒するやもしれぬ。それにあの魔族共にはおそらく悪魔族の息が掛かっている。・・・私との契約を忘れるな。』
(魔族にして同じ魔族に敵対し、更に人間を助けるか・・・)
『太古より竜族と悪魔族は魔界の覇権を賭けて争い、また種族の性質上相いれぬ質なのだ。』
(・・・)
『とりあえず手遅れになる前に行け。奴らはもうそこまで来ている。』
石崎 聖―――
俗世から隔離された世界で気心知れた友人達と過ごし、また少し絆が深まったような気がした。
隔絶された状況での共同生活は自然と仲間意識を芽生えさせる。
そんなことを考えながら星空を眺めていたが、ふと何かを感じ、視線を空から離し、近くに向けてみると東にある木立の中に不自然に赤く光る点がいくつか固まって見えた。
(何かしら・・・?)
じっと見ていると赤い点は2〜3個ずつ等間隔に移動し、30秒程で扇型に広がった。
と、隣で夜空を見ていた紗耶香も気付いたらしく声を上げる。
「聖さんも気付いてた?なんだか見られてるみたいで気持ち悪いね・・・」
―見られてる?
そう言われて見るとこちらを品定めしているように観察している目のように見えなくも無い。
しかし夜に赤く光る眼だなんて聞いたこともないしありえない。
とりあえず反対側で空を見ている舞にも肩を叩き、続けて木立の影を指差して知らせる。
「何?あれ・・・」
そんな事をしているうちに赤い点は徐々にこちらに近付いて来た。
近寄るにつれて速度を上げながら。
あと少しで木立から出て来る――距離はもう10メートルも無い。
―――危険だ
本能がそう告げて警鐘をならしている。
しかし金縛りにあったように動けなかった。
木立から出て月明かりに照らされ、徐々に姿を見せたそれは人だった。
―――いや、人にしてはおかしかった。
赤い眼をギラギラさせ、身体からは人にあらざる何かが感じられた。
近付くにつれて人では有り得ないごつごつした灰色の肌、さらにそこから飛び出している君が悪い触手のようなもの。
死人のような色をした腕が腰の辺りから1対突き出ている者、獣のように這っている者。
極め付けは何やら死んだ血だらけの小動物を口にくわえている者だった。
―――ヤバイ
頭では分かっているが恐怖で足がすくんで動けない。
(―――逃げないと)
怪物と自分達の距離があと5メートルぐらいというときに間に進み出る人物がいた。
隆雄だった。
右手には燃え盛る木の枝を握りしめている。
恐らく残っていた焚火から引っ張り出したのだろう。
「お前ら!逃げろー!」
そう叫びながら1番先頭にいた4本腕の怪物に突進していったが、2本の腕で動きを止められ、残りの2本で弾き飛ばされ、体勢を崩した所に飛び掛かられマウントを取られた。
怪物が今にも喉元に食らい付こうかというタイミングで同じく隣で固まっていた舞が我に帰り、手頃な石を掴み叫びながら4本腕の怪物目掛けて投げた。
「たか―!」
そう叫びながら投げた石は見事4本腕の怪物の後頭部に命中し、あまりダメージは無かったようだが注意を引いたらしく、怪物がこちらを向き、怒りの叫びを上げた。
―――島 隆雄
ギャアア――!
俺の上にのしかかっている怪物が叫ぶ。
恐らく先程の声からして舞が何か投げでもしたに違いない。
怪物の注意を引き、顔を舞達の方に向ける。
咄嗟に右手に掴んでいた燃え盛る木を振り向く怪物の口に突き立てた。
「喰らいやがれ!オラァ!」
ズボッ!
ぐにゅぐにゅした肉を付く嫌な感触と共にズブズブと木が口に飲み込まれていった。
ギャアア――!
流石の怪物も堪らず叫び、俺の上から転げ落ちのたうちまわる。
ふと向こうに目を向けると他の2匹がそれぞれ山下と鈴村に飛び掛かろうとしていた。
―――ヤバイ!
咄嗟に叫びながら駆け出すが、
(間に合わないか!)
そう思った時にドンッと鈍い音がして山下に飛び掛かろうとしていた怪物が吹き飛ばされ、鈴村に飛び掛かろうとしていた怪物を巻き込んで10メートル程吹っ飛んで行く。
何が起こったのか理解出来ずにいるとそこにはこの場にはいなかったはずの雨宮が刺すような視線を吹き飛ばした怪物に向けていた。
―――雨宮 京
魔族に襲われている島達から5メートル程距離を開け、秘匿結界を張ってはいたが至近距離から観察していた、もとい見守っていた。
島が魔族に有効打を与えたは良いが、鈴村と山下が襲われる寸前で潮時と判断した。
急いで障壁を崩し、右足で地を蹴り様に魔力を放出し、一度の踏み込みで常人では目に追えぬ速度まで達し、続けて左足でも魔力を放出しながら地を蹴り加速し、2体の魔族を一直線上に捉えながら飛び蹴りを見舞う。
直撃させた瞬間に対象のキャパシティーを遥かに超えた魔力を送り込み、麻痺させながら吹き飛ばし、その反動と手からの魔力の逆噴射を利用して停止する。
一連の動作だけで0.1秒もかかっておらず、周りは俺が突然現れたように見えるはずだ。
そこから右手を吹き飛ばした魔族に巻き込まれた対象に向け、軽く魔法を発動させる―――
「ヘヴィグラビディ」
重圧を局所的に増加させ、対象を圧死させる。
ベキャァ!
たったそれだけの音を残して息絶える。
続いて島に燃え盛るを差し込まれて悶絶している魔族にも同様の魔法を使い始末する。
10秒足らずで片付け、一匹だけ弱らせて生け捕りにした魔族の周囲に障壁を展開し、閉じ込め振り返る。