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2章:7SIGHTSEEING

かなり更新が遅くなってしまいました…

次回はもう少し早く上げれるよう頑張ります。

「おっす、ガレードさん」


 立ち止まった男はまず最初にガレードに向かって話し掛ける。


「やあアレスギルド長」


 呼ばれてガレードも立ち上がり親し気に挨拶を返す。

 今の話からしてどうやらこの歴戦の勇士がこのギルドの長らしい。

 ただ親しげに言葉を交わす二人の雰囲気に反してその場はフロア中から注目を浴びていた。


「で、その子らは?」

「ああ、息子の恩人達でね。ちょうど行く宛ても無いらしくて家に泊まって貰ってるんだ。今日は彼らのハンターライセンス取得の付き添いでね」

「成る程・・・じゃあサクッと登録しちゃおうか。お〜い、ユーリちゃん」


 突然アレスがフロアの少し離れた位置にあるカウンターに向かって叫ぶ。


「は〜い」


 良く通る澄んだ声の返事が聞こえ、次の瞬間には書類の束と筆記用具を持って天使のようなスマイルを浮かべた女性がカウンターから飛び出して来る。

 波打つ蜂蜜色の柔らかい髪を靡かせて駆け寄って来る姿はまるで女神のようで京達のテーブルに注目していた男達の大半はそちらに注意を奪われ、舞に介抱されている聖のように赤くなり出来上がったような状態になる。


「ではこちらに・・・」


 テーブルに着くなりてきぱきと座っている面々の前に書類を並べ、白い手頃な大きさの羽ペンを脇に添える。

 早速それらの書類に目を通し、必要事項の記入を始める京だが、それ以外の面々は一様に難解な見慣れない文字に面食らう。


「ちょ、なんじゃこりゃあ!?」


 たまらず島が叫ぶ。


「どうしたのかね?」


  記入している間アレスと話し込んでいたガレードが急に叫んだ島の書類を覗き込むが、その書類はただ記入欄が白紙なだけで他におかしな場所は見当たらない。


「ちょ、俺字が読めねえ!」


 その叫びに他の面々も同調してうんうん頷き出すと直ぐさまユーリが個々に丁寧に記入欄の説明に入る。

 そう、ここ魔界では使用する言葉は日本語だが公式な書類等で使用する文字は随分と違った形で、筆記体のような波打つ走り書きのような文字は慣れない者には難解な物だった。

 公式な文章に使われるノリス文字一般にはあまり普及しておらず、読めないというのは一般にありがちな事態だが実はこれかなり深刻な事態で、依頼書等に使われる文字もノリス文字なためハンターとしては致命的である。

 もっとも、通常ハンターになる為のテストでノリス文字の読み書きは必須に近い。

 もし落とせば実技で満点でも叩き出さない限り総合点での合格は不可能に近い。


「ちょ!?ギルド長?」


 不意に京達のテーブルに注目し、成り行きを見守っていた内の一人が立ち上がりつかつかとギルド長に歩み寄る。


「ん〜?」


 アレスは強い語気と共に詰め寄る相手に対しても臆することなくマイペースでゆっくりと返事をしながら振り向く。


「ん〜じゃないですよ、ん〜じゃ!ノリス文字も読めないって、彼らにテストも受けてないのにライセンス発効するんですか!?この様子なら養成所を出た訳でもなく、見た年頃からして傭兵というわけでもない。


そんな人達を安易にハンターにして命でも落としたらどうするんですか!?」


 そこには怒り心頭といった様子のアイリスが居てアレスに口を開く間も与えずに早口にまくし立てる。

 その言葉には高みの見物を決め込んでいたハンター達も皆頷いたり、口々に同意の言葉を述べたりして同意の意志を露にする。


「え〜いいじゃん。今新しいハンターは皆王都に取られて集まりが悪くてさ。アイリスも彼が下でごろつきみたいな4流ハンター捩伏せたの見たでしょ?」


 そう言って沈黙を続ける京を指差すアレス。


「うっ・・・」


 ―――見られてたのか?


 確かに実際にハンター一人を捩伏せ、他の者も纏めて潰そうとした京を間近で見ていたアイリスは言葉に詰まる。

 ハンターライセンス取得最大の難関の実技テストをクリアしている者を倒している以上実力は初級のハンターとしては申し分ない。


「それにガレードさんの推薦だしさ。皆彼には少なくとも一度は世話になってるでしょ?次困った時助けて貰えなくなるかもしれないよ?」


 この脅し文句は効果覿面(てきめん)で他のハンター達も押し黙る。


 ハンターとは職業柄怪我が絶えない仕事で腕を一本持って行かれる事などざらに有る。

 二階にいるハンター達はいずれもキャリアのある者ばかりで、長い事ハンターをしている以上皆少なくとも一度はガレードの世話になっていて、中には瀕死の重傷を負い生死の境をさ迷っていた所を救われた者までいる。


「だから今回は特別に―――」

「待て」


 場を纏めようとしたアレスを京が鋭く待ったをかける。


「つまり、力を示せという事だろう?・・・誰を倒せばいい?」

「はいぃ?」


 上位ハンター達の前でハンターにすらなっていない京のいきなりの挑戦的な発言に反応のしかたは千差万別だったが、意外な事にギルド長を含め年長者の多くは寛大な者が多いらしく寧ろ活きのいい若者と好意的に捉えて微笑んでいた。

 だが若いハンターに取ってはただ生意気にしか見えないようで京の1番近くに立つアイリスにもそう見えたようだった。


「・・・誰を倒せばいい?」


 明確な答えが帰って来ずもう一度呼び掛ける。


「キョウ・・・さっきはあなたの事を勇敢だと思ったけど撤回するわ。あなたはただ無謀で己の力量を弁えていないだけよ」


 重ねての問い掛けにアイリスから返って来たのは辛辣な言葉であり戒めだった。

 だが京はその言葉も意に介す様子は無く、再び挑戦的な言葉を返す。


「ほう・・・俺は自分の力量は弁えているつもりだがな。そこまで言うならアイリス、お前が試してみるか?武皇とやらの力で俺をへし折ってみろ」



 少し離れた場所から傍観していたガレードとアレスはひそひそと耳を寄せながら話し合う。


「おいおい、ガレードさん、少しマズイんじゃないかな?いくらあなたの紹介者とは言えあそこまで煽れば・・・アイリスはああ見えても最強と名高いパーティー武皇の一員、下手すりゃ怪我じゃ済みませんよ・・・」


 心配そうに場を見守りながら話すアレスにガレードは自信を持って断言する。


「彼なら心配無いですよ」


 さらにアレスに耳を寄せて何かを続ける。


 少し離れた場所でガレードとアレスがひそひそと話していたのだが、ガレードがアレスに何かを耳打ちした途端アレスは驚愕した表情になる。

 だがアイリスはそんな事は眼中にないらしく京の挑発に簡単に乗ってしまう。


「いいわ。そこまで言うなら相手をしてあげる。で、いつやるの?今?」


 アイリスの目つきが変わりやや俯き加減になりながら不敵な笑みを口元に浮かべる。


「明日の朝一番でどうだ?酔っ払いを斬っても力の証明にはならんだろう?」




 ギルドで京はアイリスを煽るだけ煽った後は用は済んだとばかりに颯爽とギルドを後にした。

 去り際に武皇のメンバーに押さえ付けられているアイリスに一瞥くれる事も忘れなかった。


「はっはっは。気持ち良いぐらいの言葉の応酬でしたな。明日の勝負が楽しみだ」


 御者に目的の鍛冶師の所在地を伝え島達の馬車とは別行動を始めた馬車の中でガレードは大笑いする。

 あの後アレスが仲裁に入り形は正式に明後日の朝にギルド所有の闘技場でアイリスが試験官のテストを執り行う運びとなり、事実上の果たし合いが行われる事となった。

 何故明後日かというと明日はガレードが勤務のシフトで見届ける事が出来ないからとのことだった。

 それに便乗したハンター達はその場の勢いでアイリスと京どちらが勝つか賭けを始めてしまいどういう訳かガレードとアレスもその賭博に参加して、上級ハンターにギルド長、世でも名高い名医が参加する賭けの金額は物凄い物になっている。


 そのことは馬車で待機していたミラルダとイザレアの耳にも入る事になり帰宅したガレードはミラルダからこっぴどく叱られる事になるのだが。


「ハンターなんて稼業を営むのは血の気が多い奴らばかりなのでもう少し釣れると思いましたが女が一人だけとは・・・」


 京が頭を横に振りながら続ける。


「まあ、幸いアイリスは名うてのチームのメンバーのようですし今回はこれで良しとしましょう」


 一回で男達を追い払った時に聞こえた武皇と言う名、最後にアイリスを取り押さえていたチームメイト達の上級魔族の素材を使った装備。

 それらから武皇とはかなりの力量を持つ者達の集団と予想出来る。


「武皇ですな?」


 ガレードが頷きながら続ける。


「武皇とはそれぞれの持つ武器を使った武を極めし者達の集まり。個の力がある分チームワークは粗雑だがチームとしては実質最強と名高い。あのアイリスとて双剣術ではあの若さで既に玄人の域だとか」

「ほう、双剣術ですか」


 確かにアイリスの体には一見しただけではハンターに有りがちな体の左右の不釣り合いが見当たらなかった。

 剣術を使うにしても槍術を使うにしても大抵のハンターは得物(えもの)を用いるスタイルではどうしても身体の使い方が利き腕利き足を軸とした形になってしまい左右の筋肉の付き方に偏りが出る。

 左右同時に鍛えるより強い一撃を放てる一方を作り上げる方が効率が良く魔族には効果的だからだ。

 だが両方を攻撃に用いる双剣術では力ではなく素早さで勝負するため、素早い立ち回りと他の倍以上の手数が要求される。

 それらを満たす為には身体の全ての箇所を使う事が要求されるため、ハンターとしては珍しいバランスの取れた身体になるのである。


 ガレードの話では2年前アイリスが武皇に加盟した時に下位ながらも上級の魔族を仕留め確かな力を示して加盟したらしい。

 そんなふうに話をしている内に馬車は街中の一角にある中規模な石造りの工房の前に停車する。

 建物にはその大きさに似つかわしくない巨大な煙突が据えられていて、まるで煙突を拡張しただけの建物に見える。


「先に話して起きますが彼はかなり気難しいやつでしてな。気に入った相手の仕事しかせんのですよ・・・」


 ガレードが鋼鉄の扉に手をかけたまま振り向いて話すとそのまま扉を開き中に入る。



「おーい、ヴォルド!」


 中に入って早速ガレードが大声で誰かの名前を叫ぶ。

 建物は入ってすぐの空間は何の変哲も無い普通の武器屋で入口の脇にあるカウンターに詰めていたのは15歳前後の若い少年だった。

 客は他に誰も居なくて緩み切っていた少年だがガレードに気付くと血相を変えて店の奥にある入口とは違う鉄戸に飛び込んで姿を消す。


「ふむ、彼が現れるまで少し掛かりそうですな。その間に店を一通り見られてはどうかな?」


 ガレードの薦めでとりあえず店を見て回る事にする。


 ―――・・・


 店頭に並べられている武器類はどれも殆どが初級ハンターや一般向けの比較的安価な金属製や低級魔族の一部を加工したものばかりで、あまりいいものとは言えなかったがその素材で出せる限界まで極められた良さがあった。

 中でも目を引いたのは店の奥に硝子ケースに入れられ飾られていたレイピアだった。

 他の武器類は手に持って感覚が確かめられるのに対してそれだけは触る事が許されず見て確かめるしかなかった。

 だが逆に手に取れない分磨き込まれた鏡のような刀身や繊細な柄や鞘の装飾が際だって見える。

 鋭利な先端や片刃の刃は強度と鋭さがお互い最大限に際立つ芸術的な度合いで厚みが持たれていた。

 そのレイピアを京が目測で材質と形状から刃の強度を算出していた時少し前にカウンターの少年が消えた扉が開かれ、中から身長130センチ程のがっしりとした小男が出て来る。

 ごわごわして伸び放題の髪にごつごつした顔に付いている目も同じ薄い茶色で、日に焼けて赤黒い肌は多量の煤が付着していた。


「おうガレード」


 男は出て来てすぐにガレードの姿を認めると背丈に似合わない低いどすの利いた声で挨拶をする。


 ―――ドワーフか・・・?


「やぁヴォルド。景気はどうですかな?」

「んぁ?・・・ぼちぼちってとこだな。仕事自体はあるんだが、どれも武器の修理だの強化だの小さな仕事ばかりでな。こう、でかい張り合いがある仕事がねぇんだ」


 クックと笑いながら陽気に話す男は人が良さそうだがそれでいてどこか近寄り難い雰囲気があった。


「ところで、そっちの若ぇのは誰だい?」


 右手に掴んだままのハンマーで京を指しながら値踏みするような目で見る。

 掴んでいるハンマーはやや大振りでかなり使い込まれて彼の手にすっかり馴染んでいるようだった。


「雨宮 京。今日はいくつか見立てたい物といくつか仕立てて欲しい物があって来た」


 自分の名と簡潔に用件を伝えるとその後をガレードが引き継ぐ。


「彼は息子の恩人でしてな。現在私の家御友人方と共に滞在してもらってまして、御蔭で家がすっかり賑やかに」


 ガレードが楽しそうに話す。


「そうかい。普通は一見客は若ぇ衆に相手させるんだが、ガレードの紹介なら話は別だ。着いて来な」


 男は出て来た扉に引っ込み、ガレード、京とそれに続く。

 扉をくぐるとそこは異様な熱気が漂う凄まじい空間で、稼働する巨大な炉からは赤い光が絶えず発っせられていた。

 炉の脇を通り抜けてまた黒々とした扉を通過すると壁に幾つもの豪奢な装飾が施された作品があった。

 男が中央のソファーにどっかりと腰掛けて京達にも同じくそれを勧める。


「名乗り遅れたが俺の名はヴォルド。ドワーフの鍛冶師だ」


 豊かな口髭を撫で付けながら厳かに語るヴォルドは小さな背丈にも拘わらず何とも言えぬ雰囲気があった。

 真ん中のテーブルに置かれていた酒瓶から同じく伏せて置かれていたグラスに茶色いやや粘度のある液体をなみなみと注ぐとそれを京とガレードにも配る。


「早速だが若ぇの、今日は何を仕立てに来たんだい?」


 ヴォルドがグビッと酒を一呑みにして再び酒を注ぎながら訊く。


「あぁ、先に聞きたいんだがあんた、オリハルコンが扱えるのか?」


 オリハルコン、魔界にしか存在しない希少金属を精密な比率で幾種をも混ぜ合わせた超硬合金で、神銀上回る強度、熱耐性に加え、高い魔力伝導性を誇り人工的に生み出された最高の合金と称されるが如何せん加工が難しく人間に扱うことは不可能とまで言われていた。


「おぅ。勿論だ。何故そう思ったんだい?」


 グラスを片手にしていたヴォルドがそれを運ぶ手を静止する。


「表のレイピアを見た」


 硝子ケースに飾られていたレイピアの事である。


「そうかい・・・でオリハルコンで何を作れと?」


 ヴォルドからは陽気さは消え失せ、真摯な職人の顔になっている。

 京は無言で立ち上がって目を閉じ、意識を集中する。

 普段の召剣時の数倍の魔力を込め、命じる。

 溢れる魔力に髪が靡き、コートがはためく。


「来り会へ(きたりあえ)、我が身より生まれ()でし眷属よ」


 半ばまで言うと同時に京の周囲の空間がバチバチと音を立て、空が裂ける。


「へぇ、召喚術かよ!?」



 目の前で起こっている稀に見る稀有な魔法にヴォルドが驚きを隠せずに立ち上がる。

 一方、座ったままのガレードは溢れる魔力に逆らえずに顔を手で庇う。

 京が完全に言い終えると背には大剣、左右に大太刀、正面にはブロードソードが寄り添っていた。

 仮想意識を付与されている黒剣達は自らの意識で浮遊しながら京に使われるのを待つ。


「こいつらの鞘を(あつら)えて欲しい」



 剣をテーブルに並べると京はゆっくりと依頼内容を告げた。


「こいつはまた随分とやばい代物を・・・」


 京に一言断ってから大剣を手に取ったヴォルドはそれを様々な角度から観察する。


「・・・こいつは、覇竜種の剣尾じゃねぇか!?」


 手に取って予想が確信に変わったヴォルドの顔が驚嘆一色に染まる。

 そうだ、と頷く京。

 グラムを置いたヴォルドは続いてティソナ コラーダ、バルムンクと順に観察する。


「・・・覇竜の剣尾なんて代物は初めて御目にかかったがよくこいつを加工出来たもんだな」


 ヴォルドはその加工技術に素直に感動していた。


「出所は聞かねぇが・・・元の鞘はどうしたんだ?最初から無かったなんて事はねぇだろ?」


 ヴォルドは震える手で最後の剣をテーブルに置くとそのままグラスの酒を煽る。


「全て斬れて真っ二つになった。神銀製だったんだが、抜刀時にどれも耐え切れずにな」


 手付かずだったグラスの酒を一気に飲み干す。


「ぐぅ・・・何だこれは?」


 飲んだ瞬間喉がかっと熱くなりアルコールではない何かによって動悸と目眩がする。

 身体に異常を感じると直ぐにアジーンと同調し、体内に侵入した異物を分解、解毒する。


「お〜お〜、まさか一気にいくとは思わなかったぜ!」

「おやおや・・・」


 京の飲みっぷりに感心するヴォルドと少し心配そうに見ているガレード。

 ガレードは先程から少しずつ口を付けて飲んでいたのだが、それでも半分も飲まない内から酔いが回ってきていた。


「こいつはコラストって酒にちぃっとばかりユニコーンの生き血を混ぜたもんでな。俺達ドワーフにとっちゃ良い酒何だが、人間には強い精力・強壮効果があるらしくてな・・・」


 だが解毒してしまったため余り堪えていない京を見ながらヴォルドは大笑いする。


「おぅおぅ、お前若いくせになかなかいける口じゃねぇか。気に入ったぜ」


 再び注がれた分をシンクロによって肝臓機能を向上させながら京が飲む。


「良いだろう、お前の仕事を受けてやる。だが何故鞘が必要なんだ?召喚術が使えるなら必要無いだろう?」

「余り目立ちたく無いんだ。明後日、訳合って女と試合うんだが、まさかギルド長主催の場で召喚術を使う訳にはいかないからな」

「アレスが主催?メレスフィアはまだ先じゃなかったか?」


 事情が分からないヴォルドにガレードが先程ギルドで起こった出来事を話す。

 ヴォルドはそれを興味深く傾聴している。


「アイリスには荷が重いな。あいつの武器も俺が打ってやったんだが、それぞれオリハルコンと神銀で出来ているんだ。抜刀だけでも耐え切れなかった神銀に、流石のオリハルコンでも直撃を受けりゃあ・・・」


 とヴォルドが肩を竦める。


「心配しなくても女相手に本気を出すつもりはないさ。あんたの作品は出来るだけ傷付けないよう努力する。で、完成までどのくらいかかるんだ?」


 当日は最悪今日みたいに刃を剥き出しで下げることも覚悟している。

 先程下げていた帯剣ベルトは途中で切れてしまった。


「そうだな・・・この大剣以外は一日もあればなんとかなりそうだ」



 結局巨大かつ装飾が複雑なグラムは固定器具だけにしておいた。

 鞘の受け取りは明日の夕刻になり、その後鞘の装飾や形状について簡単に打ち合わせた後店頭に並んでなかった神銀製のナイフを20本をヴォルドから直接購入して店を後にする。


「いやぁ、彼がキョウ君を気に入ってくれてよかった」


 最後の目的地の宝石店へ向けて走り出した馬車の中でガレードが嬉しそうに話す。


「いえ、ガレードさんの紹介の御蔭ですよ」


 それにしてもガレードは各界の著名人に良く顔が利く。

 これから行く店の店主も友人らしかった。


「それにしてもキョウ君は随分と持ち合わせがあるみたいですな。この世界に来てすぐにこれだけ稼げるのなら私達親子の所得など軽く抜かれてしまいそうだ」


 そう言ってガレードが楽しそうに笑う。


「いえ、そうでも無いですよ。実は他のやつらと違って俺だけ数年前にこの世界に迷い込んだ事があるんです。その時に自分の能力を上手く活用しましてね」



 宝石店まではあまり距離が無く、5分足らずで到着した。


「お待ちしておりましたガレード様」


 店の前に馬車を横付けして下車すると愛想よい恰幅が良い太った男を先頭に高価そうな服に身を包んだ店員達に出迎えられる。

 何らかの手段で御者から事前にガレードが来店する旨が伝わっていたらしく、店員総出での出迎えらしかった。


「今日はどういった品をお探しで?」


 外観やギルド等とは違ってモダンな雰囲気の店内に入って直ぐに店主らしき太った男に尋ねられる。


「護身用に魔導器を作って贈ろうと思ってな。日用でも使える装身具を探している。数は7つ、金に糸目は付けない」


 それを聞いた店主が感心したような顔をする。


「7つ?お相手はどのような方で?」

「俺と同じ歳頃の男女なんだが、男二人は正直どうでもいい」



 相手の像が浮かぶと店長は若い女性店員を呼び寄せ何かを言付けるとそのまま京とガレードを奥の部屋まで案内する。


 魔導器とは、魔法を用いて貴金属や宝石に魔力を篭めて事前に術式を付与しておく事で事前に設定した条件下で効力を発揮し、装着者を危険から守る物である。

 単に神仏に祈りを捧げただけの象徴的、抽象的概念の具現化されたお守り等とは違い、実際に身体を強化したり、外敵に対して障壁を展開したりと実のある物である。

 一概に魔導器と言っても様々な物があり、大抵は装身具の類だが過去には魂そのものに術式を刻み込んだ例もあった。

 またその力も使われる基盤や術者の力量に大きく依存し、一般に高価な宝石や貴金属、上級の魔族の身体の一部が最も親魔力が高く貯めれる魔力の量が大きい。


 VIPルームらしき部屋に通されたあと、宝石商の男とガレードが世間話をしているうちに数人の若い店員がいくつもの装具が入ったケースが載せられたカートを部屋に搬入してきた。


「さあどうぞ御自由に選んでください。少しでしたら手に取って魔力の通りや容量を確かめていただいてもかまいません」


 宝石商の男がケースを外しながら京に手に取ってみるよう勧める。

 勧められるがままに目の前のケースに入れられたネックレスを手に取る。

 チョーカーサイズのそれは神銀製の目の細かい鎖に小さな宝石がいくつも埋め込まれていて、トップ部分には三日月を象った小振りなダイヤが付いていて魔力の容量も申し分無く、また副装の小さなルビーも様々な術式を埋め込むには都合が良い。


「・・・気に入った」


 自然と零れ落ちた言葉に宝石商が反応し何かを話し掛けて来るが全く頭に入らない。

 今京の頭を支配していたのは誰にこれを贈るかという思考。

 手に取った瞬間に誰かを連想したのだが、恐らくその人物は自分を不倶戴天の敵に近い存在として捉えている。

 そのベクトルの向きは明らかにおかしいが、いきなりこんな状況に放り出されれば誰だって混乱する。

 そして京はそれを理解し、甘んじて受け入れていた。


 ―――受け取って貰えるのか?


 魔界ではいつ魔族に襲われるともしれない。

 自分と違い彼らは満足に魔法も使えず戦闘能力は常人の域を出ない。

 いや、魔族についての絶対的な知識が不足し、魔法を使えない分この世界の大多数の人間よりも劣るかもしれない。

 成り行き、自分の気まぐれ、世迷いでこの世界に連れて来た彼らが死んでしまってはあまりに寝覚めが悪い。

 それに時間軸が歪む前の世界から来ている彼らは今死ねばあの7月19日からは永遠に消え去り、その日からは存在が消えて虚になる。

 そうならない為にもせめて事前に出来る手は打っておきたかった。

 それは偽善かはたまた初めて自分を普通の仲間として受け入れてくれた彼らに対する執着心だったのかもしれない。

 理由としては恐らく後者だろう。

 彼らを魔界まで連れて来たのがいい例だ。


 ―――失うのが怖い・・・?


 妹が行方知れずになりその前後の記憶を喪失、妹の消息を知る手掛かりになると知りながらも、それを取り戻す方法を知ってながらも、それに踏み出せない自分に対する失望と喪失感。

 また同じ事を味わうのは御免だった。


「・・・・し・た?」


 急に肩を叩かれ現実に引き戻される。


「どうかされました?具合でも・・・」


 振り向くとガレードが心配そうにこちらを見ていた。

 正面で接客してきていた店主も不思議そうにこちらを見ている。


「あ・・・ああすまない。ちょっと考え事をしていた」


 深く考えるのを辞め、チョーカーを隣で色々とアドバイスしてくれている若い女性店員に渡し他の分の物色にかかる。

 何の事はない、これはただ自分が彼らを助けようとしたという単なる確認だ。

 だが高々精神の逃げ道とはいえ妥協は許さずに徹底して良さそうな物を選ぶ。

 全てハンドメイド製らしいこの店の品にはどれ一つとして同じ物は無く、類似するデザインすら無かった。


 途中考えが変わり結局一人で11点も購入してしまった。

 当初の7人に加えエイジスト一家にも一応食と住居を提供してもらっている分もいくらか還元しようと考えたのだ。

 ほくほく顔で上機嫌で今日はもう店じまいだと従業員に話していた店長達に見送られながら馬車は市街観光へと走り出した。


 手初めに名所と呼ばれる場所を片っ端からガレードの説明で見て回った後、ちょうど昼下がりで店も空いてきていたので手頃な店で済ませる。

 次々運ばれて来た様々な魔獣の肉を大きめに切って塩胡椒を摩り込んで下ごしらえしただけの物を刺して炙られた串焼は少し噛んだだけで肉汁が滴り落ち、非常に美味だった。

 会計を済ませようとしたら先に全額ガレードに払われてしまい、自分の分の金額を律儀に渡そうとする京とそれを固辞するガレードの押し問答を繰り返した後結局京が折れ再び街へと観光に繰り出した。

出来たら感想なんか貰えると嬉しいです。執筆速度上がりますので。1回の書き込みで作者のブースト圧は2.0ぐらいまで上がりますので。(ブーストたれも早いですがww)

そうそう、最近アップするまでに書き込む字数の目安が1万字以上までレベルアップしました。最初の3千、次いで5千それから1万。もうね、急に倍だからねw下方修正したいな〜なんて……www

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