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2章:6GUILD

サボらずに普通に書けばこのぐらいの執筆ペースを維持出来ますwww

 早朝、頭が割れるような痛みに目が覚める。


 ―――ぐぅ、頭が割れそうだ


 思わず顔をしかめ、頭を抑える。

 暫くそうしていると、次第に痛みも引き、冷静に考えられるようになってくる。


 ―――俺は・・・ここで何をしていたんだ?


 昨夜の事が思い出せず、自分が何故此処にいるのかも分からない。

 まだ少し残る頭痛と戦いながらふらふらと立ち上がり、情況を把握するため周囲を調べるべく歩き出す。

 ―――うぉ!?


 平衡感覚がでたらめで急に膝が折れ、崩れ落ちる。


 ―――っ、半規管がやられてるのか!?


 頭痛に加え平衡感覚の麻痺。

 思い当たる節は無いが、とりあえず倒れたまま魔力で自分の身体を早速調べてみる。


 ―――昨日何があったんだ!?


 調べてみると、損傷をうけているのはバランサーとしての機能を果たしていない半規管だけでなく、前庭器官も破損していて、内耳の殆どが機能停止していた。


 損傷の仕方も異常で、高熱を加えられた形跡と、重圧により潰された跡があった。


 ―――・・・一体何があったんだ!?


 直接患部に作用する治癒魔法と代謝を上げ自然治癒を促進する2種類の魔法を用いて、器官を修復する。

 頭痛の障害のせいで、上手く魔力の加減が出来ず、回復がかなり困難な作業になる。


 ―――だいぶ復旧してきたな・・・


 ゆっくりと時間をかけながらも、何とか患部を治し、再び立ち上がる。


 ―――よし、問題無い


 久々の、加えて原因不明の負傷に少し取り乱したが、すっかり治ってしまい落ち着きを取り戻し周辺の調査を再開する。

 火を起こした跡に、木から吊された氷漬けの魔獣の死体以外には何も見つからず、戦闘の形跡は何も無かった。

 焼け跡を調べると脇に飛び出している後から放り込んだであろう枝が何本か見受けられ、汚れた跡、火が付く距離ではないのに樹皮を失い焦げた跡から自分が野外で自炊時に作る串だと分かる。

 氷漬けの魔獣らしき死体は自分がよく使う付与された魔力が尽きない限り効果が切れない冷属性の魔法で、捌き方も自分のやり方だ。

 これらの情報を統合し、自分は此処で夜営したことまではわかったが、その先は完璧に欠落していて何があったのか分からない。

 唯一交戦した可能性があるとすればこの氷漬けの死体だが、こんな低級の魔獣が高度な魔法が使えるとは思えない。

 せいぜい身体強化が関の山だろう。


 ―――アジーン、昨日は何があったんだ!?


 先程、京が起きた事に気付いてから笑い続けているアジーンに渋々声をかける。

 その笑いにからかうようなニュアンスを感じ、寝起きの機嫌の悪さも手伝って無視していたのだが、ついに行き詰まり無視する訳にもいかなったのだ。


『クックック・・・覚えてないのか?』


 馬鹿にしたような言葉にさらに京の機嫌が悪くなる。


 ―――覚えてないから聞いているんだろう?


『そうか。いや、しかしお前もつい最近産まれたばかりだと思っていたが、もうそんな異性に意識をさせる年頃なのだな』



 ―――あ?


 何を言いたいのかがさっぱり分からない。


 ―――俺ももう18だ。だが、それが質問とどう関係がある?


『昨日お前は―』


 ―――待て、昨夜の事だけでいいぞ?


 このままではアジーンは質問に馬鹿正直に昨日一日の行動を完璧に、長ったらしく説明するというある種の拷問を始めかねない。


『そうか。昨夜お前はエイジストの家を飛び出し、此処で一夜を明かそうとした』


 ―――それぐらいは分かる


『そして見ての通り、お前はあそこの魔獣を仕留め、腹拵えをして今日の行動計画を立てている最中にあのイザレアというドリアードを介して聖が交感を繋いで来た。ドリアードも遠距離の上、初めてお前に交感を繋ぐのもあって加減を間違えたのだろうがお前は聖から受けたイメージの強さに圧倒され、気を失ったのだ』


 言われて、じわじわと昨夜の記憶が蘇る。

 焼かれるかのような灼熱のイメージ。

 押し潰されるような重圧のイメージ。

 交感を持った途端、それらが同時に襲って来たのだ。

 慌てて握り潰そうにも、そのイメージは自分よりも遥かに強く、かなりの恐怖を味わった。


 初めは精神干渉系の魔法かと疑った程だ。


 ―――石崎は何か俺に恨みでもあるのか?


 あまりにも強い苦痛のイメージに頭を抱え込んでしまう。

 それに比べ、相棒の竜は愉快そうに笑い続けている。


 ―――とにかく、今後は交感を繋ぐのは注意が必要だな


 とりあえずそう結論付けて頭を切り替えた。



 記憶を取り戻した後、少し迷ったがやはり屋敷に戻る事にする。

 通常の翼を使った飛行に加え、翼よりやや下の腰部から突き出した一対の小翼から魔力を放出しスラスターとして作用させ起動力底上げで飛行する。

 その甲斐あってあまり時間を掛けずに街近くまで付き、同調を解いて街道から街に入る時にはまだ商人達が世話しなく動き回り、どの店も開店直後だった。


 ―――困ったな・・・


 投擲用に適当にナイフを見繕おうと思っていたのだが、土地勘が全く無く、武器屋も武器商人も見当たらない。

 店を探して歩き回る内にいつの間にかエイジスト邸のある郊外へと続く道へと出てしまい、予定を変更して先に戻ってみることにする。

 スレイプニルを出すほど街まで距離があったことを思い出し、身体強化の魔法を使いスレイプニルよりも速く走り、何とか10分程で到着する。


 ―――入り辛いな・・・


 部屋に通される前に屋敷を飛び出した上、晩餐の誘いを蹴ったのだ。

 おまけに何やら自分に対して並々ならぬ負の感情を持つ者までいるのだ。

 暫く屋敷の外でうろうろしていたのだがいつまでもそうしているわけにもいかず、意を決して門を潜る。


「あら?お帰りなさい。随分と帰りが早かったのね?ひょっとして・・・昨日のメッセージのおかげかしら?」


 急に声を掛けられ振り向くとさっきのアジーンと同じニュアンスを含んだ笑いを浮かべたイザレアが動き易そうな服装で立っていた。


 朝から木々の世話に余念が無く、既に作業は終わりに差し掛かっていた。


「メッセージ?あの凶悪なイメージのことか?」

「凶悪なイメージ?」


 不思議そうに首を傾げるイザレアに昨夜のイメージを話して伝える。

 参考までにイメージを昨日繋がれた交感を逆手に取り、逆流させる。


「あら、なんて強烈で情熱的なイメージなのかしら」


 赤くなりながら頬を抑え悶えだす様を見て呆れる。


 ―――何なんだこの女?


「・・・まぁいい。それより、イザレア、あなたに聞きたい事がある」


 朝早くで周りには誰もいない。

 話を聞くにはちょうどいい。


「何かしら?」


 イザレアが微笑みながら目を細めて質問を促す。


「・・・あなたは・・・何者なんだ?何故昨日俺を初めて見た時に驚いた目をした?俺は過去にドリアードとあったことがある覚えは無いのだが・・・前に会ったことがあるような気がしてならん」


 冷静さを失い、語気が次第に狂気を孕む。


「・・・まだ、思い出せてないのね。ごめんなさい、私達があんなことをしたばかりに・・・」


 謝罪と哀れみを含んだ悲しげな目に京はイザレアを直視出来なくなる。


「そうか。やはりあなたは何か知ってるのか。・・・実はある程度記憶は戻っている。強い魔力を奮う度に枷が壊れるのを感じていた」


 イザレアが驚いたような顔になり京が続く言葉を紡ごうとした時、屋敷の脇に止まっていた馬車が一台動き出し門へ向かって来るのが見える。

 馬車は話している二人の横にちょうど止まり中からグレイが降りてくる。


「あ、キョウさん。戻られたんですね」

「あぁ。・・・どこか行くのか?」


 こんな早朝から何処へ行くのか気になって聞いてみる。


「ええ、今から出勤です。診療所自体は家と別にガレスティアにあるんですよ。もちろん家でも出来ますが、患者は一々こんな所まで来れませんからね」

「ほう・・・」


 馬車の前方ではイザレアが繋がれたスレイプニルの頭を撫で、撫でられている方は気持ち良さそうに目を閉じている。


「今日は何か予定でも有るんですか?」

「あぁ、たいした予定では無いが、今日はギルドに登録していろいろと必要なものを揃えた後は街を少し散策しようと思っている」

「それでしたら父に案内を頼まれてみてはどうですか?今日は僕が勤務する日ですから一日休みですし、父は色々な所に顔が利きますから」


 ―――成る程、確かに案内を頼むのは良い考えだな


「分かった。そうしてみるとしよう」

「最近休みは暇を持て余していたから喜びますよ。では、僕はそろそろ行きます。じゃあ行ってくるよ、レア」


 何やらイザレアがグレイに歩み寄り、何やら見てはいけない気がして目を逸らす。


「いってらっしゃい、あなた」


 イザレアに見送られながら馬車は街まで続く街道を駆けていった。



 グレイを見送った後、イザレアと屋敷に入り風呂を借り、湯気が立つまま使用人に案内され食堂に通されると既にガレード夫妻が席について朝食を取っていた。


「おはようございます」


 京が入って来たのに気付いたガレードとミラルダの顔がぱっと明るくなり満面の笑みを浮かべる。


「おかえり、よく帰ってきてくれた。さあ、座って座って」

「おはよう」


 ガレードに勧められ席に着くと、ミラルダが新しい皿に円卓に置かれた大皿から沢山の料理を山盛りにして渡してくれる。

 ベーコンエッグとソーセージまではかろうじて分かったが、後は始めてみる料理ばかりだが肉料理が多い。


「昨夜はちゃんとご飯を食べれなかったでしょう?若いんですから沢山食べないと」


 同じく渡されたナイフとフォークで食べ始めるとミラルダによってもう一皿大量に料理を盛りつけた皿を前に置かれる。


 ―――昨夜は魔獣の肉をかなり食べたんだがな


 一応京なら食べ切れる量だが、5〜6人分あるそれは常人なら半分以上残してしまうだろう。

 初めて食べる料理に舌鼓を打っていると、楽しそうにそれを見ていたミラルダが声をかけてくる。


「今日は何か予定が?」

「ええ、ギルドに登録した後、街の観光でもしようかなと・・・」


 ここでガレードに案内を頼もうと思っていた事を思い出す。


「それでしたら私が街を案内しましょう!今日はちょうど暇でしたので」


 願ってもない事に、相手から案内を申し出てくれる。


「それなら是非ともお願いします」


 実はミラルダも舞達を観光に連れ出す事になっていてガレードは本当に暇だったらしい。


 朝食後部屋に案内された京と入れ代わりで寝坊して起きてきた香奈芽達が食堂に入っていく。

 案内された部屋はちょうどエントランスの上に位置する二階にあり、日当たりも良く、広いバルコニーからは庭が一望出来る造りで京は一目で部屋が気に入った。

 大きなベッドに倒れ込み少し休んだ後バルコニーに出て朝日に当たり、体内時計を調整する。

 暖かい陽光を浴びていると不意にバルコニーから飛び出したい衝動に駆られ、ぼーっとして頭が回らなくなっていたせいか気付くと玄関目掛けて飛び降りている最中だった。


 ―――なっ!?


 慌てて体勢を制御して足から落ちる。


ダン!


「きゃっ!?」


 ちょうど屋敷を出ようとしていた聖の目の前に着地してしまい、驚かせてしまう。

 どうやらこれからミラルダの案内で観光に出るらしい。

 一行の中にはイザレアもいた。


「雨宮、お前・・・何やってんだ?やっぱ窓から出入りする癖でも―グァ!」


「・・・グラヴィティ」


 何となく腹立たしい島に超重量で制裁を加え、聖に向き直る。


「すまない、驚かせたな」


 見ると、顔を赤くしながらこちらを見る様に不穏な空気を感じ、返事を待たず早々に屋敷に退散する。

 昨夜あれほどの憎悪の情を見せ付けられたのだ。

 あのまま居てもいいことが起こる筈がない。


 とりあえず部屋に戻ろうとエントランスを通過し、階段に向かうとガレードと鉢合わせする。


「おお、キョウ君、ちょうどいいところに。これから呼びに行こうと思っていたんだが、そろそろ街へ出掛けよう」

「わかりました」


 再びエントランスまで引き返し屋敷を出る。


「実はタカオ君達もギルドに登録するらしいんだけど、一緒にする方がいいと思ってね」

「なっ!?」


 ―――そんな話聞いてないぞ?


 初めて聞く事実に開いた口が塞がらない。


「おや?聞いてなかったのかい?」


 ガレードが不思議そうに聞いてくる。


「初耳ですね。まあ彼らならライセンスを取得出来るか・・・」


 ―――出来ないだろうな


 この世界でギルドに登録しハンターライセンスを取得するには様々なテストをパスする必要がある。

 それらには筆記等で知識を求められるものもあるが、最終的に物を言うのは一番重視される実技だ。

 普通は何年も掛けて養成所で訓練された者や副業として傭兵が取得するものだが、一般の域を出ない彼らではそれをパスすることは不可能に近い。


 馬車に着くと、後ろには既に同じ二頭立ての馬車が待機しており、中から誰かが手を振っていた。

 ガレードがそれに応えると馬車に乗り込み京もそれに続く。

 馬車は昨日屋敷に来た時に乗った馬車と同じ物で、二人の人間が乗るには広すぎた。

 閂を掛けてガレードが前方を叩いて御者に合図をすると馬車が静かに動き出す。


「ギルドまでは私達が先行することになってましてな。そのあとは別行動の予定ですがどこか行きたい場所はありますかな?」


 走り出して少ししてガレードが口を開く。


 ―――行きたい場所?


「とりあえずは武器屋を覗きたいですね。流石に丸腰ではハンターの仕事は務まりませんので」


 言っておいて苦笑してしまう。

 どこの世界に丸腰でハンターライセンスの交付を受けようと考える人間がいようか。

 ここにいるが・・・


「それでしたら知り合い腕の良い鍛冶士師を紹介しましょう。工房の傍らに店を開いてましてな」

「鍛冶師か、それはちょうどいい。・・・後は宝石店ですかね」

「承知した。行きつけのいい店がありましてな、妻の誕生日には毎年そこでアクセサリーを買ってましてな」


 嬉しそうに笑うガレードと今朝の様子から結構な鴛鴦(おしどり)夫婦らしいことが分かる。

 いや、鴛鴦とは実はシーズン終わりで別れるなかなか薄情な物なのだが。


 ―――他人に見られると面倒になりそうだ。先に出しておくか


「これから見る事は他言無用でお願いします」

「いいとも」


 ガレードが興味深気にこちらを見る。


 両手を前にだらりと垂らし、目を閉じて意識を集中する。


「召剣――ティソナ コラーダ」


 京が呟くと同時に目の前の空間を裂いて2振りの漆黒の野太刀が現れ、すばやくそれらを掴む。

 刃長1メートル10センチの刃は妖しく見る者を引き込む光を放っていた。


「おぉ、まさか召喚術を使えるとは・・・!!拝見させてもらってもよろしいかな?」


 静かに一対の刀をテーブルに置いておすとガレードがそれを手に取り様々な角度から観察する。


「見たこともない形状の剣ですな。しかし良く切れそうだ」


 なにやらうんうん頷いた後丁寧に刀を返される。

 それらを掴んで両足のホルダーに差し込むが、鞘が無く刃が剥き出しの状態になる。


 ―――ついでに頼むか


 そうこうしている内に馬車がギルドの前に付いたらしく停止する。


「着いたみたいですな」


 そう言ってガレードが閂を外し馬車を降りる。

 続いて京も馬車を降りるとそこは大きな2階建ての木造の建物の横にある駐車スペースのような馬車で他にもいくつか馬車が止まっており、酒臭い匂いがぷんぷんしていた。

 少し後ろに停止していた馬車からも見慣れた顔が続々と出て来てそのままこちらまで掛けてくる。


「おい雨宮、また随分と物騒な物下げてんな」

「・・・お前、武器無しでどうやって魔族を狩るつもりだ?」


 とここで聖がこちらに来るのが見え、慌ててこの場から距離を取る。


「・・・?雨宮君何してんの?もっとこっち来なよ」


 一人ぽつんと孤立しているとそれに気付いた舞が手招きをする。


 ―――いかんいかん、元々俺は一匹狼じゃないか。無用な馴れ合いは・・・


「皆そろいましたな。では行きましょう」


 先陣を切ってガレードが歩き出し、ギルドの正面の入口まで回り込む。

 広い入口は開け放たれていて、その中からはがやがやと喧騒と強いアルコールの匂いがしていた。


「うぉ!?これなんてモ〇スターハンター?」


 島の叫んだ言葉は理解出来なかったが、ギルドに入ってまず驚いたのがその客層。

 老若男女が入り乱れ飲み食いしたり自らの武勇伝を仲間内で語り合っていたりと、とにかく良く言えば賑やか。

 一見普通の酒場のような感じで、白を基調とした制服に身を包んだウエイトレス達が世話しなく料理や酒を運んで行き交っていたが、客達の殆どは傍らに置くなどして武器を携帯している。


 ガレードはそれらには一切構わずにずんずん中央を突き進み、奥にある階段を目指して進む。

 途中ガレードにぶつかり掛けた者がいたが、悪態をつこうとしてガレードの顔を覗き込んで青ざめた顔をして道を空けた。


 ―――レディーファースト


 その言葉が不意に頭に浮かび殿(しんがり)を務める事にして最後の相手が行くのを待つと、奇しくも聖の後ろに付いてしまうこととなる。

 危険な人込みを掻き分け、突き進む内に起こって欲しくない事態が発生する。


「へへへ、ネーチャン幾らだい?」


 通り過ぎ様に急に酒を呑んでいた男が前を行く聖の腕を掴み、同じテーブルにいた男達が盛んに囃し立てる。

 急な事で聖は驚いて声も出せず、前にいた舞は気付かずに進み続ける。


 ―――AEIOの件と言い、今回と言い・・・何故こいつはこんなにもトラブルに巻き込まれる!?


 理不尽な怒りが沸き上がり、そのベクトルが目の前の下賎な男に向く。

 見た所体は大きくそれなりに鍛えられているが特にこれと言った特徴もない。

 特徴があってもやることは変わらないが。


 男の腕を掴み、万力のごとく腕を握り絞める。

 突然の事に男は直ぐさま反応出来ず、振りほどけないほど力が篭められていた時には既に遅かった。


「ぐぁぁぁあああああッッ!!!」


 男の骨がミシミシ音を立て、絶叫する。

 当然の事ながら男は手を離し必死に振りほどこうと体を使って暴れるがびくともせず、ただ苦痛の悲鳴を上げるのみ。


「野郎ッッ!!」

「ゴラァッ!」

「アァ!?」


 叫ぶ男と同じテーブルに付いていた男達が続々と立ち上がりこちらを威嚇する。

 同時に周囲の喧騒が静まる。

 1対6、骨ぐらいは折ってやろうかと考えていた時、突如第三者が介入してくる。


「あんた達ぃ!ちょっと待ちなさいよ!」


 急に横から女の大声がして振り向くと、赤い髪と眼をした舞より少し小柄な女が立っていた。

 目鼻立ちのはっきりした勝ち気な顔はややキツイ気もするが、一般的には美人の部類に入る。

 それに気付いた男達は舌打ちし悪態をつく。


「武器も持ってない相手に6人掛かりだなんてそれでもハンターなの!?」


 仁王立ちしたまま女は叫び続ける。


「ちっ、こいつ、武皇の・・・」

「何か言った?」

「何も言ってねーよ!おぃ、行こうぜ」


 そう言って6人は連れたって店を出て行った。

 最後に店を出様に何か捨て台詞を吐いていたようだが巻き起こる喧騒に掻き消されよく聞こえなかった。


「君、名前何て言うの?女の子を助ける為に6人相手に立ち向かうなんて気に入ったわ」


 出て行く男達が見えなくなると女は京に視線を写す。


「・・・雨宮 京。武器なら持っているが」


 足に固定された野太刀を軽く叩く。


「ありゃ、本当だ。気付かなかったよ。うん、キョウだね。覚えたよ」


 黒いズボンに漆黒は判別し辛く、加えてコートの内に隠れていた為に分からなかったようだ。


「なんかごめんね。最近、チンピラ紛いのハンターがどんどん増えてきててさ・・・」


 そう言って申し訳なさそうな顔をする女。


「いや、いい。助かった、相手を殺さずに済んで」


 微笑を浮かべて言うと回りの空気が一瞬変わる。


「そういえば、まだ名前も聞いてなかったな」

「アイリス、アイリス=マリーナ。ハンターよ。以後お見知り置きを。所で君はここで何してるの?今日初めて見た顔なんだけど?」

「あぁ、ここのギルドでハンター登録しようと思ってな」

「へぇ〜なら、上に上がらないと。付いておいで」


 口調がやや癪に障ったが、人込みをぐいぐい掻き分けて進むアイリスの後をさっきから固まって動かない聖を抱き寄せて進む。


 ―――嫌われてるのは分かっているが、我慢してくれ・・・


 程無くして階段までたどり着き、聖を抱えたまま昇りきると、そこでガレードが待っていた。

 一階とは打って変わり二階は静かな空間となっておりテーブルに着いているハンター達も様々な年齢層だが纏う気は一様に階下の者達より上だった。


「ありゃ、ガレードさん久しぶりぃ!」


 ガレードの顔を見たアイリスが声をかける。


 京は動かない聖をテーブルに陣取って何やらメニューを見ている舞達の方へ軽く押す。


「おぉ、アイリス。久しぶりじゃな」


 何やら顔見知りらしい二人は挨拶を交わし、ガレードが京に話し掛ける。


「随分遅かったですな」

「少々厄介事が起きましてね」

「ありゃ?二人とも知り合い?」

「ああ、今はこの人の家で厄介になってる」

「ええ?あの豪邸に!?」


 ―――いちいちリアクションが大きいやつだ


「お〜いアイリス。早くこっちに来いよ」


 急に男に呼ばれアイリスが声の主の方を向く。


「あ、レイドが呼んでる。ごめん、私行くね。じゃあまた」


 そう言ってアイリスは奥の聖が向かった隣のテーブルへと走って行った。


「さて、じゃあ私達も行こうじゃないか。もうすぐギルド長も来る頃だ」


 ―――ギルド長?


 空いていた島の隣にガレードが座り、その隣、1番外側に京が座り、その正面では真っ赤になり伸びた聖が舞に介抱されていた。

 手持ち無沙汰で適当に飲み物を選び、注文すると階段脇のドアが開き60歳程の全身傷痕だらけの大男が不機嫌な面を引っ提げてこちらへ向かって歩いてくる。

 注文した品を届けるには早過ぎるし、第一何も持っていなかった。


 ―――下での騒ぎでも聞き付けたか?


 どうでもいい事を考えている間に大男はテーブルまで到着してしまった。

 そして傷だらけの顔を歪めると口を開く。

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