2章:3DRYAD
今回もまた執筆が滞る中強行軍で進めたため何を表現したいのかよく分からなくなってしまいました。サーセンwww
重厚感のある扉が開かれ、中に招かれるまま入ると、数人の使用人と共に2人の老夫婦が明るいエントランスで出迎えてくれた。
手前にいる品のある落ち着いた感じの老年の男女は恐らくグレイの両親のエイジスト夫妻だろう。
「ようこそ、我がエイジスト家へ。私が現当主のガレード=エイジストです」
柔和な笑みと共に挨拶をする当主。
身長は英司より少し大きいぐらい。
髪は完全に白髪で切り揃えられ、髭も念入りに手入れされてるのか清潔な印象を受ける。
「初めまして、グレイの母のミラルダ=エイジストです。息子の危ない所を助けていただき本当に感謝していますわ。の家を我が家だと思って下さいね」
赤い髪に赤い瞳、身長は紗耶香と同じぐらいだろうか。
先に丁重に挨拶をされ、こちらも最年長の香奈芽が挨拶をする。
「初めまして、私、神楽 香奈芽と申します。この中では最年長ということで代表して挨拶をさせていただきますね。この度はこのような素晴らしい御屋敷にお招きいただきありがとうございます。私共一同喜んでお招きに預かります」
そう言って香奈芽も軽く礼をする。
「おぉぉ・・・頭を上げてください。息子の恩人に頭を下げられては先祖に申し訳が立ちません。ここにいる間は堅苦しいことは抜きにしましょう。その方が私達は気が楽ですので」
ガレードが慌てて香奈芽を制す。
「分かりました、ガレードさん。御心遣いに感謝します」
「さぁさぁ、挨拶はそのぐらいにして、皆さんのお部屋に案内しますよ」
グレイに連れられて案内された先は2階にある5部屋だった。
「スイマセン、皆さんに個室を用意出来なくて・・・」
島と英司、美伶と紗耶香、舞と香奈芽が相部屋となり、その面々にグレイが申し訳なさそうに言う。
「いえいえ、部屋を用意していただいただけでも感謝します」
「そう言って頂けると助かります・・・では、皆さんお腹が空いているでしょう?昼食にしましょう!」
グレイについて再び1階へ戻り、長い廊下をいくつか通過して円卓が置かれた部屋に入る。
部屋にはエイジスト夫妻に、緑の髪と眼をした、それでいて暖かい印象の女性がいて既に席についていた。
促されるまま全員が部屋に入ると、その緑の髪の女性が静かに立ち上がりゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
そのまますっとグレイの手を取りこちらへ向き直る。
そしてそのまま英司達を見回す。
途中、京と目が合った瞬間、京の体がびくっと強張り、硬直してしまう。
「皆さん、こちらが私の自慢の妻です」
そういってグレイが妻と言った女性に話を促す。
「皆さん初めまして。グレイの妻のイザレアと申します。夫の受けた恩はとても返せるような物ではないですが、皆さんがお困りの事がありましたら、私達に出来る事なら何でもします」
それに応え、香奈芽が再び軽く全員を紹介する。
最後の京の紹介が終わり、全員が席に着こうとすると、京は踵を返して屋敷の出口へと足を向ける。
「少し外の空気を吸ってきます。今夜は戻りません」
京が一気に矢継ぎ早に言い扉を開き飛び出す。
「どうしたんだよ雨宮のやつ?飯食わねーのか?」
円卓についた島が扉を見ながら隣に座った舞に聞く。
すると舞が口を開くより前に斜め前に座っていたイザレアが答える。
「ごめんなさい、多分私のせいです」
「え?」
さっき会ったばかりのイザレアにいきなり自分のせいだと言われても訳が分からない。
少なくとも、エイジスト家の人物も合わせてこの場にいる者にはイザレアが何か失礼に当たることをしたような覚えはなかった。
「レア、君は何か彼に対して失礼な事でもしたのかい?」
グレイも回りと同じく事態が全く理解出来ない。
「いえ、そういう訳ではありませんがただ、嫌な過去を思い出させてしまったようです」
「嫌な過去ですか?」
聖も興味深そうに会話に加わる。
「変わりましたね、あの子は。目に光が戻った。けど闇もまだ消えていない。昔、数年前に彼に一度会ったことがあります。そうですね、皆さんにはお話ししておいた方がいいようです。嫌な過去・・・いえ、忌まわしき過去と言った方が良いでしょうか?」
ここで一息置いてイザレアは遠い過去を見ているような目で空の一点を凝視しながら再び話し出す。
「今から話す、と言うより皆さんに過去のある時点のある人物の記憶を見て貰います。この記憶はかなり鮮明で刺激が強いので辞めておきたい方は先におっしゃってください」「どうせ雨宮の記憶なんだろ?なんであんたがそんなこと出来るのかは知らねぇけどそんな面白ぇことを逃す手はないだろ?」
その答えにイザレアは軽く微笑み円卓に掛ける全員の魂に意識の手を伸ばす。
「これから私の種族の記憶を溜め込むという能力を利用して皆さんに彼のビジョンを見てもらいます、これから起こる事は全て現実とは関係ないので落ち着いて下さいね」
イザレアが伸ばした意識の手を使い、全員の意識を共有し、自らは彼から得た記憶を自らの記憶と統合し、意識に投影する。
2006年某月某日魔界―――
「グァァァアア」
絞り出すような叫びと共に傷付いたやや小柄な黒い竜が力尽き、魔界のヴィリーナと呼ばれる地方の深い森へと墜落してゆく。
小柄と言えども全長は10メートルはあるが。
低空で羽ばたくのを止めただけの為、推進力は失われず、翼があるため揚力も不安定ながら少し働き侵入角は緩く、大量の木々を薙ぎ倒しながら森の中へと堕ちる。
バキャバキャバキャ!
かなりの速度と質量を持っていた竜は優に30本近い木を倒し、回りの木でも普通の大木と言われる物より大きいのに、それよりも遥かに大きい高さ30メートルを超す巨木に肩からブチ当たり物凄い衝撃音を立ててそこでやっと止まる。
終わったのか・・・?
俺は敗れたのか・・・?
俺には止める事が出来なかったのか?
竜の下腹は直径1メートル程の穴が開いており、そこから流れ出す夥しい量の真紅の血が周囲の豊かな土壌を赤黒く染め上げ、血生臭い匂いが辺りに漂う。
荒い呼吸音と血を垂れ流す以外は動きがなく、空を見上げながら固まっていて正に瀕死と言うのに相応しい状態だった。
もウ駄目か・・・
目まデ見えなクなってキヤがった
流石にこノ傷でハ自然治癒ハ望めマイ
魔力モ先の戦イで使イ果たした、精製スる気力モナイ
すまない、都・・・
兄トシテオ前ヲ救ッテヤレ・・ナ・・・
甲殻が半分削ぎ取られた頬を優しく風が撫でる。
そこで竜の意識は途絶えた。
苦しい・・・
何も見えない、何も聞こえない暗闇。
俺は・・・
断続的に遅い来る傷付くイメージの奔流。
このまま・・・
今まで傷付けた全て、殺した全てのその瞬間が目まぐるしいスピードで頭の中で流れる。
終わるのか・・・?
生まれたときから強くある事を強いられた自分の人生。
それもまた・・・
覚えているのは殆どが血生臭い記憶。
一興・・・
思考さえも闇が差し込み全てが闇に呑まれた。
ここで過去の記憶を見ていた全員の意識に流れ込む記憶の感じ、色彩が一転する。
バキャバキャバキャ!ザザザァー!ドゴォ!
最近物騒な事件が多い中いつもと変わらない平和な昼下がり、いつものように悠久の時を経た森の中で木々に囲まれ、小さな木々の世話をしていた時、急に森にただならぬ轟音が轟き、一陣の風が血生臭い匂いを運び、驚いた鳥達や小動物の鳴き声が響く。
急変した森の空気に不穏を感じ胸騒ぎがする。
音がした地点からは少し離れているはずなのに此処まで届いた血の匂いに尋常ではない出血量を察し、危険な気もするが傷付いた生き物を放っておくわけにも行かず、急いで現場へと向かう。
血で汚れた空気を辿っていく内に森で1番大きいユグドラシルと呼ばれる巨木へとたどり着き、その根本には瀕死の重傷を負った竜が荒い息を吐きながら仰向けに倒れ天を睨んでいた。
その瞳は既に竜特有の光を失っており、死んでいるように見えた。
「酷い・・・」
少し離れた地点から木々を薙ぎ倒し地面をえぐりながらユグドラシルまで森に一直線に大きな傷が出来ていた。
その直線の端に倒れている竜。
見た所まだ若い竜のようだが、余程の事でも無い限り竜の甲殻が敗れ、貫かれることなど無い。
「どうしたのイザレア?何があったの!?」
急いで治癒の魔法を掛けようとするとモルナと言う仲間のドリアードが遅れて到着して話し掛けて来た。
「さあ・・・私も今来たばかりで良くは・・・でもとにかく今はあの竜を助けないと!」
竜に駆け寄り傷の具合を調べる。
酷い・・・
竜は腹部の甲殻を完全に貫かれ穴は体の反対まで貫通して臓器も酷く損傷していた。
それ以外にも全身の甲殻が焼け付き、削がれてボロボロだった。
普通の竜なら腹部以外の傷は自らの魔法なり何なりで修復可能なはずなのだが、どういう訳か生気、魔力が感じられず、このままでは死んでしまうだろう。
見た所まだ若い竜のようだが、余程の事でも無い限り竜の甲殻が敗れ、貫かれることなど無い。
全身の甲殻の破損具合から見て恐らくSランク以上の何か複数と戦ったのだろう。
「大いなる自然の力よ、集いて我が魔力を糧とし、この者の治癒を助けたまえ!(自然治癒力増強)」
竜種特有の強靭な生命力と再生能力に合った自然治癒を促進する魔法を腹部の患部に使える限界の強さで掛け続ける。
治癒魔法は沢山の種類が使えたが、このようにその時々で効果的な魔法を使い分けた方が効果が高い。
続々と集まってきた他のドリアード達も恐る恐るではあるが竜を回復させるべく魔法を掛け始める。
「酷い傷ね・・・一体何があったのかしら?」
隣で腹部に直接組織を修復する魔法を掛けていたモルナが呟く。
「母なる自然の力よ、集いて我が魔力を糧とし、この者に再生の加護を!(超常的自然治癒)」
突然それまで自分達が掛けていた回復魔法とは段違いの強さの魔法が竜に掛けられ、その体が黄金のまばゆい輝きに包まれ辺りに漂う血の匂いも急速に浄化される。
「・・・!?イザランディア様?」
隣に居たモルナは術者に声で気付き、驚きのあまり声が裏返るが治療の手は緩めない。
「お母様、どういう訳ですか?お体の方は・・・?」
「大丈夫ですイザレア、心配には及びませんわ」
イザレアの背後にいつの間にか他の若いドリアードと違い、長い時を生きた証として紅葉のような鮮やかな長髪、同様の色の瞳をしたドリアードが立っていた。
賢者として名高く、魔力の高いドリアードの中でも年長者らしくずば抜けて高い魔力を持ちイザレアの母でもあるイザランディアだが、一月程前にこの森に禍を持ち込んだ正体不明の敵を追い払った時に深い傷を負わされ最近はずっとこのユグドラシルの側の泉の自宅で療養していたはずだ。
そして、そんなイザランディアの助力もあり時間を掛け治療を続けると竜の外傷もなんとか9割方回復する。
後は命に関わるようなものでも無く、ドリアード達も憔悴しきっていた為後は竜自身の回復能力に任せることにする。
「皆さん、ご苦労様でした。一先ずこれで安心です」
イザランディアが同じく竜を癒していた若いドリアード達に慈母の笑みを浮かべ回復の魔法を掛け、労を執る。
「それにしても酷い傷でしたね・・・竜が宙から墜落する程の物でしたし―――」
急にイザランディアの表情が険しくなる。
「私が中和したこの竜の体を蝕んでいた魔力が私が受けた物と同じ者による物でした」
その言葉にドリアード達に動揺と緊張が走る。
北にあるシルベスの森を焼け野原に変え、このリーヴィスの森の一割近くを焦土に変えた、リーヴィス最強のイザランディアが半死半生で追い払ったような相手が未だ竜を傷付ける程の力を保持し、その上近くにいるのだ。
「とにかく、この竜の回復を待って事情を聞いてみるしかないでしょう」
突如竜の体が淡い光を発して縮み始めた。