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2章:11MAIRESSEFEUER

そろそろ話の方向性を決めねばと思いつつ…

やっぱり思い付いた事を適当に詰め込むだけの散文に…

「断る」


 ガレスティアのギルドの2階でバンと机を叩く音と共に冷たい返事が成される。


「だよねぇ・・・俺も一応断ったんだけど、先方がどうしてもと言って譲らなくてねぇ・・・」


 頼みを断られたアレスも堪えた様子は無く、さも当然といった様子で会話を続ける。


「おい、待てよ雨宮。お前せっかく来た初めての依頼をこうも無下に―――」

「駄目だ。それにお前、まずこの依頼内用を読んだのか?」

「いや、まだだ。まだってかお前目の前に依頼書置かれて3秒で蹴ったよね?」

「書類の内容はこうだ、――(前略)――(中略)――(以下略)」


 京は書面を全く見ずにすらすらと一言一句違わずに内用を全て言って見せる。


「――ぶぅッ!? 覚えとる!?」


 たった3秒でそれなりに文字の黒で埋められた書面を暗記するという離れ業をやってみせた京に対して島が物珍しい物でも見たかのようなリアクションをとるが、今回は同じくテーブルについていた英司にアレス、ユーリも同じように驚いた顔をしていた。


「お前ってマジで何者なの?」

「信じられん」

「信じられないよ」

「その才能、ハンターにしておくのは勿体ないですね。どうです、よかったらギルドの受け付けの仕事などは? 常時人手が足りない状態ですので」

「おいおいユーリちゃん、君も昨日の試合は見たでしょ? 何をしたにしろ、あんなに凄い力を持った人間に事務仕事をさせるのは―――」

「いいえ、こんなに素晴らしい記憶力を持つ方に―――」


 何故か京の事で軽い口論を始めるギルド長と、その秘書兼ギルドの受付嬢でアレスの息子の嫁のユーリ。

 だが、正面で繰り広げられる戦いには我関せずと言った様子で京は懇々と何故依頼を受けられないかを島と英司に説き続ける。


「いいか、依頼内容は簡単だ、キャラバンを王都まで護衛することだ。だがよく見ろ、依頼は片道のみの依頼。加えてこの報酬では往復の必要経費だけで赤字確定だぞ?」


 先程、ヴォルドの工房を出てしばらくしてから急に島が付けていたリンカーと呼ばれるブレスレット型のハンターズギルドから1チームに一つ支給される緊急用の呼び出し道具が反応し、男3人が抜け出してギルドに来た所、いきなり初仕事の依頼が来た。

 通常、結成されて間もないチームに直接依頼が来る事はまず無い為、リーダーの島が二つ返事で請けようとしたのを留め、京が依頼内容を確認したところ案の定人を食ったような内容の依頼だった。


「げげっ! そりゃ駄目じゃねぇか!」

「だから受け無いと」

「こんな事で急に呼び出して悪いねぇ・・・ 先方は昨日のキョウ君の戦いを見てたらしくてさ。それで駆け出しのランクも無いハンターなら依頼料も安いし、何より実力も見た限り文句なしだったみたいだからね・・・ 本来なら護衛は中堅ハンターしか受けないって言ったんだけど、聞かなくてね。まぁ、俺は一応話は伝えたよ」


 いつの間にかユーリと舌戦を終え、見事に打ち負かされたアレスが意気消沈しながら事の由を話す。


「次の話はね――」

「ちょ、待った。まだあんの? 先に言っとくけど、似たような依頼は断るぜ?」

「分かってる、他にも30件ぐらい依頼が来てるけど全部断っておくよ」

「な、なんか軽く聞き捨てならない数値に聞こえたような・・・まぁいいか」


 度を越えた数に軽く目眩を覚えた島が頭を押さえながらそれをかみ砕き、入れられたばかりの紅茶を喉に流し込む。


「でね、次の話はチームの構成人員の調整についてなんだけど・・・」


 ユーリがさっと書類の束を取り出し、京達の前に置く。

 厚さ1センチ程の量に、それを見た島が軽く怯む。


「うわっ・・・ なんだこの量はよ?」


 げんなりした顔で島が言う。


「その書類はね、現時点での君達のチームの加入希望者の数だよ」

「は?」

「いや、だからね、君のチームに入りたいって人達の数だよ。いや〜、みんな昨日の事見てたみたいでさ。凄い人なんかCランクのハンターが申請出してるしね」


 アレスが書類の束から一枚抜き出してそれを1番上に重ねる。


「し、Cランクっていうと普通に一人前のハンターじゃねぇか!? それがEランク集団のチームに入るってか?」


 1番上に重ねられた2人のCランクのハンターの簡略化された履歴書を交互に見ながら島が言う。


「確かに、通常なら有り得ないだろうね。でも皆『見た』んだ。彼が目にも留まらぬ速さでアイリスを下す場面をね」


 アレスが手を京に振りながら言う。


「うっ・・・確かに・・・でも困ったな、俺達のチームには――」

「却下だ」


 成り行きに会話を任せていた最強の構成員が突然リーダーを遮る。


「うちのチームに増員する予定は無い。今も、これからも」


 京が撥ね付けるように言う。


「だが、わざわざ申請までしてくる者を理由も無しに撥ねるのは、少々酷だ」



 ニヤリと悪意たっぷりに含み笑いをしながら京がアレスに条件を伝える。


「そうだな、条件を付けるとしよう。・・・条件は・・・テストの名目で俺一人と戦い、勝つ事。どうだ?」


 その場に居る全員が思った。

 お前、全く入れる気が無いだろう?と。

 恐らく現時点でこのチームに加入を希望している者達はそのアレスさえも目で追えなかったその優れた能力に憧れ、半ば師事するような形で加入を希望しているのであって。

 そんな人間が京に敵う筈が無いだろう、と。


「お前・・・鬼だな」

「寧ろもっと酷になってないかな?」

「酷いですね・・・」

「(ガクガクブルブル)」


 誰もが恐れ多い者を見るような目で京を見た。


「なんとでも言うがいい。そうだな、第1回目の試験は5日後に行うとしよう」

「分かった。じゃあ希望者達にはそう伝えるとしよう、5日後と」



 ユーリが新たに一枚の紙を取り出し、島に渡す。


「へぇ、トーナメント表かよ」


 その紙を受け取り、全体を流すように見た島がそのまま京と英司に回す。


「多分そのトーナメント表のままなら間違いなく君達のチームは最後に武皇と当たるだろうね」


 アレスがトーナメント表の4ブロックに別れた内、京達の属するチームが含まれる第4ブロックの一点と、第1ブロックに含まれるシード枠の一つを指差す。


「他のチームの名前見ても強いか全然分かんねぇんだけど?」

「うん、ブロック分けについてなんだけど、第1ブロックはAランク以上のチームが、第2ブロックはCランク以上のチームが、第3ブロックはEランクのチーム。最後に第4ブロックで戦うのはランク無しのルーキーチームなんだよね。当然君達は第4ブロック」

「へぇ〜・・・それなら俺達でもいけそうだな・・・」

「ふふ、今回もまた期待してるよ」


 新たな娯楽に浮かれ気味のマイペースな口調のアレスと何やらギルドに漂う気に当てられて、おかしな妄想に頭をやられ、自らの勇姿に陶酔している島を一瞥した京はそれからしばらく口を開かなかった。



 拝啓

 新年を迎え、冬期は終わりが近いですがまだまだ肌寒いこの季節、お体の方は変わりないでしょうか?


 いろいろとあって今は魔界と言う物騒な世界に友達と送られてしまったけれど、僕は元気にやってます。


 ところで、僕はこの度幼なじみの英司君と一緒にクラスメートの雨宮君に毎日一刻も早く一人前のハンターとなる為に稽古を付けてもらう事となりました。


 雨宮君の稽古は厳しく、実戦に近い試合形式での稽古で戦いに関しては殆ど素人同然の僕と英司君に対しても容赦無い攻撃が断続的に行われ二人とも生傷が絶えません。


 それでもその日の内には彼から習った魔法で二人とも痣は治り、次の日にはまた二人掛かりで元気に彼と稽古しています。


 時節柄、一層の御自愛、お祈り申し上げます。


  右、とりあえずご挨拶まで。


          敬具


          島 隆雄


 母上様


 追伸

 今日中に注文していた武器が完成し、明日にはこの街のメレスフィアと言う祭でトーナメントに出場する運びとなりました。

 精一杯努力して良い結果をお知らせ出来るよう、より一層精進いたします。



「ひでぶ」


 震脚のエネルギーをそのまま掌底で腹部に当てられて軽く5〜6メール吹っ飛ばされる。


「グッ・・・ヴヴヴ・・・ま、参った・・・」


 仰向けに倒れたまま吐き気を堪え、俺は満身創痍の体から力をかき集め、なんとか声を絞り出した。

 そんな俺の前にはつい今し方俺を吹っ飛ばした男が佇んでいる。


「まぁ、明日は大事なトーナメントということでサービスだ、今日はこのくらいにしておいてやる」


 ああ、助かったぜ雨宮。

 太陽を背に受けるお前の顔はちょうど逆光で見えないが、おかげでよりいっそうお前が神々く見えるぜ。


「そこの気絶している奴を叩き起こして部屋に放り込んでおけ」


 向こうで気絶しているしている英司を指差しながら雨宮はそう言うとスタスタと屋敷へと一人で戻っていく。

 は? ちょっと待て雨宮!

 俺も立派な怪我人だぜ?


 全身痣だらけで鎖骨とか細い骨も何本か逝っちゃってるんだが?

 だがあいつは俺の心の叫びに気付いた様子も無く、俺の視界から消えるまで振り向く事は無かった。


「前言撤回! あいつは鬼だ! 悪魔だ!」


 神々しい? 何を言うか!

 そもそも俺をここまで痛め付けたのはあいつじゃねぇかよ!

 あの悪鬼は稽古と称したバーリトゥードで俺が一打繰り出す度にそれを捌いては2〜3発のオツリをくれて良いようになぶってくれやがった!

 ・・・ふっふっふ、だが次回の俺は一味も二味も違うぜ! 何たって武器ありなんだからな!!

 今日の昼過ぎに先日注文した武器の受け取りの約束がある。

 その名も島専用ロングソードと島専用トマホーク!

 シャ〇専用〜みたいでかっこよくね?

 あ、でもそれじゃア〇ロに勝てねえか・・・ いや、この場合、エリート街道を爆進中の雨宮がシャ〇で俺がア〇ロか?

 勿論ジオ〇グみたいに未完成なんて事は無い。

 注文時に念入りに俺に合った握りの柄と重量バランスを選定した正に俺専用の武器さえあれば・・・雨宮! 涼しい顔をしてられるのも今のうちだぜ!!

 アヒャヒャヒャヒャッッ!!!


「うわっ! タカ、あんた何一人で笑ってんの? 気持ち悪ッッ!」


 輝かしき未来を想像して悦に浸っていると急に無遠慮な歯に衣着せぬ凶言に現実へと引き戻される。


「あ? 誰だよ俺の栄光の未来を乱す奴はよ?」

「栄光の未来? あんた、さっきから妄想が口に出てたけど、それが栄光の未来として描いてるならスケールの小さな男ね〜」


 何ぃ? 口に出てただとぅ?

 目を開けると、人を馬鹿にしたような顔で腰に手を当て舞が上から俺を覗き込んでいた。


「へっ、それはまだ輝かしき船出の第一歩に過ぎないぜ!! それよりお前何時から聞いてたの?」


 辛うじて動く右手で眩しい光を遮りながら舞に訊く。

 痛ぇ・・・

 腕を動かした拍子に鎖骨に鋭い痛みが走り、一筋の冷汗が額から流れ出る。

 このままいけばそれは目を直撃しそうだが、それを拭う為に腕を動かすのが辛い。


「あら? あんた大丈夫? 凄い脂汗じゃない・・・」


 鎖骨の痛みに硬く目を閉じ、歯を食いしばっていると不意に額が柔らかい布で拭われ、嫌な汗が消えてやや気が楽になる。


「悪いな・・・」

「左腕も何箇所か折れてるみたいね。ちょっと待ってなさい」


 左腕全体がジワーっと熱くなり、何度か経験済みのむず痒いような嫌な感覚に襲われる。

 ああ、今だけは何時もは悪魔のような女が天使に見えるぜ。


「ぐぁっ!」

「ほら、動かない! 骨を正しい位置に直してから治療しないと」

「いつつつ・・・」


 も、もう少し優しく頼むぜ・・・


「まぁ、酷い怪我・・・ すぐに治してあげますからね」


 頭上から柔らかい声が降って来て、直ぐさま先程よりもより強力な魔力を感じ、暖かい光が体を包み込む。


「はぁぁぁ〜」


 全身が再生していくのを感じて暫く、そのまま意識を手放してしまった。



「久々に・・・骨のある仕事だったぜ!」


 舞の応急処置と、イザレアによる本格的な治癒魔法で完全に回復した島が京に一合目で気絶させられていた英司を殴って叩き起こしてから数刻。

 島率いる新米ハンター8人は注文していた品を受け取りにまたまた工房を訪れていた。

 今日から始まっている新春の祭典メレスフィア。

 そこで催されるチーム戦で行われるトーナメントのドクターとしてガレードとグレイは朝早くから出てしまっているので今日は馬車と御者だけ借りてここまで足を運んでいた。


「まぁとにかく現物を見てくれや」


 通されたのはヴォルドの私室。

 そこには前回訪れた時と違い、テーブルが壁際に追いやられ、代わりに13点の武器が綺麗に並べられていた。


「ふっふっふっ、俺専用武器、キター!!」



 島が訳の分からない奇声を上げながら真ん中に並べられていた二つの武器に飛び付いた。

 それを皮切りに京以外の面々も自らの武器を手に取った。


「急かしてしまったみたいで悪いな。その隈、不眠不休で作業していたのだろう?」

「なに、問題ない。久しぶりの大仕事に少し張り切っちまっただけさ」


 それぞれ武器の具合を確かめているのを少し眺めた後、京とヴォルドが部屋の奥のテーブルまで足を運んでそれぞれテーブルを挟んでソファーに腰を降ろす。


「出ろ!」


 鋭い呼吸と共に京がまた違う次元から黒い光沢のある重量感たっぷりの巨大な鏃のような物体と、同じく黒い光沢のあるそれよりやや軽い質感の鋭い何かの巨大な生物の牙を1本取り出してヴォルドの方へ押しやった。

 それを見たヴォルドは俄然興味津々な様子でそれらに飛び付くように受け取る。



「こいつは凄ぇ・・・硬度が有りすぎて加工には骨が折れそうだが、それでも武器として完成すれば現存する人工の素材を使った品では小細工無しには破壊不能・・・いや、下手すりゃ魔力で強化していても逆に破壊されるだけかもな・・・」


 あらゆる角度からそれらを観察し、またまるでそのために用意しておいたとでも言うようにテーブルに置いてあった小振りなハンマーで叩いてみたりと、ヴォルドはその物体に夢中になっていた。


「こんな甲殻に身を包んだ全身凶器みたいな化け物、ソールでも勝てるか・・・」

「ソール? 誰だそれは?」

「んんん? 知らねぇのか? お前が食っちまったアイリスのとこのリーダーだ。ただの凄腕ハンターとは違ってあいつも魔に重なる者なんだよ。あいつんとこのチームはメレスフィアでは毎年優勝する常連でよ。本人は今まで無敗で、ハンターとしての依頼成功率も100%。国王からはエーデルリッター(高貴なる騎士)の名誉騎士の称号を得ている所謂英雄って奴だな」

「ほう・・・」


 おまけに切れ者で顔も良く、若くして人望もあり、また個々の能力が高いながらも我が強すぎる人間の集まりの武皇を纏める程のカリスマ。

 つまり、非の打ち所の無い真人間ということらしい。


「明日の試合、流石に嘗めて掛かったら痛い目に合うぜ」

「有り難い忠告どうも。勝ったら勝ったで面倒そうだ。まぁ今回はそいつの顔を立ててやるとするか」


 さほど興味が無い様子で京は立ち上がり、出口へと向かう。

 他の全員は武器を馬車まで運んでいるためその姿はもう建物の内には無かった。

 早くその新しい物を試したくてうずうずしているに違いない。


「さて、じゃあ俺はもう寝る。二日振りの睡眠だぜ・・・」

「・・・では、また明日にでも」

「ああ、んじゃあな」


 工房の戸を後ろ手に閉めて、京は馬車へとゆっくりと歩き出した。



「あべしっ!」


 夕刻を過ぎ、徐々に視界が悪くなり始めた頃、エイジスト邸の庭で山なりの軌道を描きながら吹っ飛ばされる人影が一つ。

 その正面にはその影を吹き飛ばした張本人が双刀を手に持ち、今し方対象を膝で蹴り飛ばしたままの状態で残心していた。

 そのふたつの影を囲むようにまたいくつかの影が円を組むようにして立っていた。


「常に相手の全身を視界に捉えろ。何処からの攻撃にでも即座に反応できるよう視界の広い範囲に集中するんだ」


 地面で直撃を受けた腹部を押さえ転げ回る島が取り落とした薄暗い中でも尚白く煌めくオリハルコン製のロングソードを拾い上げた京がそれを島へ向けて投げる。


「うぉ!?」


 寸分の狂いも無く飛来するそれは島の顔を掠めるように飛び、頭の少し上に突き刺さる。


「武器を持ったからといってそれに頼った単調な攻撃になるな。攻撃のバリエーションが少なくてはすぐに相手にそのパターンを看破されてしまうぞ」


 だがそんな事にはお構いなしに京は島に淡々と戦いの講義を続ける。


「いや、全身って、おま、俺は今攻撃したと思ったらいきなり衝撃を受けて吹っ飛ばされてたんだぜ? お前が動いたことすら分からなかったつーの」


 周囲の人間からは辛うじて京の動きが見えていたぐらいで近接していた島にそれが分かる筈も無く、もっと加減しろと猛抗議。

 因みに今の島が吹き飛ばされるまでにあった出来事はこうだ、いきなり適当な追い足で距離を詰めて京を間合いに捉えた島が中途半端な横薙ぎを繰り出してすぐ、京はそれを双刀で軽く受け流すと同時に無防備な島の下半身に対して右足で足払いを掛けたあと、返す左足で落ちてくる島の胴体に強烈な膝蹴りを喰らわせたのだ。

 それが0.5秒程の間に全て行われたのだ。


「ならばそれが全て目で追えるように努力しろ」


 素人に無理難題を与え、平然とまた無茶を突き付ける京はそのまま歪な薄い笑みを浮かべる。


「うわ、お前今顔が物凄く怖かったんだけど・・・」


 イザレアに腹部のダメージを治して貰いながら今だ上半身を起こすのがやっとの島が京を指差して叫ぶ。


「お前絶対Sだろ? ドS、ドドドドドドドドドドドドドドS。変態サディスト野郎が!!」


 またまた京の怒りに触れるような事をぬけぬけと言う島。

 言ってしまってから自分が地雷を踏んでしまった事に気付いた時にはもう時既に遅し。

 これから始まる惨劇を予想したギャラリー達はいそいそと暖かい屋敷の中へと退散し、庭に残されたのは島と京だけ。


「ちょ、お前ら待てよ! 俺一人だけ残してくのかよおい? そんな殺生な―――」

「お前一人? そんなことはない。ここにもう一人いるじゃないか。ドドドドドドドドドドドドドドSのサディストがなぁ・・・!!」


 島が屋敷に向かう人影の後ろ姿に伸ばした手を下げ、恐る恐る振り返る振り返る。


「さあ、楽しい稽古の続きを始めようじゃないか」


 そこにはいつの間にか召喚した他の2振りの剣と共に先程まで手に持っていた双刀を宙に浮かべ、両手にそれぞれ4本ずつナイフを指の間に挟み持つ悪魔が玩具以外誰も居ないのをいいことに、とびきりの嗜虐的な禍禍しい笑みを浮かべて圧倒的な存在感を放っていた。



「ぎ、ぎゃぁぁぁああぁあああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」




「ふぅ〜、疲れた・・・」

「あぁ〜、草臥(くたび)れた・・・」


 夜8時過ぎ頃、メレスフィアのトーナメント一般人の部に出場していた全ての負傷者の治療が終了したガレードとグレイの親子が帰宅した。

 今日は一般の部ということで大した武器も使われず、せいぜいそこらの木を削って作られたこん棒止まりだった為、そんなに酷い負傷者も出ずに済んだ。

 そして外回り用の荷物と防寒用の外套を使用人達に手渡した二人が居間に踏み込むとそこでは奇妙な光景が広がっていた。

 ソファーでは肩から毛布を掛けられた島がもうお嫁に行けない、としくしく泣きながら訳の分からないことを口走り、その回りを多数の女性陣が取り囲み、必死で宥めている。

 かと思えばテーブルではすっきりしたような清々しい顔をした京を始め、彼から何かを聞き出そうとしている舞と舞に半ば無理矢理引っ張って来られた聖が京に付き合って酒を飲んでいた。


「いったいこれは・・・?」


 グレイは現状を把握しようとその場で固まってしまったが、ガレードは全員がその場にいるのを確認すると現場の様子を気に留めた様子も無く、さっさと着替えるべく自室へと引き揚げていった。


「はてさて、いったい何があったのでしょうか?」



 困ったように呟いて、グレイもまた着替える為に部屋に引き上げていった。



「はぃいいい? 聞いてねぇんですけどぉぉお?」

「うるさい。口頭で説明などされていない。最初のエントリー用紙にルールは全て記されていた。この場合、単なるお前の落ち度だ」


 現在、俺率いるチームの内の俺を含めた野郎は全員トーナメント出場のため、ギルド所有の第1闘技場の控室にいた。

 そして今俺は雨宮から衝撃的なショッキングでいて一撃にして未来予想図を粉々にするような狂言による凶弾を受け、打ち拉がれている訳だ。

 日く、このトーナメントではDブロックのルーキークラス戦ではお互いにステージに武器を持って入ってはいけないらしい。

 そりゃないぜ! せっかくの俺専武器達が日の目を見られないだと!?


「っつーかお前この事知ってたのかよ!?」

「当然だ」


「なッ!? なら何でもっと早く言わねーんだよ? 昨日の惨劇は結局俺がお前にいいようにいびられただけなのかよ?」

「お前はそんな事一言も聞かなかった。それにあれはお前が自分で禍に飛び込んで来ただけだぞ?」


 駄目だこいつは・・・

 一般的な思考がまるで通じねぇ・・・

 もう一人のチームメイトに助けを求めるも、使い物にならず・・・

 嗚呼、こいつら・・・

 ・・・ったく、おかしいと思ったぜ。

 家出た時点で雨宮が武器持ってないって事から気付くべきだった。

 完璧超人が忘れ物かよ、あひゃひゃひゃ、ぐらいにしか思ってなかったぜ。


「あの〜・・・試合開始5分前です。そろそろ第1闘技場まで選手の方お願いします・・・」


 鬱なため息を吐きまくっているとやたら線の細い兄ちゃんが遠慮がちに控室に顔を覗かせた。

 怖えぇなおい!

 入口から首から先だけ出してんじゃねぇよ!


「分かった」


 今まで俺が何をしても、何を言っても動かなかった雨宮がベンチから重い腰を上げ闘技場まで続く通路を歩き出し、慌てて英司がそれに追従する。


「ちょ、おま、待てよ。リーダーは俺だぁあぁぁぁあああ!」


 あいつ歩くの速過ぎだろ・・・

 俺が固まっていた間、たった10数秒で50メートル近く進むやつが何処の世界にいる?

 競歩やってんじゃねーぞ?

 慌てて追いかける俺が追い付いた時には既に闘技場のど真ん中にいた。

 半径20メートル程の巨大な円形のスタジアムを囲む客席は既にほぼ満席で立ち見している人間の姿もちらほら。

 この前の雨宮の試験の時もなかなかの物だったが、今日は全ての規模が違う。

 へぇ〜これはなかなかして―――


「最初ぐらいは一人でやれ」


 会場の熱気に押され気味で棒立ちになっていると不意に横から雨宮に話し掛けられる。


 意味が分からずに横を向くと既にそこに雨宮の姿は無く・・・


「は? おま、何言って―――」

「俺はお前達が倒れるまで手出しはしない」


 斜め後ろから再び聞こえる声。

 先程の立ち位置から一歩下がった所にいる雨宮とその反対側にいる英司はまさにリーダーを立てる並び方で、俺一人が前に押し出された格好だ。

 英司、お前俺を生け贄にするつもりかよ!?


「両者共準備はいいですか?」


 無情にも、試合を開始しようとする審判。

 お? 敵さんはもう準備OKってか?

 ばらばらに立っている敵チームのリーダーらしき最前列にいた少年がガチガチに固まりながら機械みたいにガックンガックン頷く。

 ・・・はぁ、しゃーねーな。


「いつでもいいぜ!」


 とりあえず威勢良く啖呵を切っとく。

 初っ端から嘗められちゃしまいだからな。

 ここにきて初めて対戦相手を確認する。

 相手はいずれも15〜6歳の子供で、まだ成長期に差し掛かったばかりの体はひょろひょろしていて頼りない。

 一応ハンターなのだから鍛えてはいるのだろうが、急速な骨の成長に筋肉がついていけてないらしい。

 おまけに素手でおどおどとこちらの様子を窺っているのは見ているだけで自分が悪いことをしているような気になってくる。

 助けを求める様に後ろを振り向いても誰も目を合わせてくれない。

 ちょ、マジで俺一人でやんのかよ?

 いくら6対1でもこれはいじめだろ?

 日本人の成人男性の中では無駄にでかい180オーバーの自分の体と少年達の体格を見比べる。

 1番大きい少年でも頭1つ分の身長差がある。

 畜生、怨むぜトーナメント組みをした奴・・・


「それでは第4ブロック第1試合・・・試合開始ッッ!!!」


 メレスフィア二日目第1試合の火蓋が切って落とされた。

途中ネタ入ってますが作者はまだ18ですのでwww

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