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2章:4SEALED PRECIOUS MEMORIES

またまた更新が遅くなりました・・・

なかなか思うように進まず何度もやり直し、上手く区切る事が出来ずにキリの良いところまで早く持って行こうとして駆け足気味になり、途中の詳細な描写が疎かになってしまいました。反省。

いつか時間があるときに加筆修正したいと思います。

 突如虚無に還りかけていた自分に感覚が戻り、辺りが再び明るく白み始める。


 これは・・・誰かが回復させているのか?


 感覚が戻り始め先程とは打って変わって体が暖かさに包まれているのが分かった。


 どうやら死に損ねたようだな・・・


 体が深みから結構な勢いで引き上げられるのが分かる。

 回復させている術者が複数居るにしてもかなり高位の者がいるようだ。

 もし意識が戻ってからその相手が敵対する者なら完全に復調してない状態では少々辛い。

 不意に自分をここまで追い詰めた仇の姿が浮かぶ。


 俺を回復させているのは奴なのか?


 嫌な可能性が浮上する。

 戦いで疲労しきった精神で考えるにはキツイ可能性。


 だが、最悪の場合を想定しておいた方がいいだろうな。


 ここまで高位な術者と言えば滅多に居ないが、先刻この命を断ちかけた奴はそれに該当する。


 狙いはこの器と魂か?

 しくじった。

 飛行出来なくなる前に自ら命を絶つべきだった・・・


 後悔と同時に視界が眩しくて目も開けられない程になり、同時に再び意識が朦朧とし始め、途絶えた。




 淡い光に包まれた竜は形を変えながら急激に縮み出す。

 その異様な光景に初めて遭遇した若いドリアード達が皆助からなかったのでは、内蔵されていた時限式の術式が稼働したのではなどとざわめき出す。



「母様・・・いったい何が?」


 他の仲間達と同じく不安に駆られるイザレアがたまらずオロオロしながらイザランディアに縋り付く。


「落ち着きなさいイザレア、皆も落ち着いて」


 光る竜を見て最初こそ驚いた表情をしていたイザランディアだが、何か思い当たる節があるのか直ぐに落ち着いた表情に戻り、縋るイザレアの頭を優しく撫でながらイザランディアが自らの見解を話す。


「彼は、契約者と呼ばれる人間のようです」

「契約者?」


 聞き慣れない言葉に胸の中に居るイザレアは再び疑問が沸き上がる。

 イザレアはまだドリアードとしての成人を迎えていないため、精神はまだやや幼く疑問を直ぐに口に出してしまう節がある。

 他のドリアード達も馴染みの無い言葉だったのか皆不思議そうな表情をしながらもイザランディアの落ち着き払った物腰に感化され冷静さを取り戻していた。


「前に話したでしょう?人・・・人間は私達とは違い器を持ち、魂を吸収するのではなく受け入れる事が出来ると。契約者とは他の者の魂を受け入れ、必要に応じその魂に同化したり個に分離したり出来ると。・・・ほら」


 竜の体がドリアードと同じくらいまで小さくなり縮むのを止め、変形も止まった。

 イザランディアの言う通り、竜は尾や翼がすっかり体内に引っ込み、甲殻は柔らかい皮膚になり、まだ幼さの残る人間の男の青少年の姿になる。

 顔はまだ歳は12〜3だろうかと言うぐらい幼かった。

 ドリアード達はその若さに一様に驚く。

 先程はパニックになって直ぐには解らなかったが、この子供は竜と契約出来る程の魂と器を持っているのだ。

 殆どの者は契約者に遭遇したのは初めてだが、知識としては皆ある程度知っていた。


 魔族にとって契約とは己の自由を捨て契約主に屈する事を意味する為、滅多な事では固い契約は結ばれず、するとしても余程認めた相手としかしない。

 究極の例外として人を人生の伴侶に選んだ亜人が婚姻前に短い期間に限定して人間で言う同棲のような感じで契約して純粋な魂の交流を持つ場合がある。

 この場合は魂を受け入れる器さえあれば魂が小さくても相手に器を乗っ取られることはない。


 この人間はまだ若いながらも魔族としては上位に位置する竜と契約し、尚且つ気絶しても器を乗っ取られていない、つまり竜とはかなりの信頼関係があり、かつ固い契約を交わしているのだ。


「とにかくこの子には私もいろいろと訊きたい事がありますので今日は家に連れて行きます」


 言うなり、イザランディアはその細腕の何処にそんな力があったのかは分からないが、50キロはありそうなその子の身体を持ち上げ、ユグドラシルの中ほどにある巨大な洞まで天然の階段を器用に上り始めた。



 あの後イザレアは慌てて母の後を追い掛けて洞までひとっ跳びで帰った。

 イザレアが自宅としている洞に着いた時には既にイザランディアは地上から20メートル程ある自宅に着いて誰も使っていないベッドに人間を寝かせていた所だった。

 まるで自分の子の用に彼に甲斐甲斐しく世話を焼いている母を見て少し嫉妬していたイザレアだったが、彼の苦しそうな顔を見ている内に自分も何かしなければと思い、しかし何をすれば良いのか考えつかず、思案に暮れていると、先程自然治癒を促進させたのだが効きが悪かった事を思い出す。

 自然治癒は身体に余分なエネルギーが存在する時に効果を発揮する事を思い出し、傷ついた身体を治す為に何か食べさせなければと考え何か流動食のような物を作る事にした。


『すまない、ドリアードの母娘よ』


 不意にイザレアの頭に轟くような声が聞こえる。



『我が名はアジーン。竜にしてこの者と契約を結びし者』


 声量は大きいながらも、声の主は穏やかに話しているため煩くはなかった。

 声の出所が分からずにイザレアが混乱していると声の主がだいたい分かっているイザランディアが声に応える。


「初めまして竜の方。私はイザランディアこちらは娘のイザレアです。助けたのは礼には及びませんよ。困った時はお互い様です」


 竜・・・もしかして母様が言ってたこの人間と契約している竜のこと?

 ここまで考え初めて竜が直接交信を試みてきている事に気付く。

 色々と訊いてみたいこともあったが話しながら色々出来る程器用でもないので竜の相手は母に任せることにして調理を続ける。


『そうか・・・しかし恩を受けたままでいるのは我が理念に反する・・・この京もそれは同じだろう。何か望みはあるか?』


「そう気負わないでください。その子は京と言うのですか。ではいくつか私達の質問に答えて下さればそれで帳消しとしましょう」


 手を動かしながらもしっかりと二人の会話は聞いている。

 アミノ酸の豊富な酸味のあるユグドラシルの実を不得意ながらも氷の魔法で凍らせ、風の魔法で蓋をした器の中で破砕。

 そこにアーミーワスプの巣から採れたハチミツを加え、温めたユニコーンのミルク、溶いたクルルと呼ばれる跳べない鳥の卵黄を落とし全体が良く混ざるように撹拌する。

 それを人肌まで冷まして即席の流動食の完成。

 今までの会話を聞いていた限り、竜が自分で器を調べた所やはり臓器にまだダメージが残っていて、消化官も例外ではないらしく、流動食にしておいて良かったと安心する。

 しかしここで再び困ったことになる。

 食事が出来たは良いが、京が未だ意識が戻らず、動けない為自分では食べれないのだ。

 アジーンが体を動かせないのか聞くと契約により無理なのだそうだ。

 隙のある契約だとこのような時に器を乗っ取られるらしい。

 困ったことにイザランディアに助けを求めてもにこにこしながら自分で食べさせてあげなさいと言うだけで助けてはくれない。

 仕方なく自分で食べさせてみることにする。

 意識の無い京の頭を起こし口に器をあてがおうとする。

 途中急に下から伸びてきた手に腕をガッと物凄い力で掴まれ、驚いたイザレアは中身を少し零す。




「キャッ!!」

「どうしましたイザレア?」

『落ち着け、京よ。彼等は敵ではない』


 聞き慣れた声にはっとして我に返り、相手を良く観察する。


「・・・ドリアードか?」


 新緑の髪に新緑の瞳。

 人と変わらない姿形をした者がいたが内包する魔力は人の比ではない。


 奴だと思い力を入れていた手を緩め腕を介抱する。


「グゥゥゥ・・・・」


 酷い痛みに蝕まれる言う事を聞かない体を無理に起こし襲い来る更なる痛みに思わず呻く。

 腹に手を当てると致命傷になっていたはずの傷は塞がり、表面がずたずたになっている程度に収まっていた。


「・・・これは君達が?」


 少し離れた位置で座っているドリアード、次いで隣に腰掛けているドリアードに目をやり問う。

 離れた位置にいる方は力を持つドリアードらしく髪や瞳の色が通常の者とは違った。


「そうよ。・・・まだ動いちゃ駄目よ」


 隣にいた若いドリアードはそう言ってフラフラして今にも倒れそうな上体を支えてくれ、器を差し出す。


「飲めるなら飲んで。治りが早くなるわ」


「ぐっ・・・悪いな」


 器を受け取り、中身を一気に飲み下し、今度は食道の焼けるような痛みに再び呻く。


 口の中は火傷で煤けていたため味は分からない。

 そのまま痛みが収まるのを待ち、アジーンと同調し、組織を作り替える。

 そのまま回復の魔法を使おうとすると、どういうわけか何時にも増して傷の治りが早い。

 ボロボロになっていた甲殻は直ぐさま新しい物が生まれ、古い傷付いた部位が剥がれ落ちる。


 どういうことだ、治りが早過ぎる!?


 傷付いた臓器や削がれ落ちていた肉もボコボコ隆起してみるみる内に新しい組織が生まれる。

 そのあまりの回復速度に見ていた二人のドリアードから感嘆の声が漏れる。


「自然治癒を促進する魔法を掛けてはいましたが、まさか竜の地の再生能力がここまでとは・・・!!」


 離れた場所にいたドリアードが驚き呟く。

 同時に、シンクロしたアジーンから自分が意識を失っていた時のやり取りの記憶が流れ込んでくる。


「我が名は京。世話になった・・・それで、何が知りたいのだ?」


 話しているうちに傷の再生が済んでしまい、すっかり復調したので再びシンクロを解き人にもどる。


「色々と聞きたい事もありますが疲れているでしょう?質問は明日にしましょう」


 早く質問に答えてあの憎き仇を殺しに行きたかったがここは素直に従うことにする。


「分かった」

「今は疲れているはず。ここは安全だから安心して眠りなさい」


 確かに疲れているので体を倒し、少し眠る事にする。

 そうしていると久々に何かに包まれるような安心感に抱かれ、あっという間に瞼が重くなる。

 最後に見たのはイザランディアが近くに腰掛け、何かを作り、イザレアが仲間に経過を話す為洞から出ていく所だった。

 その日は久々に何時も見る悪夢を見る事無く、充実した安息が得られた。




 翌朝、何時も通りの時刻に習慣で目が覚め、身体を起こして伸びをする。

 久々に深い睡眠を得られ、気分は良かった。

 そのままベッドから降り立ち上がろうとする。


 ・・・うぉっ?


 立ち上がろうと足を地に着いたのだが、力が入らずにそのまま崩れ落ちる。

 もう一度立ち上がろうとするも膝が笑い使い物にならない。

 不思議に思い魔法で身体を調べるも筋繊維が傷付いているわけでもなく、神経系統がいかれてる訳でも無い。


 またか・・・


 何のことはない、単なるエネルギー切れである。

 だが笑い事ではない。

 昨日も奴らとの戦闘中にこれに陥り動きが鈍くなった所をやられたのだ。

 長期的な追跡で不規則な生活になり、ろくな食事を取らなかった結果である。

 余分な脂肪が殆ど着いておらず、基礎代謝は激しく、運動によるエネルギー消費も激しい。

 そんな身体で昨日は殆ど飲まず食わずで自分よりも格上の相手に挑んだ結果だった。


 さてどうするか・・・


 文字通り腹が減って動けなくなってしまい困り果てる。

 まさか助けを呼ぶわけにもいかず、どうしようかと思案に暮れているとちょうど腕に沢山の木の実が入った籠を抱えたイザレアとイザランディアが帰って来て床に倒れている京を見つけて慌てて駆け寄ってくる。


「お気になさらず。単なる燃料切れですので」


 そう言って駆け寄る二人を制す。

 他人に世話を焼くのはドリアードの特徴だが、15で元服している京としては少々恥ずかしい所があった。


「ふふ、では早速今取ってきたユグドラシルの実で朝食にしましょうか」


 そうして準備が出来てイザランディアが笑いながら助け起こしてくれるまで床で寝たきりだった京なのであった。


 食事はとにかく美味だった。

 様々な形、味の木の実だったが、それらは全てこのユグドラシルから収穫できたものらしかった。

 アジーンからとにかく食べると聞いて朝から実を拾いに出ていた二人だったが、1時間程かけて集めた実は大半を京が平らげてしまいその異様な量にイザレアは目を見張ったが、イザランディアは食べ盛りの一言だけで片付けて残りを食べ進める京を笑って見ていた。


 食事も終えて、イザランディアの容れてくれた紅茶のような香高い茶で一息入れる。

 いつの間に他の二人は消えていて、特にすることもなくぼんやりしていると不意に昨日の戦いの記録が脳内で再生される。

 冷静に昨日獲得した相手の情報を分析してみる。

 だが本気を出していなかった相手からは特に癖や隙は見つからなかった。

 こちらも万全の状態で当たり、向こうにシビアな、死闘を強いれば少しはブレてそれらが見つけられたのかもしれないが。

 真剣に敵の粗探しをして知恵熱が出てきそうになっていた時、イザランディアが後ろに幾人かの最高位のドリアードと最後尾にイザレアを従えて帰ってきた。

 イザランディアを含む賢者と呼ばれる彼等はドリアードの中でも特に長く生き、他の者達より1ランク上の魔力を示しその長い生の中で膨大な知識を溜め込んでいた。

 挨拶もそこそこに早速京自身の事や昨日の事を訊かれる。

 別に正直に答えても別段問題もなく、寧ろ自分の獲物だということをはっきりさせておくには良い機会なので全てを話す。


 日く、昨日長期に渡り追跡していた仇に追い付き交戦したが、それまでの無理が祟り動けなくなった所に致命傷を受け敗れた。

 その後、朦朧とした意識の中傷を回復する場所を探して彷徨中に力尽きこの森に墜落したとの事。



 恒久の時を生きた賢者達には自分達からすればまだ生まれたばかりの子供がイザランディアがやっとの思いで退けた敵を追い何度か戦っていると聞いて俄かには信じ難かったが、京が内包するアジーンの気を感じて納得する。


「なるほど、落ちてきたのはそういう訳でしたか。しかし何故あなたはそんなにもその仇に執着するのですか?」


 何度も致命傷を負わされながらも執拗に付け狙い、傷が癒える度に殺しに行く、聞いている側はこの異様な行為から京もまたイザランディアに傷を負わせた者のように狂気に蝕まれている、いや狂気その物かと疑い始め急速に体内の魔力が高まる。

 不穏な魔力の高まりを感じ京が理由を話そうとした時、別の声がそれを遮って話す。


『そう色めき立つな。我等は狂気になど囚われておらぬ』

「では何故そこまでその相手にこだわるのですか?相手は森を一瞬で焦土に変えるような輩なのですよ?」


 先日、同じ地域の豊かな森が一夜にして焦土に変わり周域にいた全ての生物が死滅するという惨事が起きていた。

 かろうじて逃げ延びて来た幼いドリアードから聞いた話からその犯人は巨大な影だったと言う。

 イザランディアに重傷を負わせた敵も深夜に襲ってきた、基暴れ出した為巨大な影としか認識出来なかったがそんな力を持ち巨大な飛行能力を持つ生物など限られてくる。


「森を焼き払ったのは奴とは違う。・・・俺が奴を殺す目的になっている俺の妹だ」

「なんと・・・!?」


 益々興奮しだす面々。

 だがイザレアとイザランディアだけは他のドリアードとは違い静かだった。


「俺をあんな頭のイカレた思想家とは違う。ただ、高潔な理由から奴を殺そうとしている訳でもない。つまるところ、独善家と言う点では同じなのかもしれないが」


 一度言葉を切りカップの中の温くなってしまった液体を飲み干す。

 興奮していた老体達も落ち着きを取り戻したのか今は大人しく京が再び話し出すのを待っている。


「まず何から話すか・・・長くなりそうだがいいか?」


 イザランディアが頷いて続けることを促される。

 温かい目で見られていると自然と落ち着き話が纏まる。


 日く、仇の名はヴラド・ツェペシェ。

 こことは違う世界で生を受け、長らく過ごした人とヴァンパイアのダンピール。

 傷付けられない分には20代半ばで止まった不老不死の肉体を持ち、ベリアル、ファフニールと言う悪魔と竜と契約。

 己の中に流れる魔人の血も合わせて3種の魔族の力を操る。

 元から狂気を持ち合わせていた上、ベリアルの甘言とそれに毒された狡猾なファフニールに惑わされ己を迫害した人間を根絶やしにし、魔族に作り替え

「強き者こそが全て」という世界を創世すべく行動中。

 その為のフェイズに人を魔族に作り替えると言う馬鹿げた計画がある事。

 京自身はそのヴラド自身の甘言に毒され、行動を共にしている妹を救う(殺す)為、アジーンはその妹、翡翠と契約している自らの双子の弟アインを統合(抹消)する為にヴラドを追跡している事。


 その後も京の口から話される自らとヴラドの関係を聞き終えた賢者と呼ばれるドリアードの長老達は一様に黙り込む。


「妹は最近ゴモリーと言う悪魔と契約している。一連の破壊行為は、恐らく妹二重契約による二重同調のテストなのだろう。森を焼き払ったのは恐らく竜のテスト。光の矢によるものだ。イザランディアが戦った時は恐らく既に総合的なテストの段階だったはず。昨日俺が戦った時は手を出して来なかったが」


 今まで何度もヴラドと戦っているが、未だに妹が手を出して来たことはなかった。

 いつも見ているだけで、ことの成り行きに身を任せているようで、ひょっとするとこのヴラドに追従していることすら成り行きに身を任せているのでは?と思えて今ならまだ救えるような希望がある。

 希望があるからこそ、敗れて尚ヴラドを殺すため戦い続ける。


 二重同調とは一つの魂と同調した上で更に別の契約した魂と同調して身体をさらに部分的もしくは完全に変化させる能力の事で、その完全な同調後の姿は器に内包されているどの魂の姿とも異なる。

 また、魔力も一度に扱える量の制約こそあれ、精製する速度は並列になる格段に向上する。


 デメリットは主格が余程強靭な精神力を持たない限り、同調中により個としてのアイデンティティを確立することが困難になり、主導権が希薄になり暴走状態に陥りやすい。


「光の矢?」


 今まで黙って、妹を殺そうとしているくだりから辛そうな表情をしていたイザレアが口を挟む。

 他のドリアード達も何人か知らないようで、京の言葉を待つだけで何も言わない。


「光の矢?・・・例えば竜は種類によって火や冷、雷のブレスを吐く。その中でも覇竜はブレスを吐けない代わりに光の矢と呼ばれる超高温の可視光線を吐き出すことが出来る。それが白く直線を描き速いのがそう呼称される所以だ」


「そうなんですか、初めて知りました」


 イザレアが頷きながら説明に感嘆し、他のドリアード達も同意する。


 竜種ついてほとんど知られていない理由は竜自体が絶対数が少なく、滅多に戦わないからである。

 覇竜種はその中でも希少種で、胸部に生体熱核融合炉を持ち、必要に応じて自らの意志でそれを稼働させる事が出来る。

 覇竜が最強の竜たる所以は全身に供給されるこの核融合により発生する膨大なエネルギーによる身体能力、またその発生した核エネルギーを利用した光の矢。

 口腔内にある射出孔から核融合済みの原子を放出し、射出された核エネルギーによりプラズマ化された原子は白熱した高温プラズマとして形を取り、触れるもの全てを一瞬にして蒸発させる。


「考えうる最悪の二重同調を成功させた奴らは恐らく次の段階に移るだろう」



 竜と悪魔、最強の近接戦闘能力を保持し、制御こそ上手くはないが高い魔力を持つ竜と基本的に最高ランクに近い魔力を持ち、またその運用に長ける悪魔の融合。

 それは即ち最強の魔族を意味する。 ヴラドの方は邪竜ファフニールが竜としてランクが高い訳ではなく、翡翠はアインがアジーンよりランクが低い事が唯一の救いだが、それぞれが統合されるとSランクの中でも最強となるだろう。


「次の段階とは?」


 言葉に詰まり、しばらく押し黙っていた京に最高齢のドリアードが優しく話し掛ける。

 最高齢と言っても雰囲気で分かるだけで見てくれは妙齢の婦人なのだが。


 余談だが、どういうわけかドリアードという種族には男が存在せず、それなのに子を作る事が出来る。


「力による支配。これから数年は自らの足場を固めるべく、配下に魔族や力に貪欲な人間を取り込み魔界に新興勢力を形勢するだろう。しばらくは表立って行動しないだろうから現状打つ手は無しだ」


 全てを言い終えて自然と溜め息が出る。


 これからしばらくの間は奴も妹も表には出て来ず、始末出来ないだろう。


 数年待つ間に妹を人として葬ってやれる可能性はさらに低くなる。

 しかしその間に自分に出来る事も無い。

 自分の非力さを呪い、無意識に拳を握り締めていると、いつの間にか掌が切れ血が滴り落ちそれにイザレアが気付く。

 同時にそこから妹を殺そうとする京の苦悩を察し、いたたまれない気持ちになる。

 無言で立ち上がったイザレアは出血する京の左手を取り、静かに治癒魔法を唱える。

 出血に気付いてなかった京は驚いたが、口には出さずされるがままで、傷も数秒で完治する。


「すまない」


 イザレアは無言のまま微笑むとそのまま洞の外へと出ていった。


 翌日、京はイザランディアに連れられ一昨日までイザランディアが療養していた泉の辺まで向かう。

 道中森に棲息する様々な生物と出くわしたが、前を歩くイザランディアの姿を認めると危害を加えられることは無かった。

 10分ほど歩くと急に視界が開け、澄んだ泉が目の前に現れる。

 回りを背が高い木々に囲まれた泉はユグドラシル方面のこの場所からしか入る事が出来そうに無かった。

 泉では先に来ていたイザレアが水を被り、邪気を払っていた。


「さあ、もっと近くに」


 泉の中程まで進んだイザランディアに手招きをされ、泉に入る。

 昨日の戦いで身体に貯まった邪気が綺麗な水により浄化され、気分がすっきりする。

 イザランディアが言うにはこの泉には昔、ウィンディーネという魔人族が住んでいたらしい。

 全ての邪気が体から消えた後、先に出て淵で待つイザランディアの元へ戻る。


「準備はよろしいですね?」


 ・・・頷くしかあるまい?



 渋々ながら頷き、そのまま水に足を付けたまま座らせられる。

 隣では同じようにイザレアが鎮座している。


「本当は私達もこのような事はしたくないのですが、ごめんなさいね」

「別に恨んではない。あなた達に必要ならばそれに従おう」

「ありがとう。ただいつか貴方の解放する魔力の絶対値が今の私の増幅された魔力を超える時、その枷は壊れます。もしその時にこの森に戻って来たら・・・その時は、いつでも歓迎します」


 優しく微笑みながら言うイザランディアだが、その瞳には憂いが抱えられていた。

 強い魔力の枷による記憶の封印、並びに新しく作る記憶の擬似的な上書き。

 昔からこの森に迷い混んだりした人間に対して行われて来た事であり、この森を守る為に必要な事。

 ドリアードが多く住み、彼女達によって長年育まれた森は豊かでたくさんの命が息吹く。

 人間がそんな楽園のような場所を見付ければどうするだろうか?

 こぞってその地に踏み込み、蹂躙し、暴虐の限りを尽くすだろう。

 そんなことになればドリアードは森の怒りを代弁しなければならない。

 もちろんドリアードはそのような事態は望まない。

 これは人と争わない為、双方の種族の為なのだ。

 そして昨日開かれた会議でも決められたこと。


 イザランディアが静かに魔法の詠唱を始め、京の体を泉の水が包みこむ。

 ゆっくりと体を包み終わった水へとイザレアが手を触れ、記憶の伝達が始まる。

 体を包む水は不思議と温かく、心地よかった。

 イザランディアによると、この水は人が羊水に包まれているような状態へと一時的に戻すという。

 これは儀式の第一段階で、いつか被術者が己の魔力で枷を破壊した時、完全には戻らない記憶を補完する為に取る措置である。


 一度枷を壊した人間には何度やっても無駄なので以後は追求しないというスタンスから生まれた考えらしい。


 記憶の伝達が終わるとイザレアはゆっくりと目を開き、悲しげな顔で京を見つめる。

 それと同時にイザランディアの込める魔力が急速に高まり、それに比例して京意識も重くなる。

 自らの中で色々な記憶が希薄になる様を感じる。

 この魔法は封印する記憶の前後も忘れさる。

 薄れゆく意識の中、希薄になる記憶に必死でしがみつき、誓う。


 翡翠、・・・必ず封印を解いてお前を・・・救っ・・て・・・・・

はいはい、要らない設定を書いていたら長くなってしまいました。


で、生体熱核融合炉を持つアジーンwww

なんだかとんでもない生物に仕上がってしまいましたよ皆さんwww

現代の科学力では実現不能な事を体内でやってのける荒業。

魔力の補助あってこそだけども、それでもすごい!!!

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