2章:9UNFAIR MATCH
やっと更新。
設定等、実在事項からの引用は覚書で書いているので少々時系列にズレが生じている可能性がありますが、何分即興で書いているだけなのでご容赦ください(´Д`;)
聖の静動入り混じる不思議な状態の構えに向かって京が一般的な一刀一足の間合いから飛び込み様に乱れの無い黒い滑らかな軌跡を残しながら下段から逆袈裟に切り上げる。
剣速は速いが、綺麗に残る太刀筋のおかげで聖には容易に刃の軌道が目で追える。
フッと鋭く息を吐き出しながら京の斬撃に合わせるように荷重を前方に載せ、そのまま袈裟に切り下ろしを放つ。
―――っつ!?
太刀同士が触れ合った瞬間にぶつかり合う剣速以上の力で横に弾かれそうになる。
慌てて飛ばされないよう強く握り直した太刀を京の刃に押し付け、そのまま腕と足のバネを使って後ろに大きく跳び退く。
「ハァッ!」
離れ際に素早く太刀を持ち直し、空中に浮いたままでコンパクトに面打ちを放つ。
正確に打ち出された一撃は並の使い手なら急に負荷が消えて崩れた体勢でモロに喰らってしまうだろう。
だが京は普通では無かった。
聖の太刀が離れた瞬間京の眼が鋭い光りを宿し、前に飛び出して崩れた荷重をそのままにケリ脚で地を蹴って追い足に転じる。
―――えっ!?
当然逃げ足よりも追い足の方が速く、京は直ぐさま聖を間合いに捉える。
京は打ち下ろされる刃を太刀を掴んだ右手の甲で自分の右にグイッと押して横にいなす。
―――しまったッッ!
宙に浮いた聖の両手は横に流され、不安定な状態では足を使う事は儘ならない。
対する京は聖の両の手を塞いだ右手以外は自由で、さらには半身になった状態で、出足の左でカベを作って上体のみ勢いをそのままに完全に体重を載せた掌底を打ち出している。
シュッと鋭く風を切る音がして聖が負けを悟って強く眼を閉じた。
このまま喰らえば確実に吹き飛ばされ意識が飛ぶ、あまり格技に詳しくない素人でもそうわかる一撃。
だがそれは聖に当たらなかった。
正確には聖が目を閉じた瞬間に京によって手は勢いが殺され、荷重も崩して打ち抜く掌底は押し出す形に変えられ、聖の胸をそっと押し出して軽く転ばせただけだった。
「思ったよりいい動きだ。・・・最後の離れ技は中々良かった。まぁ・・・PTを組む分ならハンターとしても問題無いだろう」
京は押し出した格好から体勢を戻すと聖に称賛の言葉を送り、手を差し出す。
「?」
だがその言葉は届いて無いようで、聖は胸を押さえ、茫然とした表情で手にも反応しない。
仕方なく京が聖の手を取り強引に立ち上がらせ、激しい動きの疲れが残らないよう回復魔法を掛けてやる。
余談だが、この時聖が身につけていた魔導器はその性質上、創造主である京の攻撃に全く反応しなかった。
「二人共、朝から元気なのね」
回復魔法を掛けても反応の無い聖に訝しいむ京に誰かが後ろから声をかける。
「?」
京が聖を支えながら振り向くとそこにはグラスと水差しを載せた盆を持ったイザレアが静かに微笑を湛えて佇んでいた。
それから後、京は反応が無い聖をイザレアに預け、一人屋敷に戻った。
別れる前にイザレアから差し入れられた飲み物は初めて飲んだのに覚えがある味がした。
昼過ぎ、京は一人外出してヴォルドから鞘を受け取り帰宅した後はその日一日中やることも無く、自室で散策ついでに買ってきた分厚い魔族についての本を庭から聞こえてくる掛け声をBGMに貪り読んでいただけであった。
「話って何なんだよ?」
「さあ? 僕だって今来たとこだし・・・」
夕食後、別世界からやってきた7人の男女が京の部屋へと呼ばれていた。
しかし、呼ばれて来てみたのはいいものの、部屋には肝心の京の姿は無く、最後に部屋に来た島が入口前に突っ立っていた英司を問責する。
「シャワーでも浴びてるんじゃないの? ザーザー水の音がしてるし。・・・ほら、出てきた」
部屋の奥からバタンと音がしてシャワールームに通じる扉が開かれ、中から髪がまだ濡れたままの京が出て来る。
この部屋のシャワールームは脱衣所と合わせて二重扉になっている。
「適当に掛けてくれ」
自らはベッド脇にある小さなテーブルとセットの椅子に腰を下ろしながら京が言う。
その言葉に各自ベッドやソファー等に適当に別れて座った。
「神火―――輪廻」
詠唱と共に青白い烈火が京の体を一瞬にして包み込む。
「うぉい!?」
「えぇ!?」
「うわっ!?」
急に京が炎に姿が消されたものだから驚嘆の表情で声を出したものの、誰も後が続かない。
炎は5秒程で急にパッと消え、再び姿が目見えた京は涼しい顔で問い掛ける。
「さて、お前達はこの世界の人間についてどう思う?」
「ばっ、おま、それより他に言う事があんだろ? 今のは何だよ? ってかお前何ともないの?」
何事も無かったかのように振る舞う京にいきなり島がソファーから立ち上がりながら噛み付く。
京はそれを横目で軽く見てからテーブルに載っている本を片しながら答える。
「髪を乾かしただけだ。魔法はコントロール次第では人体に全く影響が無い」
「それって熱で髪が傷まないの?」
京のベッドに転がる美玲が急に話に食らい付く。
「・・・?ああ、薄い魔力の膜で保護しているから問題無い」
「へぇ〜。それって私にも出来る?」
魔法で全て事足りるこの世界では科学技術の進歩が著しく遅い為、未だドライヤー等という便利な道具は存在せず、髪が長い美玲はかなり便利な方法を眼の前にして早速技術を吸収しようとする。
「出来ない事は無いだろうが、まだ魔力のコントロールに慣れない内は止めておいた方がいい。誤って火達磨になりたくは無いだろう?」
「うっ・・・確かにそれは嫌ね・・・」
嫌そうに顔をしかめながら美玲が苦笑いする。
「ともあれ、今日此処に呼んだのはこんな話をするためではない」
椅子に深く座り直して脚を組んだ京が改まって話し出す。
「改めて本題に入ろう。そうだな・・・神楽、お前はこの世界の文明についてどう見る?」
不意打ちに近い形で話を振られた神楽は腕の中で紗耶香をあやしたままの状態で固まる。
「どう、と言いますと?」
「社会、人間についてどう感じた?」
京は話しながら新調したばかりの20本のファインセラミック(カーボランダム)製のナイフをひとつひとつ癖を確かめては顔をしかめる。
「そうですね・・・文明社会のレベルでは元居た世界の中世ヨーロッパの中頃ぐらいまで達してる程度でしょうか。人、についてはまだこの世界に来てからあまり多くの方と交流を持ったわけではないのでよく分からないですが、良い方ばかりだと思います」
鑑別したナイフを癖事に法則を付けて並べ、さらにそれを二分にしながら京が再び話し出す。
「・・・前者については正しい。しかし後者については・・・違うな。確かにまだこの世界に来たばかりだから仕方ないが・・・それでも少ない標本だけで母集団全体を推定するのは危険だ」
ナイフを全て並べ終え、今度はそれらを一つずつ砥石で研磨する。
「おかしいと思わないか?異界にも拘わらずあまりにも似通った文明・・・確かにある程度の異化は認められるが根底は同じだ」
「それが何なんだよ?」
少し話が難しくなり始め、話に付いていくのが辛くなってきた島が口を挟む。
再び京は島を横目に見るとやれやれと首を振って話を続ける。
「分からないか?完全に近い状態で隔絶された世界で似通った文明社会を築き、さらには同じ言語―――日本語が公用語とまでは言わないが標準語―――まぁ実質的には公用語以上の普及率だが―――として使われている」
「あぁっ!!」
島はそこまで言われてやっと分かりそして大きな声で叫ぶ。
「お分かりかな?」
話しながらも手慣れた様子で念入りにナイフを研ぐ。
「でもよ、確かそれって触れちゃ駄目なルールなんじゃなかったっけ?テンプレが何とかで―――」
ここで島の意識は途絶えた。
残った6人は顔を引き攣らせながら島を見た後、再び京に視線を戻す。
「多少含むところはあるけれど、でも確かにそうね」
含むところが何を指すのかは分からないが舞が頷いて呟く。
「何を壊疑的に捉えているのか分からんが・・・まぁいい。少し話を戻すが、この世界の人間の気質―――何故良心的な人間ばかりだとは言えないかについて。確かに元の世界の人間についても善人ばかりだったとは言えないが、この世界の人間についてはその比ではない」
ここで一度言葉を切った京は何かを確かめるように部屋の扉と窓に目を走らせまた話を続ける。
「この世界は・・・流刑の地だ。単なる比喩ではなく、過去・・・ここ、魔界は極刑としての流刑の地とされていた」
「あら、それは初耳ですね? 私が軍籍にいたときの資料にはほぼ目を通していた筈なのですが・・・」
熟睡している紗耶香に布団を掛けてやりながら興味深そうな顔で香奈芽が声を出す。
京は軽い溜め息をつきながら既に夢の中にいるであろう紗耶香を一瞥した後、香奈芽を見据える。
「確かに、この話はあの組織、いや魔界の存在を知る全ての組織にも知られていないだろう。この話は太古から代々魔を狩る俺の家計に伝承されている記録でな。他の幾つかの古い系譜にも同様の話が残っている筈だ」
ともかく、と香奈芽に再び口を挟まれる前に京は畳み掛けるように話す。
「平安時代中期、日本に安倍晴明という陰陽師が存在したのは知っているか?」
すかさず舞がハイハイと手を高々と突き上げながら答える。
「ああ、私知ってる。確か占事略決書いた人でしょ?」
「そうだ」
踏み込んで書物の名まで挙げてみせた舞に意外そうに眉を吊り上げながらも淡々とした声色でまた話し出す。
「陰陽道とは突き詰めれば単なる古の魔法の流派だ。・・・そして陰陽師としてその占事略決に記された六壬神課に加え、奇門遁甲、太乙神数俗に三式と呼ばれるこれらを極めた晴明は、詳しい時期と理由は不明だが、平安当時神隠しと呼ばれた人の失踪が頻発していた大阪から見て東北の地にあった地―――恐山にてそれらの秘術を用いて偶然にも晴明は記録上では意図的に最初の魔界に繋がるゲートを開いた。新たな地を支配せんと、朝廷の命でゲートをくぐった晴明率いる朝廷の軍勢はその地で原始的な生活を営む人間を見つけ、同時に発見した魔族にほぼ全滅させられ、何とか逃げ帰ったのは晴明やその僅かな側近だけだった。それからその方角は鬼門などと呼ばれるようになったらしい」
あまりにも壮大なスケールの話に誰もが反応出来ずに固まっていたが、京はそれに構わずそのまま話を進める。
「恐山は当時、時空間の隔たりが弱かった地で、自然に微小なゲートのリンクが頻発していたらしくてな。偶然にもそれらに干渉して新たな支配地を見つけた晴明だったんだが、肝心な事に晴明以外は誰も世界間を繋ぐことが出来なかった上に軍勢は大損失を受け、時空間の制約で物質の搾取が不可能だった。結局、制約を破る方法を発見出来なかった晴明、当時の天皇や藤原道長はこの地に価値を見出だせず、最終的には流刑の中でも極刑の地として気まぐれに使われただけだった」
再度話を切って、手近なグラスの水で喉を潤す。
「どういうわけか、それらの技術は中世ヨーロッパの優れた大魔女達に伝わり、以来中世終わり頃の魔女狩りが始まるまで凶悪な犯罪を犯した重罪犯を苦しめて殺す為、異端とされた当時にそぐわなかった思想を唱えた政治犯達を完全に隔離する為、領地獲得を目的とした低級な爵位の者達等がこぞってこの地を訪れた。後は言わずもがな、先に流され、この地に訪れていた者達の影響で日本語を話していた世界で欲に塗れた男爵、子爵や政治犯と腕っ節が強い凶悪犯に加え、この地に住まう先住民達によって新たな文明を築き上げられたというわけだ」
お分かりか?と京が問い掛けても話の内容の把握に必死な一同からはなかなか返事が返ってくる事は無かった。
翌早朝、昨日と同じくエイジスト邸の広大な庭の中央で京が双刀を手に、武芸者の見せる演武さながらの派手で大きく動き回る型をしていた。
「フッ、セイッ・・・セッ!」
シュッと短く息を吐き出しながら鋭く身体を動かす。
昨日とは違い、両脚と左腰に鞘があるため重量バランスが変わって最初こそ動きにくかったが、慣れてしまえば重い剣の位置が比較的低い場所に据えられているため低重心となって安定性が飛躍的に向上していた。
―――・・・
次に行う動作に向けて全神経を集中し、精神統一する。
獣染みた掠れた無声音を発しながら、深い腹式呼吸で丹田に気を留め、徐々に思考が加速し、まるで一秒が永遠のような感覚に陥る。
―――超えれる・・・超える!
右脚で全力で前方踏み出し、身体がややスライドするのと同時に神憑り的な速度で前方へ斬撃を放つ。
―――壱刀、弐刀
袈裟に時間差で手数を重視した素早い二撃。
―――参刀、肆刀
初撃を放った状態のまま手を返し、袈裟に時間差で切り上げる。
―――伍刀、陸刀
流れのまま手を返し、時間差で払うように水平に抜き打つ。
―――漆刀、捌刀
内へ手を返し、素早く逆袈裟に切り下ろす。
―――玖と――クッ・・・駄目か
腰を返し、逆袈裟に切り上げようとしたところ二太刀目を放つ前に荷重の移動が終わり脚が地に吸い付いてしまった。
一足十刀。
魔法による身体能力の強化無しに一度の踏み込みで十度切り付けるという人の業を超越した領域に挑戦し続けて早十八年。
ここ数年になってやっと片手で扱う得物では一足五刀まで放てるまでに達していたが、両手でそれぞれ独立して扱う場合には単純にその倍放てるというわけではなかった。
そう、今回のようにどうしても五芒星を描く最後の一線を放つ事が出来ずに終わってしまう。
数年掛かりでそればかり一辺倒に打ち込んでもその一線を事は一度も無い。
―――今日はもう辞めだ
何も考えずに視ていた為気付かなかったが、見れば、辺り一面の芝に残る朝露が降り注ぐ朝日を受けて刺すような眩しい光を所構わず撒き散らしていた。
ちょっと遅目な朝食後のゆったりとした時間、島が居間で一人本を片手にソファーで怠惰を貪っていると急に目の前のテーブルの反対側に一冊の本が落とされる。
「・・・? ぃよう、どうした雨宮?」
島がだらだら読んでいた本から顔を上げると、ちょうど向かいに京がグラス片手に腰掛けるところだった。
しばらく無言で島を正面から見据えていた京が溜息混じりに話す。
「聞いたところ、殆ど誰も武器など触ったことも無いらしいな・・・」
「そりゃそうだろ? 今日日、日本で、んな物騒な物持つ必要ねーよ」
「その日本で殺されかけていたのは誰かな?」
「うっ・・・」
島が言葉に詰まる。
あの宿泊地で京が助けに来なければ確実に自分は死んでいた事を思い出し、たちまち表情が硬くなる。
「あんな事は稀なのは確かだが、現実に絶対安全なんて物は無い。まぁ、今はそんな事はどうでもいい。とりあえずこれに目を通してみろ」
京が片手で卓上の本を滑らせ、島の方へと押し出した。
「・・・ヴィシュヌ写本? 何だこりゃ?」
二日に渡るミラルダ直々に鬼のような厳しさでのノリス文字の教授で何とか日常的な分には困らないレベルまでこぎつけた島は、その本の表表紙に書かれた無骨な文字を読み、意味を問う。
「魔界でのハンターのパイオニア的、伝説的存在だったヴィシュヌと言うハンターが弟子達に残した生き残るためのあらゆる術を記した手記の写本だそうだ。こちらでは割とポピュラーな教本らしい。ちょうどいいから昨日ついでに買っておいた」
とにかく読めと圧されて、渋々といった様子で島がその本を読み始める。
それから30分も経った頃だろうか、序章と第一章、加えて第二章を読み終えた島が一度読むのを中断して顔を上げる。
思いの外為になる事ばかりが記されていて、中々に興味深い内容に途中からは時間を忘れ、京を待たせている事も忘れついつい読み入ってしまった。
「わりぃ、つい読み入っちまった」
「あぁ・・・気にするな」
声を掛けられ、ソファーに深くかけたまま京が応える。
組んだ手に凭れて俯いた京の顔には長い髪が掛かっていてどのような表示をしているのかは島には分からない。
「ちょうどいい所まで読んでくれたぐらいだ。・・・俺は今日試合に勝ってついでにお前達も晴れてハンターとなるわけだが・・・」
前髪を掻き上げてすっかり温くなってしまったグラスを欝陶しそうに睨むと無言で氷属性の魔法を発現し、急速冷却して喉を潤す。
「おいおい、随分自信満々じゃねぇかよ。俺が見たとこ、昨日のねーちゃんかなりやりそうだぜ?」
ニヤリと笑いながら島が茶化すも、スルーされ、飽くまでも冷静に空気をぶち壊すような感じで返事が来る。
「・・・あの程度では話にならん。それより、島。大体二章をちょうど読み終えたのだろう?」
「あ・・・ああ。よく分かったな? 雨宮ってもしかして読心術とか使えたりするのか?」
島がそんな魔法もあるのか、と興味深に問い詰める。
「あるにはあるが、俺には使えん。で・・・二章まで読んだなら分かると思うが、俺達がハンターとしてギルドに登録すると同時に自動的にパーティーとして登録されてしまう為に予めリーダーを決めておく必要がある」
「なんかスゲー話はぐらかされてねぇ? まぁいいけどよ。リーダーなら雨宮でいいじゃねぇか。お前規格外の強さみたいだし。何を今更こんな本まで持ち出して改まる必要があるんだ?」
雨宮で決まりだろ、と島が当然のように言う。
「いや・・・俺は本来団体を組んで行動するのが苦手でな。人の上に立つのも上手くいかないと思う」
「じゃあ誰が―――」
京は島の疑問の声が耳に入った様子は無く、部屋の端に据え付けられたガラス製の大きな水時計を一瞥すると腰を浮かせながら島の言葉を遮る。
「・・・時間だ。既に他の奴らの承諾は得てある。リーダーはお前に一任する」
京はそう言うだけ言ってさっさと部屋から出ていってしまった。
「ちょ・・・はぃいいいい!!!!!?」
後には無情を歎く島の叫びが響き渡るのみだった。
昼前、グレイと京を除いた一行がガレスティアにあるハンターギルド裏にある多目的闘技場の内、メインで最大級のスタジアムにあるスタンドの最前列に陣取っていた。
普段はただのハンターの昇級試験会場や、訓練所としてしか利用されないためかなり殺伐としているのだが、今日に限ってはその限りでは無かった。
メインスタジアムの周囲には様々な出店が立ち並び、色々な物が販売されていて、まるで祭のような光景だった。
といっても、殆どの販売物は飲食物しか無かったのだが。
スタジアムの直ぐ脇には大きなボードが立てられ、アマミヤ=キョウ、アイリス=マリーナとでかでかと書かれた下には何やら数字が書かれていた。
その値はその脇に並ぶ長蛇の列の先頭がその場に設置された簡易式のテントにいる男達といくつか言葉を交わし、周りに隠すようにして金を払い、代わりに何かが書き込まれた券を手に入れて、入れ代わり立ち代わり交代する度に更新される。
その上がり方は常にアイリスの値が下がり、京の値が上がるのみだ。
「どれ、私も・・・」
席に着く前に出店で買ってきておいた昼食をうきうきしながらいち早く食べ終えたガレードが席を外し、あっという間に騒がしい雑踏の中へ一人消えていった。
「じゃあ、俺も少し」
「あ、待ってよ〜僕も行く!」
それから少し間を置いて、女7人を残して島と英司も人込みに飛び込む。
「うっへ〜・・・それにしても凄い人集りだな」
「うん、なんだかお祭り騒ぎみたいだよね」
人込みに押され、潰されそうになりながら一度密集地帯を脱出した島と英司が感嘆する。
活気と熱気溢れる光景に、見慣れない土地に懐かしい光景を見たような気がし、自然と歓喜してしまう。
しばらく、今朝京から無言で渡された金で店を回り、心と腹を満たしながら食い歩きしていた二人だが、魔獣のスジ肉と様々な種類の野菜を入れて煮込まれたシチューのような初体験の料理に舌鼓を打っていたのだが、急に島が何かに気付き、英司も島に小突かれてそれに気付き、手を止める。
「・・・怪し過ぎる」
「怪しいね・・・」
二人して怪しい怪しいと言い合い、視線の先を穴が空くほど見つめる。
島と英司が見つめる先、そこには何かを警戒するよう、見付からないよう小さくなりなりながらも、キョロキョロしているガレードとアレスが長蛇の列の先頭付近にいた。
「あれは・・・絶対不審者だぜ」
「後ろに並んでる人も無理矢理顔を背けて見て見ぬ振りをしてるしね・・・」
「それにしても、この行列は一体何なんだ?」
「分かんないよ。後でガレードさんにでも聞いてみれば?」
ガレードは小さく前屈みで隠れても逆に目立ち、防具を着込み、武器を装備したハンター達の中で一人いつも通りの高価そうな仕立てのいいデザインの服装は浮いていた。
アレスはアレスで、普通よりも大柄な人間が多いハンターよりも更に頭一つ分抜きん出て大きく、鎧を着込んだハンターよりも体格が大きかった。
だが、そんな怪しい有名人二人に限らず先頭の人間はこそこそと人目を気にしながらテントの男と何やらやり取りをしている。
何だろうと二人で考えている内にもガレードとアレスは先頭まで到達し、ご多分に漏れず怪しいやり取りをした後再び素早く雑踏に消えた。
「あ、消えちまった」
「だね」
不審者二人が消えてすぐ、ボードから少し離れた場所の様々な箇所でどよめきが上がったが、それも直ぐに新たな歓声に掻き消される。
「おい、試合開始5分前だってよ。そろそろ席に戻らねえと間に合わなくなっちまうぜ・・・」
「そうだね、急ごう」
慌ててスタジアムまで走り出した二人だが、周りも皆同じ考えらしく、久々に生で武皇の動きが見られると興奮して我先にと押し合いへし合い、スタジアムの一般入口は物凄い事になっていた。
ぎりぎりでガレードに発見され、アレスが人込みを掻き分け引っ張り出し、アレスの顔パスで関係者入口を使わなければ危うく試合開始に間に合わない所だった。
「あと10分で試合開始です。本当に大丈夫なんですか? 今ならまだ・・・」
最初は試験と銘打った試合だったのだが、最終的には二人の権力者のお遊びの為に賭博試合となってしまった試験前、スタジアムの地下にある控室で待機していた京にギルドから、厳密に言うとアレスから宛てがわれた介添人代わりのアレスの秘書ユーリが京に心配そうに声をかける。
上司の命令で京を万全の状態で戦わせる為にまめまめしく世話を妬いていたユーリだが、ここまできて自分の行動に疑問を抱き始めていた。
―――私が世話をしたことで、乗り気でなかったまだ若いこの子を焚き付け、ますます棄権し辛くして退路を絶ってしまってるんじゃないかしら・・・? 女の子に負けを認めるのが出来ないって事もありそうね。でも、アイリスは同じく若いとはいえ、最高位のパーティー武皇に所属してるし、その実力は折り紙付き。双剣使いとして最高位に近いあの子に、まだハンターにすらなっていないこんな若い子をぶつけるなんて・・・!!
ユーリの中で今回の事を画策、容認したアレスへの怒りが沸々と沸き上がる。
―――でも、いくらアイリスに短気な所があると言っても、こんな駆け出しの子相手に本気は出さないわよね・・・ ああ、心配で見てられないわ・・・
京に甲斐甲斐しく世話をしていたせいでかなり感情移入してしまったアイリスが無理にでも止めさせようか、と思案しているところに、無情にも試合開始一分前の入場の呼びが掛かる。
「・・・」
京無言で立ち上がり、ユーリに一礼すると、サーっと地を滑るような動きで闘技場へと続く光の中へ消えて行ってしまった。
―――行ってしまったわ・・・ まぁ、後はなるようになるのを任せるしかないわね
それに続くようにユーリもまた、アレスが確保してくれている筈の最前列の席を目指して、控室から消えていった。
最近更新ペースが異様に遅い…まぁ、こんな小説誰も待ってくれてはないだろうけど…
…で、何故更新ペースが遅いか?
それは他の先生方の作品を読みまくっているわけでして…
え?そんな暇があるなら執筆しろって?
いやいや、別に私も遊んでいるわけではありません。
私が面白いと思った他の先生方の作品を研究しているのです。
楽しいんだけどねw
ではでは〜(・o・)ノ