2章:8INDEPENDENCE
いや〜今回の更新は長かった。
間にテスト入って人生初骨折して…
あいも変わらずぐだぐだな文章です。
やっぱり酔っ払いが書いた文は読者も酔っ払いの方がテンション合っていいかもw
最後に、誤字脱字は御愛嬌という事でw
夕方、あらかたの観光を終え大まかな街の地図を頭に叩き込んだ後エイジスト邸に帰ると門を潜ってすぐに微力ながら魔法が飛び交っているのを感じて興味を引かれて窓から外を覗いてみる。
「・・・」
何が起こっているのかを確認した途端京は再び座席に深く腰掛け足を組んで深いため息をつきながら片手で目を覆う。
―――・・・・
馬車が屋敷前に止まって降りると、まだその光景は続いていた。
「ほぉ〜皆さん中々の腕前ですな〜」
ガレードが庭で繰り広げられる光景に感心しながら呟く。
「まだまだ甘いですよ」
苦々しい表情で否定する。
二人の目の前では島と英司、紗耶香を除く全員が二人一組になって互いに魔法で発生させた風塊を飛ばし合い、さながら実戦のような光景を呈していた。
両組の側にはイザレアがいて的確なアドバイスを飛ばしている。
京からすれば微力とは言え、既に4人共一般ハンター並の強さの魔法を操っている。
魔力の精製も遅く魔力の魔法エネルギーへの変換効率は最悪だが、魔法を使い始めて数刻でこれだけの力を示すのだから4人共かなりの逸材かもしれない。
「キャッ!」
しばらくその光景を茫然と眺めていた京だが、香奈芽が放った風塊が舞と向き合っていた聖を掠めた途端顔色を変え、踵を返して屋敷へと入る。
いくら傷付かない程度の力とは言え、吹き荒れる風のような力を持つ塊にはさながら強風のような物で十分な力を持ち聖はスカートを穿いていたのだ。
屋敷に入ってまず自分の部屋に向かい今日の荷物を全てソファーにぶちまけ、そのままコートを吊し着替えて壁際のベッドに倒れ込む。
天井の一点を見詰めながら今後どうすべきか画策することに肝胆を砕く。
依頼を達成するために与えられた情報はあまりにも少ない。
敵の正体、所在地共不明。
分かっているのは魔界から現界へと送り込まれたウィルスとその特性のみ。
人の器を作り替え人外の異形の姿へと変えてしまい、器に内包されている魂自体にも損傷を与え魔に近い存在へと引きずり落とす脅威。
―――情報が少なすぎる
本来自分は密偵等の情報収集といった行動は苦手なのだ。
今までも受けていた依頼は殆どが謀反を興したハンター達の暗殺や殲滅、稀に他のハンターでは手に負えないゲートを潜って来た魔族の撃滅程度だ。
主立った依頼の性質上あまり姿を見せる事が出来ず、無音高速移動術や透明化等の術は習得しているが今回は潜入地が分からない。
その上人手も少なく早くしないと時間切れになるばかりか他の支部や本部からも別動隊が投入され余計に仕事がやりにくくなる。
本来自分は密偵等の情報収集といった行動は苦手なのだ。
今までも受けていた依頼は殆どが謀反を興したハンター達の暗殺や殲滅、稀に他のハンターでは手に負えないゲートを潜って来た魔族の撃滅程度だ。
主立った依頼の性質上あまり姿を見せる事が出来ず、無音高速移動術や透明化等の術は習得しているが今回は潜入地が分からない。
その上人手も少なく、早くしないと時間切れになるばかりか他の支部や本部からも別動隊が投入され余計に仕事がやりにくくなる。
こうなっては猫の手でも借りたかった。
こうなったら現地でハンターでも雇うか?等と考えを巡らせている時、庭の方で一際強い魔法が放たれその余波に現実に引き戻される。
京は一頻り自分の右手を見つめた後呟く。
―――ストームティアー
鋭い音と共にゴルフボール大のサイズの白いガラスの塊のような物が手の中に現れる。
庭で放たれていたバレーボール大の風塊よりも大きな大気を更に圧縮したそれは高圧の風の刃が内で渦巻き、一度解放されれば指向性を持った大量の風刄が一気に放たれる。
なかなか高度な魔法だがこれだけの素質がある彼女達ならすぐに使いこなせるようになるだろう。
もしかしたら彼等をこちらへ連れて来たのは正解だったのかもしれない。
―――使えるかもな・・・
空に月が昇り、いよいよ視界が悪くなって来た頃急に屋敷に光が灯る。
屋敷内の各部屋や通路の天井に設置されていた輝光石を使った魔力による明かりが着いたのだ。
急な照度の変化にそれまで部屋で仮眠を取っていた京の目が覚める。
―――仕上げでもするか・・・
寝ていた体を起こし、テーブルに無造作に置かれた魔導器として未完成の装身具のそれぞれに容量一杯まで魔力を貯蓄する。
実は仮眠を取る前に手早く魔導器を作ってしまおうとしていたのだが、術式を付与する作業が終わった段階で急に睡魔に襲われ仕方なく一時休息を取っていたのだ。
それぞれ既にプログラムとなる無数の複雑な術式を与えていたため後はそれらが作動するためのエネルギーとして魔力を注ぎ込むだけですぐに完成した。
コンコンッ!
ちょうど完成した魔導器を買ってきたケースにしまい終わった時に扉がノックされる。
「開いている」
ガチャリと扉が開き、老年の執事が部屋に入って来る。
ケースを異次元へと放り込みながら扉へと目を遣り執事と目が合う。
「失礼します、食事の準備が出来ました」
執事に先導されて食堂に降りると庭で魔法を使っていたグループ以外は既に集結していてエイジスト家の3人がそれぞれ何やら本を傍らに置いて書き取りをしている島達に熱心に指導をしていた。
「何をやっているんだ?」
熱心なグレイに指導されつつ、頭を抱えてうんうん唸っていた島がゆっくりと顔を上げる。
「・・・あ?・・・ああ、あれだよ、昼間の話だとハンターって識字出来ないと駄目らしいじゃん?だから勉強してんの」
上げられた顔は知恵熱に犯され、すっかり出来上がったような顔色だった。
言葉も意識が朦朧としていてよく聴かないと聴き取り辛い。
よく見ると他の二人も青ざめていたり、黄色くなっていたりと、ろくな顔色ではない。
「・・・」
目の前の光景に入口で固まったまま顔を引き攣らせていると後ろの戸が開き、誰かが背中にぶつかる。
「おっと・・・ごめんね?」
突っ込んで来た舞はそのまま京を避けて部屋に入り、目下勉強中の紗耶香の横に陣取る。
それに続いて外にいた他の四人も汗を流して火照った肌を上気させたまま入ってくる。
「何よ、三人共まだ覚えてないの?」
英司の隣に座った美玲が青い顔をしている英司と手元の書物を交互に見て野次を飛ばす。
英司にはただ恨めしそうに見返すぐらいの気力しか残っておらず、後は声にならない弱い音で唸るだけだった。
最後に空いていた場所に京が座るとメイド達によって勉強道具が全て片付けられ、テーブルの上がすっかり空いてしまう。
―――今渡しておくか・・・
いつもの要領で右手に魔力を集束し、それを空に叩き付け次元を切り裂き、テーブルの上に開いた穴からボロボロと箱が零れ落ちてくる。
そのゴトゴトと鳴る音に食卓の会話がぴたっと止まりその場に居合わせた全員が京に目を向ける。
様々な話で賑わう場で一人沈黙を守っていた者が急に奇妙な行動を取り手品のような事を始めたのだ。
テーブルに落ちた11の大小様々な箱は再び振られた京の手の動きに合わせてふわりと浮かび上がりそれぞれがテーブルに付いていた11人の前にゆっくりと着地する。
「なんだこれ?」
島がさっそく自分の前に置かれた小箱を手に取り、様々な角度から観察した後箱を耳元で振る。
「どうぞ?」
開けてみろ、と身振りで他にも不思議そうにしている面々に続ける。
中身が何か唯一知っているガレードはミラルダと同じ形の自分の前にある箱を真っ先に開け、中身を手に取る。
「おぉぉ、これは・・・いやはや、まさかこれほどとは・・・」
豪奢な大きめの箱の中にあったペンダントにガレードが触れるとそれは一瞬強烈に光を発し、徐々にその光は弱くなりやがて光は消えた。
主の認識を終えたペンダントを目の高さまで持ち上げて改めてその内包されている魔力にガレードは驚かされる。
同じく魔装具の認識が完了していたグレイとイザレアも驚きの声を出す。
「これほど強い術式と魔力を備えた魔装具は見た事がない・・・あるとすれば神器と謳われる王家伝来のクラウンぐらいじゃないだろうか?」
「この魔装具、私の魔力の許容量を遥かに上回っている・・・」
医師として回復魔法を扱い魔力に対して敏感なだけの二人とは違い、純粋な魔に生きるイザレアはより魔力に対して過敏で自らを超える力が封じられている魔装具に一瞬多大な恐怖を感じた。
「それぞれA級魔族5体程度までなら屠る事が出来る攻撃術式とS級の魔族の攻撃にも短時間なら耐えうる障壁展開術式。それに軽い身体強化と再生の術式+αが組んである」
戸が開かれメイド達が料理を運んで来たがホスト側の4人はたった今渡された凄まじいスペックを誇る魔装具に呆気に取られていた。
通常、京がこれらの魔装具に付与した術式のいくつかはその複雑で繊細な式と発動に膨大な魔力を必要とする為単発ですら記述は難しいとされている。
魔界最上級の術士が滅多な事では流通しない一定ランク以上の魔族から取れる宝玉を用いてなんとか実現可能なレベルだ。
加えて繊細な為、少しでも他の術式からの干渉があると式が乱れ効力を発揮出来なくなってしまい、そのため他の術式との併用は難しい。
だがこれらの魔装具はその困難を跳ね退け安定して機能している。
グレイとガレードの中でこれだけの上質な魔力を操り、膨大な知識を持つ客人に対しての好奇心がさらに深まった。
「おっ、なかなかいいじゃねぇか。サンキュー雨宮」
一方で魔装具を知らない京の連れはそれらを単なる高級な装身具と捉えていただけだった。
触れて発光しても魔界の何か、と特に深くは考えもしなかった。
「外出時に、それを必ず身に着けろ」
拒絶されるかと思っていた聖に割と喜んで受け取って貰えたことにほっとしつつも、言葉少なに要点だけ話す。
「・・・雨宮、お前大胆すぎじゃねぇ?一気に5人も女を囲う気かよ?・・・どうせなら隠れて個別に貢がねぇと」
自分が貰ったアームレットを弄りながら、怪訝そうな顔をして京を見ながら島が話す。
「・・・」
射殺すとはこういうのを言うのだろうか?
京は無言でジリジリと焼け付くような視線で睨み付ける。
顔の表情が乏しい分、目の表情豊かで眼力はかなり強い方の京がだ。
同じく会話を聞いていた舞と美玲は目を細め、じとーっとした目で島を見る。
あまりの批難の視線の殺到に島が慌てて冗談だと弁解するも、聞き入れられず。
空気を読んで気を利かし、食事の開始を宣言したガレードに救われなければ島はどうなっていたか分からなかった。
食事中、イザレアから魔装具についての説明がされ、その心遣いに皆が驚いていた。
その他、互いの組が今日何処に行って何をしたか等の話をして、ミラルダの組が女5人の為に大量に日用品等を買い込んだと聞いて京が金を払おうとして一笑に付される一幕があったりと、騒がしくも良い雰囲気の食事の時は瞬く間に過ぎていった。
因みに、さっきまで外でイザレアから魔法の手解きを受けていた4人は既にノリス文字の読み書き、発音もマスターした上での行動だったらしい。
語彙力にまだ不安が残るらしいがそれは時間が解決するだろう。
割り当てられた自室に戻り、ベッドに転がると異次元からPDAを取り出す。
老執事が差し入れてくれた軽い酒を煽りながらこちらの時間を遡って世界に飛んでくる前にAEIOのメインサーバーにハッキングして落としておいた、あの時点から1年前までの報告書やデータ等全ての記録に目を通す。
その中でいくつか面白い記録が見付かる。
一つはAEIOの魔界に派遣されている大使館のような役割を果たしていた組織と数カ月前から連絡が途絶えていた事。
ある時点から急にどの支部のも詰め所も連絡が付かなくなったのだが、AEIOは同世界で起きていたハンターの大規模な離反の粛清に忙しく、足元を固定するので精一杯でそちらの調査に人員を割く事が出来なかった。
全ハンターの全ての行動を監視し、少しでも不穏な動きがあれば即消去をするため、一人に付き複数人で当たっていたらしい。
興味本位で自分に付いていた監視者が提出していた報告書を開いてみると、どれも虚偽の報告で塗り固められていた。
監視に気付いていた京は監視者を撒いた後、逆に監視者を姿を隠して監視していた。
それなのに、上げられている報告書には普段の京のスケジュール通りの行動がびっしりと記されていた。
結局、京に割り当てられた監視者全員の報告書に虚偽の行動記録が記載されていた。
なんと無能で腐った組織なのだろうか。
これでは離反者が出ない訳がない。
おまけに、仮に事を起こされる前に離反者のハンターを見付けられたとしてどうするつもりなのだろうか。
一般にCランクのハンター一人でAEIOの軍人10人分の戦力を持つ。
Cランクは一人の始末は可能かもしれない。
だが、戦闘を行えば必ずAEIO側の兵力も消耗し、確実に削られ、何れは数で攻める戦法も取れなくなる。
加えて、ハンターの手を借りずにCランクの倍以上の戦闘能力を持つBランク以上のハンターの抹消は不可能に近い。
もう一つの興味深いデータは神楽 香奈芽についての記録だ。
AEIOの日本支部がウィルスに感染した魔の眷属と化した者達に襲われた際に赤嶺や山久と共に脱出して来たらしい。
ただの研究員かと思えば、回復系の魔法に精通し、若干22歳でAEIOの軍に入隊と共に医師免許を取得、支部襲撃の際に部隊は全滅、以後山久の指名で臨時の補佐官として働いていたらしい。
完璧ではないが、軍事訓練を受けていて、秘匿結界を使えるのは諜報に大いに役立つだろう。
他にも役立つ物はないかと落としたデータに有益な情報は無く、夜も更けてきたために寝ることにする。
PDAをベッド脇の小さなテーブルに置いて暫くじっとしているとすぐに睡魔が襲い掛かって来た。
翌早朝、日の出前にエイジスト邸の庭で素早く動く人影があった。
「フッ!セイッ!・・ハァッ!」
異様な気を発しながら京が独特な型を一人行う。
これは今日によく見られるような武道や武術とは一線を画し、対人間での命の奪い合いの中で形成された忌諱とされる古武術をさらに昇華させた物で純粋に相手の殺傷のみを目的としていて、高度な技法を用いて人体の急所を破壊する。
魔法で身体を強化せずとも関節部、目や耳に喉、腎部等を損壊、損失させるだけでも容易に相手を無力化出来る。
そこからさらにブースト等の身体強化魔法を用いれば直接鷲手や貫手で心臓を貫いたり、頭蓋骨を貫通することも不可能ではない。
そのあまりにも殺傷力のみを追究した武術には活法など存在せず、ただ無数の殺法が存在するだけである。
日が少し上り、鳥の声が聞こえるような明るさになってきた頃。
程よく身体も解れてきたため、準備運動代わりの体術を一度止め、剣術の稽古に切り替える。
大剣、長剣、と順に召剣して何時も通りのメニューを終えて最後に二振りの太刀を用いた稽古に入る。
何千、何万と繰り返され身体に染み付いた洗練され、無駄のない動作で仮想の相手を次々と打ち倒す。
稽古も峠に差し掛かり、人域を超えた速度での斬撃を連続で繰り出す。
逆袈裟に一太刀放つ瞬間、視線を感じ視界の端に一瞬人影を捉える。
「・・・」
放し飼いにされているスレイプニルの内の一頭の頭に手を置きながら聖が京を眺めていた。
京は高揚していた気分が一気に醒めてしまい、太刀を脚部のベルトに挟み込み、スレイプニルの群れへと足を向ける。
―――見られていた?こんなことに気付かなかったとは・・・
手抜きをしない稽古であらゆる技法を繰り出した。
敵対しうる同業者に太刀筋を覚えられる事、それはハンターとして死活問題になりうる。
太刀筋を覚えるだけで相手の癖や出方、得意な間合い等のパターンが分かるのだ。
それだけで相手に対して容易に、より自分に有利な戦略が立てられる。
ハンターとして、それ以前に闘いの奴隷として最も留意すべき注意を怠った自分を厳しく戒めながら歩みを進める。
互いの距離が2メートル程の距離で立ち止まる。
どちらも口を開かず気まずい空気が流れるが、意を決した京が斜め上に空を眺めながら口を開く。
「・・・随分早いな。昨夜はよく眠れたか?」
話しながら1番小さなスレイプニルが擦り付けてきた鼻面を撫でてやる。
「あまり良くは。でも、疲れてないし大丈夫」
日が昇り出して間もない寒期の終わりの魔界の早朝、屋外の二人に吹き付ける風は乾燥して刺すように冷たい。
「そうか・・・で、こんな朝早くに此処で何を?」
撫でてやっているスレイプニルを見ながら京が訊く。
「眠れなくて外の景色を見ていたら雨宮君が見えて、昨日のネックレスのお礼が言いたかったから出て来たの。昨日はお礼を言おうと思ったら雨宮君すぐに部屋に篭っちゃったから」
冷たい風が吹き、聖の掛けているストールが靡いて胸元のネックレスが現になる。
「で、出て来てみたのはよかったんだけど、雨宮君稽古中みたいで声が掛け辛くて・・・」
はにかみながら言った聖は寒いのか、はぁーっと手に息を吹き掛け暖める。
稽古半ばの京は身体が熱を持っていたので分からなかったが、白く色付いた吐息を見て現在の気温の低さに気付いて一言二言呟いて周囲に恒温膜として機能する結界を展開し、さらに魔法で周囲の空気を暖める。
「ありがとう」
京の気遣いに気付いた聖は礼を言うが京はそれを制止して話す。
「礼ならいい。今のも、魔導器も。全て俺の自己満足のためにやった事だ」
「それでもありがとう、気を遣ってくれて。このネックレス、高かったでしょう?」
ネックレスのトップに付いたダイヤの三日月を触りながら持ち上げてみせ、それが朝陽を受けて眩しく輝く。
「確かに安くはなかったが、お前達の命に対する投資と考えれば安いものだ。無理やりこの世界に連れて来て死なれても目覚めが悪くなりそうでな」
目を細めてぶっきらぼうに話す。
「・・・それより昨日、此処でイザレアから魔法の指導を受けていたみたいだが・・・実際のところ、どの程度使えるんだ?」
練度が気になり、次に話す事を考えている内に思わず聞いてしまう。
だが、聖から返って来た返事はよく分からないという事だった。
―――魔法を覚えて一日と経過してないなら仕方ないか・・・
あとでまたイザレアにでも聞けばいい等と考える。
「石崎は・・・魔法を修得してどうするつもりなんだ?」
返答に迷い、少しの間熟慮した後聖が口を開く。
「ハンターになるなら魔法を使えた方がいいでしょう?」
「お前達は・・・何故ハンターになろうとするんだ?それがどれだけ危険なことか分かっているのか?」
「それは、いつまでも雨宮君やグレイさんに頼ってばかりいる生活は駄目だと思うの。だから少しでも今の私達に出来る事をしようって・・・」
「・・・大多数のハンターが用いる魔法はあくまでも副弍的な物として、だ。魔法を使えて初めて魔に生きる者達と同じスタートラインに立てる。戦うにはそこからさらに物理的な戦闘能力が必要になる。お前達にはそれだけの力があるのか?」
京はハンターになると言う聖に自らの経験と一般的な見解からの意見を交えた諭すような忠告を与える。
「・・・強くなる」
「・・・」
聖の噛み締めるように吐き出された強い決意の言葉。
「・・・強くなる。今はまだまだかもしれないけど、必ず」
力強く京の目を見ながら話す聖の目には強い決意の色が現れ、京には明るく輝いて見えた。
「フッ・・・」
京は眩しそうに眼を細めると、やがて何かを押し殺すようにして目を閉じ、片手で顔の上半部を押さえながら含み笑いする。
「何れこうなると分かっていた」
顔を伏せたまま、何かを振り払うよう話す。
「いいだろう。人間、自由意志は尊重されて然る可きだ」
左脚に挟み込んでいた太刀を静かに抜き、半歩下がる。
同時に顔を上げ、ゆっくりと眼を開く。
「だがその選択肢は、力ある者にのみ許されるものだ」
鋭い風切り音がしてすぐ、聖の前に京の持っていた太刀が突き刺さる。
「魔族と渡り合えるかどうか、俺が確かめてやる。もし俺の中での基準に達しなければその時点でハンターになるのは諦めろ」
自らもまた右脚に残っていた太刀を抜く。
「来い、お前の力を見せてみろ」
朝、イザレアは屋敷の中で最も早く起きる。
ドリアードという種族は基本的に夜の就寝も、朝の起床も人よりかなり早く、また規則正しい。
今日もいつもと同じく朝の早いイザレアは住み込みの使用人達が起き出してくる前に目が覚める。
「ふぁ〜」
ベットの上で起き上がり、かわいらしい欠伸をするとうっとりとした表情でやや丸みを帯びてきた自らの腹部を撫で、その内にいる愛する夫との間に出来た子に話し掛ける。
「おはよう」
なんでもない事、ただ語りかけるだけでもこの上なく幸せになる。
少しの間立ちくらみ等をしないようじっとしていたあと、何時もと同じように部屋に備え付けられた洗面台へと向かう。
窓側の壁にあるそれは陶器製の台と大きな翼を持った鳥の彫刻で構成されていた。
この世界は全てが魔法で代用できるため文明レベルが現界よりかなり遅れていて、蛇口やバルブなどの器具は未だ発明されていない。
そのため、屋敷の水道はどこも敷地の地下から汲み上げ、濾過された冷水を出しっぱなしである。
冷たい水で顔を洗い、頭がはっきりしてくるにつれて庭の方から打ち鳴らされる鋭い金属音がすることに気付く。
―――何かしら?
連続して聞こえる音に漸く思考を巡らせるも、答えは見つからない。
使用人達も、家の人もまだ誰も起きてくるはずの無い時間だ。
気になってイザレアはベット脇の窓を開け、窓から辺りを見渡すとすぐに音の主が見える。
ガギィ!ギイィン!!ガン!!!
―――まぁ・・・!!
庭で繰り広げられる意外な光景にイザレアは驚き、感心する。
―――まさか、この二人だったのですか・・・
互いに一振りの刀を手に、庭では京と聖が試合っていた。
ギャギャギャギャ!!ギャン!!
互いに順番に攻防の繰り返しだったが、明らかに京は手を抜いている様子で、それとは対象的に迫り来る刃を必死に防ぐ聖には余裕はなく、苦しげな表情だ。
早朝から二人がこうして刃を交えている理由はイザレアには分からなかったが、互いに害意は感じられず心配なさそうなので事の成り行きを静観と洒落込んでいた。
「はぁっ!やぁーっ!」
防戦一方だった聖が一転、攻撃に転じ、様々な攻撃を繰り出すが全て京に防がれる。
初めは緊張して見守っていたイザレアだが、張り詰めた空気に慣れてくると互いに苦手としている人間同士が朝っぱらから手合わせをしている光景に自然と頬が緩む。
暫くベッドに腰掛けて庭の二人を眺めていたイザレアだが、やがて疲れて動きが雑になり始めた聖を見て激しく動き回り喉が渇いているだろうと疲れが取れる飲み物を差し入れる事を思い立ち、静かな厨房へと向かった。
聖が自らの前方に刺さった太刀に手を掛け、ゆっくりと地面から引き抜き感触を確かめるように何度か振るった後、太刀をまじまじと見詰めながらその顔が驚きの色を表す。
―――軽い、それに初めて握った品なのにまるで手足のように動く・・・
太刀を地面から引き抜く時に全く抵抗を感じず、また見た目の質感や実際に普通の刀に比べてやや大振りにも拘わらず殆ど重さ、抵抗を感じず自らの思うがままに動くのだ。
「驚いたか?その太刀の名はティソナ。仮想意識を付与された武器で、握り手の意志を読み取ってそれに従い補助をする」
自らもティソナと瓜二つの太刀を変則的な下段の構えに持つ京が言う。
―――よく分からないけどこれも魔法の産物なのかな?
取り敢えず聖もティソナと呼ばれた太刀を中段に構える。
元々、元の世界にいた時には剣道を嗜んでいて稀有な才能を持っていた聖は、大きな大会でも優勝経験があり当然真剣を使った稽古を行った事があり、その構えはある種の完成を見ていた。
―――競技の構えでは話にならんぞ?
基本的ながらも攻防バランスに富み、洗練されたその構えに京は内心でいきなり減点し、失望の色を現にする。
中段に構える聖は一見隙の無いように見えるが、下段ががら空きだ。
確かに剣道では全体をカバー出来る良い構えかもしれない。
だが、それは決められた箇所を打つ等の様々なルールがある競技の構えとして、だ。
剣道では足元を狙う下段に対しての技は無いし、鍔競り合いから体術に移行することもない。
魔族の大部分の割合を占める魔獣族は四股で移動するものが多く、それらの全高は人よりかなり低い種も多い。
また、剣道のルールなど関係ない魔族は当然のように体術を用いて、場合によっては引き倒されたりもするだろう。
―――さて、どう試したものか・・・
対峙する二人は互いに相手をじっくりと観察し、少しでも多くの情報を得、隙を見出だそうとする。
片や試すため、片や勝つため。
「物は試し、か・・・」
京が諦めたように呟き、次の瞬間にはいきなり眼光が鋭くなる。
「いくぞ!」
不動の構えを取る聖に向かって京が地を蹴った。
あれだね、プロットとか無しの即興で、設定も執筆中に適当に思い付いたのをごちゃごちゃしたまま放り込んでいるだけなので、そろそろ設定にも矛盾が生じてくる頃だと思います、ハイ…