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2章:5MEDDLE

 屋敷を飛び出し、行く宛ても無く空を飛び回ること数時間。

 流石に巡航速度で飛行してたとはいえ、暫く何も食べていない状態の上で同調状態での行動が辛くなって来た。


 ―――そろそろ降りてみるか・・・?


 適当な着陸地点を探すが、眼下に広がるのは木ばかりで何処も同じに見えて着陸する地点が定まらない。


 ―――さて、どうするか・・・?

 ―――早くしないと墜ちるな


 とりあえずこのまま真下に直下降しようと減速し、そのまま小さな孤を描いて宙返りをし、身体を真下に向けると翼を畳み高度800メートルから一気にダイブする。


 1秒、2秒、3秒―――――


 下に着くまでのほんの僅かな時間、落下するスリルを存分に味わう。

 と言っても、この状態ならば万が一そのまま落ちても死なないが。


 10秒弱で秒速100メートルに達し地表まで残り約300メートルの高度に達した時点で長い尾でバランスを取り器用に身体を捻り、頭を上に上げそのまま翼を広げ大きく羽ばたき減速する。

 数度羽ばたいてある程度減速した後、そのまま上手く木々を避けて後ろに運んだ右脚から地に着き、続いて前に運んだ左脚を地に着ける。

 背中を少し丸めて衝撃を殺したが、16トンの巨体がそれなりの速度で地面に衝突するとそれなりの衝撃波が発生し、周囲の木々を軋ませ、ギシギシ鳴かせる。

 衝撃を全て受けきった後、消耗の激しい同調を解き、周囲を確認すると開けてはいるが周囲に高い木々が立ち並んでいて野営に適している地形だった。


『気をつけろ―――魔獣だ』


 とりあえず火を起こそうと、薪に使えそうな枝を風の魔法で集めていると急に警告を受け、近くにある繁みに注意を凝らす。

 草をガサガサ言わせながら接近してくる何か。

 このような森の奥深くで人と出くわすなんて事はまずなく、相手は恐らく魔族だろう。


 ―――ちょうどいい


 空腹で倒れそうになっていた矢先現れた夕食を逃す手は無い。

 姿を確認し次第ナイフを投擲すべく、コートの内に手を入れるがナイフを装備していないことに気付く。

 攻撃手段が無いまま、ガサッと茂みはいっそう大きな音を立て、猪のような初めて見る魔獣が飛び出してくる。


 ―――そういえばこっちに来てから武器屋は行ってなかったか・・・?


 現界にいた時普段携帯していた火器や刃物はこちらに来る時ゲートの制約に縛られ全て失っていた。


ブォォォォ!!


 悪い事に、茂みから飛び出して来た魔獣はそんなことにはお構いなしにその鋭い牙で一突きにすべく大きな身体を揺らしながら突進してくる。


 大きめの子牛程の大きさがあるその巨体は目測でおよそ200キロ程。

 牙で急所を貫かれずとも普通に突進されるだけで圧死等は容易に起こり得る。

 対する自分はエネルギー切れ間近で丸腰。

 一般の人間ならまず助からない状況だろう。


 ―――これだから魔界は飽きない


 死をも起こり得るシチュエーションのスリルに快感を感じ自然と頬が緩む。


「召剣――バルムンク」


 魔力を孕んだ京の呟きに漆黒のブロードソードが応えた。




「ちょ、イザレアって人間じゃなかったのかよ!?」

「そっちかい!」


 記憶の回想が終わり、現在に引き戻された食卓で他の面々が色々と考え込んでいる中、考え無しの島が目を剥いて叫び、それに隣にいた舞が鋭く突っ込む。

 叫びに現実に引き戻された聖達も同じようにイザレアを見るがその目は単に好奇の光を孕んでいるだけで侮蔑等の色は無く、それを見たグレイが変わりに答える。


「妻はドリアードという亜人なんです」

「あ?ドリアン?」


バシッ!


 つまらないボケを噛ました島の後頭部を舞が勢い良く叩き、同じく勢いよく顔からテーブルに突っ伏す。


「ぐぁっ・・・お前は何でそう・・・」

「あら?ボケにツッコミを入れただけよ?」


 舞は悪びれずしれっと言い、このツッコミの効果で場の雰囲気が和む。


「ふふふ、ドリアードとは森に住み、木々と共に暮らす種族のことですよ。魔族も全てが人に害を成す訳では無く、魔人族は亜人と呼ばれこの世界では人と変わらない扱いを受けています。他にもあの馬車を引いていたスレイプニルも魔獣ですし。魔族とはこの世界において人間以外の全ての生物に付けられる単なる総称です」

「へぇ〜初めて聞いたよ。雨宮君全然そういう常識教えてくれなかったし・・・」


 紗耶香がこの場にいない京に文句を付けると同時に部屋に一つしかない扉が開かれ、沢山の使用人がワゴンに料理を乗せ入ってくる。


「おぉ、なんか旨そうだな」

「少しは落ち着きなさいよ、恥ずかしい」


 大皿に乗った料理が次々円卓に並べられ、複数のナイフやフォークも配膳される。

 この辺りは元いた世界と変わらない。


「客人に料理を取り分けて差し上げろ」


 ガレードの合図で一人につき二人の使用人達が一斉に両手にナイフとフォークを構え、それぞれ付く人の希望を聞きながらてきぱきと料理を取り分ける。

 同時に見たことも無い飲み物をグラスに注がれ、匂いで果実酒と分かった。


「ちょ、酒かよ」

「どうかされましたか?」


 騒ぐ島以外の面々も不思議そうな顔をしているのを見たグレイが何か粗相でもしでかしたのかと慌てるが、自分達が元いた世界で存在した飲酒の年齢制限に付いて説明され納得した。


「成る程・・・申し訳ありません、この世界では年齢制限等無いものですから、うっかりしてました」

「いえいえ、こちらこそ気を使わせてしまって・・・」


 唯一成人している香奈芽が気を利かせ一礼して一口口に含む。


「美味しい・・・果実酒みたいだけど・・、度数は殆ど無いわ。ジュース感覚ね、大丈夫よ」


 じっくり吟味した後率直な感想を述べ、隣にいたメイドからも説明が入る。


「こちら、ベラの実を発酵させて作ったルーフィスと言う果実酒で、最近ガレスティアで若い方の間で流行りでしたので最高級の物を用意しました」


 メイド達は気を利かせて水も用意してくれたが、結局皆香奈芽を信用してそのままという事になる。


 一際異彩を放つ山盛りの島の分を最後に取り終え、静かに食事が始まった、筈だった。


 この世界にもこの世界ながらのテーブルマナーが存在するようで、ホストがナプキンを装着するのを見て気付いた舞が慌てて隣の聖を突く。

 元の世界では色々と立場上教育を受けていた聖は少々違うことに戸惑いながらも直ぐにホストを観察して違いに適応し、完璧なテーブルマナーを見せていた。


「ちょっと聖、なんか堅っ苦しい順序とか解る?あたしそういうの解らなくってさ・・・」



 困り果てた様子で小声で聖に助けを求めると、ガレードがそれに気付く。


「マイ殿、そんなに堅苦しくする必要はないですぞ。料理を楽しむ事、それが最大唯一のマナーです」


 気の利いたガレードの一言に舞も緊張を解き、隣に付いていたメイドが色々と食べ方等をアドバイスしてくれる。

 美伶も舞と同じようにアドバイスを受けながら料理を食べ進め、英司と紗耶香は慣れない食器に四苦八苦し紗耶香に至ってはお付きのメイドに食べさせて貰っている。

 このように悪戦苦闘しながら食べている者もいれば初っ端からスープを無視して味の濃い肉料理を猛スピードでバクバク食べている者もいる。


「ちょっとタカ、あんたこんな席で下品よ!」


 隣から抗議が入るがそれに構わず食べ続け、付いているメイドも楽しそうに笑いながら料理を取り分ける。


「まあまあマイさん、良いじゃないですか、僕らも気にならないので」

「タカオ殿は気持ちいいぐらいの食べっぷりだ」


 そう言ってガレードとグレイがフォローし、舞もそういうことならと矛を納めた。


 「これはヨーフィルと言いまして、新鮮なレインボーフィッシュを―――」


 静かに始まった食事だったが、食べ続ける一名を除いて次第に賑やかに会話が飛び交うようになり、お付きのメイド達も主に聖から腕を振って作った料理の作り方を求められたり、評価を聞いたりして会話に参加するようになっていた。


 ゆっくりと時間を掛けて楽しみながら食事を終え、甘い物が余り好きでないガレード以外は運ばれて来たデザートを楽しみながら食べ進める。

 ベラの実のシャーベットは甘酸っぱくも、味が薄味で良い口直しになった。


「いやいや、皆さんの御蔭で楽しい会食となりました。惜しむらくはキョウ殿がこの場におられなかった事ですな」


 全てを片付けられ、綺麗になった円卓を囲んで、ガレードが前半を満足そうに、最後を残念そうな顔で言う。

 確かに食事は楽しかったが息子の救命の立役者がいないのだ。


「義父様、彼なら明日になればきっと帰ってきます。また明日、機会がありますよ」

「そうだな。よし、皆さん今日はもうお疲れでしょう。おい、皆さんを部屋に案内して差し上げろ」

「畏まりました。では、皆さんこちらへ」


 ガレードが自分の後ろに付いていた年配の執事にそう申し付け、部屋まで案内させようとすると、イザレアがそれを呼び止める。


「待って。ヒジリさん、かしら?」

「何ですか?」

「少しお時間宜しければ私の部屋に来てもらえませんか?」

「・・・?えぇ、良いですよ」

「どうしたんだい、レア?」

「何でもないわ」



 皆イザレアの急な誘いに驚いたが、聖は特に断る理由も無くそれを承諾し、遅れて一人イザレアに付いて部屋を出る。


「ごめんなさいね、急に部屋に呼んだりして・・・」

「いえ、私なら大丈夫ですから・・・」


 取り留めの無い話をしながらイザレアに付いて屋敷の中を移動し、1階にあるこじんまりとした、落ち着いた雰囲気の部屋に付く。


「掛けて」


 ゆったりとしたソファーに勧められ、聖はそれに腰掛けつつお茶を入れるイザレアに話しかける。


「あの、グレイさんは―――」


 夫婦で同じ部屋では?と続けようとして、何となく言い澱む。


「今はお互い別室で寝ているの。前までは2階の彼の部屋で一緒に寝ていたのだけど、今はお腹の子に取って木々がある庭が近い方がいいような気がするから」


 そう言って幸福そうに服の上から腹部を優しく撫でる。

 部屋には所々によく手入れをされている観葉植物の鉢が置かれていて、部屋全体が自然な雰囲気だった。


「そうなんですか。今何週目ぐらいなんですか?」


 女性としての究極の幸せを体現しているイザレアに聖も興味津々で色々と質問を始める。


「うふふ、今27週目なのよ。グレイに診てもらったから間違いないわ」

「じゃあ後もう少しでこの子と会えますね。触らせて貰ってもいいですか?」

「ええ、いいわよ」


 イザレアが服を捲り、ほっそりとしたお腹を出す。

 普通の人ならば27週と言えば少なからず腹部が膨らみを見せる時期のはずなのにイザレアにはそれが見られなかった。


「貸して」


 イザレアが聖の手を取り、自らの腹部に優しく宛がう。

 新しい命が宿る場所は暖かく、生気に満ち溢れていた。


「私達の種族は人間よりも妊娠期間がかなり長くてね。その間の子はちょうど両方の間の期間で出て来るけど、それでも2年掛かるの」


 生命の神秘に振れ、恍惚としている聖に優しく話し掛ける。

 自分の子に対する行き場の無い母性が目の前にいる聖に投影され、空いている手で聖の頭を撫でる。


 しばらくそうしていた後、満足した聖が手を離し、イザレアがやっと我に返る。


「ごめんなさい、意識するあまり、あなたをお腹の子と重ねてしまいました」

「いえ、私も別に嫌ではなかったので」


 しばし頭の下げ合いの応酬が繰り広げられたが、それも一段落し、イザレアが本題に入る。


「ヒジリさんは京の事をどう思ってますか?」


「え?どうってそんな・・・」


 気があるとは言えない。


 急にオロオロし出した聖を見たイザレアが可笑しそうに笑う。


「ふふ、別に隠さなくても良いのよ?気ぐらいはあるでしょ?そのぐらい見てれば分かるから」

「えと、あの、ハイィィ・・・・」


 イザレアが真っ赤になってしどろもどろになりながら答える聖を可笑しそうにくすくす笑ったまま見る。


「やっぱり。実は鎌をかけてただけだったんだけど、当たりだったみたいね?」

「―――!!」


 聖が声にならない悲鳴を挙げ、正に穴があれば飛び込みそうな様子になる。


「ふふふ、別に恥ずかしがらなくてもいいのよ?その方がやりやすいから」


 ・・・やりやすい?


 聖の中でイザレアの発した一言が引っ掛かる。


「何をやりやすいんですか?」

「彼に呼び掛けて貰おうと思って。どうせなら気がある人の方がいいでしょ?」

「彼?」

「キョウよ」


 どうやらイザレアはこのまま京が帰らない場合を想定し、保険として一応帰って来るように説得を試みるらしく、その役に聖を指名してきたのだった。




 夜の森に止まる勝者と動かない敗者。

 敗者の魔獣は額に剣の切っ先が突き刺さり、頭蓋を砕かれ脳を損傷し、即死だった。

 勝者は貫いた剣を固定したまま残心をし、敗者は絶命して動かない。


 ―――あっけない


 絶命した魔獣から切っ先を引き抜き、軽く振って血を飛ばす。


 生死を賭けた勝負は一合で決着がついた。

 体の前に障壁を展開し、構えたブロードソードで突っ込んで来る魔獣に向けて構え、急所を破壊しただけで終わった。

 自らの状態のハンディキャップから少しは楽しめるかと思ったが、楽しむ間もなく終わってしまった。

 初めて見た魔獣でその魔力の使い方を観察する楽しみもあったのだが、脚力を強化する単純なブーストを使っていただけの典型的な低級の魔獣だった。

まあ、あまり仕留めるのに時間を掛けてしまうと肉質が落ち不味くなるのだが。


 下顎から生え、上あごを突き破って飛び出した牙以外には武器やこれといった特徴もない食材の観察に見切りをつけ、手早く調理に移る。

 戦いで使用したブロードソードで食材の首と足の先を全て撥ね、近くの木に巻き付いていた蔦で同じ木に後ろ足の根元を縛り、血抜きをする。

 夥しい量の血がびちゃびちゃ音を立てながら、吊された木の麓の土に落ち、一帯を赤く染める。

 一見グロテスクな光景だが、血抜きをすることにより肉から独特の臭みを消す事が出来、これも調理の一環なのだ。

 血抜きをしている間に中断されていた薪を集める作業を再開し、程なくしてちょうどいい量を集め終わり、適当に組んでから魔法で火を付け、パチパチと小さく爆ぜながら燃焼を始める。

 次に別の大きな硬質の木から太めの枝を数本切り取り、全て器用に樹皮をブロードソードで剥き先程起こした火で表面を焙り、軽く焦がし苦い樹液を全て蒸発させ、肉への味移りを防ぐ。

 それが全て終わった後、吊していた食材の血抜きもちょうど完了していて、吊したまま皮を剥いで肉塊をいくつか切り取る。

 作業後吊された残骸を魔法で瞬時に凍結させ、これ以上血の臭いが広がるのと、腐敗を防ぐ。

 一連の作業に感情は存在せず、未知の食材ではあったがサバイバルで培われた経験によって突き動かされる体は冷徹にただ、流れ作業を行っていた。

 中心部にある大腿骨と脊椎の間の大腰筋、所謂フィレ肉。

 肩部から背にかけて大きく切り取ったロースと呼ばれる部位。

 それらを手頃な形に整え、急ごしらえで作った串に突き刺し、軽く剣で叩き、切れ目をいくつか入れる。

 そしてそのままそれらを石を使って固定し火に焼べ、自分はその傍らで番をしながら暖を取る。

 火が肉の表面を荒々しく撫でる度に肉塊からジュウジュウ音がして、堪らなく食欲をそそる香ばしい匂いが広がる。

 しばらくして脂の乗った肉が黄金色になり、音を立てながら肉汁を滴らせるようになったのを確認して火から下ろし、最初の一口を食らい付く。


 ―――旨い


 初めて食べる肉で独特臭みと硬さがあったが、殆ど気にならず、寧ろそれが肉の旨味を引き立たせ、調味料の類いを一切使っていなかったが美味に感じられた。

 空腹に、自ら仕留め、調理した達成感の相乗効果。

 いつからだろうか、狩りの醍醐味とも言えるこの楽しみを忘れていたのは。

 狩る者と狩られるものを決める勝負の緊迫感は次第に形を変え、全力を出さずとも容易に得られる勝利はただ殺す者へと自分を昇華させ、感じていたのはスリル等ではなく、単なる殺す楽しみだった。

 死線と言えるような戦いも無くなり、いつしか狩りが単純な屠殺のような作業に変わっていった。


 思考を続けながらも手と口周りを汚さないよう器用に、一口一口噛み締めて食べ進める。


 何かの目標の為強くなろうと努力し、半死半生まで訓練を続けていた過去。

 今を精一杯生きる級友達を見ている内に、彼等には自分が力を手に入れる過程で失った何かを持っているような気がして、いつしか知らず知らずの内に羨望の眼差しで見ていた。


 ―――羨望、か・・・


『三年前』

「あ?」

『―――覚えているか?分かるだろう、記憶の欠落が』


 3年前、自分は気付いた時森に倒れていて、何故かそれより1、2ヶ月の記憶が無かった。

 その時期を境に、何かを失い、心が無くなっていった。


『明日、戻れば分かる』


 ある時、AEIOからの依頼で元A級ハンターの謀反者を狩る時、予想以上に相手が強く、8割程まで力を出した瞬間自分を押さえ付けていた何かがひび割れ、知らないはずの記憶の断片が垣間見え、同時に意識を失ってしまった。

 それ以来、強い魔力を開放する度に失われた記憶の断片が蘇り、自分は日々それらを求めた。

 だが、ある時垣間見た記憶は失踪していた筈の妹の記憶で、何か助けを求められていた。

 鬼気迫るそのただならぬ表情に恐怖を感じ、以来強い魔力を開放出来なくなった。

 それまでに得た記憶の最後にはあのイザレアと言う女ともう一人がいたが、そのもう一人は見当たらなかった。


 ―――つまり彼女が鍵なのか?


 調理した肉を全て食べ終え、今後の身の振り方を考えていると、意識に干渉を感じる。


 ―――どうした、アジーン?


『我ではない』


 通常、テレパシー等とも呼ばれたりする念話は魔力を使える存在なら誰でも使えるが、交感を繋げるには相手の魂の波長を知らないと出来ない。

 そして、京の波長知り、交感を繋ぐ事が出来る存在は現在、アジーン以外にはいない。

 だが、アジーンならば接続にここまで手間取らないし、何より、現在アジーンと会話をしながらも並行して接続は試みられている。


 ―――誰なんだ、こいつは?


 精神干渉する魔法の可能性もあったが侵入者からは害意が感じられず、興味もあったので不穏な動きがあればすぐに握り潰せるように警戒しながらも自由にさせる。




「やっと繋がったわ。さあ、今度はあなたの番ね」


 イザレアが胸元に抱いていた聖に向かって合図する。

 半刻程前から京と交感を繋ごうと試みて、やっと繋がったのだ。

 三年前の記憶のバックアップから得た魂の波長を元に接続を試みていたのだが、三年と言う歳月の間に京自身が内面に劇的な変化を起こしており、それに伴い変化した波長の調整を行い試行錯誤しながら試している内にこんなにも時間がかかってしまった。


「分かりました・・・」


 イザレアの説明通り、伝えたい事を頭に強く思い浮かべる。

 相手の距離が遠すぎて、言葉ではなく、単なるイメージとしてしか伝えることは出来ないが、それでも精一杯抱いている温かいイメージを持つ。

 イザレアの魔力が尽きるまで、短い間だが、確実にイメージは伝えられ、届けられた。


「はぁ・・・ちゃんと伝わったんでしょうか?」


 重大な予防措置を一任され、初めてのことに自信がない聖が物憂げな様子で言う。


「うふふふ・・・大丈夫。あなたの気持ちはちゃんと伝わっているわ。伝える私まで感化される程の恋慕の情だったから」


 ぞっとするような妖艶な笑みを浮かべながらからかわれ、必死に弁解する聖だったが、そのまま抱かれている内に次第に瞼が重くなり、眠りについた。

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